僕は玄関でヤミと美柑に見送られながら靴を履いている。
「美柑、寂しくなったらいつでも電話をかけてね」
「もう、過保護過ぎない?」
「いくらヤミが守ってくれるとはいえ安全とは限らない。…ごめんね、ヤミ…美柑を頼むよ」
「大丈夫!ヤミさんとはもうお友達になったの!」
「吉井明久の言うことは分かっています。…私も約束は果たしますので」
「そっか、ありがとう」
ヤミも溶け込めてきてよかった。そう思いながらお礼を言うとぷいっとヤミはそっぽを向いて答えた。
「…早く行ったらどうですか?遅れますよ?」
「だね。行こっかララ」
「うん!いってきまーす!」
今日から勉強合宿。一応母さんに事情を話したら姉さんの下着が送られてきてそれを着ている。…まぁ、自分で言うのもなんだけど似合ってるのが悔しい。
「明久はさ、楽しみ?」
「勉強合宿が?」
「うん」
「…どうだろう、どうせ遊べないよ?」
「でも、皆と何か出来るって楽しいって思わない?」
「…さぁね」
ララの言ってる事が正論だから何も言い返せない。適当にはぐらかして電車に乗った。
「雄二達とは現地で集合するのか…まぁ、早めに行って損は無いからいいか」
今僕らが電車に乗り始めたのが6時半。集合が10時半。皆バスで2時間程度で着くのに…なんて格差だ。女の子にこんな事をさせるなんて。
「明久、お腹すいたよー」
「はぁ、もう少し待ってね。ローカル電車に乗ったらお弁当食べよう?」
「うん!」
ララとの電車の旅は暇ではなかった。満員電車に揺られ、漸く降りた駅でも人の多さに負けてしまう。
「すごーい!沢山人いるね!」
「ここは結構乗り換えが多いから…次は…あれか」
次に乗る電車は空いていた。1車両に人が2、3人程度だ。
「次駅降りたらご飯食べようね。サンドイッチだから待ってる間にすぐに食べられる」
「わかった!…でもいいの?雄二とか置いてきて」
「良いんだ、雄二達も何とかしてるだろうさ」
―その頃―
「あのやろぉぉぉぉぉ!置いていきやがった!」
「なんて外道なのじゃ…!」
「…人としての品性を疑う…っ!」
明久に置いていかれた3人は追いかける為に最寄り駅の電車に乗り始めているところだった。
――――――
「明久、ザスティンから電話だよ」
「電車乗る前でよかった…もしもし?」
『あ、明久君!この度ララ様の護衛は任せましたよ!』
「あぁ、ザスティンさんにも美柑とヤミの護衛任せていいかな?遠くで見てて、障害があれば取り除く的な感じで」
『お任せを!そちらもララ様の護衛を頼みましたぞ!』
電話が切れて、時間を確認する。もう9時か。
「明久って朝弱いよね」
「ん?急にどうしたの?」
「弱点探りー」
「弱点か…眠い時とかすっごい無防備だよ」
「あ、わかる!いつもお腹丸出しだもんね。眠いのには勝てないよね〜」
「全くだよ…そう言えばちゃんと荷物確認したよね?」
「うん!ちゃんとあるよ!」
適当に話しながら電車に揺られてようやく最後の乗り換え。
「これで2つ先の駅だね」
「わーい!やっと温泉入れるの?」
「僕らは皆と時間をずらされてるから、入るとしても皆が来てない間と夜だけだね」
「まぁいいよ!明久と入るから!」
「しー!お願いだから僕の正体をバラさないで!女風呂に入ってるのが男だとバレたらもう二度と表歩けない!」
「そうなの?じゃあアキちゃんでいい?」
「なんで皆してアキちゃんアキちゃん言うのさ…!」
本気でわからない。明奈だから!?呼びやすいから!?
