バカとToLOVEる!   作:抹茶スイーツはお好きですか?

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一話分にまとめました。

お静は次回以降から出すので今回は出ません。



apocalypse

 あれから数日が経った。

 

 僕を取り巻く現状は変わった訳では無いが、個々に関してはかなり変化を見せ始めていた。

 

 かく言う僕も、ハーレム計画については頭の中に置いておき、色々と前向きに考えるようになった。

 

「あれ、モモとナナは今日プールなの?」

「そうです、季節外れですけど最近暑いので嬉しいですね」

「おい明久、変な事考えなかったか?」

「そんな暇はないよ……近々テストなのにそんな事考えてたら……はぁ……」

「明久? 妹達の水着をそんな事で済ませるのは良くないなー」

「そうですね、それはちょっと傷つきます」

「君達は僕に見ろと言ってるの? それとも見るなと言ってるの?」

 

 乙女心はわからないままだ。……一生わからない気もするけど。

 

「とにかく! 私達はもう出るからな!」

「お姉様も明久さんも遅刻しないように」

「分かってるよ〜」

「ほら、早く行きなさい」

「まうー!」

 

 2人が学校へ行ったのを見て、僕らも用意をする。

 

「姉さんは? 仕事?」

「えぇ。セリーヌちゃんはどうするんです?」

「アテがある。そこに頼むさ」

 

 着替え終えてから、セリーヌを抱えて家を出る。

 

 学校に着くまでに見られるのを阻止するために鞄にセリーヌを入れてバレないようにする。

 

 そして向かったのは保健室。ノックをしながら部屋に入る。

 

「失礼しまー……す……」

「あっ……」

 

 そこに居たのはミカド先生とティアーユ先生。そのメンツはいい。仲が良くて昔からの友達らしいし。でもそこじゃないんだ。

 

 ……どうして、ティアーユ先生の方は水着なの? 

 

「し、失礼しました!!」

『あー、ごめんね? ティア恥ずかしがりだから……まぁ見たのがあなたでよかった。入っていいわよ』

 

 ララと共に入って改めて確認。夢じゃなかった。幻覚でもない。水着を着たティアーユ先生とそれを見ているミカド先生。

 

「わーお! ティアーユ先生すごーい!」

「確かに……なんで水着を?」

「この前から1年生を担当することになったじゃない? それで今日水泳らしいの」

「ほう、ヤミ達のクラスの担任なんですか」

 

 それは聞いてなかった。……でも、今日水泳という事は多分そうだろう。

 

「うぅ、こんなの着るなんてぇ……」

「じゃあ貴方もスク水着る?」

「ミカド!」

 

 ティアーユ先生のスク水か……いろんな所が大変な事に……

 

「明久君? ティアのスク水を妄想して鼻血を出すのは辞めましょう?」

 

 なんでバレたんだろう? ……僕のポーカーフェイスは完璧なはずだ。

 

「そうだ、明久君。イヴが最近ちゃんと授業を受けるようになったの。……これもきっと、貴方のお陰ね」

「……いいえ、僕は何もしてないです。……ヤミが、そう望んだからだと思います」

「明久君は優しいわ。その優しさは誰にも負けないくらいだから誇っても良いのよ」

「誇るなんてしませんよ。……そうだ、ミカド先生。この子預かってもらえますか?」

 

 そう言ってセリーヌを渡す。

 

「……君達の子供?」

「違います、ララの誕生日プレゼントでプランタス星の花を女の子にしたんですって」

「へぇ、あの希少な花を……なるほど? 確かに花を見ればそうかもしれないわね。……良いわ、預かっておいてあげる」

「助かります、家に置いておくのもあれなので……じゃあ僕は行きますね」

「ありがと先生ー!」

「えぇ、放課後にまたいらっしゃい」

「明久君、ララちゃん、また」

 

 先生と別れて教室へ向かう。待っていたのはいつもの変わらないメンツ。

 

