褐色の少女は街を眺めて呟く。
「……温い、温過ぎる」
「マスター?」
「この街は危機感が無さ過ぎるな」
「普通はこんなもんなんだよ」
「そういうものか……ん?」
そこに猫が現れた。ネメシスを見ながら鳴き声を上げる。
「ニャー」
「これはなんだ?犬か?」
「違うよ、猫だよ」
「ふむ……」
ネメシスは髪をトランスさせ猫耳にする。猫は驚いて逃げてしまった。
「まぁ、退屈はしなさそうだ」
「よく言うよ、せんぱいをおもちゃにしようとしてる癖に」
「なんだ?妬いてるのか?」
「……バカ」
「ふふ、さて……これからどうやってあの下僕を調教していこうかな」
今日も二人はのんびりとこの街の雰囲気に馴染んでいく────
☆
「吉井君!ちょっといいかしら?」
事の始まりは、ティアーユ先生からの一言だった。
「はい、なんですか?」
「明日予定は空いてる?」
「問題ないです」
「良かった、じゃあ明日付き合ってくれないかしら?」
「おーい、明久が先生からデートのお誘いを受けてるんだが」
雄二の一言でクラスメイトの手に瞬時に釘バットやら木刀やら鞭やらが召喚される。
「な、なんてことを!」
『おい吉井YO、いい度胸してんなぁ?オイ』
『俺らと血反吐吐くまでボクシングやらね?』
『オイオイオイ、アイツ磔火炙りでも生温いな……コロス』
……こいつらは本当に地獄の使者か何か?なんで黒ローブ被ってそんな磔用の十字架持ってるのさ?Bクラス戦後に教えて貰ったは良いがそれだけだったという事で進展がなかったこいつらのモテない強化されていた。
「ち、違うの!これは……そう!観察処分者としての責務を果たしてもらうためなの!」
『それならそうと早く言ってくださいよ!』
『危うく俺ら、大切なクラスメイトを亡き者にしようとしてしまいました!』
『良かったな吉井!もしデートなんて事があれば女の子になってこの一年間俺らに奉仕活動するハメになってただろうよ!』
「えぇい黙れ!鎮まらんか!僕は無実だろ!」
なんて奴らだ。僕は先生に頼られる男だぞ。お前達とは一歩も二歩もさらに上回る男だぞ!控えろ!
「じゃ明久君、明日迎えに行くからね」
そう言って手を振って行ってしまった。ヤミをそのまま大人にしただけではなく、純粋無垢なあの感じ……なんだろう、胸がときめく……!
「で?どういう事だよ」
「わぁぁぁぁぁあっ!?」
「な、なんだよ……」
「いきなり話しかけるなアホ……言った通り観察処分者としての仕事さ」
「だがお前先生と異様に親しいな?やはりあれか?」
「五月蝿いよ、とにかく僕は帰るからね」
「おう、じゃあな」
家に帰ってくると、皆がよそよそしい。なんでだろう。
「ただいま」
「あ、明久!お帰りー!」
良かった、ララは普通に接してくれる。そうだ。雄二から言われていたことをしないと。……家にいる子をじっと観察して見ろ。……ふむ。
「んー?どうしたのー?」
……ララって普通に可愛いな。天真爛漫で懐っこいし。勉強運動料理何をやらしても完璧な彼女。
「そ、そんなに見つめられると恥ずかしいな」
「ごめん……でも、改めてわかったんだ」
「何が?」
「ララって360°どこから見ても完璧な美少女だって」
「急にどうしたの?」
……こんなんじゃ不審すぎる。……だがストレートに行くか……
「いや……たまには二人でご飯とか行かないかって思って」
「それってデートのお誘い!?」
「ま、まぁそうなるかも」
「やったー!おめかししてくるね!ナナ!モモ!ミカン!私達今日ご飯要らないからー!」
「お、お姉様!?明久さん!どういう風の吹き回しですか!?」
ララが階段を駆け上がって行った後、モモが凄い剣幕でこちらに壁ドンしてきた。
「いや……ララにもお世話になってるしたまにはなって」
「ま、まさか……!ホテルに連れ込んでそのまま……!?」
「するか!」
なんて破廉恥な娘なんだ。古手川さんがいたら確実に『破廉恥だわ!』と言われてビンタ数発だろう。
「そっか、明久とお姉様は随分長い間一緒なんだよな」
「うん。……今の僕があるのも、ララのお陰なんだ」
「……どういう事です?」
「……君達のお姉さんは、誰よりも人の気持ちを汲み取って元気づける事が出来るってことさ……来たね……えっ」
ララが上から降りてきた。……化粧をしたのだろうか。かなり綺麗だ。
「ふふ、驚いた?」
「……その服……」
「私がここに来た時、初めて買ってくれた服だよ。……嬉しかったんだ。……大好きな人にプレゼントを貰ったこと」
