雄二達と街に戻ってきて、別れてからララと2人でのんびりと家路を歩いていた。
「ねぇねぇ!ヤミちゃんとミカンは大人しくしてるかな?」
「ザスティンいるからなんとかなると思うけど」
「だねぇ…ん?」
そこに黒服がやって来た。
「ララ様。…緊急事態でございます」
「え?何々?」
「…ナナ様とモモ様がこちらに」
「嘘ー!?来ちゃったの!?」
…名前から察するに妹か。
「今大勢で探していますが見つからなくて…」
「…ララ、家帰ってて。僕が買い物がてら探してくる」
「いえ、明久殿にご迷惑は…」
「…もしもその2人に何かあったら責任取れる?」
「それは…」
「…大丈夫、すぐ見つけます」
そう言って財布だけ取って黒服に鞄を預けて走り出す。まぁ尻尾あるしすぐ見つかるでしょ?買い物してからでも余裕だと踏んだ僕はまずはスーパーへ向かった。
――――――
「ただいまー!」
「あ、ララさん!アキは!?」
「私の妹探しに行ったよ!あ、ヤミちゃんただいまー!」
「…プリンセスララですか」
「元気そうでなによりだよー!」
「妹って…えぇ?それだけで?」
「まぁねぇ、明久の家の前黒服いっぱいいたでしょ?ごめんね、抜け出してきたみたいなの」
「やっぱ姉妹ですね」
そう言いながらヤミはララと来た反対側に向かう。
「あれ?ヤミちゃんどこ行くの?」
「…プリンセスララが戻ってきたなら私の役目も終わったと思うので。…美柑、また来ても…良いですか」
「うん!歓迎するよ!」
「あれー?明久に会わなくていいのー?」
「…別にあの人に会う予定はないので…これで失礼します」
ヤミはすぐにどこかへ行ってしまった。
「ヤミさんあれでも照れてるんですよ」
「知ってるよー!明久絡むと態度変わるもんね」
「て言うかお腹空いた…アキはまだ…?」
「すぐ戻ってくるでしょー?」
――――――
「…結局何処にいるかとか皆目検討つかないし帰るか」
そんなことを呟きながら橋の所を通ると、何やら見慣れない格好のピンクの髪の毛の子が2人。…あ、多分あれだ。
「さぁて、どうしたもんか」
「おや、明久殿」
「ザスティン…どこ行ってたのさ?」
「いやぁ、2人を探すのに手間取ってしまいまして…まだ見つからないのですが…」
「その2人なら橋の下で隠れてるよ」
「ほ、ほんとですか!?いやはや!本当に見つけてしまうとは!」
「…でもなんで姉妹揃って家出なんて…あっ、ザスティン!」
取り敢えず追いかける事に。もう騒ぎは始まっていた。
「ナナ様!モモ様!」
「げっ、ザスティン…」
「ほら、ナナのせいでバレちゃった」
「モモのせいだろ!」
「…とにかく帰りましょう!」
「やだよ!」
「私達は帰りません!」
「はぁ、警戒心強めさせたらダメでしょ」
取り敢えず仲介に入らないと。周りの人の目にも入る。
「ですが…!」
「ん?知り合いか?」
「まぁね。…とにかく家に来なよ。ララも待ってるし」
「お姉様が!?」
「あ、貴方は…」
「行く宛もどうせ無いんでしょ?ならこんな所に居るよりは安全だよ?…取り敢えずザスティンもそれでいいよね?話は聞いておこうよ」
「むぅ、明久殿…お任せします…!」
「皆お腹空いてるだろうしご飯食べてお腹いっぱいになったら話してね?別に君達を家に返そうなんてこっちは微塵も思ってないし」
「…じゃあ何で」
「え?ララの妹だし…ララに見つけてくるって約束しちゃったから」
そう言って歩き出す。取り敢えず2人もついてきてるようだ。
家に着いたら姉妹の感動のご対面。
「おー!明久ほんとに見つけてきたんだ!」
「お姉様!」
「じゃあこの人が…」
「うん!明久だよ!」
「取り敢えずご飯作るからリビングで話してなよ」
そう言って取り敢えずキッチンに向かう。美柑もお腹を空かせているようだった。
「あれ?そう言えばヤミは?」
「帰ったよ」
「そっか…ちゃんと元気にしてた?」
「うん、楽しかった」
「ならよし」
今日はお刺身だ。買ってきたものだが、背に腹は変えられない。
「なぁなぁお姉様、婚約者って女なのか?」
「うぅん?私が女にしたんだよ!」
「じゃあ写真の男の人が明久さんの本当の姿なんですか?」
「そだよ!」
「待て、写真なんていつ撮ったんだ」
「知らないよ、なんかモモやナナの所には私達の写真が行ってるらしいの」
と、盗撮だー!?