「おっす、おはよう」

「おはよう。今日何かあったっけ?」

「テストあるが……なに、そんなに大したものでもない」

「そっか。じゃあ今日も頑張ろっか」

「だな」

 

 僕はまだこの時知らなかった。最悪な時間が来ようとしている事なんて。

 

 

 

 

 

 ―――

 

 

 1限目から水泳の授業のモモ達は着替えてプールにやってきた。女子だけしかいないが、その理由は男子と女子でプールが分かれているからだとか。

 

「ティアーユ先生大胆!」

 

 一人のクラスメイトが声を上げる。そう。ビキニなのだ。ティアーユ先生は手で胸を抑えながら生徒に聞き返す。

 

「へ、変じゃないかしら」

「大丈夫! 見れない男子は可哀想!」

 

 隣で、ティアーユ先生を見て呆然と立ち尽くしているナナ。

 

「ドンマイ、ナナ」

「うるせぇよ!」

 

 その二人が喧嘩をしている所を見たヤミとメア。

 

「また喧嘩してるねあの二人」

「喧嘩するほど仲が良い……地球の本で読みました」

「流石お姉ちゃん物知り。じゃあ私達は喧嘩しないから仲が悪い?」

「そうでもないでしょう」

「だよね〜」

 

 喧嘩を続ける二人を見ながら呟くメア。

 

「むしろこれからかも。私達は姉妹になったばっかだから」

「近い存在だからこそぶつかり合うこともあるし分かり合えることもある。姉妹とはそういうものだと思います」

「うん。兵器も人と変わらない。……せんぱいが全部教えてくれたよね」

「……彼は私達は兵器など気にするのは馬鹿らしいと言わんばかりに手を伸ばしてくる理由もわかります。……皆優しいから。……兵器でも、それでも構わない……そう思えるから」

「……うん」

「私達は、ここに居てもいいのだと思いました」

「私も、そう思うよ」

 

 そんな会話を空を見ながらしていた。

 

 だが、平穏な時間は唐突に過ぎ去る。

 

 ヤミの身体が一瞬跳ねた。その後、膨大なエネルギーがヤミの身体から放出される。

 

「こ、この現象は……!」

 

 それを見たティアーユも顔を強ばらせる。メアも動揺していた。

 

「発動したか」

 

 そこにネメシスがやってくる。

 

「生体兵器イブの真の姿、ダークネスへのトランスのな。やり方を変えたのは成功だった。これがダークネス発動の条件だったのだ。……ずっと考えていたよ。どうすればいいのか……ようやく分かった」

 

 メアの元に降り立ち告げる。

 

「兵器にあるまじき心の平穏。それを心から受け入れること」

「私の知らないプログラムが植え付けられていたと言うの!?」

「その様子だと、ダークネスの正体に気付いていたな」

「……ッ!」

「そう。ダークネスとはトランスの暴走。いわばリミッター解放状態。無制限のトランス能力は対人の域を超え対惑星兵器となる……かつてその危険性に気づいた貴方は人としての教育を施すことで覚醒リスクを抑え込もうとした。しかし貴方を追放した科学者達はそれをシステムとして幼いヤミの意識にシステムとして刷り込んだのだ。究極のトランス・ダークネスシステムとして……そうだ。平和こそが鍵。ダークネスとは銀河大戦が終結し平和へと向かい始めたこの宇宙に仕掛けられた時限爆弾だったわけだ」

 

 ネメシスが説明を終えると、ティアーユに向き直る。

 

「ティアーユと会うのは初めてか……よろしくねっ」

「ねっじゃないわよ! 何してんの!?」

「なんだ、茶目っ気を出せばこれか……下僕が居ないと貴様は猫をかぶらなくて済むからか?」

「くぅぅぅ……!」

「まぁいい、お前達も見ておけ? ダークネスの顕現を!」

 

