電車を降り、ローカル線に乗り換えてぶらりぶらりと電車の旅を続け、目的の駅へ降り立つと、そのまま辺りをぶらつき始める。
この場所は夏とかだと海もあるから結構賑わいがあるが、夏が過ぎ去り、『少し涼しくなってきたかな?』程度ではなく、『もう夏の暑さは完全に消えたな』って時はもう静かな町へと変貌する。だがそんな静けさが好きで、僕は観光がてら色々と見て回る事にした。
「下僕、本当にこの町を?」
「あぁ。静かでいい所だ……歳をとったらこれくらい静かな場所で暮らしたい」
「騒がしいのは嫌か?」
「嫌じゃないけど、僕は静かなのが好きなんだ。騒がしいのも好きだけど……まぁケースバイケース?時と場合によるよね」
「今家では下僕の話で持ち切りだ。昔の下僕の事で」
「……昔の、僕か……不思議な話だ……少し前に変わったばっかなのにもう随分と前のように感じる」
「下僕、私にも話してくれないか?下僕の事を……いいや、明久の事を知りたい」
久しぶりに名前で呼ばれた。それに影響して僕は話す事を決意。海にやってきて、浜辺に座り、海を眺めながら話し始める。中学生の頃の事、里紗達とはどうやって出会ったのか。ネメシスと出会うまでの事。
「……よしよし、辛かったろうに」
……え?頭撫でてくれてるのか?なんだこれは……!?ネメシスから母性を感じる……!?嘘だ……!いつもあんなドSなネメシスが母親が子供を見るかのような目で僕の頭を撫でて……!
「にしても、今坂本が返したDVDの中にあった明久のえっちぃ本について会議されているようだが」
……HE?
「なんでもポニーテールと巨乳が好きらしいではないか」
……元の性癖がバレてしまっただと?……てかなんで雄二今になって返したんだ?……いや、無くしたって言ってたな。あの時はまぁ仕方ないかで許したけど、なんで今になって見つかって、それを今返したんだよ……!
「ポニーテール……と言うのは馬の尻尾だろう?私にやってくれ」
僕がポニーテールのセットを?……良いだろう。かつてララにやった事あるし。ネメシスの髪のリボンを取ってポニーテールに。おぉ、似合ってるではないか。やはりロングもショートも好きだが一番はポニーテールなんだよなぁ。
「この髪型が好きなのか」
「まぁね。……で?どうして皆の様子が分かるの?」
「明久が起きる30分前に部屋にカメラを設置してな」
……盗撮じゃあないか。そこに電話が。相手は里紗。
「……もしもし」
『ちょっと!どういう事か説明してよ!』
「……うるさいよ、なに?」
『坂本が返したDVDと一緒にあったエロ本!』
……今丁度それが話題になっていたのだ。驚きはしない。
「それね……もう一年も前に貸した奴だよ。僕には不要なものだから捨てといてくれ」
『え?要らないの?』
「あぁ」
『それと!ヤミちぃが泣いてるんだけど!明久に騙されたって!』
僕が何をしたと言うのだ。話を聞かないで電話を切ったらアウトな気がする。
「……代わって」
『……明久、私を騙していたんですね……無い胸に呆れて……こんな私では不服だと……』
「誰がそんな事を言った?僕はいつも君に嘘はついてないつもりだけど」
『……明久は大きい胸の人が好きなんですよね』
「それは1年以上前の話。人の考えなんて1年もあれば変わるよ。この前話したろ。どんな大きさでも等しく胸だから。1年でそれを学んだんだ」
『……明久は……小さいのも好きですか?』
……どうしてこうなったんだろうか。女の子の胸の話を真剣にするなんて……しかも小さいのを擁護する日が来ようなんて。
「……うん、好きだけど」
……もうこれ以上進んではいけない気がする。帰ってこれなくなるぞ。
『……そうですか、今はその言葉を信じます』
『嘘だったら承知しないからな明久!』
「ナナ?どうしたのさそんなに」
『だ、だって!皆私の事バカにするから……』
「む、人の身体を馬鹿にするのは良くないな」
『だよな!ほら!明久だって言ってるからバカにするのをやめろ!』