「取り敢えず男に戻すね」
「はあぁぁぁ!?」
なんでこんなにお手軽に男と女を変えられなきゃいけないんだ。…でもようやく戻れた。
「…はぁ、人数分あるかわからんけどご飯にするよ…ナナと…モモ…だっけ。席に座りなさい」
「え?あたし達も良いのか?」
「どうせ腹減ってるんでしょ?そんな時にお腹鳴らされてもどうしようもないからね。お腹いっぱい食べてもらった方がこっちとしても融通きくからね」
「わーい!お刺身だぁー!」
「ほら、お姉さん見習って」
「い、頂きます」
「ありがとうございます、明久さん。頂きます」
お転婆長女、ツンツン次女、しっかり者三女的な感じだな?わかる。わかるよ。
ご飯も食べ終わって事情を聞くことに。そしたらホントどうでもよかった。やっぱり姉妹だとつくづく思わされた。
「勉強嫌いだから逃げたぁ〜?」
ララが大声で言う。何その顔?…理由はどうあれ家出して来た君がいえた口じゃないよね?
「仕方ないじゃないですか…ほんと辛いんです」
「お父上も心配なさってますから…」
「…君達はどうしたいの?」
「「えっ?」」
「…逃げてからの事は考えてなかったの?」
「お姉様に匿ってもらおうって思ったんだ」
「…それしか見つけられなくて」
…まぁ、いっか。どうせ宇宙人なんて今更何人増えても変わりやしない。…落ち込んでる人を見て、「あっそう、じゃバイバイ」なんて無慈悲な事は僕には出来ない。
「いいよ」
「「え?」」
「ララ、面倒見てあげて」
「良いの?」
「…だって仕方ないでしょ!ほら!お姉さんがしっかりしなくてどうするの!」
「…そだね!ほら2人とも!家に置いてもらえるんだからお礼言うの!」
「あ、ありがとう…」
「ありがとうございます、明久さん」
「ザスティン、悪いけど…」
「えぇ、連絡はお任せ下さい」
何はともあれこれで何とかなったかな?
「悪いね…さて、美柑はお風呂入りなさい」
「はーい」
「何かあったら呼んでね」
僕は荷解きをして洗濯物を洗濯機にぶち込んでいく。あぁ、明日休みで助かったよ…
「明久さん」
呼び掛けられて振り向くと、後ろにはモモが立っていた。
「おや、何か用かな?」
「いえ、ただで家に置いてもらうのは流石に気が引けるのでなにかお手伝いをしたいなと」
…ララよりお姉さん感出てる。長女かと見間違うくらいお姉さんだ…!
「良いよ、気持ちだけ受け取っておく」
「そう言えば一つ聞きたい事があったんです」
「んー?」
「私が明久さんを好きって言ったらどうします?」
盛大にずっこけた。なんで?Why?君と僕さっき会ったばっかだよね?
「は、ははは…男の人をからかうのはダメだぞ〜?」
「一目惚れですよ♪」
「…はぁ、そう言うのは大人になってからだぞ〜」
「あれ?あんまりときめいたりしないんですね」
「僕は普通の男の人とは違って女の子とか女の人苦手だから仕方ないね」
「へ?何で苦手なんです?」
「色々あってだよ」
取り敢えず逃げる様に部屋に向かう。まぁ嘘偽りないし問題ないでしょ。と思ったら部屋ノック。ひぃぃぃぃ!なんなんですかあの子は!?実はしっかり者と見せかけた本物の小悪魔系!?