「……全く、狡い所は何一つ変わってないね」
「行こっ」
「うん。ナナ、モモ。悪いんだけど美柑を手伝ってあげて欲しいんだ」
「分かりました。楽しんできてくださいね」
「そうだぞっ、姉上泣かしたら許さねーからな」
「分かってるさ」
家を出て歩き始める。ララとは腕を組んでいる。こんな風に二人で歩くのは、結構久々だったり。
「二人きりってのは結構久々だね」
「あれから色々あったね」
「うん。……なんにもなかった僕の手に……君は沢山のものをくれた。……ありがとう、ララ」
「……だって、私は明久のお嫁さんだもん。……まだ諦めてないよ。……明久の周りには可愛い子だって、妹だっていっぱい居るけど……私は明久のお嫁さん一号だもん!……モモから聞いたよ、ハーレム計画」
「……賛同する気は無いんだけどね」
「良いと思うよ!皆幸せだし!誰かがとか全員が不幸になるよりかは全然マシだよ!」
「……誰かが……不幸になるよりかは……」
その言葉だけが引っかかったまま、僕らはレストランに着いた。財布の中身はバッチリ。……母さんに『デートに行くからお金下さい』と伝えたら諭吉が束になって銀行に振り込まれていた。
「好きな物食べてね」
「明久は?」
「僕も頼むよ」
お互い注文を終えてから、言葉無く座っていた。……こんな時、どんな言葉をかければいいんだろう。対人経験値が最近少しずつ溜まってきた僕にはこんなシチュエーションは予想していないため、全くわからない。
「明久、はい」
そう言ってララが包みを渡してくれた。
「何これ?」
「プレゼント!」
「……僕に、くれるの?」
初めてだった。プレゼントをくれる人。
「ありがとう、本当に嬉しいよ」
「開けていいよ」
中に入っていたのは……
「……こ、子供……!?」
小さな女の子……赤ちゃんだった。頭に花が咲いている。……比喩じゃなくて、本当に。
「うん、私と明久の」
「……Pardon?」
え?嘘でしょ?いつ?いやいや、そんな様子見せなかったし……!
「嘘だよっ」
「……!ビックリしたぁ……」
心臓止まりかけたんだけど!?
「ごめんごめん、明久にビックリさせようとして育てていたプランタス星だけに自生する超稀少種の宇宙植物なんだ!……でも花のままだと明久の家が隠れちゃうから……小さな女の子にしたんだよ!」
「……とにかく、家に帰って様子を見よう。……とにかく、ありがとう。嬉しい」
「最後に顔寄せて!」
「ん?」
顔を寄せると、ララの顔が近付いてきた。彼女の顔が目と鼻の先まで近づいた時、唇に柔らかい感触が。
……これって、里紗の時と同じ……
「初めてのキスだよっ」
「僕とキスなんて……やっぱおかしいよ」
「おかしくていい!……普通じゃなくていいよ。……明久の傍に居られるなら」
「……君には適わないよ」
「へっへ〜ん!」
ご飯を食べたあとは赤ちゃんを抱き抱えて帰る。
「おかえりなさい……なぁっ!?お姉様と明久さんついに!?お赤飯ですか!?」
「違うッ!ララのプレゼントって言って……なんだっけ……」
「あぁ、その子はプランタス星に生息する希少な花ですね。……どこで見つけたんですかお姉様?」
「取ってきたんだよ!」
「お姉様はやっぱり腕力も高いですしね」
聞けば家の2階に届くくらいの花らしい。……そんなもの持ってくる腕力とかえげつない。
「まう〜」
「「「「ん?」」」」
目が覚めたらしい。どうやら、『まうー』しか喋れないらしい。
「まうー!」
「起きたんだ、おはよう」
「明久さん、名前どうするんですか?」
「とっくに決めてあるんだ」
顔まで持ってきて答えた。
「名前はセリーヌだ」
「セリーヌちゃんですね!」
「良い名前じゃん」
「セリーヌ、今日から宜しくね」
「まうー!」
上機嫌のまま答えてくれた。……ララの胸をタッチしながら。
「……明久に似てヘンタイだな」
「待て!僕は変態じゃない!変態という名の紳士だよ!」
「それ変態だから!」
……何も言い返せません。
「まぁいいよ!悪気はないもの!」
「まうー!」
……ただの気の所為だと良いけど。セリーヌは他にバレたらいけない気がする。
明日はティアーユ先生の呼び出し。早く寝て早く起きなければ。その為に、僕はすぐに風呂へと向かうのであった。
☆
「さて、寝坊かなこれは」
なんという事だ、気が付けば朝の九時半!クソッ!早く着替えて身嗜み整えないと!
