「おやおや、ここまで来ましたか」
「お前はお前で自身の首を絞めた。諦めな。もう終わりだよ」
「どうでしょう?こちらをご覧ください」
スマホを見せてくる。その画面には3年生のAクラスの教室。皆が必死こいて戦ってるけど、ジリ貧で押されている感じか。
「直に貴方のお仲間を倒してクラスの皆がここに来るそしたらいくら貴方でも流石に倒れるでしょう」
「……諦めはしない。僕を信じて送り出してくれた皆の為に……お前との決着をつける。高城先輩」
「……その前に一つ。天条院さんは本当にあなたが?」
「彼女を休むよう唆した」
「なるほど。まぁいいでしょう。一つ賭けをしませんか?」
「賭け?」
賭けとはなんだ?いきなり何を言い出す?もう既に設備を賭けているのに?
「今の貴方は一人ではない。つまり複数の人間が存在していますね」
「……ッ!」
(バレている?せんぱいの中って私達だよね?)
(……気をつけてください明久、あの人も……私達と同じ)
(あぁ。宇宙人が憑依しているのかもな)
なんだって……!?
「マサハル、奴の中に居る奴らは気をつけたほうがいい」
「分かっています。貴方から散々聞かされていますから」
(……!クロ……!)
……知っているの?
(ヤミと並ぶ最強の殺し屋。ヤミを殺し屋に仕立てあげた奴だ。だが何故ここにいる?)
「気になるか、ネメシス」
「……!ネメシスがいる事まで……」
「……依頼されたんだよ」
……まさかのヤミと同じパターンとは。て事なら……
「悪いが誰かに頼まれて殺すなんて……そんな奴の為に命を譲る訳にはいかない。それにヤミを殺し屋に仕立てあげたなんて聞いて黙ってられるか」
「知っているさ。それで金色の闇が手間取っていたと。ダークネスになってようやく任務を果たしたかと思えば……まだ生きているとはね」
「まぁね。主人が気を利かせてくれたのさ」
「なるほどな。だが解せない。何故ネメシスもそいつを生かしている?」
「お前には永遠にわからんさ。……で?下僕を殺すと言うのなら相手になるが?」
「だから賭けだ。マサハルが勝てば吉井明久の命を貰う。吉井明久が勝った時は俺の命を奪うがいい」
……ふざけた賭けだ。
「何故高城先輩じゃないんだ?」
「お前を殺す為に一時的に利用させてもらっているだけだからな。何も知らない奴の為に命を賭けさせるなんて事は……」
「人の命は奪う癖にその言い草か。笑う事を通り越して呆れる。……そいつの命も賭けろ。それで賭けてやる」
「……明久」
「全く……じゃあ緩和しよう。命は賭けない。どうせ後で俺が殺せば済む話だからな」
「ふむ、なら僕を殺す依頼を取り消す。それでどうだい」
「なんだって?」
面白い事を思い付いた。ヤミやネメシスが教えてくれたのもあるけれど。
「僕が負けたら僕を殺していいよ。僕が勝ったら君は依頼を取り消して殺し屋から足を洗う。これでどう?」
「俺が?殺し屋から足を洗えって?」
「ヤミに出来たんだ。君はヤミの師匠みたいなもんだろ?なら出来るんじゃないか?」
「……本当に面白い。出会い方が違ったら俺と君は普通に友達になれていた」
「んじゃーなるか。これが終わったら」
「ははは!本当に面白い!だが勝てるのか?俺の力も貸してるんだぞ?」
「……勝つまで立ち上がり続ける。ずっとそうしてきたからな」
「なるほど。じゃあ見せてくれ。俺はマサハルの中から見ているよ」
そう言ってヤミ達のように戻っていく。ならばこちらも全力だ。
「では始めましょうか。科目は総合でいいですね?」
「あぁ」
「「サモン」」
総合
三年Aクラス 高城雅春=6438点
VS
二年Fクラス 吉井明久=6999点
(明久、最初から全力で行きますよ。あの力を使ってください)
あの力?
(せんぱいの目から赤い光が出て、爪とか長くなって格闘するやつ!)
