バカとToLOVEる!   作:抹茶スイーツはお好きですか?

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食材や調理器具が集まり、外装も綺麗にして、設備もティアーユ先生に頼んで貸してもらったりとFクラスがCクラス並みになった所で僕らの衣装が届いた。雄二や秀吉、康太のお母さん達は女の子になって喜んだらしい。可愛くない息子が可愛い娘になったから大喜びとのこと。

 

「みんなのチャイナドレスだね」

「俺が赤…秀吉が緑…康太が紫…ララがピンクで…明久が青か」

「まぁその気になれば僕はスク水でも接待するよ」

「女慣れしてんなぁ」

「自分の裸見まくってるから仕方ないね」

「…俺らも慣れちまったよ…クソ、怖ぇなぁ」

「…鼻血が出なくなった点で言ったら明久にグッジョブしたいがこれで俺の探究心が終わってしまった」

「知るかよ…で?男達は?」

 

そう言うと須川君が入ってきた。

 

「アキちゃん、情報仕入れてきた」

「お?何ー?」

「EもDも食べ物系だが俺らとは違ってスイーツ系で勝負してくるみたいだ。本格的なのはAとB。Cはお化け屋敷らしいな」

「ありがとう。そういや彼女できたって本当?」

「まぁな。アキちゃんのお陰だよ。…ありがとう」

「うっわ、なんか須川君がイケメンになったな」

「あぁ、見てると怖いわ」

「怖いとかゆーなっての。じゃ、俺ら後まだ仕入れとか看板、教室の前の装飾があるから」

「ごめんね、頼むよ」

「任せろって」

 

そう言って5人になると雄二達はいきなり項垂れ始めた。

 

「俺らが女に慣れちまったらもう男戻れねぇだろ…」

「関係ないよ、僕を見てみろ」

「お前はいつも女の裸とか見てるからだろ」

「待て、その発言は許せないぞ」

 

雄二達とあーだこーだを言い始めて10分。

 

「出来たぞ!これならFクラスでも衛生面的に入りやすいはずだ!」

 

外から見ても中から見てもぼろ1つ出さないこの綺麗な空間(隠してるだけとは言わない)でお客様の気も引ける!そして僕と康太で調理!雄二は経理とか色々やるため表には立たないがララと秀吉なら接客もバッチリ!…勝ったな。

 

「男共は皿洗いに食材調達、清掃だ!それが終わり次第遊びに行くもよしとする!」

「よし!成功させようぜ!」

「俺達の底力見せてやる!」

 

やる気になってくれたみたいだ。さて。

 

「雄二、話がある」

「あ?なんだ?」

「僕と一緒に召喚獣トーナメントに出て欲しい」

「は?何故?それをするメリットは?」

「保険さ。僕は学園長と契約を結んでさ。…僕がある問題のある賞品を回収出来れば例え1位じゃなくても施設はランクダウンする前に戻る」

「なるほどな。…まぁいいだろう。2人組だしな」

「流石、話が早い」

 

1だけ聞けば10まで理解が出来る雄二ちゃんほんと有能です。とは言ったものの、店が大丈夫かな…

 

「てか明久は早くやるべき事やれよ」

「え?何?」

「Aクラスでアキちゃんメイド姿を撮るべく準備してるって翔子からお達しがな」

 

その瞬間、僕は教室を駆け出し、走ってはいけない廊下を走りAクラスまでやって来た。

 

「やーやー!準備はいかがー?!」

「あっ、明久」

「申し訳ないけどこのメイド服は貰っていくねー!」

「な、何すんのよー!?」

「そ、そうです!アキちゃん着てください!」

「嫌だよ!僕はこんなフリフリ多いのは着れない!」

「アキちゃん行かないでー!」

「私達のアキちゃん様は着てくれて踏んで罵ってくれるって信じてるのー!」

「ま、待て!そんなキャラじゃない!」

「てか待って!それは―――!」

 

里紗が何か言おうとしてたけど気にしない。いつから君達の頭の中のアキちゃんはドS女王様キャラになっちゃったの?男達は羨望の眼差しで見てくるし!や、やめろ!その視線とアキちゃんのキャラをそんなに増長させるんじゃない!

