「来ましたよ、学園長」
僕は朝の9時前に学園長室へとやって来ていた。
だが学園に入る前から違和感があった。ずっと召喚フィールドが貼りっぱなしなのである。
「来たかい。…おや?お前さんがたも来たのかね」
「明久一人じゃ絶対危ないのでね」
「何かあった後では遅いです。また暴走しかねませんし」
「それもそうか。では今日行ってもらう仕事についてなのだが…召喚フィールドが閉じないんだ」
「…へ?」
召喚フィールドが閉じない?つまり不具合って事か?
「せんせーい、それは不具合ー?」
ララが聞くと学園長は肩を竦める。
「まぁ簡単に言うとそうなるさね。昨日の19時30分。吉井に電話するちょっと前にこの事態が起きた。なんとか善処してみたがダメみたいでね。…これは身内の問題だ。…外部から直接何らかのウイルスを入れられたか…ともかく。吉井には召喚獣でこのプログラムを最深部のセキュリティルームに向かって読み込ませて欲しい」
「別にいいですけど…」
まぁ、僕がやって終わるならそれでいいかな。
「では早速始めるさね。…お前さん達は暇ならこれを見て吉井をナビゲートしてやりな」
「分かりました!」
「では吉井、案内する。ついてきな。…お前さん達はここで吉井の姿が見えるのを待つんだよ」
「じゃあ皆、行ってきます」
見送られてとある一室まで案内される。
「そう言えば、お前さんは明るくなったねぇ」
いきなり学園長にそんなことを言われる。
「僕が…ですか?」
「あぁ。以前までのお前さんはただわかりましたと言って仕事をするロボットのように見えたんだが…今のお前さんは格段に明るくなってるさね」
「…皆が居てくれたから…僕はきっと、笑いたくなったんです。…そしたら、こういう事も別に悪くないなって思えるようになって…」
「…お前さんは確かに問題児ではある。…だがバカではないさね。…皆がお前さんをバカだと言ってもアタシはお前さんを高く買っている」
「な、なんですか?急に…照れますよ」
「はっ、お前さんの成長っぷりに驚かされてね。それに、お前さんの行動で誰かが笑顔になるのを知っている。…学園長として、その成長は鼻が高い」
「…学園長…」
今の僕なら、あなたのような人が学園長で良かったと思う。やはりババア長とバカにして申し訳なかった。二度とそんな呼び名で呼んだりはしない。
「…この仕事が終わったら、飯に連れて行ってやるさね」
「…妹と姉もいいですか」
「構わないよ」
「では、行きます」
「待ちな、これを」
渡されたのはインカムとバイザー。
「これで指示を聴きながら進みな。バイザーは召喚獣の視点で見えるさね。…説明した通りにやるんだよ」
「はい!」
学園長と別れ、言われた通りの部屋に入る。通気口が高い位置にあった。
「ここから入るのか…よしっ、サモン」
召喚獣を呼び出し、通気口の中へと入れる。それと同時にインカムから通信が。
『明久!聞こえるー?』
「ララか。聞こえるよ」
『ナビゲートするね!皆も応援してくれてるよ!』
「わかった、終わったら学園長がご飯連れて行ってくれるってさ!」
『ほんとー!?よーし!成功させるよ!』
『明久君、まず初めに突き当たりまで歩いて下さい』
姫路さんの指示。よし!
「わかった」
突き当たりまで歩き始める。とは言っても…
「なんで迷路にしたんです?」
『セキュリティ上の問題さね』
「ふーむ…おっ、突き当たり…」
道が右と左に分かれている。
『明久君聞こえる?』
次は西連寺さんがナビゲートするようだ。
「聞こえるよ」
『えーとね…右に行った後、直ぐに左に避けて』
「右に行って左に避ければいいのね?」
『そう、何かの罠があって、避けなければならないの。…左も行けなくは無いんだけど多分苦しいと思う』
「了解」
右に行ってすぐ左へ…うわっ!?弓矢!?
