目が覚めた。現在午前5時前です。
「よし、朝ご飯を人数分作ったら行くか」
着替えて顔を洗い、歯を磨いて人数分の朝ご飯を作る。ここまでで1時間近くかかっているが誰も起きてこない。それをいい事に全員の食事を食卓に並べ、ラップをかけた後に置き手紙をして家を出る。……そういや雄二に貸したものは今日が返却される日だったか?それも書いておくか。
「……行ってきます」
まだ皆が起きていない朝の時間帯はジョギングで行き交うお爺さんや中学生、犬の散歩をするお姉さん達が居たので閑散とはしていなかった。駅までの道を歩いているが、いつも駅まで同じ道を行ってるのに時間帯が違うだけでこうも人の通りが変わるとは。いつもは7時8時になるともう人多いのに。
「さてと。切符を買ってなにか適当に買いましょうね」
長閑で静寂に包まれた道をのんびりと歩いて行くのだった。……この時はまだ気付いてなかった。僕は……
◆
AM 8:00 吉井宅 リビング
「おはようございます……あれ?」
「どうしたのヤミちぃ……」
「……明久が居ません」
「え?」
「明久居ないのー?」
「はい……あ、食事が……」
ヤミが机の上の食事と置き手紙に気付く。その手紙を読むヤミにぞろぞろと後からやってきた里紗達も気付いた。
「明久の置き手紙?」
「はい、明久の字です」
「なんて書いてあるの?」
「読みますね。……『出掛けてきます。夜くらいに帰ります。朝ご飯は用意しておくので食べ終わった後は食器を洗っておいてください。昼ご飯と夜ご飯は各自で摂るようにお願いします。追記。雄二に貸したものが今日返されるはずなので受け取っておいてください』……との事です……明久、私を残してどこへ……」
「明久レーダー……あぁ!壊れてる……!」
「仕方ない……坂本達に聞いてみるよ」
里紗が雄二に電話をかける。
『こんな朝早くからなんだ籾岡……ふぁぁ……』
「明久が消えたの!明久そっち行ってない?」
『明久が消えたぁ?んな事知らねぇよ……あいつも一人で出掛けたい時があるんだろうよ……俺はまだ眠いんだ、切るぞ』
「一人で出掛けたい……ねぇ」
「次は木下君にかけますよ」
瑞希が電話をかける。すると直ぐに秀吉の声が。
『姫路から連絡は珍しいのう?どうしたんじゃ?』
「明久君が失踪しちゃって……木下君のお家に行ってませんか?」
『……大袈裟じゃ姫路よ。明久は来ておらん。明久もたまには一人が恋しくなったんじゃなかろうか?若しくは誰か一緒に行ったのか?』
「いえ、一人です」
『じゃあきっと一人で羽を伸ばしたいと思ったんじゃろ。明久は一番頑張ったからのう』
「……そう、ですか……因みに行きそうな場所とか分かりますか?」
『明久が行きそうな場所か……とことん静寂を求めるからのう……森林浴とか一人で行ってるのではなかろうか?わからん』
「分かりました。朝早くごめんなさい」
『気にするでない。では切るぞ』
秀吉との通話を終えた瑞希は今聞いた事を皆に話す。
「……大丈夫ですよ。明久はちゃんと帰ってきますし」
「……あれ?そう言えばネメシスは?」
その一言で皆が辺りを見回す。だがネメシスの姿はどこにもない。メアやヤミは先に起きて降りていたと思っていた。だが一つの可能性に辿り着いた女性陣はワナワナと震え出した。
「ま……まさかっ……!?」
「ネメちゃん抜け駆けしたの!?自分が明久君の身体の中に入れるという理由で!?」
「狡くない!?あの娘ずる過ぎでしょ!褐色ロリとか言う他の誰にもないアイデンティティあるし!」
「……ネメシス……帰ってきたら許さない……」
「と、とにかくご飯を食べましょう……後で明久さんに連絡すれば……」
大人組はまだ起きてこないのでララ達でご飯を食べ始めたのだった。
◆
……折角の一人旅だと思ったのに。電車に乗るまで気付かなかったなんて。不覚……!この吉井明久にとって一生の不覚……!
