「明久、よく無事でいたのじゃ」
「…心配で眠れなかった」
「ほうほう?僕のこと心配した?そんな可愛い2人はおっぱい揉む?」
「…そういうことを言ってるんじゃ…ッ…!」
「ムッツリーニィ!?貴様なんて事を!」
「ほら、秀吉も頑張ったからほれー」
「む、むぅ…苦しいのじゃあ…!の、ノーブラ…じゃと…!?」
あれから皆集まってくれた。今僕はふざけて自分の胸を秀吉と康太に触らせている。そのせいで康太は死に、秀吉も顔真っ赤だ。
「吉井君?申し訳ないけどこの馬鹿勘違いしちゃうからやめてね?」
「そうだよ、ムッツリーニ君は貧乳派に誘おうって思ったのに無理になっちゃうじゃない」
「ははは、ごめんね」
秀吉と康太を離す。ぴくぴくと痙攣してまともに話せそうにない。
「でも良かった、吉井君が元気になって」
「えぇ、無事で何よりです」
「二人共ありがとう」
「で?皆来たって言うのにどこへ出かけようとしてるの?」
「散歩さ、外出ないと身体が変な感じになるし…ついでに買い物」
「じゃあ私も行きましょうか?」
モモが名乗りを上げてくれる。だけど首を横に振った。
「いいよ、すぐ行ってくるから。ララ、美柑。お留守番頼むよ」
「はーい」
「わかった」
家を出て商店街へと向かった。まずは…
「居るかな…おっ?」
遠目に見える普通の人とは違う格好。居た。
「やっほ、ヤミ」
「…吉井明久、何か用ですか…どうしたんですか、その頭」
「転んじゃってさ。怪我した所を御門先生に治してもらったんだ。…こんなところで何をしてるの?」
「…」
そう言うとたい焼き屋を見た。あぁ、買いたいけどお金が無い…そんな感じか。
「待ってて」
たい焼き屋のおじちゃんに話し掛けた。
「たい焼きくださーい」
「お、前のお嬢ちゃん…ど、どうしたんだいその頭!?」
「転んじゃって…」
「気をつけなよ!…待てよ?怪我をしてるのにわざわざウチに寄ってくれた…?くぅ…!なんて嬉しい事を!えぇい!たい焼き持ってけ!4つセット!」
そう言ってたい焼きをくれたおじちゃんにお礼を言ってからヤミの元へ戻った。
「一緒に食べよう!」
「…何故?」
「僕がそうしたいから」
「…分かり、ました…」
近くの公園のベンチに座って鯛焼きを頬張る。久々に食べたけど美味しいなぁ。
「…さっきの、嘘ですね」
「うん?何が?」
「…転んだんじゃなくて…どこかから落ちましたね」
「はは、バレてたか」
ヤミは鋭いし、隠し通せるとも思ってはいない。
「…あなたの事ですから…誰かを助けようとして犠牲になった」
「そんなにかっこいいことしてないよ。…落ちそうになってた人をララのワープでなんとかしたんだけどお腹空いて力出なくてさ。そのまま落ちちゃったんだ」
「…では以前より明るく見えるのはそれが原因ですか」
「だね。…もう消えたいとか願わない。…だけど、あの約束はまだ続いてるから…ヤミがその気になったら教えて欲しいな。…ちゃんと差し出すから」
「…この地球の本とかに感謝してください。暗殺しようにも読みたい本がまだあり過ぎて読み終わりません」
「ははは、優しいね」
「何処がですか?私が優しい?」
「うん、君は優しいよ」
いつの間にか、話は弾んでいた。…楽しいと、思えた自分がいた。
――――――
雄二達は気になって明久をつけていた。するとヤミと二人きりで話すシーンに直撃している。
「あらら、明久ってばこれが目的なのね」
「あ?誰だあの女の子は」
「ヤミちゃんって言うの。…明久と同じ境遇らしくて、似てるからほっとけないんだって」
「…つまりアイツも一人ぼっちだったって事か」
「本職はね、明久を殺しに来た殺し屋なんだよ」
「は?」
「…あんな小さな子が?」
「うん。…でも殺されるってわかってても明久はあぁするんだって」
「…アイツらしいな」
「まぁお邪魔になる前に戻りましょうか」
「だねぇ」
皆は気付かれないように明久の家へと戻って行った。
――――――
「今日暇ー?家来てよ」
「…なぜですか」
…露骨に嫌そうな顔をするのをやめてよ!!
「美柑が会いたがってたから」
「…仕方ありません、ミカンの為なら行きます」
やったぜ。我ながら完璧な作戦。これなら僕もニッコリ、美柑もニッコリで一石二鳥だ!
「じゃあ買い物付き合ってくれない?」
「…なんでそうなるんですか」
「お願いします!何でもしますから!」
「…本当になんでもするんですか」
「ん?」
何この反応。流石に想定外だ。
「う、うん。するよ?」
「分かりました。…では行きましょう」
「待った!願いだけ聞かせて欲しいんだ」
「…心配は無用です。…あなたの命は取りません」
「へ?じゃあ何?」
「教えて欲しい事があります」
「な、なんでしょうか」
「…恋って、なんですか」
「…恋…か」
恋愛とかそんな感じのあれか。…あ、あれー????????
「…ごめん、したことないから分からない」
「…そうですよね、あなたにそういう気持ちがあるとは思えません」
…なんか失礼だなぁ。気持ちはあるよ!したいという気持ちはさぁ!
