雄二達は再度黒い召喚獣を見つめてみた。
ただ『敵意』のままにこちらに襲いかかる魔物。そういうのが正しいだろう。ただ、自分の友が、或いは自分の大切な人があぁなってしまう事自体が皆信じられなかった。
「おい!お前らは引け!」
「何言ってんだよ!援護しねぇと!」
「お前らはアイツの餌でしかねぇ!今は……!あっ!?」
もう叫んだ時には遅かった。黒い召喚獣により全員が戦闘不能になっていた。一人は頭を跳ね飛ばされ、一人はバラバラに。その屍となった召喚獣の中からムクリと起き上がりニタァと不気味に笑む黒い召喚獣。
「クソ……!化け物め……!格が違いすぎる……!」
「元はと言えばあやつの召喚獣……手も足も出ないのじゃ」
「……確認できた剣は3本……今持ってるのと2本……後ろに隠している。……それらを何とかしても待ってるのは打撃」
「アイツの打撃ほんとにアホみたいに点数持っていくからな……」
「……一撃で瀕死レベル……どうにかしなくちゃいけないのじゃ」
「……とにかくもうやるしかない!」
「みたいだな……!来るぞ!」
バスターソードの矛先を構えて突撃する召喚獣を捉え、散開するそれぞれの召喚獣。だがそれを読んでいたかのように後ろから刀を取り出してランダムに2本投げつける。
「坂本!」
「分かってる!オラぁッ!」
里紗はパルチザンで、雄二はメリケンサックで刀を弾き飛ばす。刀は屋上から落っこちて、そのまま霧散した。
「よし、あとはあの馬鹿みたいな剣を……!んなっ!?」
だが雄二の思考は遅れていた。
もう既に黒い召喚獣は2人の元から離れ、翔子達の元へ向かっていたのだ。袈裟斬りをしては旋回、唐竹割りを行っては旋回を繰り返し、複数の集団を纏めてダメージを与えている。
「クソ!このままじゃ翔子達もやられる!」
「分かってるよ!もう!あのバカ!」
「愚痴なら後で言え!」
だがもう遅過ぎた。連続で叩き付けてからの一閃切り抜けにより残る召喚獣は雄二と里紗のみ。
「明久強すぎるよぉ……」
「AクラスとFクラスをほぼ1人で……」
『ジャリ共!その召喚獣には制限時間があるさね!起動から約3分で停止するはず!』
「3分だと!?えぇと……あと1分程度か!」
「坂本!耐えるよ!」
「任せろっての!」
牙を剥きバスターソードを構える召喚獣。里紗は深呼吸をする。
「さて、本気出しちゃおうかな」
「……待て!単独では危険……!」
「後で援護来て!今は引きつける!」
里紗のパルチザンとバスターソードがぶつかり合う。だが里紗には秘策があった。
「これでも喰らいなよ!」
はじき合った武器は宙に舞う。里紗はすぐに姿勢を建て直し、隠し持っていたダガーを召喚獣に押し付けた。
「ダメージが入った!?」
「まだ!終わってないよ!」
宙に舞っていたパルチザンを手に、召喚獣に連続突きを行う。だが。明久の召喚獣はなんともなかったかの如く動き始める。
「う、嘘……!?あれだけ攻撃したのに……!?」
「スーパーアーマーでもついてるってのかよ!危ねぇ!」
「くっ!……なんとか皮1枚ってとこかな」
「あと15秒!」
「逃げろ!死ぬなよ!」
「分かってる!」
2人は黒い召喚獣から離れる。残り3秒。2、1……
ピタッ。
黒い召喚獣は動きを止めた後、膝をついてピクリとも動かなくなってしまう。
「……と、止まった……?」
「みたい、だね……ふぅ……」
「お主ら!やったか!」
「雄二!」
「無事だが……そうだ!明久の所へ行くぞ!」
「あの部屋から察するに……空き教室じゃな!」
雄二達は瓦礫の崩れた部屋に向かった。
そこで見たものはあまりにも悲惨な状態の教室。机や椅子は壊れ、瓦礫が辺りに散乱していてまともに歩けない。