『えー?だってナナが普段からちゃんと大きくなるように努力しないからー』
……女の子って大変だなぁ……
『アキ?聞こえる?』
美柑が通話に出た。向こうではララとナナが言い争ってる声が聞こえる。
「はーい、どうしたの?」
『夜に帰ってくるんだよね?ご飯いる?』
「わからない。気分かな。なんにせよ……何か食べたりとかしたら領収書頂戴、後で3割増であげるから」
『わかった。じゃ、ゆっくり休んでね』
……姉と妹、どこで差がついたんだろう?やはり姉さんは母さんの影響だろう。姉さんならこうはいかないから。そんな事を考えながら海を眺める。
「……海は全ての命の源と聞いた事がある。海はどこまで続いているんだ?」
「さぁ?どこまで続いてるんだろう?見た事がないから分からない」
「……下僕は海は好きか?」
「うん。好きだよ。自分の悩みがちっぽけに思えるから」
「……ハーレム計画とかも?」
「……流石にそれは何人もの人生が掛かってるから小さく見る訳にもいかないけど……でも、僕が虐められてた時の事、僕が不登校になってしまったり、血反吐吐いて倒れたりした事も……こんな広大な海の前では全部ちっぽけになる。……それだけ広いんだ」
「……そうか」
「さて、あと少ししたら何か食べようか。お腹空いたでしょ?」
「朝ご飯食べてないからな」
体感十分程度海を眺め、ネメシスと歩き始める。お昼ご飯はどこで食べようかな……
「……海鮮丼に……蕎麦……カレーうどんに……うーん、悩みどころだなぁ……ん?」
ふとした所に小さな喫茶店を見つける。丁度いい。あそこにしよう。
「いらっしゃい、お好きな席へどうぞ」
中は暖かく、落ち着いた雰囲気のお店。広くはないが狭くはない。寧ろ普通の大きなチェーンの喫茶店よりは普通に良い感じ。人も居ないから長くゆっくり出来そうだ。店内を見渡している中、床で寝そべっている犬を見つける。放し飼いが出来るのも都会から離れた小さな喫茶店の特権だろうか。
「ご注文決まりましたらお呼びください」
メニューを開いて一読。中にはオムライスやナポリタン、スパゲティといった定番メニューの他、小倉トーストだったり、エビピラフだったり。どれも写真付きで美味しそう。
「ネメシスも選びな。ほら」
「どれも食べたことがないから分からない」
「うーん、麺がいい?パンがいい?お米?」
「パンにする」
「小倉トーストかな。餡子が乗っかってるトーストだよ」
「餡子……いつもヤミが食べているあれに入ってるやつか?」
「そうそう、美味しいよ」
「じゃあそれにする」
「まぁお腹空いたら追加注文もいいし、僕の分けてあげる。すみません」
軽く手を挙げて店員さんを呼ぶ。
「はい、お決まりですか?」
「小倉トーストとピザトーストください」
「お飲み物はよろしいですか?」
「何にする?」
「うーん、オレンジジュースで」
「僕はカプチーノお願いします」
「かしこまりました」
注文を終えて本を取り出す。読書タイムだ。
「下僕は本を読むのか」
「まぁ、たまにはね……暇なら読むかい?てか読める?」
「バカにするな。私でも読める」
適当に持ってきた本のうちの一冊を渡して読み始める。ネメシスも読み始めて30分後。料理と飲み物が届き、一時手を止め、食事にありつく。
うま。ピザトーストって言うとこういう店でしか食べないけれど美味しい。あまり主張し過ぎない味かつ、ちゃんと野菜も主張できるようになっている。しかも優しい味。……母さんが作ってくれたのを思い出した気がする。……これだ。こういう優しい味を僕は作れない。
カプチーノも美味しい。ホッとできるし落ち着く。
「ネメシス、美味しい?」
「うむ、美味しい。ヤミがいつも食べてるたい焼きもさぞ美味しいのだろうな」
「今度一緒に買ってくればいいじゃん、美味しいと思うよ」
「そうしよう。一口もらっても?」
「どうぞ」
少しちぎってネメシスに差し出す。それをなんの躊躇いもなく食べると、美味しそうに頬を弛めた。
「美味しいよね」
「今度作れ」
「無茶言うな。僕はこう言う優しい味は作れない」