(とてつもない情報量を私達が受け止め、必要な分だけ送ってやる。だから好きなだけ暴れて来い)
あぁ、わかった。腕輪を地面に踏み付け、それをバラバラにし、いつも使ってきた能力を発動させる。
対する高城先輩の召喚獣は刀に……なんだあの銃?
(ハーディス……!)
黒い装飾銃のハーディス。それで屠ってきた対象は1,000をゆうに超えるらしく、その武器と卓越した射撃がヤミと並ぶ程の殺し屋と言わしめているらしい。
「いきますよ吉井君」
「さぁ……来いよ……ッ!」
刀同士がぶつかり合う。剣戟の境地。鍔迫り合いをしている最中に気付いた。何度も何度も相手に攻撃しては、身を防いで。すると、ハーディスを構えた敵の召喚獣。
(避けて!あれに当たったら危ない!)
メアの一言で身体を仰け反らせながら弾丸を躱す。三人のお陰で弾道も撃ってくるコースも見える。だが、それが不味かった。一気に距離を詰められ、召喚獣の右腕に刀が当たる。
その瞬間。右腕に激痛が走る。それと同時に何かが伝う感触もする。このドロっとした液体。やはり血だ。
「聞きましたよ。貴方のフィードバックは100%。つまり刺さったらそのままダメージが行く。安心して下さい。急所に当たった際はちゃんと血も出ませんしフィードバックは効きません。主に手足……後は急所以外。それらがフィードバックの対象です」
「……それがどうした……ッ!」
「……!この光は!?」
「お前にもフィードバックを付けてやる……これで対等だ……!」
赤い光を放ち、フィードバックを付与。これでお互いフィードバックがある。迂闊に攻撃出来ないが、普通にこのまま戦ったら死んでしまうかもしれない。それに元から命賭けてるんだ。このまま止まる訳にはいかない。
続けて攻撃を行うが、やはりヤミと同じ殺し屋。攻撃が通らない。たまに通るけれど、掠り傷程度でこちらに攻撃が当たる事が多い。
高城雅春=4876点
吉井明久=2341点
遂に右足にダメージを受けて立てなくなる。前も血で霞んで見えなくなってきた。……僕は、死ぬのか?折角ここまで来たのに?皆と力を合わせて、後少しで……後少しで終わるのに?
僕はこの手の中に多くの物を手に入れたんだ。
だから、もう……失いたくない。
死にたく、ないんだ。
あの時の僕はもう居ない。根暗で、内気で……弱くて、不完全な僕はいない。今の僕には……こんなにも多くのもので溢れてる。だから……
「おや?もうダウンかい?」
「……」
刀を投げ捨てた僕の召喚獣を見るなり高城もクロも僕の事を訝しげに見る。
「楽しかったよ、これで君は終わりだ。最後に遺言くらいは聞いてやるよ」
「やめて……!」
「金色の闇……申し訳ないが彼との約束でね。彼も覚悟の上だろう」
「でも……!えっ……?」
ヤミにやめろと手を伸ばして伝える。僕は静かに口を開き始めた。
「……確かに、僕は終わりかもしれない……君の中では……」
「あぁ。もう死に体じゃないか」
「……一つだけ聞かせてくれ」
「なんだい?」
「……どうして、殺そうって時にそんな顔をするの?」
何を言ってるんだコイツはと言う顔をしているのを無視して僕は続ける。
「……悲しそうだ。……分かるんだ。どれだけポーカーフェイスをしても……悲しみがわかる」
「そ、そんなわけないだろ。……俺は仕事を果たすだけだ」
「……仕事、か。ヤミも昔はそうだった」
「昔は?」
「……ずっと、僕を殺そうと追いかけ回してきた。……でも、僕をいざ殺そうとした時……今の君と同じ顔をしたんだ」
「同じ顔、だって?」
「死にたくない、君は間違えてると伝えたら留まってくれた。……それで今、君は銃を向けてヤミと同じ顔をした。……きっとヤミと同じなんだ。殺し屋として育てあげられたんだろう?」
「……」
「クロ……君はただ、ヤミと自分を重ねていたんだと思う。そんな奴に僕は命を差し出すわけにはいかない。……約束を果たす為に……僕は立ち上がらなきゃいけないんだ。……一人じゃない、だから僕は戦える」
静かに立ち上がる。もうそろそろケリをつけなきゃいけない。さっさと勝って、円満に終わろうではないか。
「……まだやるのかい?」