「もういいよそれで…」
「そうだ!妹達にお土産買って行かないと!」
「優しいね」
「いい子なんだよ!」
…ララと違って落ち着きのある子なんだろうなぁ。
「ちょっと?何か変な事考えてない?」
「何でもないよ…ほら、降りるよ」
電車を降りて駅から10分歩いた所に目指していた旅館があった。そこの前には僕の仇敵が。
「吉井にデビルークじゃないか…お前達が一番乗りとはな」
「…鉄人…お風呂入らせてください」
「…Aクラスが来るまではあと30分だ。…意味は分かるな?」
「やったー!」
ララと共にチェックインを済ませて荷物を起き、服を脱いで浴衣に着替えた。そして風呂場に突撃する。
「温泉だー!」
「温泉だー!!」
叫びながら湯船に浸かる。あ、これダメ…死ぬ…
美柑、お兄ちゃんね、温泉には勝てなかったよ……
――――――
「やっとこさ着いた…」
「おう、お前達。遅刻だな」
「…あきひ…如月に置いてかれたんだ」
「言い訳は無用だ。…さっさとチェックインを済ませて全体集会に間に合わせろよ」
「うーっす」
雄二達がチェックインを済ませてエレベーターを待ってる間に、2人の浴衣を着た女子がやってきた。
「あ!てめぇ!よくも置いていきやがったな!?」
「悪かったって〜お礼にほら、下着見せてあげるからぁ〜」
「ふ、ふざけんな!翔子が居たらどうすんだよ!」
「ほほーう?束縛されるあまり怯えてますな〜?男は欲望に素直な生き物だよ?ムッツリーニみたいに写真とか撮ったら〜?」
「明久が完全に酔っ払った女の子みたいな感じになってるのじゃ…ララ、何があったのかのう?」
「温泉に入ってて逆上せちゃって…」
「馬鹿だな」
「馬鹿じゃな」
「むぅー!馬鹿じゃないもーん!」
「だ、抱きつくな!」
明奈ちゃんが逆上せる中、雄二に抱きつく。その姿を『偶然』やって来た翔子が。
「…雄二…?」
「ち、違うぞ翔子!明久が逆上せちまってるんだ!」
「そだよ!翔子、許してあげて。雄二は助けてあげたんだよ」
「…ララがそう言うなら」
「助かったよ。お前明久より頭良いな」
「でしょ?」
「霧島さぁん!雄二がいじめるー!」
「…雄二?」
「こいつの言いがかりだぁー!」
なんとか翔子の攻撃からも逃れた雄二は改めて明奈ちゃんを観察し始める。
「…こいつこんなんだったか?」
「逆上せたりした時はこんなになって、寝る時とか無防備だって」
「雄二そんなの知ってどうするのさぁ〜?んん〜?まさか襲っちゃうかなぁ〜?」
「んなわけあるか、目を覚ませ」
「僕魅力ない…?」
「そういう事を言いたいんじゃねェェェ!!」
「完全に思考が麻痺してるんじゃな」
「秀吉は彼女とか居ないのー?」
突如酔っ払ったアキちゃんは秀吉に牙を剥き始めた。
「居ないが?」
「僕がなってあげるよー」
「…明久と考えたら絶望的じゃな」
「僕男には戻らないからさぁ…ね〜?」
「早く寝んか、そうすれば逆上せたのも治ろう」
「はぁい…zzz」
秀吉の頭なでなでと共にアキちゃんはパタンと寝てしまった。
「…寝たな」
「…子供みたい」
「…仕方ない、置いてくか」
「いいよ!明久はおんぶしてくから!」
そう言ってヒョイッとアキちゃんをおんぶしたララ。それを見た雄二達は親指を立て、集会に向かった。
「…如月はどうしたんだ?」
「ごめんなさい、寝てしまって…」
「…起こせ、なんとしてもな」
そう言って鉄人は行ってしまう。不幸中の幸いか、なんとかバレずに集会が終わった。集会の内容はこの勉強合宿における意図の説明、どのように勉強を行うかの解説、息抜きにと肝試しもやることになったということ。
「おぉ、皆集まってるね…おや?」
「スピー」
「…これ明久だよね」
「そうだよ?」
「…明久って寝てる時ってこんなに可愛いのね」
「ほ、ほんとですね…」
「なんか赤ちゃんみたい」
「明久は寝てる時が弱点だから!」
「ふーん?ララちぃナイス情報だぞ!」
「ふふふ、じゃ私は明久見てないといけないから部屋戻るね」
「うん!また後でね」
「はーい」
そう言ってララはアキちゃんを連れて部屋に戻る。アキちゃんを太腿の上に寝かせて微笑んで呟いた。
「男の子の時もそうだけど、女の子の時も寝顔は可愛いね」
――――――
9時45分。男子達も風呂に入り終え、女子達が風呂に入ってる中。
「ちぇっ、また負けたよ」
「お主弱いのう」
「黙れ秀吉…あーあ、明久がいれば煽る側だったのにな」
いつものメンバーである3人はトランプをしていた。そんな時、ドンドンと扉を叩く音が3人に聞こえてくる。
「開いてるが」
そう雄二が呟くと、女子達がどんどん入ってくる。
「な、なんだ!?なんか用か!?」
「恍けるんじゃないわよ!」
「これ仕掛けたのアンタ達でしょ!」
そう言って女子達が小型のカメラを取り出す。
「はぁ?知らねぇよ」
「…だいたいそんな2000円もいかないような小型カメラを使うほど愚かじゃないし、見つかるようなヘマはしない…」
「そういう問題じゃない気がするのじゃが…それは何処に?」
「女子風呂よ!」
