あの事件以来、ヤミとモモ、ナナが学校に行き始めた。
教頭が可愛い子なら誰でもいいという思考のせいで三人は苦労したらしい。…メアは元から生徒だったらしく、ナナから話を聞いて友達になったと聞いた時は内心ほっとした。友達は多く出来たらしく、僕としても喜ばしいこと。
学園祭の興行収入も全学年クラス含めて2位を取り、浮かれていた僕は運悪く掃除当番を押し付けられ、僕は一人で教室を掃除していた。
「…クソッ、皆浮かれすぎだろ…ん?あれは…」
屋上にいる赤毛をなびかせている女の子。それを見た瞬間、僕は掃除をすぐに終え、屋上へ向かう。
屋上に着いて、目的の女の子を探した。その子は目の前で下の景色を眺めている。
「メア、何してるの?そんな格好で…」
「ん?明久先輩かぁ。…大丈夫、これが本来の私だし」
「…トランス…」
「そうだよ。…そして私は兵器だし」
「…君もそれか…」
「もって事はヤミお姉ちゃんからも聞いたんだ」
「…そうだけど…良いかい?君は間違ってる」
「私が?」
「…君は女の子だ。…確かに兵器かもしれない。だから何さ、人を殺したって?…確かに悪い事だ。…でも、今後は変えられる。何にだって出来るんだ」
「…面白いね。…でも私はマスターの命令で動くだけだから…マスターが教えてくれた」
「…間違ってる」
「えっ?」
ハッキリわかる。そんなのは…間違いだ。
「君は、マスターの命令で動くだけなの?そんなの…人である必要が無いよ…マスターの命令で人を殺すの?…マスターが間違ってる…そう思わないの?」
そう言った瞬間、メアからはっきりと殺意が伝わってきた。
「ふぅん、マスターが間違ってる…そんな事言うんだ?お仕置きが必要だね」
身体が金縛りにあったように動かない。な、なんだこれ…!?
「先輩の精神をジャックしたの。…これで先輩は私の意のままに動かせる」
「…くっ…!」
「私達ね、精神感覚を共有してるからね。先輩は私の体の一部になってる」
そうか。ならこの悲しいと思っている感覚は…
「そうだね。…君の感情が流れてくる。不安や孤独、暗闇の中でどっちに進めばいいかわからない一人ぼっちの迷子みたいな感覚…でも君は一人じゃない!友達がいるだろう!」
「違う!私は地球人ごっこをしてただけ!」
「違う!今の君は立派な人間だよ!」
「何が違うの!!私は兵器で先輩は人間!それに変わりはない!!」
「じゃあなんであの時僕を助けたんだ!」
「な、なんでって…」
メアが後ずさる。か、身体が動く…!
「九条先輩が危険な時、君は助けてくれた!それもマスターの命令なの!?ナナと友達になったのもマスターの命令か!?」
「そ、それは…!」
「君は確かに自分の意思で決めて動いた!…誰かが傷つくのは本当は嫌なはずなんだ!一人ぼっちは嫌だって分かってるんだろ!?だから…!」
そうだ。僕ならわかる。だからこれだけは言える…!
「自分で決めろ!今自分が何をしたいかを!マスターの命令なんかじゃない!自分自身がしたいと思った事を!」
「自分の…したい事…」
「探したぜ、赤毛のメア」
メアの動きが止まった瞬間、聞き慣れない声が聞こえてきた。出口の上には3人の男。…体格などを見る限り、地球の人ではない…しかもメアの知り合いだから…
「…誰?」
…あれ?メア自信は知らないの?
「はぁ!?お前俺らをさんざんいたぶっておいてそれか!」
「まぁいいや。…とにかく逃げるよ先輩」
掴まれてジャンプ。後ろから追いかけて来るのを見て尋ねた。
「誰なのさ!」
「さぁ?…私もお姉ちゃんの情報を集める為に賞金稼ぎみたいなことしてたからそんなとこでしょ…でも何故?私の居場所が…」
「ばら蒔かれたんだ!ネメシスと言うやつからな!」
「ネメ…シス…?」
その単語に反応する。…メアの顔色が良くない。そんな時、大男に殴られて落ちる。
「ぐっ!…メア!大丈夫!?なっ!?」
メアが何も言わずムクリと起き上がり、上を向く。目からハイライトが消えていて、髪の毛が不気味に動く。
「ようやく、分かった…アイツらをマスターが呼んだ理由」
「め、メア…?」
「私、兵器だってこと忘れるつもりは無かったんだけどね…」
「ち、違う!目を覚ますんだ!君は…!」
もう遅かった。メアの髪の毛は鋭い刃物に変化し、襲ってきた奴らを切り裂く。
「だ、ダメだ!そんな事をしたら君が君でいられなくなる!」
「先輩はこんな状況なのに私の心配をする…やっぱり変わってる。…他の人間達とは違う。…でもね、兵器に優しくする必要は無いんだよ」
「君はメアだ!それ以上でもそれ以下でもない!」
「メ…ア…?」
屋根の下に、ケーキを持ったナナがいた。…そうだ、彼女は…ナナは知らないんだ…メアがトランスを持つなんて…!