「あぁ。君を倒して、殺し屋から足を洗わせてやる。……ヤミが殺し屋をやめて普通の女の子として暮らせているんだ。君にできないわけがない」
「金色の闇が……?」
ヤミを見るなり驚いた顔をする。僕は白金に輝く腕輪を砕いた。その後、召喚フィールド上に『2:00』と表示され、どんどんと減っていく。
「決着をつけよう」
「負けない!」
「……遅いな」
ダークネスのような爪が高城の召喚獣に突き刺さる。
「ぐぅっ……!?なんだ、動きが……!」
「油断するなマサハル!はっ!?何処だ!?」
「……上!?」
上から相手の左腕を切り裂く。……三人のお陰で、身体がとても軽い。自然と動いてくれる。身体の痛みも、いつもならやってくる頭痛もない……本当に、支えてくれる子がいると言うのは嬉しいものだ。
「こうなったら……ハーディス最大出力!」
「……させない……!」
不規則な動きで近づいていき、銃を弾き飛ばそうとするも、そう簡単にはいってくれず、動いてる間にもチャージが終わったのかこちらに銃口が向けられる。
「超電磁砲!」
あまりにも大きな一撃。だが今の僕なら。そう過信し、全てを賭けてその大き過ぎる一撃の射線上に向かって走る。
「バカな!?超電磁砲を真っ向から受け止めようと言うのか!?」
「でぇぇぇいッ!」
刀を地面に突き刺し、棒高跳びの要領でジャンプ。超電磁砲を通り越して相手との距離を詰める。もう目と鼻の先だ。
「これで……ッ!」
「体勢を……ッ!いや!相手の方が早い……!?」
「くたばれ……ッ!」
相手の腹に左手の爪を深々と突き立てる。もう腕が貫通しているのを確認してから掌撃。握り潰してから無理矢理引きちぎるかのように左へ少しずつ腕を移動させ、一気に引きちぎった。
「ぐぁぁぁぁ……!痛い……!痛い……ッ!」
「覚えとけよクソ野郎……それが痛いって事だ……僕の勝ちだ……ッ!」
『三年生代表が吉井明久によって討ち取られました。よって、二年生VS三年生の勝負は二年生の勝利となります』
下で歓声が聞こえてくる。高城の身体から出てきたクロがこちらに歩み寄ってくる。
「完敗だよ。お前の勝ちだ」
「……クロ……」
「これ飲めよ。一気に身体も元気になるし、傷も今日中に塞がる」
渡された丸薬を飲むと、本当に身体が元気になる。血も出ているのに何だこの元気の量は。全然走れるし全然無茶出来る。今日の朝のコンディションと同等の回復。凄い。
「教えてくれてありがとう。金色の闇……ヤミはもう、一人じゃなかったんだ。これじゃ俺はただの道化だよ」
「……ヤミの為にやってきたんならいいじゃん。間違いなんてないよ」
「……そう言ってくれると助かるよ」
「約束だ。僕とクロは友達ね」
「……なんだ。殺し屋から足を洗って正解そうじゃないか。……ヤミも。お前はもう縛られてないんだな」
「……明久のお陰です」
「そっか。さて。じゃあ最後の仕事を済ませたら殺し屋から足を洗うか。……アキ!」
そう言って肩を組んでくる。渾名か。良いもんだな。
「何かあった時は俺を呼んでくれ。お前の為なら宇宙の果てまでも助けてやる。友達だからな」
「……そっちこそ。何かあった時はいつでもおいでよ。僕の家はいつでも歓迎だから」
「あぁ。じゃ、俺は行く。じゃあな」
そう言って屋上から飛び降りる。飛び降りた先を見てもクロはいなかった。
「おーい明久ー!」
「あぁ!血塗れ!」
「また無茶しやがったのか!?」
皆がやって来る。そんな僕は腕を振り回して見せた。
「まぁ、無茶したけど……ほら、完全に元気だよ」
「ほんとだ……あれ?高城先輩はどうしたの?」
「フィードバックによる痛みで気絶してる。さてと!設備を交換は任せた!帰ろう!今日はパーティーだぞ!」
「やったー!」
後で聞いた事だが、設備の交換をAクラスに任せ、僕らはこれからは三年生のAクラスに行く事に。有難いことで。これであの豚箱とはおさらばだ。沙姫ちゃんも普通の設備のCクラス行きだしまだセーフではあろう。
帰ろうとした時、出口に鉄人が現れる。
「さて、勝利おめでとう諸君。祝杯気分で申し訳ないが……吉井、お前には話がある。来い」
忘れてた。ダメだ。こんな所で捕まってたまるかよ!