 光が強くなる。誰もが目を開けられないほど光が強くなった後、そこには露出の多い服を着たヤミが。だが細部に異なりが見える。爪が長く、角も生えている。

 

「やっと会えたな、どんな気分だ?」

 

 ネメシスが聞くと、ダークネスはネメシスの方を向き、艶やかな笑みで答えた。

 

「すっごく、えっちぃ気分!」

 

 その発言に、誰もが真顔になるしかなかった。

 

「会いたいな、あの人に……私をこんな気持ちにさせたあの人に……」

「ヤミちゅわーん!!」

 

 そこにどこからか現れた校長。ニッコリと笑ってワームホールを出現させ、教頭を呑み込ませる。

 

「お前じゃないっつーの」

「「き、教頭ー!?」」

 

 ナナとモモのツッコミの後、ワームホールを再度作りだし、そこへと手を伸ばす。

 

「本当に欲しいのは……こっちなのっ」

 

 

 ―――

 

「お、おい……光ってたよな? 今」

 

 須川君の一言でプールを見る。今、確か……モモ達が……

 

「お、おい吉井……」

 

 鉄人に呼び掛けられる。

 

「はい? なんですか?」

「なんだ、お前のその上のは……」

「上……? なっ!?」

 

 なんだこれ!? 禍々しい色のなにかが! 僕の上に!? 

 

「明久!? 逃げろ!」

「ぼ、僕の事を狙ってる!? なっ!?」

 

 手が伸びてきた。赤く長い爪が僕の手を掴む。

 

「うわっ! うわぁぁぁッ!」

「明久ッ!? どうしちまったんだよ! おい!」

 

 雄二達の声が遠くなっていく。気が付くと、場所が切り替わっていた。

 

「きたきた!」

「なっ! その声……!? うわぁぁぁっ!?」

 

 プールに落ちる。と、とにかく状況を……! 

 

「ぷはぁっ! や、ヤミなの……!?」

 

 他の生徒が逃げていく中、僕はヤミの姿を見る。……なんだ……? いつもとは違う……! 

 

「明久さん! 気を付けて! 彼女はもういつものヤミさんじゃない!」

 

 それを聞いて僕はとある単語を思い出した。そう。ネメシスが言っていたあの……

 

「ッ! ダークネス……!」

「ふふっ、ようやく会えた……明久」

 

 名前で呼ばれた。いつもはフルネームだったのに……

 

「どうして……! こんな事を……!」

「知りたい? それはね……貴方とひとつになりたいから」

「えっ……」

「私は大好きな貴方をこの手で殺したいの。だって貴方は私のターゲット。貴方を殺せば貴方は私の中で永遠に生き続けるから」

「何を……言って……」

「貴方のことが大好きなの。……だから、貴方と一つになる……それはとてもえっちい事だよね? ……私もえっちぃ事好きだから! ……貴方を殺して、私と一つになるの!」

「ち、違う……! そんなの……!」

「ほう? こんな状況でも諦めないか、下僕」

 

 そこに居たのは白スクを身に纏ったネメシス。

 

「……ネメシス……! 君は……!」

「すまんな、私はこれが目的だったから」

「ダメだよ! やっと……! 私達は……!」

「そうだ! 君達はこんな事をする必要は無いんだ! ヤミ! 元に戻って! そんな格好も……!」

「格好? ……前も覚醒した時はこんな格好じゃなかったっけ」

「やはり! 覚醒したことがあるのだな!?」

 

 前にもダークネスになったことがあるのか……! 

 

「今なら思い出せる。……惑星キルドのこと」

「キルド?」

 

 モモ達も聞く。

 

「姫君達には知る由もあるまい宇宙の掃き溜め。かつてタルハ銀河にあった暗殺組織のアジトの星だ」

「惑星ニュースで見た事あるわ。……数年前突然何かに斬られたように星が真っ二つになった事件……」

「原因は不明だった。しかし私にはすぐピンときたよ。そんなことができるのはダークネスしかいない。斬ったんだろう? その星を」

 

 なんだって……? 星を……斬った……!? 