「あの野郎は何処だ?……ん?どこか水漏れしてるのか?」
そう言って液体に触れる。その正体が血だとわかったのはすぐだった。
「お、おい……この血って……」
「い、居た!吉井君!」
「何!?どこだ!」
「鐘のすぐ近く!」
春菜の声で皆が鐘のそばに向かう。そこには、血塗れになって倒れていた明久。
「お、おい……嘘だろ……?」
「明久……嘘だよね……?死なないよね……?」
「皆、退きなさい」
そこに現れたのは御門先生と学園長。
「御門先生……ババァ長……」
「この子は私が治療する。……大丈夫。この子には誰にも負けない……運命に抗おうとする力……誰よりも生きようとする意思があるから」
「なんだと……?」
「……おかしいと思わなかった?今まで召喚獣を使ってあんなになってまで動けていた彼の異常さを」
「それは……」
「それが明久だと?」
「その通りよ。さて、治療の為に借りて行くわ」
明久は御門に連れられて行く。そこに黙っていた学園長が。
「……あの召喚獣……負の感情が爆発したと言ってたな」
「そうさね。……外的ショック……即ち落下による衝撃により何らかのトラウマでも思い出したんだろう。それにより全ての負の感情をエネルギー体にして爆発させ、あの召喚獣となった」
「……あいつが敵と認識した者を倒し始めたのもそれが原因か?」
「そうさね。トラウマは……まぁ、そこの3人が知ってそうじゃないか?」
西連寺、姫路、籾岡の方を見て言う学園長。全員がそちらに向く。
「……経歴を調べているうちに、この3人が過去に接触していたのがあるらしいからね。……若しくは妹に聞くさね」
「……それだけは出来ない。……あいつの妹もあいつがあぁなってる以上、きっと……」
「……お前さん、見た目によらず思いやりあるんだね」
「……たりめぇだろ……」
「お前さんの黒金の腕輪の調整が行き届いてなかったのもあるが……お前さんもそれを承知して利用した。それは分かってるかい?」
「……あぁ。……だから罰は受ける。……俺一人でな」
「ほう?」
「雄二……」
「……黙ってろ。……俺はあいつに無理をさせ過ぎたからな」
「では罰の内容は改めて告げる。……この問題は事故という事でこちらで揉み消しておく。……お前さん達は帰るさね」
「……あぁ」
皆が散っていく中、雄二は1人、ララについて行き、明久の家までやってくる。
「……良いの?」
「俺は美柑ちゃんに謝らなければならない……そうじゃないと、前に進めない」
「……雄二は悪くないって明久なら言うよ」
「分かってる……分かってるよ……それでも俺は……」
戸を開けようとすると、御門先生が出てきた。
「あ、先生!」
「治療は終わり。……でも決意の力が凄いわね。……私でもわからない力。それが今の明久君を生かしている。……回復までは時間はかかる。……けど、大丈夫。もう安心よ」
「ありがとうございます」
「……坂本君だったわよね?何しに来たの?」
「……俺は、あいつに謝りたくて」
「……そう。でもそれも無駄になるわよ」
そう言って闇夜の道を歩いて行く。それを見送ってから家の中に入る。
「邪魔するぞ」
「あ、坂本さん」
「美柑ちゃん、すまねぇ……俺があいつに無理をさせたから……」
「良いんですよ、アキが誰かの為に何かをしようとするって分かってるし……そんなアキもかっこいいし……何より、絶対に怪我をしても最後は笑って終えられること……信じてますから」
「……すまん」
「そうだよ雄二、何湿気た顔してるのさ」
そこに聞こえてきた声を聞き、雄二はハッとなる。頭に包帯を巻いた明久が立っていた。
「あ、アキ!?なんで起きてるの!?」