 

教室内に帰ってきて、メイド服を丁寧に畳み、バッグの中にしまった。

 

「何してんだお前」

「…危険物の押収?」

「…ドS女王様アキちゃん」

「やめろ!僕はそんなキャラじゃない!」

「女子からしたらお主は憧れの星じゃからの…」

 

はて、そんな憧れになるような事何かしただろうか?いつものように飛び降りとかしてるくらいで何も…

 

「でも傍から見たら普通に美少女…いや、美女レベルだからな」

「…女子までメロメロにするのはNG」

「明久の雰囲気と佇まい、身長にそのすらっとした身体では最早女子からして見れば羨ましいレベルなんじゃなかろうか」

「そんなもんかな?僕は細過ぎず太過ぎずじゃなければいいと思うよ?…だって実際痩せてる人が羨ましいし」

「…嫌味にしか聞こえない」

「いやいや、この贅肉もあったらあったで邪魔だし…飛び降りとか走る時とか付け根痛いんだよ?」

「ブラしないからだよ。ちゃんと合うの付けよ?」

「そうそう、里紗の言う通り…ってなんでいるのさ!?」

 

後ろにはメイド服を着た里紗が立っていた。

 

「そりゃ、盗られたメイド服を取り返しに来たってわけ」

「遅かったな、捨てたよ」

 

嘘だけど。

 

「それ明久用に作ったわけじゃないよ?」

「え?誰?」

「3年生の先輩。明久も面識あるんじゃない?天条院先輩だよ」

「…」

 

綺麗に畳んでいたメイド服を鞄から取り出して里紗に返す。

 

「お、律儀に畳んである…なんで私より上手いんだし」

「な、なんで天条院先輩が…?」

「あぁ、裁縫部の子に任せておいたんだけど取りに来るの遅くなったからクラスで保管してて、渡すって約束してたの。明久のはこっち」

 

なんで僕のまで用意してあるんだ。後で男に戻っておくか…

 

「探しましたわよ!」

「あっ、先輩!すみません。ちょっと話してて」

 

天条院沙姫先輩。本物のお嬢様。性格はまぁお嬢様と言えば通じるだろう。高圧的な態度が多いけどそれを除けば普通に美人で綺麗だと思うんだよなぁ…

 

「あら?こちらの女の子達は?」

「え?あぁ、4バカの代理らしいです」

「待て、何故俺らまでこのバカの括りに入れられてるんだ」

「…不名誉極まりない」

「訂正するのじゃ」

「おいゴラァ!こちとらお前らみたいな阿呆と一緒にされるのはごめんじゃい!」

「んだとオルァ!」

 

殴り合いが始まった。腕っ節とか変わらないから女の子同士で殴り合うのも男同士で殴り合うのも変わんない。…いや、胸についてるメロンで敵を押す事も可能だ。…あれ?これ意味ある?

 

「やめなよ…ごめんなさい」

「いいえ、元気で良いです。…時に、あのお猿さんは病気と聞きましたが」

「あ、明久の事ですね」

 

その1連のやり取りを聞いた僕らは殴り合うのをやめ、3人は笑い出し僕は自分が猿な理由を探し始めた。

 

「そういやなんで猿なんですか?」

 

里紗グッジョブ!多分碌でもない理由だろうけど…

 

「あぁ、彼をそう呼ぶ理由なら…以前私のスカートの中にダイブしてきたり謝って逃げるかと思いきや飛び降りたりしたからですわ。その癖してケロってしててこっち見ては平謝りして逃げ出す様はお猿さんですわ」

「最低ですねー!明久って最低ですねぇー!?」

「あぁ!全くだ!明久はとんでもねぇ屑だな!」

「…警察につまみ出す…!」

「痴漢した後に逃走…ダメじゃな!」

 

あっ…思い出した…確かに僕はラッキースケベで先輩のスカートの中に突っ込んだんだ。確か高一の時…

 

てか大声で叫ぶな!僕がさらに誤解を受ける!いや、誤解じゃない事実なんだけど!悪気は無いんです!いや!あったら犯罪なのわかってるけど!!

 

「まぁ、怒ってはないですけどね」

「え?だって痴漢されたんでしょう?」

「いえ、それ以前に彼には助けてもらいましたから」

 

あれ?僕そんなことしたっけ?

 

「もう時間ですわね!籾岡さん、メイド服感謝しますわ!この話、吉井明久には他言無用でお願いします」

 

…その吉井明久は目の前に居ます。手遅れです…でも何したっけな?

 

先輩が居なくなってから何をしたか考える。…あれ?本当になにかしたっけ?

 

「明久何したの?先輩と面識あったんだ」

「…本気で思い出せない」

「はぁ?なんでだよ?」

「…昔の記憶、無いんだ」

「…まさか、あの時のあれか?」

「…わからない…僕と先輩の間に何があったのかわからない…つい最近…高校1年の時の記憶はある…だけどそれより前は…」

「分かった!じゃあ私がなんとかしたげる!」

 

ララが名乗りを挙げた。人の記憶を操るとでも言うのか?