 

「正解。あの時ティアを失い殺し屋に身を落とし荒んでいた私の心は戦いの中で暴走しダークネスになった。破壊を以て宇宙を混沌へ導くのは擦り込まれた私の本能。そりゃ斬るでしょ。斬らずにはいられないもの」

「……」

 

 知らなかった。殺し屋になった経緯も。何もかも知らないまま……僕は……

 

「でも所詮は不完全な覚醒。数秒で変身が解けちゃって元に戻った私はダークネスのことすら忘れてしまった」

「そうか、その後御門先生の元に……」

「でも今はあの時とは違う! あの時とは違う、この気持ちがある!」

「……え、えっちぃ気持ちってやつですか?」

 

 モモが聞く。僕もプールから出る。……えっ? てかえっちぃ気持ちがあるから……えっ? ヤミにそんなのがあったのか? えっちぃの嫌いなのに? 

 

「そう。……どれだけ見られて……触られたか! おっぱいもお尻ももっと大切な所も!」

「破壊衝動に駆られる筈が……ふむ、下僕……お前のセクハラがダークネスを変えるとはな」

 

 全く嬉しくない! てか僕はわざとじゃないから! ……い、いや……わざと触ってたら流石にアウトだけどさ! 

 

「もうこの人無しじゃ生きていけないの! 私は明久が居なかったらもうダメ! 明久がいない世界なんて全て破壊し尽くす!」

「ほう、そこまで下僕の事が……」

「そう、大好き……だから殺すの」

 

 どうやら本気みたいだ。……なら。

 

「……そう、分かった」

「明久さんッ!」

「明久っ!? 何言ってんだ!」

「せんぱい!」

 

 皆に止められる。だけど……

 

「……でも、それは無理だよ!」

「えっ?」

 

 僕は立ち上がる。そうだ。今なら。説得出来るかもしれない。

 

「……僕を殺しても、君と僕は一つになれない! それに、僕はまだ死にたくないッ! 本当に一つになりたいなら後で教えてあげるから! そ、その……! 本当に君がいいならさ!」

「こんな状況で明久さん大胆過ぎません!?」

「わぁ……せんぱいがお姉ちゃんと……あはっ、素敵っ」

「今だっ!」

 

 そこに現れた大量のにゃんこ。その子たちが僕の足元を駆け巡り……

 

「なぁっ!? なにさこれぇぇぇぇ!」

 

 僕を乗せて走る。こ、こんなのアニメでしか見た事ない……! 

 

「なるべく遠くへ逃げてくれ!」

 

 ナナか! 助かった……取り敢えずは……! 

 

「あ、明久? 何してんの?」

 

 り、里紗!? ダメだ! 今巻き込む訳には……! 

 

「ごめん! 後で!」

 

「ちょっ!? あー、行っちゃったよ」

 

 ダメ元で走る。ヤミの狙いは僕だ。なら……! 

 

 そう言ってやってきたのは学校の裏の山。ここなら……! 

 

「逃がさないんだからっ」

「来たか!」

 

 ここなら誰もいない。……僕一人死ねば……! 

 

「どうして逃げるの? 私の事嫌い?」

「……嫌いなんかじゃないよ。……でも、君がそんな……兵器みたいな事をしてるのが見てるのが辛い」

「やっぱり優しいね。……でも兵器だもん。仕方ないよね」

「ダメだ! 元に戻ってくれ!」

「……何を言っても無駄。私は貴方に散々弄ばれた。……でもそんな事をされても本当は喜んでた。えっちぃの好きだもん。……あの昂っていく感覚……ヤミツキになりそうだった」

「違う! 本当のヤミはそんなことは言わないよ!」

「大丈夫、すぐ分かるよ」

 

 髪が変形する。……僕の事を本気で殺すつもりだ。……さっきは自分が死ねばなんて考えた。……でも、本当は死にたくない。……皆と色んな所に行きたい……! ヤミとだって……! 

