次の日の朝。起きてリビングに行くとデビルーク家御一行が待っていた。
「おう、おはよう」
「おはようございます……どうしたんですか一家揃って」
「あぁ、まずは娘達に謝罪をさせたくてな」
「謝罪?何を?」
「居候させちまってる上に好き勝手やってる事にだ。……人様に迷惑をかけるなと教えて来たのにな」
「別にそれに関しては気にしてないですし……前にも同じ事で謝られてるので良いですよ」
「……次にこれからも世話になる事への謝罪だ」
「明久、私達まだこの家に居たいの。……ダメ?」
「ダメなら帰るよ、私達迷惑かけまくってるからな……主にモモが」
「ちょっ……!」
……まぁ、否定はしないけど……
「別に出て行けなんて言わないよ。……君達の選んだ答えなら僕はそれを尊重したい。……君達が居たいと願うならここに居ても良い。……それに」
「それに?」
「……なんでもない。とにかくここに居ていいから」
「わーい!ありがとう明久ー!」
「さて、ララ達は部屋を出てくれ。コイツと一対一で話したい」
そう言われて女子組はリビングから出ていく。
「僕に話?」
「まぁ、娘をよろしく頼むってくらいだがな」
「……あぁ、そっち系の……」
「聞けばお前女侍らしてる様だしな」
「……気付けば沢山いたんです」
「女を引き寄せる才能でもあるようだな」
その問いに対して僕は俯いて答えた。
「僕は元は女の子はそんな好きじゃないんです」
「あ?お前そっち系なのか?」
「……違います、僕は元々一人が好きなんです。……誰にも気を遣わなくていいし、誰かの気持ちとか考える面倒さもない。……特に女の子とかそうだ。……泣かれるのは嫌だし、振り回されてばっかだし……わがままなのもいれば鬱陶しいのもいる」
「まぁ、否定はしねぇよ」
「……でも、ララに出会ってわかった」
「ララに?」
「……彼女に出会って……僕は自分を変えようって思えたんだ。……彼女が、僕に元気をくれたから……あの時、モモに質問された」
「何を?」
「……誰かを選ぶか、全員に傷を負わせるか」
「……お前は何を選んだ?……何を学び、変わった果てに何を選ぶ?」
……ララのお父さんはただ質問するだけ。……何をとやかく言うつもりもないらしく、僕に問うてくるだけで……
「……初めて会った頃は、僕なんかに居ても皆が不幸になると思い込んで皆を選ばずに皆が平等に傷つけばいいと……そうすれば皆誰も贔屓とかなしに僕も一人でいられる……ずっとそう思ってた」
そうだ。誰か一人を選び、その人以外が傷つくなら全員傷つけばいい。そうすれば皆が平等になると思っていた。
「……だけどそれは違った。……だから今の僕は……全員に傷を負わせないためならなんだってやる。……一人の女の子の心を命を賭けて救えたんだ。……全員の心だって傷を負わせない事だって出来る。その為だったら僕は……なんだってできる……それが僕の答えだ……僕はきっと、その為にここに居るから」
「……そうか。明久、お前の答えはしかと受けとったよ」
そう言って立ち上がるララのお父さん。すると身体が光り出す。光が消えた頃に、デフォルメキャラから大きな男の……元の姿なのだろうか、覇気のある男の姿となった。
「……テメェが決めた事だ。俺は何も言わない。……ただ、娘達の心も救った。……娘達を幸せにすると言うのなら……お前に娘達を託す。……どうか宜しく頼むぜ」
「……ギドさん……」
「だが!セフィを食おうとしたのは許せねぇな?」
「僕は別に何もしてません、あの人が迫ってきたんです」
「嘘つくな、セフィが自ら男に擦り寄る事なんて滅多に無いんだぜ?」
「……本人に聞いてないんですか?」
「……あれから口をきいてくれないんだよ」
なんて壮大な夫婦喧嘩に巻き込まれているんだろうか。もう勘弁してくれ。どんなに心境が変わったとしても根底にある『平穏な暮らしがしたい』と言うのは変わっちゃいないしこれからも変わる事は無い。
「分かりました、僕から話を聞いてみます」
「すまねぇな、助かるよ」
「で?ギドさんはどうするんで?」