そう。ネメシスがついてきているのだ。……身体に憑依して。聞けば寝ている間にこっそり憑依したとの事。全然気付かなかった。一言も発さなかったし……
……何で居るんだよ……
(そう邪険にするな下僕。私はお前と居たいからこうして寝ている間に憑依していたのだ)
……たまには一人にさせてくれるという選択肢はないの?
(女は惚れた男に対して全力でアプローチするものだと聞いたが?)
……それは最早ストーキングの類だ……あれ?今なんて?ネメシスは今なんて言ったんだ?聞き返しても反応無いし……もしかして……
(……それ以上言ったら下僕でも許さん)
まあ許すとか許さないとか決めるのは君じゃないんだが……で?もう一回はっきり言ってくれなきゃ分からないんだけど?
(……惚れたんだ、お前に)
……なんという事か。下僕に惚れる主人。なんだか話が変な方向に……それに、うーん……しかも今日のネメシスはなんだか大人しいし……いつもと違って……うーん……
(まぁお前を独占したいと言う思いがハルナ曰く惚れているという事らしい)
……何を言ってるんだ西連寺さんは……!最近になって姫路さんも西連寺さんも変わり過ぎだ……!あの二人はなんか行動がおかしなベクトルに向かっている気がする……!
(まぁなんだ。お前は一生私の下僕だ。それは覚えておくように)
……やれやれ……で?僕の一人旅を邪魔した理由は?なんで来たの?
(そう言われると私も流石に傷付くのだが?)
……人をドSに仕立てあげておいてよく言う。そう新幹線内でコンビニで買ったおにぎりを頬張りながらネメシスにぼやく。
(だから悪かったと言ってるだろう……と言うか下僕も人が悪い。何故誰にも言わなかった?)
……僕は元々一人だったんだよ。だからぼっちで行動したくなったんだ。たまには一人になりたい時だってある。ララが荒治療で僕を今の僕に変えてくれた。だけど昔の僕はまだ死んだ訳じゃない。過去というものは消せないものだ。だから恋しくもなるし、過去の過ごし方が良かったななんて思う事もある。元々静かなのが好きなんだよ僕は。
(……だから誰にも言わず一人旅か?)
……そこを君に邪魔されたんだよ……帰ってくれる?
(……下僕は私が嫌いか?流石にそんな冷たい反応をされると私も泣きそうになる)
……嫌いとは言ってないだろ。……にしても電車も出たばっかだし……仕方ない。一人旅はまた今度にするか……
(悪かったとは思っている。……だが、その……なんだ)
そう言ってネメシスが出てきた。
「……お前と二人きりで出掛けたいという気持ちが私にはあるのだ。……皆に教えてもらった、気持ちがどれだけ大切か……だから……」
……ネメシスも普通の女の子っぽいところ出てきたじゃないか。それに免じて許してあげようかn……
「だから今日はお前を独占する」
……言い方!言い方をどうにかしろ!
「……仕方ないなぁ……ま、僕は基本的に今日は自己中心的な行動しかしないから頑張って付いてきてね。……元々今日はそういう旅行だし」
「構わん。下僕がどんな事をしているのかが気になるだけだ。たまについて行ったり、たまに身体の中に戻ったりする。……でも、話し相手にはなって欲しい……」
……何今の?可愛過ぎか?てか本当にロリっ子のような声を出すんじゃない。全く……
「いいよ。それくらいなら」
「ありがとう」
……純粋に何も悪いことを考えてない時の笑った顔がこんなんだったなんて。普通に可愛いし……
そんな時、電話が鳴り響く。電話の主はララ……か。
『もしもし明久!?今どこに居るの!?』
「悪い、ちょっと出かけることにしたんだ」
『そっちネメシスいる!?』
「居るけど……やっぱり抜け出してきたのか」
『皆怒ってネメシスをどうしようか今考えてるよ!』
「……だそうですが」
「……やれやれ、私の下僕を独り占めしたらこれか……ちょっと貸せ」
スマホを渡すと、ネメシスは次に大変な事を言い放った。
「悪いが下僕の行動を監視する必要があるのでな。お前達は下僕が書いた置き手紙の通りに過ごしていろ」