 

「……ヤミ、聞いて欲しいんだ」

「なに?」

「僕は、死にたくない」

「うん、知ってるよ」

「……はは、前もこんなやり取りやったよね……じゃ、ダメか」

「前はプリンセス・ララが来たんだっけ? ……でも無駄だよ。……今回は貴方がこんな人気のない所まで来たんだから」

「……それはどうかな」

 

 ヤミの顔を見る。僕はニヤリと笑う。

 

「……女神様の登場だ」

「せんぱいっ!」

 

 そこにやってきたのはメア。

 

「……ごめん、死ぬ程助かった」

「じゃ、後でご褒美ね?」

「うん、良いよ」

 

 そんなやり取りをしてる中、ヤミがオーラを出してこちらへ向かってくる。

 

「……お姉ちゃんに明久を渡してくれないかな? 妹なら出来るよね?」

「嫌だね、お姉ちゃんは間違ってるから。……もうやめよう? こんなこと……」

「明久を殺すのはやめろ……そっか、メアもお邪魔虫ってことか」

「メア! 離れるんだ!」

「せんぱいっ!? 何を!」

 

 メアの前に立つ。そこにララ、ナナ、モモもやって来る。

 

「明久!」

「お邪魔虫がぞろぞろと……どうしてこんなに私の恋路を阻むのが多いの?」

「明久が死んだら皆の恋が叶わなくなるから!」

「ララ……」

「もういい、私と明久になるまで消せばいいや」

 

 僕でもわかるエネルギーの放出量。本気で僕ら皆を消す気だ……! 

 

「……チャンスかも……エネルギーを使い切れば元のヤミちゃんに戻せるかも。明久が一緒なら私きっと100%以上の力を出せるから」

「何を言って……」

「お邪魔虫は……! 消えなさいっ!」

「やめろぉぉぉぉぉぉッ!」

 

 ララの身体を庇い、左手で攻撃を受け止める。

 

「あ、明久っ!?」

「ぐぅぅっ……! ぐぁぁぁぁッ!」

 

 痛みを堪えながらなんとか受け止める。左手が焼け爛れ、感覚が無くなり始めている。

 

「何故庇うの?」

「……皆、僕の大切な人達だから」

「明久……」

「……君も……僕の大切な人の一人なんだ……僕は君が居なかったらここまで来れなかった……だから! 僕は君を絶対に元に戻す! 僕の誇りにかけて!」

「……明久の……誇り? えっちぃ事?」

「違うッ! もう二度と! 大切な人を失いたくないッ! 僕はもうッ! 誰かが傷付いたり悲しくなったりするのが嫌なんだッ!」

「明久殿!」

 

 そこに現れたザスティン。剣を構えて……!? だ、ダメだ! 

 

「明らかに正気じゃないのはわかるがララ様に危害を加えた者を見過ごすわけにはいかん!」

「やめろ……! やめろぉッ!」

「うざい! 消えて!」

 ヤミも刃物に変え、ザスティンに対峙する。

「ダメだぁぁぁぁぁぁッ!」

 

 間に入って。ザスティンは驚いて立ち止まり……ヤミの刃物は……僕の身体を貫いた。

 

「な……!?」

「……ダメだ……ダメ、なんだよ……こんな、事……!」

 

 剣を身体から抜く。刃物は刺された時より抜く方が痛いとテレビで見た事があるが、本当に痛い。正直尋常じゃない。……召喚獣のフィードバックとかそんなの遊び程度と思えるくらいに。

 

 抜いた剣からは血が滴り、蛇口をひねったように血が刺された所から溢れ出る。痛い。死ぬ……のかな。

 

「明久、さん……?」

「……お、おい……何してんだよ……?」

「……せんぱい……?」

「……下僕……何をしている? 何故……分からない。……何故……そんな……」

 