「ナナちゃん…」
「それ…トランス…?」
「ち、違うよナナ…メアは…」
「そうだよ」
ナナがショックを受け、立ち膝になってしまう。
「そうだよ。これが本当の私の姿。私は黒咲メアじゃない。ヤミお姉ちゃん、金色の闇を基に作られた第二世代トランス兵器、メアなの」
「そ、そんな…」
「…ナナちゃん、終わりにしよう?友達ごっこは」
「えっ…」
メアの冷めきった目で言い放つ言葉は純粋なナナに突き刺さる。
「そうでしょ?人間と兵器、分かり合えるわけないもの」
そう言って飛んで行ってしまう。ナナと共に取り敢えずは家に帰ることにした。言葉無く、ただ無言で歩く。
家に着くと、ナナは一目散に部屋に逃げるように入る。…やっぱりそうだ。信じてた友達に友達ごっこなんて…僕も辛い。…そうだ。一度やられたから…
「明久〜あれ?どうしたの?」
「…ララ…実は…」
事の顛末を話す。ララはお姉ちゃんだ。分かってるはず。
「…そう…でも、そう言うのは明久が1番わかってると思うの」
「…僕が?」
「誰かの悲しみも、苦しみも汲み取って行動出来る明久なら、ナナの心だって救えるよ!だって私の旦那様だもん!」
「…ねぇ、ナナの部屋…開けてくれる?」
「明久さん、大丈夫なんですか?ナナは…」
「…こんな時こそ、誰かがそばに居てやらないとずっとあのままだ。…僕は、もう誰かが悲しむのを見たくない」
「…分かった!早くナナを元気にさせてご飯食べよう!皆居ないとつまんないよ!」
「…あぁ!」
ナナの部屋を開けてもらう。ナナの部屋に入るのは初めてだ。女の子らしい。その一言に尽きる。ナナの部屋には大きなゲートが。
「…これに入って行ったのか?」
恐る恐る入っていく。目を開けると、そこには大自然が広がっていた。見たことの無い動物や、見たことない景色。ここは…?
「グルルル」
「ひょ?」
後ろを見ると、ケルベロスが僕の事をよだれを垂らしながら見ていた。…あ、あれ?僕餌だと思われてる?
「ぎゃああああああああッ!!」
な、なんでナナと話に来ただけなのにこんな走ってるんだ!?
「たすけてぇぇぇ!」
「あ、明久!?おーい!そいつ私の知り合いだ!餌じゃないぞ!」
ナナが遠くから声をかけると、ケルベロスは残念そうに離れていく。ぼ、僕を食べても美味しくないんだからね!