 

「いや、無理だよ。諦めよう?」

「…1番諦めたくないのは明久じゃないの?」

「…っ」

「大丈夫、きっと上手くいくから。…じゃ、私先帰るね!発明品作るんだ!」

「おう」

 

ララは帰って行った。…昔のこと、思い出したい…?いや、なんだろう。昔の事を思い出したら…きっと、嫌な思いをするだろう。でも…記憶があるから人は生きていられる。そう考えれば、僕は嫌な事を思い出しても…そもそも友達がいるから僕は問題は無い気がするが…

 

「どうしたよ、そんな暗い顔をして」

「…思い出していい思い出かわからないんだ」

「…お前は絶対に嫌がる思い出だろうな。…でも逃げたら何も変わらんだろ?」

「…まぁ、別に良いや。人の善意を無下にはできない」

「それがお前だからな」

「取り敢えず用意も出来たしメニューも出来てる…作り方は…まぁ僕と康太で作るから問題ない…やる事は無いね」

「アイツらに報告して帰るか。…お前らー、もうそろそろ帰っていいぞー」

『あぁ、わかったー』

『もうほぼ終わってるしな。あとは明日の朝出来ることだけだ』

「後は俺らが全部やるから明日は遊ぶなりなんなりでいいぞ」

『いいや、食材調達とか金銭管理とか一人じゃ無理だろ?』

『水臭ぇよ、俺らも出来ることはやりたい』

 

…あれ?こんなにFクラスメンツイケメンだったっけ?皆目が輝いてるし…やだ、皆ブサメン脱却している…!?

 

「じゃあ無理するなよ」

『おう、お前らもなー』

「てか俺らのことよくわかったな?」

『まぁな。何時もつるんでるし言動や仕草でわかるだろうよ。最初は吉井は本気で分からんかったが』

「ははは、でも生粋の女の子だよ?」

『見ればわかるさ』

 

取り敢えず別れた僕らはそれぞれ家に帰る事に。

 

「ただいま」

「おぉ、明久か…あ?なんでそんな暗い顔してんだ?」

「…え?そんな風に見える?」

「…無理してるように見えるぞ?大丈夫か?」

「…ははは、ナナは変な事言うね?僕は全然平気だよ」

 

嘘をついた。だが壁ドンで逃げられなくなった。

 

「…嘘ついてるのくらいわかるぞ。…私が聞いてやるから、話してみな」

「…変な所で優しいね、ナナは…ずっと僕のこと嫌いだと思ってた」

「え?なんで?」

 

え?何そのキョトンとした顔?え?

 

「だってバカ久とか…」

「あぁ、別に悪い意味は無いよ。嫌なら普通に直すし…嫌いではないかな。…妙に頼りになるし」

「…はぁ」

「…悪かったよ、その…最初は姉上を取られる気がしてさ。後になってからはモモばっか構ってるのがムカついたんだ…」

「…そういうことか…まぁ、それなら僕にも非はあるし…ナナが僕のこと嫌いじゃないことがわかったから元気も出てきたし。一緒にご飯作ってくれる?」

「!うん!任せろ!」

 

ナナが可愛いと思った。こんな顔で笑うんだって。自分の記憶がどうでも良くなるくらい、一緒にご飯を作る事が楽しかった。

 

「明久!出来たよ!こいこいメモリーくん!」

「…記憶が戻るの?」

「え?何言ってんだ姉上?」

「明久ね、あの日から昔の記憶を忘れちゃったからねー」

 

ボタンを押すと、体に電流が走った。頭の中に思い出が蘇る。瞼を閉じると、吐き気のするような嫌な思い出ばかり。そうか。だから雄二はあの時…

 

「ど、どうしたんだ!?しっかりしろよ!」

「明久!?」

「も、問題ない…思い出したくなかった思い出だったけど…ありがとう、ララ」

「なんで?忘れることもできるよ?」

「…人は思い出がないと生きていられないから…」

 

蘇っていく思い出の中、一つだけ気になったのがあった。8歳位の頃、見知らぬ女の子と遊んでいる記憶。

 

―あなた、痛くないの?―

―痛いけど、君が傷つくよりかはマシさ!―

―あなた、お名前は?―

―明久!君は?―

―沙姫。明久君ね…うん、覚えた!アキ君、助けてくれてありがとう!―

―あはは、素直に感謝されたのは初めてだよ―

―一緒に遊んでくれる?お友達、居ないから―

―分かった、今日から僕が友達になってあげる!―

―本当!?ありがとう!―

 

「…ひ…さ、明久!」

「…えっ、何…?」

「…泣いてるよ?」

 

…ずっと忘れていた思い出。絶望の中で確かにあった光。それを忘れていたんだ。

 

「…どうして、忘れてたんだろう…忘れちゃいけなかったのに…僕、最低だ…そうだ…引っ越して…会いに行けなかったんだ…約束を、守ることすら…出来なかったんだ…」

「…明久…」

 