 そこに現れたのはネメシス。体が痛い。でも、なんだか痛みが……

 

「……そりゃ、誰かが傷つくくらいなら……僕が……こうなった方が……ごふっ」

 

 血が吐き出る。段々と痛みが引いていき、それと引き換えに意識が消えていく。

 

「……ヤミ……君は、幸せになるんだ……もう、殺し屋……なんか……終わるね……ターゲッ……ト……ころせ、たも……んね……」

「な、なんで……!?」

 

 ヤミも自分がした事が分かっていないらしい。最後の力を振り絞ってヤミの近くへ行く。

 

「……ヤミ」

「……! ふ、触れないで! やだ! 触らないでよ! 貴方は明久じゃない! 私の知ってる明久は……! こんな……! こんな……ッ!」

「……君も、その重荷を下ろしな……? もう、疲れたろ……?」

「わ、私は……!」

 

 ララやナナ、モモ、ネメシスやメアも寄ってくる。そろそろ……目が……

 

「……ネメシス……もう、これで分かったろ……僕は……一人ぼっちの……少女……の、ため……なら……なんだって……出来るんだ……」

「……」

「メア……ごめんね……僕は……ヤミ、とかの……気持ちも、わからずに……」

「しゃ、喋っちゃダメ! ほ、本当に死んじゃうから!」

「……ナナ……いつも、ごめんね……ごふっ……不快な、思いをさせて……」

「な、何言ってんだよ……! やめろよ……! やめてくれよぉ……!」

 

 涙が落ちてくる。皆が、僕の為に……泣いてくれている……

 

「……モモ……僕の為に、真剣に……考え……てくれ、て……ありがとう……」

「いや……! こんなのって……! ないです……ッ!」

「……ララ……初めて、会った時の事……覚えてる……?」

「……覚えてるよ……明久が……私を助けて……くれたんだ……よね……」

「……君に、好きと言ってくれたこと……本当に……嬉しかっ……た……んだ……」

「だ、ダメ……! 死なないで……!」

「……ヤミ」

 

 ヤミの方を向く。ヤミはただ虚ろな目をこちらに向けている。

 

「……ありがとう……こんな僕、でも……相手をしてくれ、て……ごめんね……ずっと、付き纏って……でも、楽し、かっ……た……」

 

 あぁ、ここで死ぬんだ。僕も……でも、ヤミが僕の命一つで、これから普通の女の子として生きていけるなら。僕の命が無駄にならないのなら。僕はもう休んでいいだろう。静かに目を閉じた。

 

 

 そして、意識を手放していく──────────

 

 

 

 ―――

 

 

「……明久……ッ! 明久ぁ……!」

「イヴ! ……なっ!?」

 

 そこには雄二やティアーユ、御門、里紗達が。刺されて血だらけになった明久を目の当たりにする。

 

「明久……なのか……!?」

「えっ……? 明久……?」

「……明久……君……?」

 

 皆が明久に集中している中、メアは立ち上がってヤミの元へ。

 

「……わかった? ヤミお姉ちゃんがした事……どれだけ多くの人に悲しい気持ちを与えたと思う? ……皆辛いんだよ! 皆せんぱいのこと、好きだったのに! ……お姉ちゃんだって好きじゃないの!? どうして殺しちゃうの!? ……せんぱいが死んで一つになれる訳ないよ!」

「わ、私は……そんな……」

 

 どす黒いオーラが消えていく。消え終わった頃には、ダークネスが収まっていた。

 

「も、戻った……!」

「……イヴの本当に大切な人を自分が殺めた……口ではあぁ言っていても、本当は望んでいなかったから……」

「馬鹿野郎……! 死んでどうすんだよ……! 心を救うんじゃなかったのかよ!」

「……ネメシスも! こんな事をしたかったの!? ……違うよね! 本当はせんぱいを失いたくないはずだよ! ……せんぱいはネメシスに沢山のものをあげたはずだから!」

「……確かに、そうだな」

 