「こ、ここは?」
「電脳サファリだよ。私の気に入ったペットはここに置いているサイバースペースだよ」
「そ、そうなのね」
「で?何しに来たんだ?」
「何しにって…ご飯食べよう?引きこもっても何も変わらないよ」
「…私心配してたんだ。メアのやつお姉ちゃんがいるって言いながら一人暮らししてたり、何か人に言えない難しい事情があるんだなって」
「ナナ…」
相当苦しいんだ。僕にもわかる。
「今は話してくれてなくてももっと仲良くなったら相談してくれるかな、とか。その時は何て答えようかな、とか考えてたのに。そのお姉ちゃんがヤミだった。…私、何も知らなかった。バカみたい」
「そんなことない!」
「そんなことない…?私真剣だったのに…友達だって思ってたのに…メアにとってただのお芝居だったんだぞ…!」
「ナナ、もう一度話し合ってみれば…」
「何をだよ!もうはっきり言われたんだぞ!ごっこって!…もう私なんか…!私なんかどうだって…!…っ…!」
そうだ。僕もそう思った。…でも、違う…それは違うんだ…
「僕もね、昔君みたいになったんだ。…友達ごっこはやめようって信じてた友達に言われてさ。…君みたいに自暴自棄になった。…僕は弱かったからそのまま疎遠になったけど…君は?本当にこのまま終わりだと思う?…そんなの…嫌じゃない?もう友達だと思えない?」
「そんなの…!嫌に決まってるだろ…!友達だと思いたいよ…!もっと一緒にいたい…!でも無理なんだよ…!相手がもう…!あんなに…!」
「…メアの気持ちをさ、トランスで垣間見たんだ」
「えっ…」
「彼女さ、ずっと迷子なんだよ。…兵器だけど人として暮らすうちに…ね。きっと分からなくなったんだ。…マスターの命令ばっか従ってるから本当に正しい事が分からなくなってるだけなんだ。…行こう、ナナならきっと…分かり合えるよ。…隠し事がなくなっただけ!二人はもっと仲良くなれるはずだ!」
「明久…うん、お願い、しても良い…?」
「…あぁ。分かった!」
ナナをおぶって電脳サファリから出て、玄関に急ぐ。
「あら?どちらへ…ってナナ!?何してるの?!」
「…友達を辞めたくないんだ。…私は行かなくちゃいけない…行かなかったら、きっとこの先ずっと後悔して…すれ違う事になる…それだけは嫌なんだ」
「ナナ…」
「行こう明久!」
「うん!じゃあごめんララ…ご飯作っててくれる?」
「良いよ、ちゃんと終わらせてくること!そしてメアちゃんも呼ぶこと!」
「うん!」
僕らは家を飛び出し、とある場所へと走り出した。
☆
「…はぁ」
これで…よかったんだよね?マスター。私達とナナちゃんの生きる道は違うんだから…
元々私はヤミお姉ちゃんを連れ戻しに来ただけ…それなのに、どうして…こんなに心が沈むように重いんだろう。
「メア!」
聞き慣れた声が聞こえてきた。そこにいたのはナナちゃんと明久先輩。
「ど、どうしてここが…」
「そんな事はどうでもいいよ。…話を聞いて欲しいんだ」
「やめて!私達はもう友達じゃない!」
「友達ごっこはやめようって言った。確かにその通りだ。…だから、本当の友達になるんだ」
「出来るわけない!私は…!兵器なんだから…」
「兵器だからとか人だからとかそんなの関係ない!!メアはメアだろ!」
「ッ!」
ナナちゃんが近づいて行く。私は髪をトランスさせ、刃物へと変える。
「来ないで!」
「嫌だ!メア…私は!メアと友達でいたい…!いろんなもの食べて…いろんなとこ行って…!メアと笑いたんだよ!それの何がいけないんだ!?」
「そ、それは…」
「メアは兵器だって言うけど!私はそんなの関係ない!!だって…!」
ナナちゃんが私を抱き締めて言った。
「私の能力を笑わなかった…メアだから…!」
「…ずるいよ、そんな言い方」
「…」
「私だって、本当は…」
私はからドス黒いオーラが涙と共に消えていく。オーラが消えた頃には制服に戻っていた。あぁ、私にはこんなに思ってくれる人がいたんだ…
「私、あんな酷いこと言ったんだよ?」
「…友達なら、衝突だってあるだろ?…私達は本当の友達だから」
「…私で、いいの?」
「メアだからいいんだよ!」
「…ごめんね、ナナちゃん」
「…もういいよ、気にしてない」
☆
二人が抱き合ってるのを見て頷く僕。うんうん。仲が良いのは良いことだ。
「こんばんは、吉井明久」
「ん、ヤミか…どうしたの…って!そいつら!」
昼間に追っかけてきたヤツら。ヤミに捕まって伸びている。
「妹の為です。…うろちょろされても困るので」
「…優しいね、ヤミ」
「…そんな事より…妹がお世話になりましたね」
「…僕は何もしてない。…二人が仲良くしたいと思ったからこうなっただけだ」
「…ありがとうございます」
「そうだ、メアにヤミ。ご飯食べよう?…家に来なよ」
「…良いの?」
「うん。ほら!行くよ!」
「そうだよ!ヤミもメアも来たら楽しいぞ!」
「…行こっか、お姉ちゃん」
「…仕方ないですね」
そう言ったヤミの顔は笑っていた。…メアも涙を流すのを辞めて笑っている。…取り敢えず目の上のこぶは取れた。これで暫く平和に過ごせる…そう思った時期が僕にもあったんだと、近い日に思い知らされることになる…