「ご飯作らないと。……寝てなんか居られないよ」
「……なんでだよ」
「ん?」
「なんでなんだ!お前は俺を責めればいい!何故責めないんだよ!お前は俺のせいでそんな目に遭ったんだぞ!?」
「ははは、バカだなぁ」
笑っている明久に雄二は本気で疑念を抱いた。
「えっ……」
「雄二のせいなんて微塵も思ってないよ。……寧ろ、僕はこれで良かったんだって思うよ」
「なんで……だよ……」
「落ちたのも自業自得だし。……自分の力を驕った僕のせいでもある。……それに、僕の召喚獣……暴走したらしいね。……ごめんね?面倒臭い役押し付けて……」
「どうしてお前は……そんなに……笑ってられるんだよ……!」
「……友達と何かをする事ができるだけで、僕は嬉しいから。……ありがとう、雄二。僕を頼ってくれて……ただそれだけが僕は嬉しかったんだ……だから、頑張れた」
そう言われた雄二はただ静かに握っていた拳を開いた。
「……お前には……適わないな」
「ご飯食べてく?」
「……あぁ、すまんな」
「じゃ、今日頑張ったもう1人を迎えに行ってくるから」
「待てよ!動いていいのか?」
「平気さ。モモ、手伝って」
「はい!ナナ!アンタも手伝いなさい!」
「何で私が……」
「そんな事言うと明久さんが倒れて真っ先に駆けつけて涙ぐんでたって言っちゃうわよ?」
「ははは、ナナがそんなことするわけないでしょー?」
明久がそう言うと、ナナは明久の服を掴んで静かに呟いた。
「……心配、したんだぞ」
「え?」
「心配、したって言ってるんだぞ……私だって心配するに決まってる」
「……ごめんね、ありがと」
明久が頭を撫でる。顔を真っ赤にしたナナはただそこに佇むしかなかった。それを妬ましそうに見るモモ。
「明久さんっ、行きましょ」
「うん。ララ、洗濯物干しといてくれるかな」
「任せてよ!」
そう言った明久はモモと出て行った。雄二もソファーに座って項垂れる。
「良かったよ、ほんとに」
「うん!笑って終われるね」
「……笑わないと、あいつが今度は怒るからな」
「姉上、ゴリラ!運ぶの手伝ってくれよっ」
「ゴリラはやめろ、坂本雄二だ」
「じゃあユージ!早く運ぶ!」
「あぁ、わかった」
「ナナ、上機嫌だね?」
「へへ、どうだろうな?」
「やっぱりアキは居ないとダメなんだよ……消えたいとか、そんな事言っちゃダメだよ……」
美柑が静かに呟く。だがこの声は届く事はない。台所の光景を見ながら明久の制服を洗濯に出すのであった。
――――――
「ごめんモモ、買ってきて欲しいものあるんだけどいいかな?」
「勿論ですよ!」
「ありがとう。じゃあこれで7人分のアイス買ってきて」
「私達の分も良いんですか?」
「心配かけちゃったお詫び。心配してくれてありがとう」
モモの頭を撫でると、顔を赤らめて走り出した。
「明久さんはそれで無自覚なのがダメですよっ」
「?……まぁいいや。居るよね?」
里紗の家の前に着く。インターホンを鳴らすと、明かりが点く。
「はい、どちら様……」
「こんばんは」
「……帰って」
「嫌だね。君を我が家の夜ご飯に招待しに来たのさ」
「……アンタ、皆がどれだけ心配したかわかってるの?」
「……ようやく分かったんだ。……僕が消えたいなんて願っちゃいけないなんて。……僕にはまだ、頼ってくれる友達とかいるから……僕の為に涙を流してくれる人がいるから」
「……気付くのが遅いのよこの馬鹿」
「仕方ないじゃんか、僕は馬鹿だもん」
「……心配、したんだから」
「……ごめん」
「馬鹿ぁ……っ!」
あぁ、泣かしてしまった。取り敢えず頭を撫でる。困った時にはこれに限る。
5分後、里紗は泣き止んだのか、顔を上げる。うっ、か、可愛い……だと?
