2回戦が終わった僕らは教室に戻ってきて客の対応を行っていた。客の足が止まることはなく、口コミが広まったのかかなり良い売り上げ。
「二回戦お疲れ様なのじゃ」
「…あれじゃ明久が倒したようなものじゃないか」
「しゃーねぇだろ、翔子はともかく籾岡のヤローは明久にダメージ通るような化け物だぞ」
「客も落ち着いてきたよね」
辺りを見渡すと少しだけお客さんが減った。皆、施設を見て回ったり他のお店に行ったのだろう。…それを確認するように、あと雄二に対して助け舟を出すために僕は客層の様子を見て呟いた。
「うむ。結構疲れたのう…先輩も助かるのじゃ」
「案外やってみると楽しいものね」
「大丈夫?疲れたら辞めていいよ?」
「辞めない。…私、こう見えても頑固なんだから」
「明久ー!差し入れ持ってきたよー!」
そう言ってララが持ってきたのは他クラスのフランクフルトやらなにやら。
「どうしたのさこれ」
「俺が頼んだ。皆も腹ごしらえはしないとな」
「…これは私も食べていいの?」
「何を言うかと思えば…先輩がいなかったら俺らもっと忙しかったぞ」
「沙姫ちゃんのお陰で助かってるんだ。ありがとう」
「そう言って貰えると嬉しいわ」
「…雄二」
そこにムッツリーニがいきなり現れた。
「どうした?」
「次の対戦カード…見てくれ」
『如月明奈&立花結姫VS姫路瑞希&西園寺春菜』
「なんだよ、二人共明久に任せときゃいいな」
「待て!この二人も強いからな!」
「…任せるってそういう意味じゃなくてな…なんか理由つけて勝たせてもらえよ…お前だったら一緒に出掛けようって言えばどうにでもなるだろ」
「なんで僕が?」
「お前本気で言ってんのか?脳みそどういう作りしてんだよ」
「…バカを通り越してもはや朴念仁」
「酷いのう」
「…え?」
ダメだ、雄二達の言ってる意味が本気でわからない。取り敢えず会場に向かわないと。
「とにかく!僕らは行ってくるから!」
教室を勢いよく出て会場へと駆け抜ける。観客もかなり増えてきており、召喚獣の戦いが面白いと思い始めているのだろう。僕らからしたら死ぬ気なんだけどね。
「あ、明久君!勝負ですよ!」
「う、うん!そう!真剣勝負!」
「…肩の力抜いて二人共。…僕らが争う理由はないだろう?」
諭してみよう。そのままこちらの勝ちに引き込めるはずだ。
「だ、ダメなんです!私達は如月グランドパークのチケットを手に入れなければ死んでも死にきれません!」
「私も同じ!明久君!お願いだから私達に!」
「…ごめん、それは聞けない…僕もそれが欲しいからだ」
「「えっ!誰と行くんですか!?」」
…えっ?誰って…どうしよう。特定の個人と行くとその子が恨まれるし…あっ、天明が…!これなら…!
「…ごめん、僕…ティアーユ先生と行くって決めてるから!」
「えっ」
「なっ」
「へっ」
『『『『『『えぇぇぇぇぇーっ!?』』』』』』
ごめんなさい、ティアーユ先生…!許して…!
「よ、よし…じゃなかった!如月さん!どういう事ですか!」
「ごめんなさい!僕はもう隠しきれない!先生とグランドパークに行きたいんですッ!」
『いいじゃないティア、貴方も満更でもないんでしょう?』
そこに聞こえてきた御門先生の声。…なんで楽しそうなんだろうか。て、てかティアーユ先生は真面目だから普通に怒って断るはず…
「ふ、不束者ですが…よ、宜しくお願いします…!!」
………………………あ、あれ?なんでOKされてるんだ?