 そう言って明久の元へ立ち寄る。

 

「退け、お前達は離れていろ」

「何をする気なの……? 明久さんから離れなさいよ……!」

 

 モモが立ち上がる。涙を拭きながら、ネメシスへと問い詰める。

 

「……お前達では助ける事は出来ない。……だから私がやる」

「な、何を……」

「こいつに憑依し、私が心臓を修復させ、血を止める。……その後はドクターミカド。下僕の身体を運び、治療を任せていいか」

「……分かった、信じるわ」

「……元は私のせいでこうなったものかもしれない。……私はまだ、下僕を失う訳にはいかんのだ。全く、想像以上に狂った男だよ」

 

 そう言った瞬間、ネメシスの身体から光が零れる。その光は明久の身体へと入っていく。血の流れが止まり、心臓もまだ止まらずにいる。

 

「治療するわ。……さて……!」

 

 明久を運搬する。残ったのはメア、ヤミ、モモにララ。雄二も残っている。ヤミは立ち上がって皆と反対側へ歩き始める。

 

「……何処へ行くの?」

「……私は、ここにいてはいけない。……彼を、殺してしまった。……何故でしょう、殺さなくてはいけない相手だったのに……心が痛いんです……いえ、分かってる……私は……!」

「……だからって、お前が逃げてたら何も変わらない。……明久も……復活したらお前に会いたいはずだ」

「ダメなんですッ! 私は……! もうあの人に合わせる顔がない……!」

「……好きな人を、手に掛けたからですね」

「……せんぱいが好きなら、ちゃんと謝ろう? ……目を覚ましたら、許してくれるよ……きっと」

「……」

 

 ヤミは何も言わずに走って行ってしまった。

 

「……大丈夫、お姉ちゃんはあぁ見えてちゃんと分かってるから」

「……明久は何をしたんだ?」

「……ザスティン……さっきの大男とヤミちゃんの攻撃の間に入ったの」

「……戦いを止めるため……あいつらしいよ」

「帰ろう? こんな所に居ても何も変わらないよ」

「そうだな……明久……帰ってこないと、許さねぇからな」

 

 雄二はただ静かに呟き、四人を連れて下山して行った。

 

 

 ―――

 

 

 ―――ここは、何処だろう? 

 

 

 

 ―――前とは違う、暗くて寒い所。

 

 

 

 ―――僕、死んだのかな? 

 

 

 

 ―――ヤミを泣かせたのはダメだけど。

 

 

 

(まったく、お前は自分が死んでるかもしれないのにお気楽だな)

 

 

 そこに聞こえてきたのは意外な声。その声の主は直ぐにわかったけど。

 

 

 ―――ネメシス!? 

(……お前は本当に不思議な奴だ。……一人ぼっちが嫌だという理由であそこまでするか?)

 ―――……大切な人達が傷付くのは見たくないから

(……狂った奴の考えはわからん……心臓の修復は終わって、傷口も修復した。……まだお前は死なずに済む)

 ―――……君達が兵器じゃない道を進めるようになって……本当によかった

(……お前は、本当におかしな奴だ)

 ―――それが僕のアイデンティティー! 

(誉めてないぞ)

 

 あれ!? そうなの!? 

 

 ―――ネメシス。分かったろ? ……もう、兵器なんて言わなくていいんだよ

(……あぁ、そうだな)

 ―――……もう、起きれるかな? 