『……ネメシス、いくら貴方でも今回の件は少しやり過ぎです』
「……何故貴様のダークネスを呼び出した時より怒っているんだ」
『明久を独占しようなど……お天道様が許したとしても私は許さない……!』
どうしようと困ったネメシスからスマホを返してもらってヤミに語りかける。
「ヤミ、落ち着いて」
『!明久……どうして教えてくれなかったのですか』
「前の僕を覚えてる?結構根暗だった時の。分からなかったら里紗やララに聞いて。その頃を思い出してさ。一人で過ごしたくなったんだ。言わなかったのはごめんね」
『……帰ってきたら一緒にお風呂に入ってくれたら許してあげます』
『ヤミちぃ!それは流石にあかんでしょ!私達だって入りたいよ!』
『そうだよ!昨日だって抜け駆けしたララちゃんに説教したのに……!』
『うぅ、私は明久と既成事実を……』
『『『『そんなの私だって作りたいに決まってるでしょ!』』』』
全員の叫びが聞こえてくる。その声に笑いが漏れた。……やはり退屈させてくれないな……
「既成事実はダメだけど、帰ったら皆で写真を撮るから。……康太にお願いしようね」
『……そうですね。……明久は疲れていますし、一人になりたい時だってありますよね。……思う存分羽を伸ばしてきて下さい。家の事は皆でやっておきます』
良い子だ……お父さんヤミが優しい子に育ってくれて嬉しいよ……
「じゃ、切るね。夜に帰るから。ありがとね」
そう言って通話を切る。そして今度は康太に電話を掛けた。
『……お前が失踪したと雄二やお前の嫁達から電話が来た』
「失踪したんじゃないよ。一人日帰り旅行をしようとしただけ。頼みがある」
『……聞こう』
「明日暇?」
『……午後なら暇だ』
「皆が写真を撮って欲しいと五月蝿くてさ。カメラマンとして君に頼みたい。報酬も弾むよ」
『……良いだろう。普通なら金を取るがお前の場合なら話は変わってくる。……料理を教えて欲しい。主に洋食』
「わかった。レシピとかやり方とか教えればいい感じ?」
『……そうだ。取引成立』
「じゃ、また追って連絡するよ。ありがとう」
『……礼には及ばない』
そう言って通話が切れる。いつもやってる事を康太に伝えるだけでいいとかやはり持つべきものは友達か。
「さて。今日の予定を聞こうか?」
「静かな場所をただ回るだけさ。……海に行ったりもするよ。泳がないけど」
「ほう、面白そうだ。他には?」
「さぁ?今日は本当にノープランだ。だからブラブラすると言った感じ。君からしたらつまらないかもよ」
「構わん。下僕と一緒に行動出来ればそれでいい」
「……そうかい」
なんだこのデレっぷりは!?いつものドSネメちゃんはいずこ?いやこっちも全然可愛いけどなんか裏があるのではないかと思えてしまう。……もしかして……Sに振る舞うのは皆がいるから?皆いない時の素の姿はこっち?……いやないわ。ネメシスはいつもドS。そうじゃなきゃただの萌えキャラじゃないか。そんな事を考えながら車窓から見える景色をネメシスと眺めていた。
◆
「里紗、プリンセス・ララ……明久が根暗だった時の事を教えてください」
ヤミの一言でリビングにいる皆が静まり返り、リビングにて床に座る。皆、話が聞きたいからである。そしてヤミは美柑の元へ。
「……ミカン、貴方にも聞きたい。貴方が一番明久の近くに居たのだから」
「……良いけど……あの時のアキは好きじゃない……今の方がカッコ良いし……」
「へぇ?実柑ちゃんも明久の事……?」
「そ、そんな事は今はどうでもいいんです!……それに、今の方がずっといい。……昔なんて植物状態だった時もあったし」
「そんなに酷かった時が?」
沙姫が聞くと、美柑が椅子に座って答える。その顔はとても悲痛そうな顔だった。
「なにも飲まず食わずで……部屋を叩いても反応がなかったし、入ってもアキはベッドの横で座って虚ろな目で動かなかった。体重が50キロを下回った時がありました」
「……栄養失調で運ばれてきた時ね」