「あー、暫く観光したいんだ……誰か遣わせてくれねぇか、金もねぇから盗み食いをしてその店主を消すなんてザラじゃなくなる」
「はぁ、娘と行ってきてください……ララー!」
ララを呼ぶとすぐに来てくれた。どうやら違う部屋にいたらしい。
「なにー?」
「お父さんが観光したいと言うから連れてってあげて。僕まだやる事あるから」
「良いよ!じゃあパパ!早く行くよ!」
「娘に何かを買ってもらう情けない父親ってありなのか?」
「知らないよ!ザスティンとか呼べばいいんじゃないの!?」
「アイツは今おめーの姉貴に執心中だ」
「あんのゴリマッチョ騎士ィィィー!」
まぁ確かに姉さん美人だからさぁ……性格あれだけど……
「父上!私達もついて行くよ!」
「お父様は地球に来られてまだ日も浅いですし、私達がサポートしますね」
「……見ろよ、うちの利口で可愛らしい娘達をさ……」
……あっ、これ親バカってやつだ……ララ達はそんなのもお構い無しにギドさんと行ってしまった。さて。
「なんでお話聞いてあげないんですか」
こっちの問題を解消しなきゃ。セフィさんがやって来る。
「だって……他の若い女の子に浮気して……」
「浮気は悪い事ですけど言葉は伝えないとわからないんですよ。……気持ちを考えて欲しいのもわかりますけど、その口は何の為にあるんですか?自分の想いを伝える為でしょ?」
「……その通りだけど!言ったのよ!辞めてくれって!それでも辞めないんだもの!」
「じゃ、離婚しますか」
「えっ……」
顔が白くなっていく。……嫌なのは明白だ。
「……ほら、嫌なんでしょう?皆も嫌がるしこのままだと良くないのも自分が一番よくわかるはずだ。……擦れ違って終わるのだけは絶対におすすめしませんよ。……僕はそれを痛いほど知ってる」
「……」
「ちゃんと仲直りしてきてください。そしたら本当の居るべき場所に行ってください。……貴方のいる場所はここじゃない。……そうだと自分でわかってるはず……それに、ちゃんと相手の目を見て言えば理解してくれますから。確かに悪いから辞めさせないといけないのは分かっているけど。……誤解かもしれないでしょ?」
「……はぁ、娘と同い年の……娘の旦那様に説教されるなんてね」
話す事を約束した後は適当にご飯を済ませて家の掃除を始めた。昨日ララ達が綺麗にしたのを汚したくないし、姉さんやメア、ネメシスが帰ってくる場所が汚かったら嫌だし。
「おはようございます……ふぁぁ……」
「おはよう沙姫ちゃん。顔洗ってきてね」
「ふぁい……」
「あきひさ〜……おなかすいた……」
「顔洗ったらご飯にするから洗ってきなさい……ヤミもどうしたのさ、らしくない」
「夜更かしというものをしてました……なんでも体験すべきだと言ったのは明久ですよ」
「確かに言ったけどお肌に良くないからね。ちゃんと寝ないとめっだよ」
「はぁい……」
3人も起きた事だし掃除の途中でご飯の配膳をして3人分をテーブルに。セフィさん達はもう済ませたらしいし。
「……でも本当に凄いわね、全員を平等に愛せるなんて」
「いつも通りに接しているだけです、さて。今日は何しようかしら」
そこに電話がかかってきた。相手は……あれ?ティアーユ先生?
「はい、もしもし?」
『明久君?おはようございます!今日予定ある?』
「いえ、特に……」
『じゃあ買い物付き合ってくれないかしら?』
「……ティア、それは許しません」
横から物凄い顔のヤミがスマホに向かって喋っている。
『い、イヴ!?い、いいじゃない!』
「ダメです、これから明久とデートなんです」
『な、なんですってぇ!?』
……今僕も初めて聞いたぞ。
『明久君に変わって!』
「はいっ」
……勝ち誇った顔をするんじゃない。そして僕に変わると……
『明久君、予定無いって』
「ヤミに言われて僕も困惑してるんですよ。僕も初耳です」
『ふぅ、じゃあ今から来て貰えるかしら?』
「はぁ、分かりました」
仕方なく着替えて向かう事にしたのだが、ヤミも着いてくる。聞けば『ティアと何してるか気になる』との事。……これは修羅場か……?