コロコロダンジョくんを使って男に戻り、ご飯の用意をしたあとに家を出る。

 

「ごめん、少し出てくる」

 

そう言って走り出す。先輩の家はお嬢様故に、かなりわかりやすい。

 

「謝らなきゃ…!ずっと、僕は…!あっ…!?」

 

目の前に集中し過ぎて、車が飛び出してきたのに気付かなかった。間一髪で躱したが、壁に頭をぶつけてしまう。

 

「ぐぁ…っ!くっ、ダメだ…!止まれない…!止まっちゃいけないんだ…!」

 

頭から血が流れ出ているのも気にせず走り出す。謝りたいという願いが、今の僕を動かす。

 

そしてやってきた、天条院家。

 

「インターホン…これか」

 

インターホンを鳴らすと、低い男の人の声が。

 

『どなたですかな?』

「…天条院沙姫先輩の学校の後輩のものです」

『どのようなご要件で?』

「…先輩に、謝りたい事があって…少しでも時間を頂けませんか」

『お嬢様は忙しい、また日を改めて…お嬢様っ?』

『吉井明久!?そこに居ますの!?』

「…先輩…ごめんなさい、日も沈んだのに…また日を改めます」

『待ちなさい!すぐ行きますわ!』

 

インターホンが切れる。遠くで扉が開く音がした。先輩が寝間着姿で走ってくる。

 

「どうしましたの…なっ!?なんでそんなに血が…!?」

「先輩…ごめんなさい…ずっと、謝りたかったんです」

「な、何を?」

「…昔、遊ぼうって約束をしたあの日…僕は親の元を離れて暮らす必要があったんです。…その事を先輩に言えなくて…先輩はずっと僕を待っていたって…ずっと、怖かった…僕は先輩が怒ってるんじゃないかって…僕の事、憎んでるんじゃないかって…」

「…あなたという人は…それを言うためだけに…?病気なのでは…?」

「…僕にとってはそれだけの事なんです…ごめんなさい、ずっと…この一言が言えなかった僕を…許してください」

「…怒っても憎んでも居ないですわ」

「…えっ…」

「あなたが覚えててくれて嬉しいのよ…アキ君」

「…ッ…せん、ぱい…」

「…ふふ、歳が上だともうあの呼び名は呼んでくれないの?」

「…先輩は僕の先輩ですから…」

「今だけは許すから、また呼んで」

「…沙姫ちゃん」

「…えぇ、覚えててくれてありがとう…」

「…それも兼ねて…僕は屋上から落ちて頭を打った時…記憶が飛んでしまって…ララが記憶を戻してくれる装置を作ってくれたから思い出したんです。…僕は人として最低だ」

「…もういいの。あなたは自分を責めちゃいけない。…あなたの身に起きていたこと…見て見ぬ振りをした。…あなた一人を助けられない弱い私が嫌だった。…ごめんなさい」

「…先輩は悪くないですよ」

「…そう言ってくれるとありがたいわ。…上がって?傷の手当をするわ」

「…いつもの口調じゃなくなるんですね」

「…あなたと話す時だけよ。…私と二人きりの時は沙姫ちゃんって呼ぶこと。それと、タメ口でいいわ。ずっとそうしてきたんだもの」

「…わかった」

 

家にあがると、何人ものメイドさんや執事さんが仕事をしている。

 

「…凄い」

「給仕さん、救急箱をお願い」

「ここに」

「ありがとう」

 

頭を消毒して、薬を塗り、包帯を巻いてくれた。

 

「ありがとう」

「どうしたの?その傷」

「…1秒でも早く謝りたいって走ってきた時に横から出てくる車に気づかなくて…姿勢を崩して壁にぶつかったんだ」

「…おっちょこちょいは相変わらずね」

「そう言えばいつも2人横について行動してるけど誰なの?」

「あぁ、ボディーガード。九条凛と藤崎綾。二人共あなたが居なくなってから一緒に遊ぶようになったの。…あなたのおかげで私は友達も沢山増えたのよ」

「僕は何もしてないよ。…ただ友達になっただけ」

「それもそうね」

「そろそろお暇しなきゃ。沙姫ちゃんの時間もあるし、僕も皆を待たせてる」

「ララ・サタリン・デビルークとか?」

「…うん。美柑もそろそろ寝る時間だし」

「…また、会いに来てくれるかしら」

「遊びに行くよ」

「…あなたのお友達も誘っていいから、また今度遊べる日を教えて?また、あなたと遊べる日が来ることが本当に嬉しいから」

「そっか、ありがとう」

 

自転車を漕いで家まで戻る。明日から文化祭。蟠りも消えたし、本気で頑張ろうと満月を見つつ、夜道を走りながら決意を抱いた。






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