「申し訳ないが鉄人!今日は僕は捕まる訳にはいかないんだ!皆、家に集合な!」
「何をしている!?まさか!?」
「そのまさかさ!あばよ鉄人!説教なら連休明けに聞きますよ!もう僕は血塗れで疲れてるんでねぇッ!」
そう言って屋上から飛び降り、予めララからくすねていたぴょんぴょんワープくんを使った。
◆
使った先は家の前。これでようやく終わったんだ。今日を頑張った。だから明日はのんびりとしたい。
「あら?明久君じゃない!どうして血塗れなの!?」
聞こえてきた声に振り返ると、セフィさんが居た。聞けば娘の顔を見てくるという事で……
「色々ありましてね。さて!上がってください!ただいまー!」
「お帰りなさい!キャーッ!?血塗れ!?それにお母様!?」
「傷はもう平気だから大丈夫。沙姫ちゃんは?」
「家に一旦帰ってます。また来ると言ってましたが……お母様はどうして?」
「ギドに仕事を押し付けて今は娘達の顔を見に来たのよ。で?何があったのか聞かせてもらえるかしら?」
「それは後で!取り敢えず今は着替えて買い物に行くんで……モモ、手伝いお願い」
「分かりました!ナナ!お母様来てるからお母様を宜しくねー!」
『わかったー!』
「んじゃ行ってきます。適当に寛いでて下さいね」
「ありがとう」
着替えてモモとお出掛け。ヤミ達は祝杯気分になってた時に置いてきちゃったので今はいない。
「ふふ、明久さんと二人きりは久しぶりです」
「そうだねぇ、少し前まで結構一緒だったのにね」
「えぇ!所でネメシスは?」
「いないけど」
「良かった。色々お話しておきたいですし」
こうして近況報告や色々な話をしつつ、僕はモモと買い物に出かけるのだった。
◆
設備の交換が終わり、雄二達は明久の家へと向かおうとしていた。そこにクロが走ってくる。
「クロ?どうしたんですか?」
「っと、悪い悪い!忘れ物したんだ!あれ?アキの友達か?」
「えぇ。皆明久のお友達です……一部は違いますけど」
「なんだ?知り合いか?」
「昔の殺し屋仲間です。さっき戦って明久と友達になったんです」
「そうなんだよ、アキを殺せって依頼を受けてな……まぁヤミ同様殺せなくて……っと。ヤミ、俺のハーディスどこだ?」
「……やはり忘れてましたね。はい、どうぞ」
ヤミがため息混じりに銃を渡すとニコニコし始めるクロ。
「サンキューな。殺し屋から足を洗うにしてもこれが無いと落ち着かねぇ。んじゃーな」
再度走っていってしまう。雄二達はポカンとしながら明久の家を目指した。
「にしても、アイツも変なのにつきまとわれるよな」
「殺し屋からターゲットになるの本当になんでだろうね?ヤミちぃが狙ってた時はララちぃを取り戻す為……だったっけ?」
「はい、そうです」
「所でネメシス達はどうだったよ、アイツと戦って」
「すっごく楽しかった!それにせんぱいの身体の中居心地良いからまたやるかも」
「うむ。兵器以外でもちゃんと道があるのを教えてくれたからな。私は奴から離れるつもりはない。あんな良い下僕を手放すわけにはいくか」
「……すげぇよな、本当に心を救っちまうんだからな」
「そんな明久だから皆堕ちちゃったんだよ!」
「そうだな……お、ティアーユ先生」
ティアーユと御門がやってくる。なんでも事後処理を鉄人達がやってくれると言うので帰ってきたとの事。
「明久君は?血塗れになったと聞いたけど」
「クロが薬をあげて治ったみたいです」
「クロ?あの子が来てたの?」
「はい。明久と友達になって殺し屋から足を洗って帰りました」
「……凄いわね、宇宙の二大殺し屋の足を洗わせるなんて」
「ミカド先生も明久の家に?」
「えぇ。あの子が心配だもの。傷を見なきゃね。一応あの子のかかりつけ医でもあるし」