そして着いたマンション。案の定と言えば案の定だった。
「イヴ、今日は帰ってくれるとありがたいのだけど」
「……ダメです、ティアは放っておいたら既成事実を作るつもりです」
「し、しないわよ!」
「いいえ、ティアの部屋のタンスの上から3番目の棚の中の日本史と世界史の間に挟まってる本の事をするんです」
「な、なんで知ってるのよ!?」
この娘恐ろし過ぎるっピ。てか僕帰っていいですか?
「あなたいつも明久君を独占してるんでしょ!?」
「私は明久といつまでも一緒にいると決めたんです、何も持ってなかった私が唯一自分で決めたことなので、邪魔をしないでください」
「ダメよ、これだけはあなたの言い分も聞けないわ」
「喧嘩は良くないですよ」
諭してやってもヒートアップは収まらない。こんなこと言いたくないけど仕方ないな……
「喧嘩する人は嫌いだな」
「け、喧嘩なんてしてないわよ!?ね、イヴ!?」
「そうです、喧嘩なんてしてません」
「じゃあ、仲良く買い物に行こう……で?今日はなんの買い物を?」
「あぁ、それが……きゃぁっ!?」
「へっ!?うぁぁぁ!」
気が付けばティアーユ先生が後ろから倒れ込んできて、そのまま卒倒。気が付けばピンク色の綺麗な布地が目の前に見える。あ、あれ?
「……ティア、あなたまで明久のような器用なコケ方を……」
「ち、ちが……!ひゃうっ!明久君!お、お願いだから動かないで!」
「だって動かないと……ッ!?!?」
「やぁぁ、動かないでぇ……!」
「……!?」
……僕はこの時、驚きながら考えていた。
……どうして、僕はいつもティアーユ先生にコケる時、いつも股間に突っ込むんだろうと。
……何故、僕はこんなに運がないのだろう。
……どうして、いつも僕がこんなラッキースケベを起こす時だけ、知り合いに出会うのだろう。
「……な、何してんだお前……」
聞き慣れたゴリラ声。……雄二か……!?
「……お前、先生の股間に良く頭突っ込んでるが……なるほど、そういうことか」
「ま、待て!誤解だ!」
弁明しようとしたその時、雄二に肩をポンと叩かれた。
「……お前がそういう趣味なのは俺は何も言わない」
「違う!ま、待って!」
「大丈夫だ。お前の事は友達だと思っていてやる」
「くそがぁぁぁぁぁ!」
なんとか脱出して雄二を追いかけて殺そうと思ったが、それも叶わず。
「……ティアが明久に股を開かなければこんな悲しい事件は起きなかった」
「待って!?それ誤解を生むから!」
「……明久、いつも私にしていたのに」
「……いや、わざとでは……」
「……」
なんだその目。怖すぎるっピ。え?なになに?『ティアにするくらいなら私にしろ』?な、何故……!?