「そうやって最初から諦めるなんてらしくないぞ」
……珍しく普通に窘められる。まぁ、いつか挑戦してみるか……
ご飯も食べ終わり、ドリンクを飲み干して本を読み、うつらうつらと夢と現を何度か行き来をしてちゃんと目覚めた所で会計を済ませてネメシスと外へ。
もうネメシスには耐えきれなくなったのか眠ってしまっている。外はもう暗くなり始めていた。スマホの時計を見ると、17時を回っている。寝ている彼女をおんぶしつつ、喧騒を求め始めたワガママな自分に従い、家へと帰り始めるとしよう。
帰る連絡をしようと家の電話に繋いでみる。出たのは里紗だった。
『はい吉井家の電話です』
「もしもし」
『明久?どうしたの?』
「リフレッシュ出来たしそろそろ帰るよ。あと一時間後に帰れると思う」
『本当に!?凄い、ララちぃの予言が当たった……』
「予言?」
『明久はあと一時間後に帰る電話をしてくるよって一時間前に言ってきたから……』
怖過ぎる。どこからが監視してんの?……と思ったけどララの感は当たるからなぁ……
『あとはセフィさんが帰ったよ。明久君によろしくって』
「わかった。ご飯は?」
『まだだよ』
「帰って出前でもとるか」
『お、賛成!じゃあ待ってるから早く帰ってきてよ!』
「はいはい」
電話を切ってタイミングよく来た電車に乗り込み来た道を戻る感じで家路に着く。もう夏が終わったからか、1時間ほど電車に乗って最寄り駅に着くと辺りは暗くなっていた。
ネメシスも寝たままなので続けておんぶしつつ家へと帰ってくる。
「ただいま」
「お帰り……あれ?ネメシス寝てるの?」
「あぁ。よいしょっと……部屋に置いてくるから待ってて」
ネメシスを自分の部屋のベッドで寝かせ、荷物を置いて手を洗い、リビングに戻ってくる。姉さんとザスティンもどっか行ってしまったらしい。全く……で?このメンツはどうして僕を睨んでいるんだ?そしてどうして皆してポニーテールなんだ?
「か、勘違いしないでよね!」
「するかバカ」
「うーわ、明久にバカって言われたぁッ!」
「全く……先生達は何してんですか」
なんと御門先生にティアーユ先生までポニーテールなのだ。なんかエロくないか?……うーん……
「良いじゃない、連休期間中は私達教師も休みなのよ。病院も休業にしてるし平気。急患でない限り対応はしないわ」
「御門先生って明久の事……」
「あら?私はただこの子が無茶した時に見てあげて欲しいとこの子の親から頼まれてるのよ?それでいてこの子は無茶をした。一応丸薬を貰って傷などは塞がってるけど何かあったら困るでしょう?」
「流石かかりつけ医……」
喧騒を聞きながらピザの出前を頼む。昼間もピザトーストを食べたけど関係ない。皆も掃除とか頑張ってくれたしね。
「にしても明久の部屋から変な手紙が見つかったんだよ」
「変な手紙?てか部屋漁ったのか?」
「お掃除してたら見つけたの!えーと、競泳水着愛好会……?」
皆からジト目で見られる。やばい。一時期頭とち狂ってた時に書いたやつだ。
「そんな愛好会が男の子にはあるのね……」
「てかあんた競泳水着萌えなの?」
「バカにするな!競泳水着は男性が女性に着てもらいたいものBEST8に入るんだぞ!僕はコスプレの中でも競泳水着が上位に来るね」
……なんだろう。後戻り出来ないような……もう進むしか選択肢がないみたいだ。
「そうね、アキ君競泳水着着せて外に連れ回すんだもんね」
その一言で周りが僕のことをゴミを見るような目で見てくる。なんでバラしたんだ!僕と君の秘密だろ!
「あ、あんた沙姫ちゃん先輩に何してんの!?」
「彼女が着たくて仕方が無いと言っていた。僕は悪くない」
「嘘つけ!」
「でも明久君、そんなに熱弁するほど競泳水着のどこが魅力だったんですか?」
姫路さんに言われて考える。どこが魅力か……頭をフル回転させろ。この場を穏便に抜けられるような答えは……!
「えーと……密着具合?」
「「「「……」」」」
これじゃ変態だ……ッ!皆して僕を呆れた目で見る……!