「とか言って明久君の家に行きたいだけでしょ、素直じゃないわね」
「貴方には負けるわよ」
そんなこんなで明久の家にやってくる。だが明久はいなかった。
「あ、皆おかえり!」
「ナナ!明久は?モモも居ないけど」
「明久君ならモモを連れて買い物に出かけたわ。あ、先生ですよね、いつも娘達がお世話になっております」
「いえ、こちらこそ」
「にしても男女比率な……セフィさんはどうしてこちらに?」
「娘達の顔を見に来たのよ。坂本君達も元気そうね」
「お陰様で……おい翔子、スタンガン向けるのやめろ。明久の家ではありとあらゆるいざこざは禁止されている」
「……浮気」
「してねぇだろ」
皆がそれぞれくつろぐ中、明久とモモが帰って来る。
「ただいま帰りました」
「……モモ姫、近づき過ぎでは?」
「……ヤミさんいつも近いですよね?たまには私もこうしたいんです」
「……明久、抱っこ」
「ははは……食材沢山買ってきたから今日はパーティーだ。沙姫ちゃんも後で来るって連絡貰ったし」
「にしても今回本当にお前よく頑張ったよ」
「……まぁ、ね……皆頑張ってるし、僕もやらなきゃと思っただけさ……と思ったけど康太とか皆最後しか戦闘してないよね?」
「お前が一人でやっちまったからな。これで俺らもAクラス設備だ」
「沙姫ちゃんも自由登校だしね。にしても本当に疲れた」
「んじゃ、私達が料理するから……あっ」
里紗が立ち上がろうとした所を制止し、明久は立ち上がる。
「僕から楽しみを奪うなよ。それに女子はゆっくりしていてくれ。雄二達と料理するから」
「……雄二が料理できるの?」
「僕が教えたしね。霧島さんも雄二の料理食べたいでしょ?」
「……気になる」
「よぉし、二度とスタンガン向けれなくなるように餌付けしてやる」
「男子メシをご堪能あれ」
沙姫も集まって男子で料理を作り始める。女子達の視線が痛かったが、ザスティンや玲、美柑も帰ってきてお祭り騒ぎを繰り返している。
「アキ君勝ったんですってね、おめでとうございます」
「まぁね。ざっとこんなもんよ」
「……で?制服の血はどうやって説明するのかな?」
「……ごめんなさい」
「アキ!正座しなさい!」
美柑に正座させられながら説教を受ける明久を皆が見て笑う。それからも食った飲んだの騒ぎを続けて夜9時。
「楽しかったよ、また来るわ」
「今日はありがとうなのじゃ」
「……美味かった」
「良かった。優子さんや古手川さん、愛子さん、霧島さんもまた来てね」
「えぇ、ありがとう」
「……九条先輩ももう許してやってください」
「……君がそう言うなら……吉井、お嬢様を泣かせたら承知せんぞ」
「貴方は沙姫ちゃんのお父さんか何かですか」
帰って行く者達の背中を眺め、明久はリビングに戻って来る。
「改めて見ても凄いハーレムよね。残りはルンさん位かしら?」
「ルンって……地球で今有名なRUNさん?」
「そうですよ。明久君とデートしてました」
「明久君もハーレムには賛成なのですよね」
「別に賛成した訳では……」
「アキ君、節度は持ちなさい」
「一番言われたくない人に言われたよ……」
「明久、ミカンに手を出したらダメだよ!」
ララの一言で全員の視線がそっちに向くが、明久はため息を吐くしかなかった。
「……出したらアウトだろ。さて、部屋分けだけど……ザスティンは姉さんと寝てもらおう」
「んなっ!?そんなご無体な!仕えるべき主が居る前でそんな……!」
「では……セフィさん。ザスティンさんをお借りしてもよろしいでしょうか」
「構いませんよ。明久君がいますし」
「……貴方は家族で寝れば良いでしょ……ララにナナにモモ、頼む」
「はーい!」
