「せんぱーい!ただいまー!」
帰ってきたメアが僕に抱きついてくる。そんなメアの頭を撫でるとネコみたいに呻き声を上げて僕に擦寄る。
「楽しかった?」
「うん!」
「ネメシスもご機嫌じゃないか」
「そう見えるか?沢山悪さしたからな」
「……ネメちゃんは男の人に乗り移って悪さを……」
「何してんだか……」
「でもまぁっ」
そう言うとネメシスが僕の体の中へ。
『うむ、こちらの方が落ち着く』
「まぁせんぱいの身体だもんね。あ、ヤミお姉ちゃん!」
「楽しかったですか?」
「もちろん!ヤミお姉ちゃんは楽しかった?」
「……えぇ、とても」
「んじゃせーんぱい!私ともイチャイチャしてくださいっ」
「イチャイチャってそんな……特に何かしてた訳でもないよ、いつも通り」
……いつも通りと言うのが普通の人のいつも通りと言うのと違うというのは内緒。姉さん達も楽しく旅行出来たから良しとしましょう。
「さぁて、ご飯作る為の買い物行くか」
「せんぱいパエリア!約束してたパエリアを!」
「はいはい、材料買いに行こうね」
「わーい!」
「じゃ、行こうか」
珍しく西連寺さんや姫路さんに里紗やララ達と出掛けている。ヤミもこれから出かけるとのこと。メアと二人きりで(中にはネメシスも居るけど)出掛けることになった。
「せんぱいを独り占めぇ〜」
「そんなに嬉しい?」
「うんっ、こんな嬉しいことないよ」
『メアもデレデレだな』
「ネメちゃんなんてせんぱい居なかったらソワソワしてダメじゃない、せんぱいのこと好き過ぎでしょ」
「ネメシスはツンデレだってわかるから。だいたい皆の性格とか把握してるし」
『気に入らんな』
「嫌なら出てっても構わないけど?」
『……』
あぁ、とても気分が……よろしくない。すぐ分かる。ネメシスが不機嫌になるからだ。誰かが気分悪いと気分悪くなるのは当たり前だ。
「冗談だよ。ネメシスが居たいなら居ていいから」
『全く、すぐ冗談を言う』
「ほら、見てわかるくらいデレッデレじゃん。せんぱい居ないと生きてけないくらいなんじゃない?素直になりなよ」
『認めんからな……!』
メアの押しが強過ぎる。SになったりMになったり忙しい子だなぁ。
「でもねぇ、せんぱいってまだ抱えてる問題ありますよね」
「え?何が?」
「思い出して下さい、ヤミお姉ちゃんがダークネスになって……一つになる為に殺されると言うのを嫌がったせんぱいが言った一言」
「………………あっ」
思い出した。本当の意味を教えてあげるから……やばい、汗が止まらない。
「ヤミお姉ちゃんずーっと勉強してますよ」
『遂に下僕も大人の階段を昇ってしまうのか……』
「……そんな馬鹿な、ヤミに限ってそんな……!」
そんな事勉強するはずなんて……!有り得ない……!
「自分で蒔いた種じゃないですか」
「……ばいばいメモリーくんの出番かな」
『クズ過ぎやしないか?』
「黙れ!純情なヤミがそんな事知ったなんてお父さん許さないからな!」
「うわぁ、自分をパパと思い込んでますね」
『……全く、なんて奴だ』
黙れ。元はと言えば君がダークネスになんかならせなければこんな事にはならなかったんだ。
ともかくスーパーにやってきて色々と必要なものを買っていく。パエリアの材料にサラダに……あと何か作ろうかしら……
「ねぇねぇせんぱい!あれ何?」
メアが指さしたのはカニだった。
「カニだよ。食べた事ない?」
「ない」
「じゃあカニ料理作ってみるか。おじさん、これいくら?」
「安くしとくよ、この位でどう?」
「……買った!」
「毎度あり!」
必要な材料を買って元来た道を戻り始める。Fクラスのメンツに絡まれて逃げたり色々大変ではあるものの、結局のところそれを楽しんでいる僕がいた。……前までだったら有り得なかった。そう。全て、ララが来てから……
「せんぱい?どうしたの?」
「なんでもないよ、行こ?」
「いーや、絶対なにか懐かしそうな顔をしてた!」
「……そんな顔してないさ。ほら、行こう」
家へと戻ってくる。さっきまで閑散としていた家は賑やかになっていた。……ララ達が帰ってきたのかな。
「ただいま」
「お帰りなさい!どこ行ってたの?」