(問題ないはずだ。さっさと行け)

 ―――あぁ、行くよ。

 

 意識が急浮上していく。皆、心配しているだろうなぁ。ヤミにも早く安心させてあげないと。

 

 

 ―――

 

 

 目が覚めると、いかにもボロそうな天井。だけどベッドと施設は最新らしい。

 

「起きたのね……良かった」

 

 声が掛かった。その方向を向くと、御門先生が。

 

「覚えてる? 金色の闇に刺されたの」

「……ヤミは刺したくて刺したわけじゃない」

「知ってるわ。……まぁ、ネメシスが心臓修復と止血、血の巡りをコントロールしていたから辛うじて生きていた。……早く起きて欲しかったのよね。……貴方のことが心配で堪らない人達が何人も居るから」

「……えぇ、もう起きます……ん?」

 

 ベッドの中に何かいる……!?布団を捲ってみると、そこには……

 

「……貴方がここで眠っている間、ずっと居たのよ。……罪悪感と、貴方に会えなくなると言う絶望がここまでさせたのね」

「……皆を呼んできてもらっていいですか」

「えぇ」

 

 御門先生が出て行くと、ヤミが目を覚ました。こちらを見るなり顔を暗くする。

 

「……おはよう、ヤミ」

「……おはよう、ございます」

 

 気まずいなぁ……なんて声をかけようかな。そう思っているとヤミから口を開いた。

 

「……ごめんなさい、私は……」

「……もう良いよ。ヤミだって、辛かったんだ。……もう君は殺し屋を名乗る必要は無い。……1回吉井明久という男は死んだからね」

「……私、どうかしてました。……貴方が死んでも、一緒になれるわけないのに」

「……ヤミは何も知らなさ過ぎたんだ。……一緒に勉強していけばいいよ」

「……どうして、私を怒らないんですか?」

 

 涙を流して聞いてくる。そんなの……

 

「……ヤミを怒っても何も解決しないからさ。……はは!でも僕は生き返った! 君はまた僕に付き纏われるよ!」

「……その方がいいです。……私は、貴方が好きだから」

 

 風が吹いた。それは、麻酔で身体の半分が感覚を失っている僕でもしっかりと捉えることの出来る風。

 

「……ヤミ……」

「……ずっと、好きでした。……でも、素直になれない自分が、今回のようなことを招いた……私は愚かです」

「……愚かじゃない。……君は……」

「……良いんです。それに、もうターゲットと暗殺者の関係なんて言う必要がなくなったのは、私はとても嬉しい」

 

 そう言って顔を近づけてくる。ヤミの唇と僕の唇が重なる。

 

「……明久、好きです。愛してます」

 

そこまで言われるのは照れるなぁ……

 

「今の私なら、あの時の明久の言葉の意味……わかる気がします」

「え?僕の言葉?」

「……恋をして、私達は成長するのだと」

「そんなことも……言ったかな」

「これからは恋のターゲットに設定しました。……貴方は逃がしませんよ」

「おぉっ、怖い」

 

 そこにララを初めとした皆が入って来た。

 

「明久ぁっ!」

「良かったぁ! 生きてたぁ!」

 

 女子10人以上、男子、3人。……あれ? 僕男に嫌われてる? 

 

「僕は死なないさ」

「でも良かったよ! 皆これで元通り!」

「いいえ、元通りではありません! ヤミさんがデレた!」

 

 モモが指を指して言う。そのヤミは僕の身体に抱きつきながらずっと頬擦りをしている。

 

「好きな人への気持ちが爆発して抑えられないんだね! じゃあ私もっ」

「あーん狡いー! 私もー!」

「け、ケダモノを教育するのは私だからな!」

「ナナは素直じゃないわね〜明久さーん!」

「あんたのようなバカはもう私が面倒を見るんだからね!」

「そうです! もう二度と心配させないでください!」

「明久君のいない世界はヤミちゃんと同じで考えられないから!」

「明久君! 遊びに行こ!」

「「「明久〜♪」」」

 

 そこにカシャッと言うシャッター音。見ればムッツリーニがカメラのシャッターを切っていた。

 

「……ハーレムの現行犯」

「人を心配させるだけさせておいて自分はハーレムかっての」

「ま、待て! 僕は……! ぎゃああああああッ!」

 

 こうして、ヤミの問題も片付いた。向こうしばらくは平穏な生活ができるだろう。そう思いながら、女子達に囲まれているのだった。

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