わ、わかった……生みの親であるティアーユ先生に恥ずかしい思いをして欲しくないと……あぁ……なんて優しいんだ……
「先生、すみません」
「大丈夫です、ティア喜んでますから」
「イヴ!!」
え?喜んでる?そんな馬鹿な。先生がそんな変態なわけがない。
「ヤミ、そんなの有り得ないよ……仮にもデリケートゾーンに頭を突っ込まれて喜ぶ女の人なんて居ないよ、変態じゃないか」
「ですって、ティア」
「そ、そうよ!変態じゃない!」
「……」
……ヤミの『あなたがそれを言うんですか』という視線がティアーユ先生を襲う。ティアーユ先生はそれを察知して僕の手を引っ張って歩き始める。
「今日は新しい料理に挑戦してみたくて」
「ほう、なんでしょ」
「和食よ、今まで洋食多めだったから」
「なるほど、じゃ僕がいつも行ってる場所行きますか」
「会員制のとこって言ってたかしら」
「年に払うお金が高いですけどそれ以外もう最高ですから」
連れて行った先は前も皆でやってきた倉庫型の店。ここに来るとやはり心が踊る。
「さて、じゃあ今日は何を買おうかなー」
「……大丈夫なの……?こんな大きな所で……」
「大丈夫ですよ、ヤミですらちゃーんと品物見つけてこれるので」
「ふふんっ」
「ほう?イヴがねぇ……」
「……なんですかその顔は、私だって出来るんですよ」
「なら何も言わないわ。……行きましょ、明久君」
「……ティア、狡い」
両手に花状態で買い物を始めて20分程度。
「買った買った……ん?ララから連絡だ」
メールを見たところ、セフィさん達が帰ったらしい。また来ると伝えて欲しいと……全く、結局お互い両思いなんだからさ……
「じゃ、帰りますか」
「明久、今日のご飯は?」
「ティアーユ先生が和食作りたいって言うから和食を教えるために今日は和食です」
「……明久、ティアばっかり贔屓してる」
「そんなバカな」
最近ヤミもワガママになってきている。あれはダメ、これはダメとちゃんと言えば引き下がってはくれるが、最初の頃の謙虚さと言うか『あなたとは一秒でも早く離れたいです』という雰囲気がこれっぽっちも感じられない。君は誰?本当に金色の闇の同一人物??
「えーと、豚汁に鰤と大根の煮物……肉じゃがに……南瓜の煮物で……あとは炊き込みご飯かなぁ」
「明久君、料理を考えてる時の方が凄く楽しそうね」
「そりゃそうですよ。美味しいって言ってくれる人達が居るから」
ヤミの頭を撫でると幸せそうにもっと撫でてと言わんばかりに僕の手を掴んで自分の頭の上で動かし始めた。そんな事をされながら帰って来る。
「おかえりなさーい!」
ララが笑顔で抱きついて迎えてくれた。
「どうしたのさ、お父さんとお母さんはもういいの?」
「うん!また来てくれるって!あ!先生いらっしゃーい!」
「お邪魔します」
「あれ、明久まーた先生連れ込んでるの?」
「アキ君、女の人を連れ込むのはあまり感心しないな」
「……当然のように入り浸る君達も感心しないな」
「いいじゃんいいじゃん!」
なんだかんだ言って許容している。……来る者拒まず去る者追わずの精神で。
「明久さーん、今日の献立はなんですかー」
「和食多めだよ、ティアーユ先生も和食チャレンジするみたいだからさ」
「むぅ、パエリアが良かったぁ」
「明日作ってやるから」
「やたぁー!」
「ったく……ん?電話?」
携帯の着信音で荷物を崩す手を止めた。
「はい、もしもし」
『せーんぱい!』
「おぉ、メアか……どうしたのー」
『明日帰るんでご飯のリクエストー!』
「明日パエリアなんだけど」
『おっ、せんぱい私のリクエストがわかったんですね!これはもう心が通じ合ってるからこそできること……!』
「そりゃ良かった。姉さんに代わって」
『はーい、玲さーん、せんぱいが代わってってー』
あぁ、癒し……とても癒される……
『なんでしょう』
「後々個人的に頼みたいことがあって」
『ふふふ、高くつきますよ』
「帰ってきたら詳細は話すから。気をつけて帰ってきてね」
『わかりましたー』
姉さんとの通話を終えてご飯を作り始める。ティアーユ先生にもわかるようにゆっくりと教えながらだが、流石吸収力が早い。
「あとは煮るだけなのでもういいですよ。さて、風呂掃除してこなきゃ」
「もうやったよー」
「へ?」
里紗が得意げに胸を揺らして言った。信じられないので風呂を見てくるとピカピカだ。
「おぉぉぉぉぉ!良くやったよぉぉぉぉぉ!よしよしよしよしよしよし」
里紗を引き寄せて頭を撫で始めた。顔を赤くしていたがすぐに大人しく撫でられる。いやぁ里紗が可愛いと思える日が来るとはなぁ!
「……里紗、ずるい」
「えへへ、私は出来る子だからねっ」
「さて、気分も良いしご飯の時間までゆっくりするよぉ」
「明久、私も」
「仕方ないなぁ〜〜〜〜」
ご飯が出来るまでハーレムを楽しむ僕なのであった。