「買い物だよ。誰来てるの?」
「明久ハーレムフルメンツだよ!」
「ハーレムゆーな」
「間違ってないでしょ?」
「喧しい」
複数の女の子からお帰りと言われるのも今までじゃ有り得なかったのに。僕からしたら一人でひっそりと生きていこうとか考えていたのになぁ……
「ねーねー、今日のご飯はー?」
「パエリア、それにカニを使った料理をなにか……って、何してんの?」
女子達が何やらゲームをしながら汗をかいていた。……全く、所々捲ったりあんなにもブルンブルンメロンを揺らして……
「フィットネスゲームなんだけどこれ結構辛いらしいの。だからこれで運動してるんだよ」
「運動しないとって思ってねぇ……」
「あぁ、太ったんだ」
僕が呟くとゲームをしていた全員から蹴り飛ばされる。てか何人か脚力強過ぎて痛い。本気で骨が折れるかと思った。
「女の子に太ったとかストレートな言い方はないんじゃないかな!?」
「そうだよ!いくら明久君がぷにぷにしたお腹が好きでも私達は気にするんだよ!」
「明久君はデリカシーというものをですね……!」
説教を何人からも受けている。ヤミだけは優しく頭を撫でてくれるだけで許してくれているが、他は怒らせると怖いなぁ……
「別に僕の知ったことじゃないんだよなぁ、体型なんて気にしないし」
「明久がそれでよくても私達がダメなの!」
「あぁ言えばこう言う、僕はアンタ達をそんな風に育てた覚えはないよ!」
「育ててもらってないわよぉー!」
「大体配慮ができない人間だと前々から知っていただろう」
「開き直るんじゃあないよ!……こうなったら、私達がちょうき……矯正してあげなきゃ」
この娘完全に調教言いそうだったよね?本っ当にそのオヤジみたいな事を言う癖をどうにかしてやりたい。てかさせろ。
「言っておくが僕は人の気持ちを考えるのはめんどくさいからやってないんだ」
「うーんクズいわぁ」
「嘘です!私達の知ってる明久君は優しくてかっこいいんです!」
「明久の偽物め!本物をどこへやった!」
「美化し過ぎだろ!」
「……皆さんの言う通りです、私の知ってる明久はかっこよくて優しくて頼りになってなんだかんだ言って面倒みが良くて……」
「美化し過ぎだから!そんなんじゃないからぁ!」
何故だ。本来の僕はこんなんじゃなかったはずだ。
「でも分かるよ、アキは無意識のうちに女の子に優しくするから」
「美柑まで……!」
「ここに居る人達は皆アキに優しくされて堕ちちゃった人達だから」
「……言い方考えなさいよ……はぁ、全員ちょろ過ぎでしょ、そんなんだったら他の男に寝取られる可能性マジ1000%って感じなんですけど」
「失礼な!私そんな尻の軽い女じゃないよ!」
「明久君に虐められますぅ……!」
「でもアキ君なら良いかも……」
……Mが紛れ込んでますね……てか虐めたつもりはないのだが……
「とにかく!汗かいた床とか掃除しときなさいよ!全く、こちとら健全な男子ですわよ?色々目のやり場に困るっての」
「そこまで言っておきながら押し倒さないとかヘタレかなって」
「お前はもっと慎ましさを持てよ!」
溜息を吐きながら料理を始める事に。向こうではこちらをチラチラと見ながら掃除をしているようだ。やれやれ、気苦労が増えたな……でも悪くない。悪くない気苦労だ。
「何か手伝う?」
「大丈夫、片付け終わった?」
「下着がぐっしょりなのを除けば」
全く。こういうのが無ければ気の遣える良い子なんだがなぁ。なんでこう、卑猥な方に持っていこうとするのだろう?発情期か?
「その報告いる?」
「いるでしょ!私がずっと下着濡れたままで過ごすことになるんだよ?何ふざけた事言ってんの?」
知らねぇよ!だったらなんだって言うんだ!
「だったらさっさと洗えよ、洗濯機貸してやるから」
「え?その間はノーブラノーパンでいろって?あ、明久が言うなら……」
「もう勝手にしろよ……もう君の事ド変態の淫乱にしか思えなくなったよ……」
「酷くない!?」
ほんとこいつは僕をおちょくる事を生きがいにでもしてるのか。まったく、はた迷惑だな……てか酷くないだろ。男にそんな色目使ってる時点でそうなるわ。
む、羨望の眼差し!?