「…お前、またフラグ立てたな」
「ち、違うから!はっ!」
「…もう躊躇う必要がなくなりました…」
「確かに。…明久君…倒させてもらうね?」
「だ、ダメ!あの目はダメ!あれはガチ!僕が死ぬ!雄二助けて!」
「うるせぇ!俺があいつらに点数勝ってるわけないだろ!籾岡のヤローにも勝てなかったんだぞ!?」
「と、とにかくやるしかない!」
『よ、宜しいですか?科目は公民です!』
「「「「サモン!」」」」
公民
Fクラス 如月明奈=320点
Fクラス 立花結姫=294点
VS
Aクラス 姫路瑞希=354点
Aクラス 西連寺春菜=359点
「こちらの方が点数は上!明久君!私達が勝ったら私達と…!」
「させるか!明久!西連寺を頼む!」
「やってみる…!西連寺さん、君までそんなになるなんてらしくないね…!」
本当にらしくない。彼女が焦ってる風に見える。
「仕方ないでしょ!あと少しで優勝だと言うのに…!明久君が敵なんて…!」
「なんで如月グランドパークのチケットを欲しがってるの?」
「そ、それは…」
僕を見て赤くなっている。…なんだ?どう言うんだ?
「いや気付けよ!姫路も西連寺もお前と如月グランドパークに行きたいから狙ってたんだろ!」
「「なっ!?坂本君!?」」
「う、嘘でしょ!?」
「もうこいつの朴念仁もいい加減頭にきやがる!なんでそんなにわかんねぇんだよ!?」
「だ、だって…!そんな素振りなんか…!」
「西連寺に姫路!今負けてくれたら清涼祭後こいつを自由にしていい!だから今は負けてくれ!」
「な、なんてことを!この二人がその条件を呑むわけが…!」
「「降参します!」」
なんで喜色満面の笑みで降参するんだ!コケてしまったじゃないか!
「…はぁ、取り敢えず目の上の瘤はこれで良いとして…お前はフラグを立てたのを忘れるなよ」
「…あっ」
ティアーユ先生だ。彼女の名を出した事を謝り、『僕で良ければ今度買い物とかの荷物持ちになったりと何でも言う事ひとつ聞くんで』という事で手打ちにしてもらった。ティアーユ先生は喜んで走り去って行ったが、問題は消えてなくなってはいない。
「…あなた、ティアのことをそんな目で見てたんですか」
ヤミだ。そりゃ、家族のような人がナンパされている。しかも殺害ターゲットに。顔も酷く怖い。
「…ぐうの音も出ません」
「…あなたは何人の女性を篭絡すれば気が済むのですか」
「マジでそれだけは無い…いずれ僕は君に殺されるんだから」
「…それもそうでしたね」
そう言ったヤミの顔は何故か心苦しそうだった。
「…大丈夫?」
「何がですか」
「…苦しそうな、顔をしてた」
「…あなたには関係の無いことです」
「関係、あるよ…僕は君を放っておけない…お節介をやめろと言われてもやめるつもりはない。…君にどう思われてもいいけど、僕は君の力になりたい…それは僕の本心だ」
「…」
彼女はこちらを見てくれなかった。ただそのままどこかへ行くのを見る事しか出来なかった僕が悔しかった。
…兵器と言われ続けて殺し屋として生きてきた彼女。…僕に、何が出来る?…どうすれば彼女を絶望の淵から救い出せる?彼女が欲してるのはなんだ?
「…僕じゃ、ダメなのかな」
「おう、ここにいたか」
雄二の声がかかってハッとなる。
「ごめん、店空けてて…状況は?」
「今は客足が少なくなって皆休み始めてる。…あと十分で一日目が終わるが…どうした?元気がないな」
「…分かる?」
「まぁな。…話してみろよ」
ヤミの事を正体を隠して話し始めた。…彼女が笑えるようになるのはどうすればいいのか。…彼女自身に出来ることは無いのか?