不幸にも、そんな時に鳴り響くインターホン。
「来た!えぇい!」
昨日選んでおいた服を着て、歯を磨いて髪を整えてインターホンに応じた。
『明久君いますか?』
やっぱりか!ティアーユ先生だ!
「あと少し待ってください!」
『はーい』
「誰だー?」
「ティアーユ先生!雑用の仕事だよ!」
「学校ないのに頑張ってるなぁ」
「じゃあ行ってくる!鍵閉めよろしく!」
「任せとけ〜おいセリーヌ、パパが出掛けるぞ」
「まうー!」
「パパ言うな!」
勢い良く外へ駆け出す。すると、すぐ前に先生が居た。僕はと言うと靴紐を結ぶのを忘れていて。
「きゃあっ」
「うわぁッ!」
コケてしまった。……あれ?このコケ方……もしや……
「あ、明久君……だ、ダメよ……こんな……恥ずかしい……」
「ご、ごめんなさいッ!」
やっぱり。今日はピンクか……じゃない!
「それで……今日は何を?」
誤魔化す為に話題変換。
「明久君言ってたよね?『如月グランドパークの代わりになんでも一つ言うこと聞く』って。なので今日は私に一日付き合ってもらいます」
「あぁ、そんな事もあったなぁ……」
そう言えば西連寺さんと姫路さんもそんな事言ったっけ……いや!あれは雄二が言ったんだ!
「どこへ行くんです?」
「お買い物と家探し。……私もそろそろミカドの所じゃなくてちゃんとした所探さないとって思って」
「僕で良ければお手伝いします」
「ありがとう。それで、今日家決まったら引越ししたいから……も、物は少ないんだけど……明久君に手伝ってもらいたいなって……お、お願い!」
「まぁ、言うこと聞くって言ったんで……それに女の人じゃ運べないものもあるだろうし」
「ほんと!?ありがとう明久君!」
……教師と生徒で休日に買い物デート……あぁ、見つかったらアウトだな。……てかいつから名前呼びになったんだろう。……胸のドキドキが止まらないのは何故だろう……!
「まずは家から探しましょう」
曰く、マンションに暮らそうと思ってるらしい。不動産屋に来た。
「お、夫婦でご来店ですか?」
「「ふ、ふう!?」」
二人で驚く。そりゃそうだ。歳が10も離れてないとは言え、生徒と教師。夫婦なんて言われたら余計に気にしてしまう。
「あ、あの!彼は付き添いで!」
それ、フォローになってません。
そんなこんなで始まった物件探しは以外にも早く決着が着いた。ここから5分の1階のマンションが空いており、敷金礼金なしで家賃もなかなか安いらしい。水道代もガス代も込でなかなか。
軽い足取りで店を出た僕らはマンションへ。綺麗な所だ。
「さて、家具を買いに行きましょう。何を隠そう、私ミカドの所の居候だったので何も無いのです」
「それは自慢げに言っていい事なんです?」
ホームセンターやらスーパーやら色々行って終わったティアーユ先生の引っ越し。家の中に上がらせて貰ってご飯を作る。
「ごめんなさいね明久君……ちゃんと勉強するから……」
「健康的な食事はしないとダメですよ」
ご飯を作ってからは先生と話していた。
「……イヴ、最近どう?」
「ヤミなら皆と仲良く出来てると思います。そうだ、彼女の好きな物とかなんか分かりますか?……たい焼きくらいしか分からなくて」
「たい焼き?イヴそんなの食べなかったのに?」
「えっ?」
ヤミはたい焼き好きだと思ってたのに。僕は知らなかっただけで……
「先生、一つ聞いていいですか?」
「何?」
「……ヤミは、元からあんな子だったんですか?……僕は信じられなくて」
「……いいえ、元からあんな子ではないわ。……元は皆のように笑ったりする子だったの」
「……それだけ聞ければいいです。彼女が独りぼっちでいるのを見てるのは辛いから」
「……あの子の事、宜しくね」
「……はい」
家に帰る途中で、ヤミと会った。
「……おや、奇遇ですね」
「……どうしたの?こんな遅くに」
「いえ、洋服を買おうと思って」
「そっか」
「……元気が無いですね、どうしましたか?」
「えっ」
顔に出てたか?いや、心配させる訳には……
「なんでもないよ、ただ疲れただけさ」
「……ティアと一緒に居るのを見掛けました。荷物運びをしているのを」
「そう。先生も新しい一歩を踏み始めたいって言ってたから」