「そこ!仲良さそうで羨ましいって目で見るんじゃあないよ!」
「だってぇ」
「私も里紗ちゃんみたいな事を言えばいいのかな?」
「そうだよ、里紗みたいにアクティブに!」
「量産型里紗とか勘弁してくれよ……一人だけでも精神的疲労やばいのに」
「あのね、本人目の前にいるのにそういうグサッとする事を言うのはやめてくんない?」
「じゃあ言うのやめろ!あぁ、お腹が痛い……」
最近になってこんな事が増えてきた気がする。気苦労が良いと言ったな?あれは嘘だ。
「里紗ちゃんはアキ君の事好きすぎて押し倒して欲しいって願望あるくらいだから許してあげて、ね?」
「ちょっ!言わないでくださいよぉ……!」
「……すぐエッチな事に繋げる人は嫌いなんで……」
「酷いよ!女にも欲はあるんだよ!」
「僕女じゃないですし……」
「女にしてやるー!」
そう言って僕に銃を撃つララ。毎度思うけど避けようとしてそれを読んで逃げる先に撃つのをやめろ。お前はガンマンか?
そして女になってしまう。もうこの身体も慣れてしまった。そうだ。
「君達が女にするのはいいけど尚更不利になるよ?」
「えぇ?なんで?」
「だって僕が女の子になれば女の子の身体には興味なくなるんだよ?自分で完結するから」
そう言うと顔を見合わせた後『あぁー!?』と皆が叫ぶ。やったぜ。
「だ、ダメだよそんなんじゃ!明久が自分の身体で満足するなんて!私達じゃ勝ち目ないじゃない!」
そこなのか?勝ち負け優先する所じゃないぞ?
「でもダメです!明久君は心は男の子ですから!」
「そうだよ!そんな事になっちゃったら明久君にも良くない!」
「ララが初めから女の子にした時からもう遅かったんだ」
「遅くない!私達が矯正すれば!」
……あれ?
「きょ、矯正って何を……」
「それは勿論明久さんが私達の身体に触れるというものですよ」
こっちのルートは考えてすらいなかった。やばい……!
「やめろ!揃いも揃って嫁入り前なのに!男に身体を触らせるほど安っぽいものでもないだろう!」
「全員嫁になるんですよ?」
「喧しい!全く……次ふざけた事言ったらご飯抜き!」
「ずるいよー!私達の主張を全く聞かないなんてー!」
「ふんっ、今ここは僕の城だ。僕は王だぞ?逆らったらそりゃアウトに決まってら」
「……ならば私達は王の独裁政治に対抗します」
姫路さんのそんな一言が聞こえてきた。なんだって?
「そうだよ!代々独裁政治には民衆が不満を持ち、決断してそれに対抗した……」
……何やら嫌な予感が……
「そうだよ!全員明久を捕らえろー!」
「な、なにぃぃぃぃ!?ぎゃぁぁぁぁぁぁッ!」
簀巻きにされてしまう。なんてアクティブなんだ。その後、性転換銃で僕を男に戻した。……てか僕を男に戻してハァハァするのやめて貰えません?まさか姫路さんまでこんな事になるなんて。
「や、やめましょうよ……明久に酷いことしないで……」
「違うよヤミちゃん。これは明久に教育しなきゃいけないの」
「ど、どうしてですか……?」
「だって私達の身体に興味無いって言われてるんだよ?そしたら私達も興味無くなっちゃうって事だよ?明久に見向きもされなくていいの?」
「そ、それは嫌です……!」
「だからね?明久を自分ではない、他の女の子の身体がないとダメな身体にしてやれば解決するんだよ!」
「そ、そうなんですか……明久が……私達無しでは……生きていけないように……」
「や、ヤミ……?どうしちゃったの?」
そうするとヤミの体が光りだす。げ、げぇ!ダークネス!!
「だ、大丈夫です!今回はちゃんと制御出来てますから」
「そ、そうなんだ……それで何する気?」
「……明久にまともになってもらう為です。女の子の身体というものを教えてあげます」
「な、何して……!ち、違う!本当はダークネスになってるんだろ!?おかしいよ!」
「わ、私も女ですから……そう言うのに興味はあります」
「嘘だぁぁぁぁぁ!ヤミの偽物だぁぁぁぁぁ!」
ヤミがそんな事を言うはずがない。何とか隠し持ってたナイフで縄を切って抜け出す。
「今の君達はどうかしてる!そうだよ!皆おかしくなったんだ!」
「何言ってるの?おかしいのは明久でしょ」
「はぁ……?」
「そうよアキ君?アキ君の方こそ私達に何もしてこないなんておかしいわ」
沙姫ちゃんまで……!何か起きてるんだ……!何かが……!ん?
頭の上に……花?まさか!?
「まうー!」
「君の仕業かぁー!?」
全員が治まるまで三十分掛かってしまった。モモ曰く、セリーヌの花粉を吸ってしまった者は僕の事を好きになってしまうとの事。どうしてそうなる!?……疲れた。ご飯作って風呂入って寝るか……