自由時間になり、僕は散策をしようと決め、着いてきたヤミと街を歩いていた。
ヤミはと言うとうっとりとした顔で僕の腕に抱きついたまま離れてくれない。思えば、2人きりなんてどれくらいぶりだろうか。
「君と2人きりでお出かけなんて久々だね」
「えぇ、とても楽しいです」
「…良かった」
「何がですか?」
「…君が笑ってるから…僕も楽しいよ」
「そうですね、とても楽しいです。普通の人間の女の子として、貴方と接することが出来るのが幸せです」
ヤミの行ってみたいという所も僕が行きたいと思った所を数箇所回る。
「皆さんはいいんですか?」
「うん?皆どうかしちゃってるから頭冷やさせるよ」
今朝からどうも様子がおかしいし、そっとしといた方がいいんじゃないかなと思った。いやはや、皆どうしたんだろうか。…まぁ、僕も少なからず関わってるから無関係とは言えないけど、皆しておかしい。
「…それでは、聞きたい事…聞いていいですか」
「うん?何?」
「いつも、私にするえっちぃ事なんですが…」
あー…ラキスケの事か…
「…ごめんね、あれはもう天性の何かって御門先生に言われた。一応気をつけているんだけど…嫌な思いをさせてごめんね」
「いえ、大丈夫です…でも他の人にしたりは?」
「してません、天に誓って…いや、ヤミだけがあんな辛い目に遭うのもほんとごめんなさい」
「私だけ…ですか」
そう言って手を重ねてくる。ふと顔を見ると、今までとは違う優しい顔で言った。
「大丈夫ですよ。私には、あなたのような、人を信じる強さを持つ心の優しい人がわざとあぁ言う事をするとは思えません」
「…ごめんね、ありがとう」
それから気を取り直して色々と話した。好きなもの、嫌いなもの。趣味とか休日は何をして過ごすかとか。そんな事を話しながらホテルへ戻る。ララに出迎えられ、駄々をこねられた。
「明久、どこ行ってたの!」
「えっ、一回り散策に…」
「教えてよぉ、明久と行きたかったー!」
「後で一緒に行ってあげるから、ね?」
「わーいやったー!」
ララがはしゃぎながら向こうへ行ってしまう。入れ替わりでモモとナナがやって来た。
「悪いな明久、姉上さっきから酷かったんだ」
「明久さんが居なくなってから発明品を使おうとしてまして…」
「…使った?」
「一つだけ…」
oh…何か嫌な予感がするよ…?
「でも明久さんにとってはチャンスですよ!ナナも使えば良かったのに」
「ば、バカ!私は…あんなのに頼らなくても…その…」
そう言ってこちらをチラチラ見てくる。なんだ?挙句の果てにはそっぽ向いてモモを連れてララと同じ方へ行ってしまうし。
「どうしたんだろうね」
「…皆、明久の事が好きなんですね」
「…嬉しい限りだけど…なんて言うかな、実感が無くて。少し前の僕を考えたらこんなの有り得なかったよ。女の子と二人で街を出歩いたりさ」
「…それって…」
「おーっす明久、お帰りー」
ここに来て胃が痛くなる原因の里紗がやって来た。里紗を見た瞬間ヤミが僕の後ろに隠れる。
「おろ、嫌われちゃったかな?」
「自業自得だよ」
車の中であんな事すれば怯えられもするだろう。
「で?ララがまた何かやらかしたって聞いたけど」
「あー、瑞希と春菜がね?素直になりたい、引っ込み思案を治したいという事でララちぃから発明品借りたんだけどね…あんた、顔を見せたらまず間違いなくキスされるよ」
「…へ?なんで?」
事態が読めない。西連寺さんと姫路さんが?