「診てあげたの?」
「たまたま近くを通った時にね。美柑ちゃんが大騒ぎしていたから何かしらと覗いて見たら彼が倒れてて……必死に救急車を呼ぼうとしていたわ」
「……あの時は本当に助かりました、御門先生……先生が居なかったらアキは……」
「……話してください。……私は知りたいです。過去を」
美柑は頷き、話を始めた。
「まず、沙姫さんと瑞希さんや春菜さんと接していた時は本当にヒーローのような感じだったんです。恐れを知らないというか無鉄砲と言うか……」
「はい。皆の憧れでした……かっこ良かったんですよ。虐めっ子を一人で退治した時とか」
「そうね。恐れ知らずと言うのは合ってるわ」
その時はまだ良かったと美柑は言っている。だがそこから表情が暗くなってしまう。
「……でも中学校の時に事件は起きた。……アキがラキスケしちゃったせいで皆から責められて……登校するのを辞めちゃったんです。その時から勉強もせず、ただ一人で部屋に篭もる日々が続いてました」
「それがこの前の旅行の時に話した人だよ。……アキは花壇の花に水をやってただけなのに花壇を荒らしたなんて勘違いしたバカがねぇ、皆に言い触らして……それで明久はもう何も信じないと言って教室から出て行ってたよ。中学一年の時になったんだからきついよねぇ」
「里紗さんはどうやってアキと知り合ったんですか?」
「え?話さなかったっけ?私は男子生徒にやらしい事強要されそうになったのを明久に助けて貰ったんだよ」
皆が意外な顔をする。里紗にもそういう経験があったという事に対して。里紗がバトンタッチを受け、そのまま話を続ける。
「明久さんが?」
「そう。竹刀で四人纏めて倒した後に顔面グーで殴ってねぇ。その時は全員登校しなきゃいけなかったから嫌々明久は登校してたんだけど、その時に学校の裏に連れて行かれてね……ピンチになった時に助けて貰ったんだけどこれが強いのよ。アイツ怪我せずに四人倒すんだもの。……その時からかな。絡み始めたのは……明久が停学になっちゃうんだけど、そこから勉強教えてあげたりとかね。最初はキツかったよ。来なくていいとか興味無いとか普通に言われるんだもん。心折れかけた」
「……どうして諦めなかったんです?」
「……まぁ、私も友達少なかったから。明久には思う所があったんだ。それで明久の方が折れて来る事を拒まなくなったんだけどここからがまた辛いんですよ。こっち無視するし」
「……普通に真顔で帰れとか玄関で門前払いされてましたね」
「夜な夜なベッドで泣いたの思い出したよ」
その発言から今の明久からは想像できないという声が多数上がる。でもそんな思い出を話す里紗はとても微笑ましそうな顔をしていた。
「でも根気よく続けて……ようやく口を聞いてくれるんだけど久しぶりに会話をしたと思ったらまず質問投げられたんだよ。……なんで僕なんかに構うのかって」
「なんて答えたの?」
「……理由なんているかって答えた。アンタといる事に理由なんかない。私がそうしたいからしていると言ったらなんて帰ってきたと思う?『ふーん』だって!あの時本気でキレかけたよ……私からも質問を投げた。どうしてそんなに冷たい態度をするの?って。そしたら誰も信じたくないからと言う答えが返って来てさ。納得しちゃったよ。……私もほんの一時期とはいえそう言うのあったから」
里紗にもそういう時期があったのか。そうは見えないというコメントがチラホラと流れる中、里紗は頬をポリポリと掻く。
「ま、私は弱さを出さないタイプだからね……だから決めたんだ。アンタを真人間にするって。その時のアイツの顔本当に腑抜けた顔だったよ。……後脅したね、『アンタを真人間にするまで私も登校しない』ってね」
「……せんぱいはそれでどうしたの?」
「バカ言うんじゃないよって。で、飯食って帰れって言われてパエリア作ってもらって……まぁ後は根気よく続けたんだ。明久の傷を癒そうってね。まぁ半分告白紛いなことをして一緒に居ただけだよ」
「いつ折れたの?明久君は」