「お邪魔しまーす」
「今度は何用?」
「いえ、何故お姉様は女なのに家に置いているのかなと思って」
「…その問いに答えるために僕は君に質問をしたい」
「どうぞ」
「…君は、道端で困ってる人に…助けを求めている人に手を伸ばすことはできる?…別に見下したりもしないから正直に答えて」
「…難しいですね」
「…でも僕はそういう性分でね。…ララが困ってて、力ずくで連れていかれそうになってるのを見て何もしないなんてこと出来なくてね。君達は帰りたくないんだろう?…顔に出てたよ」
「…はい」
「だったらなんとかしてやりたいって思うもんさ。女の子が苦手だからとか言ってる場合でもないしね。…女の子が苦手な理由は君とかララにあるわけじゃないし、ただ昔のトラウマ的なものだから、君達までに押し付けるのもどうかと思うしさ。…だけどそう言う一目惚れとかは冗談半分で使っていいようなものじゃないからやめようね」
「…はい」
見るからに気分落ち込んでる…はぁ、女の子って難しいなぁ…
モモに歩み寄って頭を撫でる。
「僕も強く言っちゃってごめんね?…でもね、僕なんかに一目惚れするんだったら他の人にした方がいいんじゃないかなって思ったからさ」
「明久…さん…」
「ほら、いつまでもしんみりしてたらいいことないよ?僕は風呂行くから…ん?」
インターホンが鳴った。モモを置いて表に出てみる。
「やっほ、会いに来たよ…おっ、男に戻ってんじゃん」
「ララに戻されたんだよ…夜遅いんだから帰りなさい」
「一人じゃすることないし…つまんないから…ん?誰か来てんの?」
「ララの妹が2人来てるの。…はぁ、今から風呂入るんだけど?」
「じゃあ背中流してあげるよ」
「要らん」
「ララちぃとは風呂入るのに?」
「女の子だったからなぁ」
「…そうだ。ねぇねぇ、ずっと気になってたこと聞いていい?」
「…何?」
ヤケに里紗が真剣だ。…これは何かある。
「…家の中にある木刀…いつから使ってたの?」
「中学二年の時の修学旅行でね」
「…嘘が下手くそね」
「…うっさいなぁ、何が言いたいのさ」
次に口を開いた時、里紗は僕の核心を突いた質問をする。
「…どうしてそんなに力に固執してるのかなって…力に固執した戦い方をするなんておかしいから」
「…どこまで知ってる気?」
「…何も知らない。…だから聞きに来たんだよ。…私は別に同情とかそんなつもりは無い。…ただ真実が知りたいだけ。…自分の好きな人が苦しんでるならその苦しみをなくしたいと思うのは当然なのだよ?」
「…」
里紗の言ってる事はまともだ。…最後のは余計だけど…
「…知らなくていい事も世の中にはある」
「いいや違うね、それは知らないといけない事だよ。…知らないと、後悔する気がする…まさか部屋の中にある木刀と何か関係があるの?」
「…何も無いよ」
そう言った瞬間、壁に押し付けられた。
「…お願いだよ、ちゃんと…話して欲しい…私じゃ、何の役にも立たないかもしれない…何も使えないかもしれないけど…!」
「…」
だから女の子は苦手なんだ。…泣くのは卑怯だ。…僕だって泣きたい。…でも男は人前で泣く物じゃないと聞いてから流せなくなった。…その点女の子は泣けば皆が心配してくれる。…男とは違うから。…まぁそれ以外も苦手な理由は幾つもあるが。
「…わかったよ、話せばいいんでしょ」
「…押し付けがましいって思われてもしょうがないけど…でも、明久の役に立ちたい気持ちは本当だから」
「…頼んだ覚えはないけど…まぁいいや。涙拭いて上がりなよ」
「あれー?里紗泣かしちゃったの?」
中からララが出てきた。
「うっさいなぁ、勝手に泣いたんだよ。僕は知らない」
「で?明久の秘密知りたいから私もいい?」
「この際だ、2人にはじゃあ聞かせてあげるよ」
そう言って部屋に向かう。クソ、風呂に入る時間が無くなった…思い出したくないけど、まぁ、いいか。
「さて、里紗の睨んだ通りこの木刀は昔使ってた物。…虐めから自分を守る為に昔剣道やってたのを利用して…何人も傷付けた」
「…えっ…?」
「何人も血まみれになってもね、辞めることが出来なかったんだ。…復讐してる時、漸く自分を責めるものはいないと思った時、心がスーッとなっていったんだ。そしたらさ、死ぬ寸前まで追いやってしまってさ…父さんと母さんが裁判で弁護士を雇って裁判で勝って、お金まで巻き上げて…その虐めてた奴の治療代を払わせるのも難しいってくらい金を巻き上げてたんだ」