「…簡単だ。お前がよく知ってるはずだが」
「僕が?」
「だってその子は、お前と似てるんだろ?だったらお前がしてもらったことを、その子にしてやればいい」
「…僕に、できるかな」
「出来る。少なくとも俺はそう思う」
「…ありがとう」
「一日目、俺らは収入が結構あった。…明日もこの調子で頑張ろうぜ」
「…明日は決勝戦…気を引き締めて頑張るよ」
Fクラスに戻ってくると、皆帰る準備をしていた。Aクラスの連中とも合流する。
「お前らもおつかれさん」
「明日で終わるね」
「明日、明久君と坂本君は決勝戦でしょ?頑張れ!」
「また明久の一人勝ちだろ」
「…明久?」
「ん?何?」
「いや、さっきからぼーっとしてるって言うか、何か考え事してるみたいな」
「…疲れただけだよ…今日は早く寝る」
「明日遅れないようにもう帰れ、すぐ近くだろうし」
雄二が気を利かせてくれて僕に帰れと言ってくれた。ありがたい。
「そうさせてもらう。…皆、また明日」
ララを連れて家へ戻って来た。…酷く疲れた。こんなに疲れたのは初めてかもしれない。ヤミから走って逃げた時だってこんなに疲れはしなかった。
「…ごめん、今日はこれで外食行ってきて…僕はもう疲れた」
「…は、はい…」
モモにお金を渡して部屋へ戻ってきた。ベッドにも辿り着けないまま、その場に倒れ込む。
「…明日…頑張れば、終わりなんだ…」
早く寝ることにしよう。お風呂は…起きたらでいいや…
――――――
「…アキ凄い疲れてた」
「ねー、でも一日中休みも無しに走り回ったらそうもなるよ」
「学園祭…凄いんだな」
「…明日もやるんですよね?」
「うん、私も疲れた…お風呂入って寝るね…ご飯はいいや」
ララも酷く疲れており、そのまま部屋に行ってしまった。
「…お姉様まであぁなるなんて」
「確かに…お姉様の開発も時間は食ってたけどあそこまでなることは無かったな」
そこにインターホンが鳴る。
「はーい」
美柑が扉を開けると、そこには雄二達が。
「あれ、どちら様ですか?」
「すまん、明久に話があってな…明久は?」
「その感じ…坂本さんですか?部屋にいると思いますけど」
「悪い、すぐ済むから話させてくれないか?」
「…多分話せないと思います」
「え?」
そう言って美柑は雄二を連れて明久の部屋へと向かう。だが部屋の扉は開かれており、そこには倒れて寝ていた明久が。
「…クソ、いくら疲れたとは言え…いや、こいつは身体能力は持久力以外は高いが持久力があれだからな」
そう言って雄二は明久を抱えてベッドに寝かせる。
「あ、ありがとうございます」
「いや、これくらいしないと満足に疲れ取れないしな。…明日で終わるから、休んでちゃんと復帰してもらわんと困る」
「それで、話って?私で良ければ朝伝えときますけど」
「いや、置き手紙をする」
そう言って雄二は明久のノートの一番後ろに文を書いて明久の隣に置いた。
「さて、じゃあ俺は帰る。邪魔したな」
「いえ、大丈夫です」
雄二が帰って行く。リビングに向かうと、ナナとモモが電話をしていた。
「何処に電話を?」
「ちょっとね…もしもし?」
『…ララの妹か、なんだ?』
「あぁ、ナナだよ。コータは色んな女の子の服を持ってるって明久から聞いた」
『…誤解だ』
「いや、この際誤解でもいいよ。あれば私達にも何か服を貸して欲しいんだ」
『…何故?』
「明久と姉上がご飯も食べずに寝てしまうくらい疲れてるんだ。…私達も何か出来ることはあるはずだって思ったんだ!…私で良ければコータの望みは叶えてやるからさ…頼むよ」
『…写真を撮らせてくれ』
「え?それだけでいいのか?」
『…やるのか?やらないのか?』
「…やるよ。この際モモも一緒に写真を撮らせる」
「ちょっ、何を言って…!」
「黙ってろ!…あたしは本気だぞ!」
『…お前の心意気…届いた。…お前のチャイナ服を用意する』
「…モモのも頼めるか?」
『…俺を誰だと思っている?任せろ』
「…ありがと」
通話が切れる。ナナは顔をキッと上げて呟く。
「…明久に何か恩返しがしたくなっただけだよ。…あたしはアイツの優しさを買ってる。…そんなアイツの為に手伝える事があると思ったんだ」
「アキも喜ぶよ」
「さて、私達はご飯食べて寝ますか」
「だな!」
こうしてナナとモモのドッキリお手伝い作戦が幕を開けた―――