「一年生の冬くらいかな。結局私はアンタに助けてもらったからアンタを助けたいって伝えたんだよ。そしたら最初からそう言えって叱られて……もう二度とそんな事はしなくていいって言われた」
「それで!?」
「……でも、明久は言ってくれたの。『そんな事をする必要は無い。……でも来たいならいつでも来て貰って構わない』って。努力実ったよねぇ……クリスマスとかお正月とか一緒に行動してたし」
「独占ですか羨ましい」
「明久の性格は軟化していったけど変わる事はなかったんだ。最後までね。二年生から学校に通ってたけど三年生になって成績で一番になった時に行く意味ないなとか言い出してまた不登校になったんだよ」
「えぇ……」
「そこからプリントとかまた持っていってね……うん、いつの間にか離れられなくなったってわけ」
「リサも中々苦労してるんだねぇ」
「当たり前よ。高一の時は特にヒヤヒヤさせられたよ。瑞希と春菜と友達になって見たけどね……あれは酷かった」
御門先生が頷いて口を開いた。
「目や鼻、口から血を吐き続けても召喚獣で相手を潰すのを辞めなかったものね。完全に相手を潰す事しか考えてなかったから……そこら辺は坂本君達が詳しいわよ」
「ミカドも詳しいわね」
「だから言ったでしょ?私はあの子のかかりつけ医だから。宇宙人を治す以外は吉井家がなにか病気や風邪になった時にお邪魔しているわ。ご両親からも頼まれてるしね」
「そ、そうだったんですか……通りで先生と明久仲良いなって……」
「仲良い風に見られてたの?……まぁ、彼を治す回数は圧倒的に他より多いからね……」
「……病気以外は……?」
「先程の流血を止める薬だとか、フィードバックによって受けた傷などの治療ね。……彼自分の身体の事はなんとも思ってないから平然と怪我をして家で家事をしようとするもの。私が言わなきゃ来ないレベルで」
「……そうですよね。明久君……本当に怪我の事なんかお構いなしに……」
でもと春菜が続けた。
「ララちゃんが明久君を変えたって言ってたよ本人も」
「まぁねぇ。私にかかればちょちょいのちょいって感じだったよ?完全に荒治療だけど」
「私が三年かけてしてきた事を数週間で終わらせるんだもの……やばいよララちぃは」
「まぁ裸の付き合いすれば一発だったよ」
その一言に全員が固まる。セフィが震えながらララに訊ねた。
「あ、貴方……明久君と裸で……?」
「だって初めて会ったの湯船の浴槽だよ?明久は勿論、私はペケがワープ時にダウンしちゃったから裸だったし」
「……だからあの時アキは叫んでたんだ……」
悪びれずに胸を張って言うララにセフィも頭を抱えた。
「……貴方と言う人は……本当に明久君じゃなかったらどうしていたの……」
「ふふふ、私と明久が出会うのは運命だからあそこで明久以外と出会うなんて選択肢はないんだよママ」
「……物凄いこと言ってるけどただの結果論だよねそれ」
そこでインターホンが鳴る。やって来たのは雄二だった。
「よう、暇だったから明久に借りてたものを返しに来たんだ……何してんだ?」
「丁度いいわ坂本!来て!」
「お、おい!?」
里紗がリビングまで連れてくると雄二もため息を吐く。
「……セフィさん以外全員明久の嫁かよ……で?なんか用か?」
「明久の昔の話をしてるの。アンタもアイツとの付き合いはそれなりにあるでしょ?教えてよ」
「明久と……ねぇ……まだ一年ちょっとしかつるんでねぇぞ?」
「……お願いします、坂本さん」
「しゃーねぇな。何を聞きたい?」
「明久が高一の時、自分の身体をなんとも思わずに召喚獣を使ってた理由とか知らない?」
「あー……アイツから聞いてねぇのか?」
「はぐらかされるからね」
「アイツはな、俺らの為に戦うと言っていた。……アイツは召喚獣を自分の為に使った事がねぇんだよ」
雄二の一言に全員口が開いたままになる。最初に口を開いたのは実柑だった。
「じゃあアキは……坂本さん達の為だけに……?」