僕の目と鼻の先の距離を矢が掠めていく。
「…学園長、殺す気ですか」
『侵入者には優しくない設計さね』
「納得ですよ」
少し先を行くと、メアに止められる。
『せんぱいっ!待って!』
「な、何!?」
『前に適性反応3つ!』
「何だって!?」
正面を向く。そこには、雄二、秀吉、康太の召喚獣。
「ど、どういうことですか学園長!」
『不味いさね、観察処分者以外の召喚獣で最も優れた個体が選ばれてお前さんの敵になっている』
「…そうか、皆が敵になるのか」
『だ、大丈夫なの!?』
「…任せなって。…皆の弱点くらい知ってるさ」
『弱点?』
「…1つ、秀吉はなんでも古典は点数は高いがそれ以外は平均より少し劣る。康太は保健体育がずば抜けているがそれ以外はFクラス並み。…雄二はなんでも平均的に取り、数学が得意としているが召喚獣の扱いに慣れていない!」
早口で説明した後、雄二達の召喚獣を一閃して倒す。
「…要約すれば、全員僕の敵じゃないね」
『す、凄い…!』
『…気を抜かないでください。この道を真っ直ぐ進んだ後は右折、その後少ししたら分岐なのでそこを左、左、右…』
「待って!着いたらナビゲートして!」
そのままナビゲート通りに召喚獣を進めて行く。そこには赤く染った部屋が。
「ここが、コントロールルーム…」
(下僕!気を付けろ!敵だ!)
頭の中でネメシスの声がする。
「敵…!何処だ!」
(左に5つ!)
姫路さんの召喚獣、西連寺さんの召喚獣、霧島さんの召喚獣、ララの召喚獣、里紗の召喚獣が5人並んでいた。
「この5人を相手にするのか!」
『吉井!行けるかい!?』
「言われなくても!」
(下僕!焦るな!)
「わかってる!チィッ!」
それぞれ5人の動きが不規則だ。…ララや姫路さん達は練習していたり、里紗に関してはダメージが通る…!
(下僕!後ろから!)
「クソ!間に合わない!」
『明久ッ!』
次の瞬間、左の脇腹に激しい痛みが走る。膝をつき、疼くまってしまう。
「ぐぅ…ッ!」
『明久!大丈夫!?』
「問題…ない……ッ!」
『作戦中止を!このままでは吉井が…!』
「ダメだ…!そうしたらまた誰かが…!そんな事…させない…!無理をしてでも続ける!」
(…下僕、お前の体力は底無しだが、血が流れ続ければお前は終わる。…分かるな?)
「急に…何さ…」
ネメシスがいつもとは違う、真剣に話しかけてくる。
(…下僕に問う。貴様は何故、ここに居る?)
「何故って…僕は…」
(…貴様の青臭い理想論は聞き飽きた。通信は切ってある。…率直な、下僕の腹の内を明かしてみろ。…貴様は今、自分という殻に囚われている)
「僕が…?」
(…聞いたぞ?お前は虐められ、傷ついた。…自殺までも考えたそうだな?)
「…!やめ…ろ…!」
(…吉井明久という人間は居てはならない。…最近までそう考えていたな?)
「…!」
そう。ララと出会うまで…ずっとそう考えていた。ネメシスの言っていることは正しい。
逃げたくても逃げられないこの世界が憎かった。僕を一人にする人達が憎たらしくてたまらなかった。
(…ならば、今ここで消えるといい。…私は貴様のようなのが珍しかったが、こんな事でくたばるようなら最初から要らないしな)
「でも…!」
(…ん、なんだ?)