「はぁ、このおたんこナスめ…その耳かっぽじってよく聞きなよ、二人共あんたが好きなんだけど引っ込み思案で素直になれないからララちぃに協力してもらったって事!」
「…え?あの二人が僕を?なんで??」
ダメだ。訳分からん。あの二人がどうして好きなのかもよく分からんし。
「あーもー!あんたの小学生の時の行いがあの二人の心を掴んだって事!バカでもわかる説明したけどわかる!?」
「う、うん。納得した」
…小学生の時の行い…何したっけな…
「はぁ…幼稚園、小学生、中学生、現在…それぞれにおいてフラグを何本も立てた癖に回収しないとか…ほんっとうに鈍いね」
「五月蝿い、はよこの事態の収拾をつけてくるんだ」
「バカ言わないで、私は少なくともあんたに好意を抱いてる以上、春菜達側について応援してるんだからね、何とかしなよハーレム王」
「…」
取り敢えずヤミと別れて部屋に戻る。先生達は出掛けているみたいだ。
「さて、どうしようか」
『おい明久ァ!居るんだろ出て来やがれ!』
そこに何かに怯えるような声を出す雄二が。直ぐに開けると雄二、秀吉、康太の三人が部屋の中に入っては僕を押し退け、閉めてから鍵を閉めた。
「何してんの」
「お前の嫁の発明品のせいで皆おかしくなっちまったんだよ!」
「嫁じゃねーし…おかしくなった…あぁ…」
里紗の言っていたあれだろう。
「心当たりがあるのかの?」
「素直になるとか引っ込み思案を治す発明品らしいよ」
「はぁ…有用的なのかアホなのか…」
「さて、作戦立てないと」
…この状況をなんとか打破しないと。
「あぁ、こうなったらお前もついてきてもらうぞ、初めに嫁二号と三号である姫路と西連寺が使ったんだからな」
「違うって言ってるだろ!…僕は沙姫ちゃんのとこ行くけど」
「あのなぁ、お前が助かっても俺ら死ぬだろ」
「知らないよ!…え?ノック?」
「バカ!開けるな!誰も居ないという意思表示をしろ!」
「鍵をかけてたら誰かいるってわかるだろ!」
「仕方ねぇ!ここは1階!裏から逃げるぞ!」
「…その際鍵を開ける仕掛けを用意した」
「「流石ムッツリーニ」」
もう僕らの有能ムッツリーニは止まる事を知らないのだろう。…いや、待て。
「…雄二達は逃げろ、僕が囮になる」
「…何を言い出すんだ?」
「元はと言えば優柔不断な僕の責任だ。…僕が全ての責任を背負うよ。行け」
「…お前、死ぬなよ」
「…また笑顔で再会出来る日を待つのじゃ」
皆を逃がして僕はトイレに向かい流してから鍵を開ける。入ってきたのは姫路さんと西連寺さん。
「ごめんね、トイレ行ってたんだ」
「単刀直入に言いますね、明久君」
「あなたの事が好きです!」
「…それについて聞きたい事があるから部屋に上がって、落ち着いてお茶でも」
そう言って取り敢えずは二人を座らせてからお茶を出す。
「ごめんね、いきなり好きと言われても僕には君達にそんな惚れられるような事をしたのか覚えてないんだ」
「…そう、ですか」
「じゃあ話すよ。私達は明久君が居なかったら今の私達は居ない」
「そうです。虐められていて助けに来た春菜ちゃんも巻き添えになってしまって虐められていた所を明久君が助けてくれました。よく話すお友達ともまた話せるようになったんですよ」
「…あぁ、別に君達じゃなくても僕はやってたと思うよ」
「でも助けられた事には変わりはないよ。…それに、明久君を見てると眩しかったから」
「えぇ?」
眩しかった…?