「平たく言えば勝つ為だな。見た事ある奴は居るんじゃねぇか?グロ過ぎる明久を。映像あるぞ。ムッツリーニが何かあった時用に録画しておいたんだ。……まぁ俺も反省点とか見つける為に録画させてたんだがな……見るか?」
「……見たい人だけで……ヤミちゃんとかは血は平気なんだよね?」
「……元殺し屋が血がダメでどうするんですか……見せてください」
一部を除いて映像を見始める。中には苦しみ、もがき、痙攣しながら目、鼻、口から血を流して暴走した時のように召喚獣を動かして相手を残虐に屠る映像だった。最後は糸の切れた人形のように崩れて倒れる明久もちゃんと記録されている。
「……これが、明久なんですか……?」
「そうだよ。……昔は怖かったさ。こいつ死ぬのすら怖くないんじゃないかって……終われるなら終わりたいとまで言ってたしな……今じゃ全然そんな事ないが……まぁ、お前らのお陰だ。俺からも礼を言うよ」
「ユージは本当にアキと仲が良いんだな」
「まぁな。初めてちゃんとしたダチ公って思えたしな」
「……雄二、浮気」
そこに翔子が現れる。
「うわぁぁぁぁ!?いきなりなんだお前!?鍵は閉めただろ!?」
「……美柑ちゃんが開けてくれた」
「霧島さん、そんな物騒なものは置いてください。坂本さんも霧島さん一筋ですから。それに我が家ではそんなもの禁止です」
「……ごめんなさい」
「あ、でも婚姻届はいいですよ」
「美柑ちゃん辞めてくれ。娘ができたら調味料の名前をつけようとしたり束縛を第一に考えるコイツは無理だ!」
「じゃあ逆に坂本が翔子を自分好みの性格に調教すればいいんだよ」
「な、何を言ってんだお前はッ!?」
「……雄二がそうしたいなら、私はそれを受け入れる」
そう言った翔子は顔を赤くして雄二から目を背ける。周りからは微笑ましい顔で見つめられる雄二は頭を抱える。
「あらあら、ラブラブじゃない」
「えぇ、若い子って凄いわね」
「くそぉぉぉぉぉ!!」
「お義母さんが雄二を探してた。帰ろう?」
「お袋が?一体どうして……」
「ザリガニを持ってタラバガニの捌き方を雄二に教えて貰ってきてって言ってた」
「よし行くぞ翔子。お袋を止めないと食中毒が広がる。……嫁の誰でもいいから明久に借りてたDVDを返却したと言っといてくれ」
雄二の身の変わりの早さ。そりゃそうだ。雄二の母親の行動が如何にヤバいか、それは雄二が一番よく知っている。
「ユージはなんのDVDを借りてたんだー?」
「映画だよ。とにかく……早くしないと俺の食卓が食中毒に……それだけは何としても避けねば……!俺の腹がヤバイ……!」
「……お義母さんはウニと束子をまた間違えてた」
「くそぉ!何度も言ってるのに!おい翔子!もうこれからお前お袋を監視してくれ!」
「……それ、プロポーズ?」
「バカ!んなわけあるか!幼馴染としての頼みだよ!」
そんな会話を遺して雄二と翔子が出て行く。明久邸から男が消えた後、過去の話は一度中断となった。
「でも明久君は男前よね、家出したバカ娘の居候先がここで本当に良かったわ」
「もう、まだそれ言ってる……そう言えばミカンってさー」
「う、うん。何?」
「明久の事好きなの?」
その一言で美柑の顔が今までにないほど赤くなってしまう。
「何を今更、プリンセス・ララ……ミカンはお兄ちゃんLoveなのですよ」
「あらあら、禁断の恋ね……そう言うの応援したくなるわよね」
「勿論です!私は応援しますよ実柑さん!」
自信満々のモモや御門先生の頷きに美柑はあたふたと弁明を考えていた。
「にしても……これだけの人数を手篭めにしたとは……いや、ほぼ無自覚なのよね?明久君は」
「そうですよ、皆チョロかったんです」
「いやー先生とかはチョロかったけど私は違うでしょ?」
「里紗さんは助けられた時にはもう恋心芽生えてたんですよね?それまでただのクラスメイトだったのに……チョロいです」
「うぐっ……」
「ヤミさんもチョロいし……聞いたよ?アキから貰ったたい焼きが好物になってアキから貰ったコート夏でも着てたんだって?」
「あぅぅ……」