「……アンタがどれだけ苦しんでるのか……わかったつもりだった。……でも、本当はもっと苦しんでたって事……知らなかった」
「言ってないから仕方ないね。……でももういいんだ。あの暴走から僕の心は不思議なくらいスッキリしてるから」
「……本当に?」
「うん。だから前よりは明るく振る舞える。……ほら、ご飯食べよう」
「……うん」
里紗をおんぶして歩き始めた。
「……頭、大丈夫?」
「問題ないさ。痛みはあるけど出血とかはない」
「……ごめんね、私を助ける為に」
「僕がそうしたいと願ったんだ。……それに本当ならあれ助かってたんだ。お腹すいてなければね」
「……またそうやって嘘ついて……」
本当の事です。はい。
家まで戻ってきて、適当にご飯を作る。ご飯とスーパーで買った刺身。それらで何とかもたせる。……いや、もたせるって言っても買いすぎたから消費に助かる。
「モモがアイス買ってきてくれたから皆で食べようね」
「……悪いな、飯までもらっておいて」
「気にするなよ」
……前を見て進める。これだけでも僕はこの傷があって良かったと思える。
「美柑、そろそろ三者面談の日近いよね」
「うん。お父さんとお母さんダメだって」
「姉さんは?」
「行けるかわからないって……」
「しゃーない、女に扮していこうか」
「マジで言ってるのか?」
「仕方ないだろ?三者面談やっとかないと」
「頭の傷はいつ治るの?」
「傷が塞がるのは3日だって」
聞けば美柑の三者面談は一週間後。何とかなる。うん。
「よぉし、お兄ちゃん頑張るからね」
「でもバレないか?」
「顔バレてないから余裕。年齢誤魔化せば余裕だろ」
「まぁ保護者と言っても差し支えないだろうからな……」
「さて、ご馳走様」
冷凍庫の中にあるバニラアイスを取り、ソファーに座って食べ始める。
「食べ終わったら流し置いといて」
「洗うくらいはするよ」
そう言って里紗が皿を洗い始めた。僕は雄二と話を続ける。
「でも今日の2人凄かったよね、僕の召喚獣に攻撃与えたらしいじゃん」
「ほぼ籾岡がやったんだけどな」
「でもまぁ、多分動き単純だったんじゃないかな」
「なんだと?」
「だって僕の手からは完全に離れてたんだよ?単調な動きをしてたはず。……動きも見れば分かるようなのばっかだったと思うんだけどね」
「そう思えるお前はすげぇよ……もうこんな時間か、帰るよ」
「アイスは?」
「流石に飯までもらっておいて悪いからな。……今度は奢らせろ」
「そこまで言うなら奢ってやられるよ」
「おう、またな」
「うん、またね」
雄二が帰って行く。里紗も満足げに帰っていった。部屋に戻ると、ララが座っていた。
「ん?どうしたの?」
「……今日は一緒に寝たいなって思ったの」
「……僕臭いよ?」
「関係ないもん」
「……わかった、ほら」
「えいっ」
ララの顔が近い。……改めて見ると美人なんだなって思う。
「……そ、そんなに見られると恥ずかしいな……」
「……今まで恥ずかしくないんじゃなかったの?」
「そ、それとこれとは別!」
「そっか。……じゃあおやすみ」
「おやすみ」
静かに2人で目を閉じる。……色々あり過ぎて、もう疲れた……
――――――
「あら、雄二。どこ行ってたの?」
「明久の所」
「またご飯頂いてきたの?」
「あぁ……なぁお袋」
「ん?なぁに?」
「俺、お袋の言う事が正しかったって今なら思えるよ」
「……大切なお友達、見つけたようで私も安心したわ。……勉強ばっかするより、お友達と遊ばないと絶対に後悔するもの。……私はそれで後悔した」
「お袋が?」
「……だから、自分の息子には後悔してほしくなくてね。……雄二、大切にしなさいね。……貴方を友達と思ってくれる人を」
「あぁ、ありがとうお袋」
雄二は部屋に戻って、ベッドに寝転がる。
「……あぁ、そうだ。俺は……確かにアイツらが居ないと何も出来なかった」
そして思い出す。過去の母親との会話。
『私は雄二ちゃんに、もっと沢山の事を学んでほしい。勉強の事じゃない。……生きてく上で大切な事よ』
「……あぁ、俺も頑張るよ」
そう呟いて、雄二は自分の部屋を出たのだった。
他作品ネタ多くなってきました。
ダークネスとか色々と盛り込んでいきたいと思います。
無印のToLOVEるのお話はダークネスが終わったらうまくかみ合わせるように書きたいと思っております。