「どうして知りたがっているの?」
「…本で読んだんです」
「なるほどね…でも、いつか…そう言う甘酸っぱくなるような恋というのをしてみたいよね」
「そういうものなのですか?」
「そういうのを経験して、僕達は大人になっていくんだと思う」
「…あなたにしてはまともな回答だと思います」
その発言なかなか心に響いた。主に悪い意味で。まともに思われてなかったらしい。
ヤミと買い物をしてから家へと戻った。雄二達は帰ったらしく、家の玄関は散乱していた靴が無くなっていた。
「お帰り」
「…お邪魔します」
「ヤミさん!いらっしゃーい!」
「ミカン、お邪魔します…貴方の兄に無理矢理連れてこられて」
「ご飯作るけど…たい焼きはまた後でね」
「…分かりました」
なんとなーく素直になってる気がする。突っ撥ねられていた時よりは遥かにマシだ。やったぜ。
「明久さん、動いていいんですか?」
「問題ないよ」
「良かった、本来ならまだ寝てたんだよ?」
「…皆待ってるし、寝てるわけにはいかないよ」
ご飯を作りながらいつも通りにお風呂を沸かして小さい組からお風呂に入れる。
「明久って変わったね」
「え?なんで?」
「私と初めて会った時より、自然に笑えてる」
そうなのかな。本当に無意識だったんだけど…そんなに、笑えていたのか。
「それはきっと、君のお陰だよ」
「へへ、なんか照れるね」
「…ありがとう」
「…うん」
「2人でなーに良い雰囲気になってんだよ」
「あはは!ごめんね!ナナも明久独り占めしたいんだもんね!」
「ち、違うし!バカ言うなよ姉上!」
すっかり家の雰囲気も明るくなって、極めつけに落っこちて頭打った時からそんなに昔の事に囚われなくなった。それからだろう。僕が本当の意味で前に1歩踏み出せたと言うのは。
「明久さん、お話があります。部屋に行きませんか?」
「良いけども」
モモに呼び出されて自部屋に向かう。呼び出されて早々、押し倒された。
「へ?な、何?」
「明久さんに率直に言います。ハーレムを作りましょう」
「は、ハーレム?ハーレムって…男1人に女の子複数のあれ…?」
「そうです」
「ぼ、僕が出来るわけないじゃんか…夢のまた夢だよ」
「周りに女の子しかいないのお気づきです?」
「わかってる…だけど皆僕に好意は抱いてないでしょ!友達なだけでしょ!?」
「はぁ、明久さんの鈍さは筋金入りですね」
なんてことを言うんだ。
「良いですか?私は明久さんと取り巻く女性全員を考えてこの考えに行き着いたのです」
「へぇ?」
どういう意味だろう。少し…いや、かなり気になる。
「明久さんは誰かが傷つくのを恐れて誰も選ぼうとしない。だけど明久さんの周りの女性は明久さんと結ばれたいと考えている。そこで私は地球の外に出れば良いと考えました。…宇宙なら一夫多妻、一妻多夫も珍しいものではありません」
なるほど。1人がダメなら全員纏めて幸せにしろって言いたいのか。なるほど、実に理にかなって……いやいやいや!!
「ダメだよ!僕は地球人だ!そんなの適用されるはずがない!」
「では明久さんは他に方法があると?」
「…だから、誰も選ばないと…」
「…全員を傷つけるのですか?」
「…分からないよ!どうして僕がこんなに悩まないといけない!おかしいんだ!」
「…それだけ明久さんが魅力的に見えるのです。…明久さん自身は自分はダメな人間と思ってるのかもしれませんが…皆、貴方を素晴らしい男性として見てるんですよ」
「…」
どうすればいいのか分からず、部屋を出て風呂に入る。ダメだ。何も思い浮かばない。
「ハーレム、かぁ」
アニメの中でしか見た事なかった。そして、自分には絶対にないものだと思っていた。どうしてこうなっちゃったかなぁ…
『…おや、誰かいるのですか』
「えっ」
『…その声は…あぁ、あなたですか』
「ど、どうしたのさ?入ったんじゃないの?」
『いいえ、さっき入ってなかったんです』
「そう、じゃあ上がるよ」
『いえ、そのままで結構です』
数秒すると、入ってきた。
「な、なななななぁ…!?」
「何をそんなに驚くのです」
「だ、だって!入ってくるなんて…!」
「…別に風呂に入るだけですから」
その後は重い空気が続く。会話が無いから辛い。
「…質問、良いですか」
「な、何かな」
「あなたは何かを願った事がありますか?心の底から、いるはずも無い神様に願うくらい…そんな切羽詰まるくらい」
「願った事…か。あるよ」
「それはどんな?」
「…普通でいたかった。…何よりも誰よりも平凡で、何も無い生活が良かった。喜びも悲しみもない、植物のような穏やかな生活。それさえあれば回り道をせずに済んだ」
身体を流し終えたヤミが隣に入ってきた。は、恥ずかしい…!体は女でも元は男だから…!
「ですが、回り道をしたから得られたものもあったでしょう」
「…」
「私の読んだ本には回り道こそが最短の道のりと書かれていました。…地球人、本当に謎ですね」
「そうか…そうなのか」
「ところで…何故私の胸を触るのです」
「へ?」
この手にあるふにふにとした感触。こ、これは…
「えっちぃのは…嫌いです…!」
「ぎゃあああああ!」
殴られた!いや、吹っ飛ばされた?どっちでもいいけどこれは痛い…!
「…油断するとすぐそれなんですから」
「ご、ごめんなさい…」
2人で風呂を出てリビングに向かう。
「あれ?アキどうしたの」
「…聞かないで…」
殴られた頬を擦りながら皆にバレないようにご飯を食べるのであった。