「……これから少し、時間はありますか」
「ん?あるけど……」
「……私は、地球の洋服と言うのはよく分かりません。……ですから、あなたの意見を聞きたいのです」
「……僕なんかでいいの?」
「構いません、早く行きますよ」
手を引かれ歩き始める。彼女は、今何を考えてるんだろう。僕なんかを連れて洋服を買いに行こうなんて。そういうのは同性か親しい友達と行くものだ。……暗殺者と目標の関係なのに、どうして……
「着きました、気になっている服があったのでそれを着てきます」
「う、うん」
婦人服のエリアに来てから周りの視線が痛い。……頭の中で、幾つもの考えが頭の中を駆け巡る。……そうだ、思い出した。……僕はどうしてこんなに悩まなきゃいけないんだろうか。……昔の僕に、戻りつつあるのか……皆が優しくすればするほど、僕はどうしたらいいのかわからない。
「出来ましたっ……どうしたんですか?」
「えっ……いや、なんでもない……」
ヤミの方を向くと、ティアーユ先生と似た雰囲気になる。……そうだ、彼女は先生の細胞を使って作られた……いいや!ヤミはヤミだ!何でこんなことを……!
「……お、おかしいですか?」
「……綺麗だよ、似合ってる」
「……良かったです」
彼女が笑うところ、初めて見たかもしれない。ずっと警戒心を剥き出しにされていたから。
「……まだ、見てもらいたいんですけど良いですか?」
「良いよ、気の済むまで付き合うよ」
「……ありがとうございます」
せめて彼女の前では疲労を感じさせてはいけない。……彼女がせっかく僕を選んでくれたんだ。
その後も、ヤミは服を試着してはそれを買ってを繰り返した。
「……荷物、運ぶよ」
「……良いんですか?」
「重たいでしょ?……どこまで運ぶ?」
「ついてきてください」
ついて行くと、飛行船のようなものが。
「ルナティーク号と言います。いつもは上空でステルスを纏って停滞させているのですが、今回は別です。ルナのAIも切ってあるのでどうぞ」
ヤミの住居に入るのは初めてだろう。上がると、ベッドと机、キッチン、ごく一般的な部屋がそこにはあった。
「荷物運び、ありがとうございます」
「良いさ、どうせ暇だし」
「……ずっと聞きたかったことがあるのです」
「……何?」
「……あなたは最近、考え事が多い気がするのです。……今も、何かを考えている。……違いますか?」
「……別に、何も無いよ」
見透かされていた。……でも、隠し通さねばならない。
「……そうですか……ではもう一つ。最近明らかに元気がありませんね」
「……気にしなくていいよ、寝れば治る」
「……それでは根本的な解決にはなりません」
「……どうせならなくても、解決はしないから」
「誰かに相談とかは?」
ヤミにしては結構グイグイ来るな……
「しないよ。解決しないってわかってるから」
「……あなたらしくもない……その内容は?」
「知ってどうするの?君なら解決出来るの?」
「……あなたから学んだ事です。一人でダメなら二人、二人でダメなら三人……って」
「……ごめんね、僕は綺麗事を言えばどうにでもなると思ってた。……でも現実はそう甘くはない。僕はやっぱりバカだったから。……今日は帰るよ。誘ってくれてありがとう」
そう言って足早にヤミの家から出て家へと着く。リビングにも向かわず、すぐに自分の部屋へ。
「明久さん、ご飯は……」
「……要らないや、そんなに空いてないんだ」
「わかり、ました……」
そう。終わりのない問題を抱えて僕だけが悩まないといけない。……この世界はやっぱり理不尽だ……いいや、違う……!こんな風に考えるのはもうやめにしたんだ……!やめろ……!考えたくない……!
「……どうしろって言うんだ……」
課せられた成すべきと思ったこと。それらは全て僕は直接関係のないことばかり。どうして自分から巻き込まれに行ったんだろう。後悔ばかりが押し寄せる。僕の周りにいる女の子だってそうだ。言い方は悪いが、僕が彼女達に関わらなければこんなに複雑にはなっていない。全て僕のせいだと言うのはわかっている。……でも、どうしろって言うんだ。
「……わかんない……わかんないよ……!」
頭を抱えて、ただ呻くことしか出来なかった。