「……あんたねぇ……」
「明久君にいつまでも紳士でいろとは言わないよ?……でも流石にその答えはどうかと思うんだけど……」
「……明久さん、流石の私もその答えは許容できません……」
「分かりました、競泳水着を着ればいいんですね」
頬を朱色に染めながら微笑んで僕に尋ねるヤミ。う、嘘だろ?着ると申すか?皆も目を丸くしてヤミを見てるし……やはりこの娘……!ダークホース……!
「まぁその程度ならねぇ、それで先輩がケダモノになってくれるなら御の字だよ」
「確かに……んじゃあそれぞれ買ってこよう」
「明久の家にいる間の部屋着として使えばいいのね?」
「待てぇーっ!おかしいだろ!?全員競泳水着買うつもりか!」
「それ以外選択肢ないでしょ」
「ちょっとティアーユ先生!この子達指導足りてませんよ!?」
「え?あぁ、ごめんなさい……競泳水着にも種類があるんだなぁって」
……頼みの綱が……!そうだ!最後の頼み!
「御門先生ヘルプ!」
「え?」
……なんという事か、もう既に競泳水着に着替えている……!?
「わぁ!これが競泳水着なんだねぇ!」
「なんで持ってるんですか……」
「因みに明久君が好きなのはハイカットよね」
「……勘弁してください」
ここでインターホンが鳴る。ピザの宅配が来たようだ。
「お待たせしました。9845円です」
「はい……」
代金を払ってピザやサイドメニューを受け取って机に並べる。飲み物を出してキッチンで項垂れる。……喧騒は嫌いじゃないけど気苦労は嫌いだよ全く……今家にいる女性達はなんだろう、恥じらいがないのか?
「アキ、大丈夫?」
「美柑……お兄ちゃん疲れたよ……」
「そういや競泳水着以外じゃダメなの?」
「……美柑、お兄ちゃんは妹はなんの穢れもなく綺麗に育って欲しいから今からそんな知識を付けないでおくれ」
「うわ、泣いてる……そんなに?私もうそんなに子供じゃないけど?」
「美柑が18になるまでは男を近寄らせない」
「……」
なんでそんなゴミを見る目で見るん?僕何か間違った事言ったかな?
「まぁ、いいよ。アキが本当にそれでいいならね。それにアキはまだ危なっかしいからこっちがヒヤヒヤしなくなるまでは介護してあげる」
……要介護認定。辛い、泣きそう。……昔よりは良いかな。仲良いし。
「明久食べないの?」
「皆が食べたら食べようかな」
「そんなのつまらないよ!せんぱいもほら!急に居なくなって皆寂しかったんだよ」
その一言で僕は立ち上がって皆の所へ。寂しくさせてしまったのか。なら僕がそれを埋めねばならない。そう考えてリビングに向かうと、とてとてと歩いてくるヤミに抱きつかれ、そのまま動けない。無理矢理動こうとすると、動く方向に合わせて動いてはくれるものの、抱きついたまま離れようとしない。
「……あのねヤミちぃ、あんたは振り切ってるからそんな事出来るし明久もあんたには優しいから許してるけど私達がそれやったら怒られるんだからね?」
「……別に怒りはしないよ、ただ君はすぐエロに向けるから怒るだけで」
「なんでエロいの嫌いなんだっけ」
「……女の子がはしたないって言いたいんだよ」
「それ差別だよ、女の子だってエロに関して無関心なわけじゃないって何度教えればわかるわけ?同じ人間だよ?すぐそうやって自分の幻想に結びつける癖治しなって」
「……珍しく正しい事言いやがって」
「何さ、どうせここに居る全員にやらしいことする予定なんだから今から慣れておきなよ」
「五月蝿い、本当に明日から家に入れないぞ」
それでも諦めないと真剣な顔をしている。本当になんだと言うのだ。
「……でもおかしいです、明久はいつもあんなに……」
「……ヤミちぃ、コイツのラキスケは本当に仕方ない事なんだよ。原因探っても分からないから」
「気を付けてもなるんですよ。だからあまり触れない方が良いです」
「……ごめんなさい」
「良いんだよ別に……仕方ないさ。言われるような事をしてる僕が悪い」