「…お門違いだ。俺らはずっとここにいてトランプしてたからな」
「アンタ達3人はいつも固まってるから協力してるんでしょ!」
「ちげぇよ!」
「神妙にお縄につきなさい!」
そんなこんなで暴れていると…教師がやってきた。
「げっ!アイツら召喚獣で俺らを補習室送りにした後でこの事を言及するつもりだ!」
「…やるしかない!サモン!」
「サモン!」
科目は数学。幸い雄二が得意としている科目だ。
「取り敢えず明久の所まで行くぞ!」
「…仕方ない、奴は多分起きてる…助けてもらう」
「そうと決まったらまずは目の前のこ奴らを押し通るのじゃ!」
「アンタ達!早く白状しなさいよ!」
「黙ってろ!テメェらが見られると興奮する性癖異常者だから自分でカメラ仕掛けたんだろ!」
「はぁ!?馬鹿な事言わないでくれる!?」
なんとか雄二達は部屋を抜け出して明久の部屋まで走る。
「明久!開けてくれ!」
『え?雄二?どうしたのー?』
「ララか!明久に助けてもらいたいんだ!開けてくれないか!?」
『明久今起きたんだけど…お風呂に行くって言って聞かないの…』
『お風呂ぉぉ…』
「クソ!こんな時に!…もう来やがった!」
すると扉が開く。中からは寝惚けて浴衣が脱げている明奈とララが。
「お風呂…うぅ、入りたい…」
寝惚けた明久は女子達が召喚獣を出して壁になって通行止めしているのを見た瞬間ワナワナと震え始めた。
「あ、アキちゃん…?」
「退け…」
「えっ?」
「そこを…!退けぇぇぇぇぇぇッ!!」
如月明奈=504点
「う、嘘!?」
「あ、思い出した…寝起きの明久…クッソ怖いんだった」
「邪魔を…!するなぁぁぁぁぁぁッ!」
明久の召喚獣が光の帯を纏って女子達の召喚獣に向かって突進。敵は数秒で溶け、点数が0点になってしまった。
「…まだ、やるの?」
「ひっ…!」
「…まだやるのかって…聞いてるんだ…なぁ」
「戦死者は補習ー!」
鉄人がやってきて震えている女子達を纏めてロープで囲み引きずって行く。雄二達は胸を撫で下ろしていると、明久はとぼとぼとお風呂の方へ行ってしまう。…浴衣がほぼ半分脱げた状態で。
「…うぅ〜お風呂〜」
「アキちゃん、脱げてる脱げてる!」
それを見送った雄二達も部屋に戻る。
「取り敢えず何とかなったな…」
「…でも犯人は突き止めねば」
「理由はどうあれ明久に感謝なのじゃ」
「…そうだな」
雄二達は明久が風呂を出るのを待つのだった。
――――――
「…ぁぁ〜生き返るわ〜」
「ねぇ明久、雄二達追われてたらしいよ?」
「どうせまた何かやらかしたんでしょ?」
「うぅん?今回ばっかりは本当に明久に助けてもらいたい様子だったよ?」
「…話を聞きに行こう」
「だね!」
僕としては話を聞く必要があると感じた。いや、話を聞かないと嫌な予感がしたのだ。
「よし、出よう。目も覚めた」
風呂を出て身体を拭き、万全の状態にしてから雄二達の部屋に訪れる。
「雄二、僕だ」
『空いている、入れ』
言われて入る。中では頭を抱えた3人が。
「…大丈夫…じゃなさそうだね」
「お前のおかげで何とかはなった。…だが厳しいぞ」
「…何があった?」
かくかくしかじかで話してもらった。なるほど。…僕がやられてたら確実にブチ切れてた案件だ。
「…お前が嫌いなタイプだなこれは」
「…なんとしても君達がやってないことを証明してみせる…だけど、僕は鉄人達にバレてるから決められた時間以外には入れないんだ」
「…私行こうかー?」
「アホ、宇宙人だってバレたらどうする」
「…そう言えばララは発明品があると聞いた」
「なにか役立ちそうなのはあるかの?」
「ないよ、10個に1個くらい凄いの作るけどそれ以外ポンコツ」
「むぅぅぅ!ひどぉい!」
「…で?戦うんだろ?」
「…いや、なるべく穏便に…」
僕は雄二の言葉に何か動かされたのか分からないが雄二の襟首を掴んでいた。
「な、なんだよ…」
「お前、なにも悪い事をしてないのに疑われてるんだぞ…それなのに良く穏便に済まそうだなんて言えるね…本気で相手を潰そうとは思わないわけ?」
「…だが…」
「戦わないと、君はいずれ叩きのめされる。…悪魔共になぶり殺されるんだぞ!」
「…お前…」
「…雄二、君は言ったはずだ。戦う事が大切なんだって…ならその言葉を証明してよ!…徹底的に戦って奴らを叩きのめすんだ!」
「…お前、そんな奴じゃないだろ」
そんなこと、知ったことか…!
「…じゃあ戦わないの?じゃあそのまま惨めに諦める?」
「誰もそんな事は行ってねぇだろ。…そこまで言うんなら勝てるんだろうな?」
「別に?誰を味方にしてると思ってんの?全員ぶっ倒して、後で精神的に叩きのめしてやる」
「…何もそこまで…」
「はぁ、わかってないね秀吉…本当の馬鹿は1度痛い目に遭わないと分からないんだよ。…だから分からせてやるんだ。…皆が痛い目を見れば考え方も変わるだろう」
「…これを本気で言ってるんだもんなぁ」
「…狂戦士のそれ」
「…良いから、作戦はこうだ…」
こうして僕らは戦う事を決意したのであった────