「沙姫ちゃんに里紗に姫路さんに西連寺さんは……僕の部屋の隣で。僕はリビングで寝る。美柑、ネメシス達をお願い」
「わかった」
「私達は?」
「え?泊まるんですか?」
聞けば明久が心配との事。鉄人の代わりに説教をするという事で泊まるとのこと。
「じゃ、先生達は……うーん……美柑、頼める?」
「良いよ。狭いけど許してください」
「リビングでいいわよ」
「それは戦争になるのでダメです」
「各自好きに行動して良し。何かあれば僕の所に来て。僕はゆっくりとリビングにいるから」
こうして部屋に散開していった女子達の背中を見た後、明久は一人掃除を始めた。その顔はとても穏やかで、悟ったかのような顔であったと言う。
◆
「漸く一人の時間だ……さてと、用意するか」
自分の部屋に入って財布やら読書用の本やらウォークマンやらをボディバッグに入れ、明日の着替えを持ってリビングへ。
明日は一人で喧騒のない静かな場所に行って穏やかに過ごすと決めている。前にやっていた雰囲気の良さそうな海と面した静かな場所を見たのでそこに行こうと思っている。
皆には悪いが、僕は昔の『自分が一人ぼっちだった時の静けさ』を今求めている。何故か?それは今がとても騒々しく楽しい暮らしだからだ。答えになってないと思うかもしれないが、ふと思う事があるだろう。暮らしに変化が訪れ、元の生活が良かったなぁとか。上京してホームシックになるのと同じ感じだ。つまりあの一人の静けさが恋しくなったのだ。だから宛もなく、一人でただ静かにのんびりと過ごしたい。そんな一日があってもいいではないか。そう思ったのだ。
「明久、風呂最後だから一緒に入ろうよ」
ララがやってくる。もう既に際どい部屋着姿だ。
「戯け、女子達で入れ」
「たまにはわがままを聞いてよー」
「たまに無理矢理入れてるだろうに」
「むぅぅぅ〜」
「膨れてもダメ。僕は男だし、不純異性交遊だよ」
「不純?どこが?」
どこがと来ましたか……うーむ……
「私は明久に対する気持ちは不純でもなんでもないよ?これが不純なの?」
「……いつも思うけどどうしてそんな事を臆面もなく言えるんだ?」
僕にはわからぬ。恥ずかしい筈なのに。
「明久に教えてもらったもの。誰かを好きになるのは恥ずかしい事じゃないって」
「……そんな事言った覚えないけど」
「いいの。明久、入ろ?」
結局負けてしまう。誰も居ないのをいい事に僕は無理矢理連れてこられる。
「はい明久!洗ってよ!」
「前は自分でね」
優しく背中を洗い始める。全く、何の因果で……
「……今だけは明久を独占したくてね、ごめんね?」
「他にもやり方はあっただろうに。お茶するとかさ」
「まだお風呂入ってなかったからいいの。……早いねぇ、時間って」
「何さ急に」
「楽しい事をいっぱいしてたらすぐに終わっちゃう。明久と過ごす日々は本当に退屈しないから時間の流れが早く感じるんだ」
「……そうだね……本当に、早い」
ララの背中を流した後、僕も身体をサッと洗って風呂に入る。……お互い背中を向けるように伝えてあるからなんとか理性は……
「ねぇねぇ、明久は今楽しい?」
「楽しいよ。……皆のお陰だし、君が頑張ろうって言ってくれたから。……ありがとう、ララ」
「……そっかぁ……私もなんだかんだ役に立てて良かったぁ」
そんな時だ。
『あれれ〜?抜け駆けした人がいるねぇ〜?ん〜?』
『この下着はララちゃんに……明久君ですか……?』
『ねぇねぇララちゃん……抜け駆けはなしって話したよね……?』
「あ、あはは……」
『……プリンセスララ、お話があります』
『……来てくれますよね?お姉様』
ララは観念して連れて行かれる。……本当に、退屈させてくれないな。そう思いながら僕は風呂を出たのだった。