「中学ではあぁなってしまってましたけど、小学生の頃はずっと私達のヒーローでしたし」
「私達が人気者の明久君と仲良くできてたのも嬉しかったんだよ?」
…ダメだ、乙女心がわからないから僕には頭にクエスチョンマークを並べるしかない。
「私は何番目でもいい。だからあなたのそばに居たいの」
「私も同じです」
「…君たちの気持ちはよーく分かった」
いや本当はわからないけど。何一つ分かってないけれど。
「でも、僕はララの発明品を使って気持ちを打ち明けられても機械のせいだとしか思えない」
「…それは…」
「例えそれが本心だとしても、機械によってこじ開けられたものにしかならないよ」
二人の手を取って静かに呟く。
「僕は引っ込み思案でも、素直じゃなくても構わない。…なんにも偽りのない、自分で決めた本心を聞きたい。…別に急いで聞きたいわけじゃないから…ゆっくりでいいから。ちゃんと、機械に頼らず自分で決意して話して欲しいな。…二人なら…僕の知ってる初めから諦めなかった二人なら出来るって信じてるから」
「明久君…」
「さて、これは悪い夢だ。…君達は今から寝てしまうけど、今起きた事は忘れてもらうね」
そう言ってララからふんだくっておいた発明品であるばいばいメモリーくんを使う。この数分に起きた事だけ、消してしまう。
「…じゃ、お休み」
ばいばいメモリーくんには改良が施され、記憶が消えてしまう時に少しだけ眠らせる効果が追加された。それが今回良い事になった。
二人を抱えてララ達の元へ。
「あ!春菜に瑞希!」
「何をしたの?」
「…今回の事を無かったことにしたのさ。…引っ込み思案を治した時から記憶を消したのさ」
「ばいばいメモリーくんを使ったの?」
「なんで?二人の事嫌いなの?」
「違うよ。僕は里紗やララのように機械なんかに頼らずに自分で決めた事を口にして欲しいから」
そう言うと里紗は顔を赤くしララは笑顔になった。
「そ、そう言うと照れるね…」
「まぁ、それもそうだよね!」
「そういう点は僕は好きだし、評価してるよ」
「もうさ、本当にそういうとこだよアンタはっ」
なんかド突かれたんだが…
「なにさ、褒めてるのに」
「また惚れ直しちゃうでしょ。襲ってもいいわけ?」
「そういうエロに走る悪い癖が治ったら100点だな」
「五月蝿いなぁ、欲望に走って何が悪い」
「でもアンタ子の人数相手にすることになるって大変そうだよね」
「…五月蝿いよ、今は…僕なりに学生らしい事をしたい」
「ま、私はアンタのそういう所も好きだよ」
「…言ってて恥ずかしくない?」
「…分かるわ」
二人で笑ってからララや沙姫ちゃん、モモやメア達を連れて街へと躍り出る。雄二達はどうなったのか、僕が知る由は無いだろう。
―――
その夜、僕ら男子の中は引き裂かれ、僕はいつもの女子達に囲まれ、秀吉は両手に花、康太は九条先輩と美柑、雄二は霧島さんと夜ご飯を食べていた。セリーヌは自分から秀吉の元へ行って遊んで欲しい意思表示をしたら秀吉がもう離さないという勢いでセリーヌをガッチリと掴んでしまったため秀吉達とご飯を食べている。…まぁミルクだけど。
気付けば僕らの他にお客さんが入っている。貸切状態だったとはいえ、まるっきり客足が絶っている訳では無いのでそりゃ来るだろう。
「はい、あーん」
「ずるいよ!あーん!」
結局数人から食べさせてもらっていて、その中には姫路さんや西連寺さんも混ざっていた。良い事だ。
「お客さんいるね」
「迷惑かけちゃダメだよ」
「分かってるよー」
「明日には帰るけど、何かやり残した事は?」
「既成事実の作成がまだです」
「仕方ないわね、さっさと作ってしまいなさい」
「辞めてください」
いやーそんなコンビニ行く感覚で作られても困りますお客様!
「明久君は何かしたい事ない?」
ルンさんに言われて顎に手を当て考え始める。粗方終わった気がするけど…ん?
「どうしたの?」
「いや、ちょっと…」
席を立って見つけた張り紙。
「これだ」
「おい、どうかしたのか?…ほう、お祭りか」
「行ってみない?ご飯の後で」
「面白そうだ。皆にも話しとけ、秀吉組と康太組は俺から伝えとこう」
「頼む」
席に戻って皆に伝え始めた。
「この近くでお祭りがあるらしいんだけど行かない?」
「お祭りかぁ…」
「そう言えば下僕と初めて出会ったのもお祭りだったな」
「あの時はよくも美柑に化けてくれたな、訴訟も辞さない」
「もうそれについては美柑からも許しを得ただろう」
「ネメちゃんと呼ばせてくれるなら許す」
「下僕にだけは絶対に言わせんぞ」
何度聞いても理由を教えてくれないし、それについては毎回メアが『ネメちゃんはせんぱいに見透かされるのが嫌だから自分の事を教えたくない』とか言うし。
「せんぱい、浴衣とかレンタルあるんですか?」
「見た所フロントにレンタルあるらしいね」
「…行きたいです」
「アキ君、坂本君達には言ったの?」
「雄二と見てきたんだ、雄二が向こうに伝えてるから大丈夫なはず。じゃあご飯食べたらお祭りに行きますか」
「わーい!焼きそば食べるー!」
「ま、まだ食べると言うのか…」
こうしてお祭りに行く為に僕らはご飯を食べるペースを上げ始めたのだった。