「そんな…」
「…そして見たんだよ。…僕と対面した時の顔。…僕を見て怯えてたんだ。…こっちへ来るな化け物ってさ。言われた時に…本当に殺意が沸いたよ。…今まで虐めておいてなんだその態度はって思って。…でも、本当にそうなったんだ。小学校卒業する1ヶ月前から、友達は誰一人として居なくなった」
里紗もララも黙って聞いている。僕は窓の外を眺めて呟く。
「…僕はただ、虐めてきた人達を痛い目に合わせたかっただけで、友達を失いたくなかったんだ。…皆して僕を化け物のような目で見るからさ。…だから中学校の時、人助けで罪滅ぼしをしようとしたんだ。…そしたら…あとは分かるよね?里紗?」
「…あの事件が起きたと…」
「…もう何をどうすれば良いのかわかんないから逃げたんだ。…でも、ある1人の宇宙人のお陰で今僕は前を見て進めそうなんだよ」
「え?それって私?」
「さぁ?どうだろうねぇ」
…まぁバレバレなんだけども。
「でもなんでララちぃが?」
「…言われたんだ、笑えるようになろうって…頑張りたくなったんだよ」
「そだね、言ったね私」
「…なんで言ってくれたの?」
「…笑わなくなったら人間じゃなくていいよ。…人は、悲しいとか、嬉しいとか表現出来る生き物だから。…それを表現出来なくなったら、もう人が人である必要も無いし資格もないよ」
少なからず僕は彼女の言葉に感動していると同時に驚いていた。
「…ララに論破されるとは思ってもなかった」
「ほんと、ララちぃがなんか凄く見える」
「失礼だなぁ、私そんなにバカじゃないよ?」
「…うん。確かにそうだ」
「…じゃあ明久は虐めてきた奴らに対して力を奮ってただけ?」
「うん。…召喚獣は別に誰も傷つかないし100%本気出してもねぇ」
「…じゃああんたのフィードバックは?」
…あれだけは絶対にバレてはならない。
「…本当にわからないんだ。…それだけは学園長に聞いても教えてもらえない。…でも、学園長曰く僕に対して極最小限のフィードバックにしても僕に来るのは100%らしいね」
「じゃあ召喚獣使ったらダメだよ」
「なんで?戦わなきゃいけない時は戦わないと、後悔する時が来る…それは嫌だから」
僕はタオルを持って立ち上がった。
「風呂入って来る。…どうすんの?帰るなら帰る、泊まってくならララの所に布団持ってくけど?」
「泊まっていいの?」
「…一人は寂しいんでしょ」
「…ありがとう」
「…部屋はそうだな…仕方ない、僕の部屋で寝てね」
「えっ…」
「ララはナナやモモ達を見なきゃいけないし美柑はもう寝るし。リビングで寝るのも辛いだろ?じゃ、風呂入ってくるから」
そう告げて僕は風呂へ向かったのだった。
――――――
風呂を出て、部屋に戻ると里紗がただ静かに座っていた。ララはモモ達を連れて部屋へ行ったと言う。
「…何してるのさ」
「何もしてないよ。…ただ座ってただけ」
「…僕は寝るよ」
「…ありがとう」
「うん?別に、ただ話しただけだしお礼を言われるような事は何もしてないよ」
「一人の私をここに置いてくれる事が嬉しいの」
「…一人でいる事の辛さが良くわかる奴で良かったね」
「…ごめんね、無理矢理話させて…嫌いになったよね」
…今日の里紗は何かおかしい。いや、最近になって本当にお転婆感が無くなってきている。
「…どうしたのさ?君らしくない」
「私がただ…知りたいってだけで思い出させたくない事を思い出させちゃったから…嫌いになったかなって不安で」
「…つまり…」
僕に嫌われたかって考えてるの?…それでこんなにしおらしく…こんなに怯えている?
「そうだね。嫌いになったかもね…前の僕なら」
「えっ…」
「…君やララのお陰で僕も変わってきてるからね。…まだ、嫌いになってるわけじゃないよ」
「…良かった」
「…別に、嫌いなら君を家に置いたりなんかしない。…だからそんなくだらない事でいつもの元気を失わないでほしいな。…クヨクヨしたりするのは僕。君は僕に元気を与えてくれなきゃいけないんだ。…だからもっと元気出してほら」
「…へへ、なんかそれを聞いただけで元気出てきた」
よかった。…女の子と話すのは疲れる。何を考えてるか考えなきゃいけないし、何をしてほしいか読み取らないといけない。…だが里紗はそういうの関係無しに話せるからまだ気が楽だ。
「ほら、寝るよ」
「…お休み」
「お休み」
もうすぐ夏休みだ。…その前に大きなイベントがあるのをこの時の僕はまだ忘れていた────