「一人ぼっちの人生…僕もそうだ…誰かの役に立とうとしてそれを拒まれて、一人ぼっちになる…君とは違うけど同じ一人ぼっちだった…確かに心の弱かった僕はこの世界から消えたいって事も考えた!」
(で?だからなんだという)
「でも…!」
ただ拳を握りしめ叫ぶ。
「僕は1人じゃない…ッ!大切な友達もいる…!仲間もいる…!家族だっている…!だから…!」
ありったけの声を出す。
「だから今はッ!そうじゃない自分がいるッ!!」
意識が遠のいていく。ダメだ、自分の気持ちを出すなんて…久々だ…
(…合格だ)
「…えっ…」
(枷を、外してやろう)
急速に痛みが和らいでいく。傷口は収まり、楽に立ち上がれる。
「…これは…」
(見ろ、お前の目だ)
いつもとは違う。瞳だけが赤くなっている。
「これが…僕?」
(お前の本当の力だ)
「…僕の…」
(…お前が、心の底から望んだからだ。…一人ぼっちではない、新たなお前が)
そう言ってネメシスは笑った。
(行け、お前は私の下僕。…敗北の2文字は辞書には無いぞ)
「あぁ!」
『明久君!無事ですか!?』
姫路さん達との通信が繋がった。
「問題ない。…すぐ終わらせるから…終わらせてご飯行こう?」
『あ?あれ?なんで傷が…無くなってるの?』
里紗には傷が消えたのは見えているのか?それとも止血が終わってるから?いや、ネメシスが治してくれたのか。有難いことで。
「…ネメシスが治してくれた。これで本気でやれる」
『…来る!』
「はは、ヤミが慌てるなんて珍しいね」
『えっ…そんな…!』
『ひ、1人でこんな芸当を…!』
5人の動きが止まる。そう。僕が止めた。
「そうそう、確かに5人の動きは正確だ。…でもね」
そう言ってバスターソードを振り回す。
「…所詮はお人形さんなんだよ」
5人はあっという間にダウンし、僕の仕事も終わった。
「…次は、僕のデータも入れてきな」
『…良くやったさね。…傷は?もう本当にいいのかい?』
「えぇ、でも少し疲れました…学園長。約束、守ってもらいましょうか?」
『あぁ、焼肉に連れて行ってやろう』
『やったー!』
(良かったな?)
「ありがとう、ネメシス…君がいなかったら、僕は…」
(ふふ、問題ない。私はお前のような下僕を成長させて調教するのが楽しみだからな)
「…ありがとう、本当に」
(…照れるからやめろ)
照れている声を聞いて微笑んでいると、そこで皆が入ってきた。
「明久ー!お疲れ様ー!」
「血が!大丈夫!?」
「ほら、傷口無いじゃん」
「ほ、本当だ…」
「…目が、変わってますねせんぱい」
そう言ったメアに続いて皆も僕の目を覗き込む。僕の目が気になるようだ。ネメシスが100%憑依したらこんな目になるのかな?
「さて!焼肉行きましょうか!学園長!私明久の姉と妹呼んできます!」
「うむ。…さて、車に乗っていくさね。用意しな」
皆が行く中、僕はヤミを引き留めた。
「ヤミ、ひとつ謝りたいことがある」
「…?何がですか」
「…あの時、逃げるように帰ったこと。…あの時さ、本当は悩んでた。…君に嘘をついた…ごめん」
「…き、気にしてないですから」
「…あとね、言えてなかった事もあるから言いたい」
「?」
「…僕と買いに行ってくれた時に見せてくれた服…可愛かった。…ちゃんと感想言えなかったのも、心残りだったから」
「…!?あ、あなたって人は!い、今そんな事を言うんですか!?」
「…君が兵器でも、僕を殺す為にここに居るという理由でも構わない。…また、買い物に行ったりしよう。…今度はご飯も食べに行きたいと思うから」
「あ、あの…!」
「…ダメなら強制はしないけどね。…ほら!行くよ!」
誤魔化そうとしてヤミの手を引く。ヤミは手を握り返して…
「…私で良ければ、また行きましょう」
そう言って笑った顔は、本当に綺麗だと思った。
「…やっぱり、笑ってた方がいいよ」
「…そう、ですか?」
「無理に笑わなくてもいいけど…僕は笑った事で色々と楽になったし。…それに、笑ってた方が可愛いよ」
そう言うとヤミはいつもの顔に戻ってしまった…いや、戻ってない。…少しだけ口元を緩めている。…そんな中、僕はヤミと共に学園長や皆の待つ車へと走っていくのだった。