「て言うか沙姫さんも瑞希さんも春菜さんも全員チョロいですよ!話聞いた限りじゃ本当にチョロい!モモさんに至っては一目惚れ!アキは言っちゃ悪いけど女の子みたいな顔してるんだよ!?一目惚れする要素ないでしょ!」
「し、仕方ないのよ!王子様に惚れるのは仕方ないの!」
「あ、アキが王子様……!?」
信じられないという顔の実柑に対し追撃をかける春菜と瑞希。
「そ、そうだよ!明久君かっこいいんだから!戦ってる時とか!実柑ちゃん見た事ないでしょ?見たら凄いよ!」
「美柑さんはお気付きでない?明久さんが女性を引き寄せる何かがあると……私はもうあの人に全て捧げてもいいと思ってます」
「あら大胆ねモモ……ララも似たようなこと言ってるし……ナナはどうするの?」
「えっ……どうするって……」
「貴方もハーレムに入るでしょ?明久さん好きだものね?」
「う、五月蝿い!あんなケダモノ誰が……!」
「じゃあ嫌いってことで明久さんには言っておくわね」
「き、嫌いなんて言ってない!」
「じゃあ明久さんがナナは要らないって言ったら?」
「えっ────」
白くなっていくナナの尻尾を握って元に戻させる里紗。ひゃうっと可愛い声をあげて色が戻ったナナは顔を林檎より赤くして俯く。
「もう明白じゃないの。素直になればいいんじゃない?」
「……アキは私の事どう思ってるかな」
「聞けばいいじゃん。明久答えてくれるよ?」
「そうね。あんな優しい人他に居ないわよ」
「でもナナ明久の事毛嫌いしてたでしょ?いつ好きになったの?」
「そ、それは……」
ナナは言えなかった。いつの間にか好きになっていたと。優しいし頼りになるし一緒に居て落ち着くと言う事を。毛嫌いしていた訳ではなく、明久か他の女の子とイチャイチャしているのに嫉妬していたからだと。
「言いたくないならいいよ!言いたくないのに言わせるのは明久の信条に反するし。でも凄いねぇ、皆明久を好きになっちゃうもんね」
「せんぱいは凄いよ。かっこいいし優しいし……素敵な人だよ」
「ふふ、私の見立てに狂いはなかったのです!」
「プリンセス・モモはずっと明久とくっついて羨ましかったです」
「貴方そもそも明久さんからあんなにアプローチ貰ってたのに無碍にしてたじゃないですか!」
「……あの時の行為は反省しています。そこから学んで……私達は成長する……失敗を繰り返し、恋愛をして成長する……明久の言葉です」
「え、なんですかそのドヤ顔……する場面じゃないですよ」
「とにかく……私は掃除しますけど皆さんどうするんですか」
「手伝います、ミカン」
「私もー!」
「全員でやれば早く終わるでしょう……先生達はどうするの?」
「うーん、一旦家に帰るけど……ティアは?もう今ある家出てここに住めば?」
「真面目に考えようかしら」
それぞれの指針が固まった所でそれぞれ行動に移し始める。だがそんな行動もすぐに無かったこととなる。
「明久さんにお返しになると言っていた映画、部屋に置いておかないと……あら?本?」
モモが雄二の持ってきた袋の中の本に手を伸ばす。袋から出してみるとそれは……
「な、ななななな!?」
「巨乳でポニーテール……!?そんな馬鹿な……!」
「モモちぃ、どうしたの?」
「それって坂本君が置いていった袋ですよね」
「中にこんなものが……」
聖典を見せるとやってきた二人が顔を赤くする。続いてゾロゾロとやって来たララやヤミもそれを見てしまった。
「そ、それって……えっちぃ本ですか……?」
「……明久さんに返却する映画と一緒にありました……明久さんのものでは」
「アイツも男の子なんだねぇ……って、巨乳とポニーテールしか居ないじゃん!何!?アイツポニーテール萌えなの!?」
「……胸の大きい人しかいない……明久に騙された……?」
「グラビアってそういう人達多めだからさ……とにかく!第二次会談を掃除後に執り行うよ!」
こうして第二次嫁会談が吉井家にて勃発しようとしていた……
追記 誤字を修正しました。コメントで教えていただきありがとうございます。