「……でもそこからが不思議なんだよ。ここにいる全員ラキスケされました。全員惚れてるんだよ?因みに明久、あんたルンちゃんと出会った時ラキスケした?」
「……自転車衝突して……スカートの中に頭が……」
「それだ、ほら!わかったでしょこれで。あんたにラキスケされた人は皆あんたに惚れてるって事!」
……恐ろしくなってきた。もう僕表を歩けない。僕にラキスケされた人はこうなってしまうのだろう?あぁ嫌だ。ただでさえ手のかかる子供が何人もいる状態なのにこれ以上増えるのは大変宜しくない。
「なんでそんな心底嫌そうな顔してるのよ」
「そんな風に見えるなら君は疲れてるからさっさと帰って寝ろ」
それからも喧騒を聞きながらピザを食べるなり飲んだりして皆のお腹が膨れた所で後片付け。あとは風呂入って寝るだけという所でネメシスが起きてきた。
「……いつの間に寝てしまったんだろう」
「帰る前にはもう寝てたよ。ほら、残しておいたピザ温めて食べなよ」
「うむ……」
まだ眠たいのかな?瞼擦って小さく欠伸をしている。
「おやおや、小さい子みたいに欠伸しちゃって可愛いねぇ」
「……そうなの、とても眠いのぉ」
「「「「!?」」」
ネメシスが放った一言。しかもくっそ可愛い声。その一言がララ達の目を丸くさせ、開いた口が塞がらない状態にさせた。
「う、嘘……!今のネメシスが……!?」
「……信じられない……!なんであんなロリっ子みたいな声出せるんだし……!」
「……驚きです」
「……あれじゃただのロリっ子じゃない……!」
「ほら、お風呂入って。皆もう寝るよ」
「明久は驚かないの?ネメちゃんのあの声に」
「元からロリみたいなもんだし……ほら、早く寝るよ」
「わかった、お風呂先頂くよ」
そう言って里紗を始めとした数人が入っていく。こういう時お風呂広いの便利だと思う。そう思っていると、沙姫ちゃんが立ち上がって言った。
「アキ君、私は一度御屋敷に帰るわ」
「そう、送るよ。夜道は危ないから」
「そう?じゃあお願いしようかしら。ナナちゃんにモモちゃん、ありがとうね」
「いえ、これくらい何ともありませんよ」
「楽しかったしな!」
家を出て沙姫ちゃんの家へと向かうのだが……
「……近くない?」
「何よ、近づいちゃダメ?」
「ダメじゃないけども……」
「じゃあいいじゃない。にしてもアキ君、あなた本当に疲れてない?」
「なんで?」
「だって女の子に囲まれて嬉しい男の子なんて居ないと聞いたわ。でもアキ君はずっとため息ばかり……私達がストレスになってるんじゃないかしら?」
「断じて違う。……僕が懸念しているのはハーレム計画についてだ」
「まだ言ってるの?皆了承してるのよ?」
皆了承してるとは言えどもそれは子供間での話だ。親とかも関わる話だろうに。
「……親御さんとかどう思うんだろうって。……普通の親なら子供には普通の家庭を持って欲しいと思うわけだろ?……ハーレムの一員になるなんて普通望まないよ」
「……そうかもしれないわね。……でも、どんな状況でも子供が幸せになるのを願って生きていることには変わりはないわ。……子供が幸せなら納得するんじゃないかしら?」
「少なくとも僕は子供がハーレムの一員になるのは反対すると思うよ」
「……まぁでもアキ君がいけないのよ。……全員にフラグ立てて中途半端にしておいたんだから」
「……わかってるよ……だからどうすればいいか考えていたんだ。……なんでもできるって、思ってた……でも、違う。ハーレム計画は……全員幸せにしなきゃいけない。……僕にそんな事……出来るわけない」
「……心を救うんじゃなかったの?」
その一言で手を握り、歯を食いしばった。そんな事、普通の人間ができるはずない。そんな、救世主じみた事……
「……あのね?皆アキ君が大好きなのよ。……私だってそう。でもあなたはずっと選ばずに、全員を傷つけようとしたでしょ?……誰も傷つかないから良いじゃない」
「……」
「……アキ君が優しいのは分かってる。だけど、私達だってもう後戻り出来ないの。……アキ君以外じゃダメだから」
「そんなの……勝手だよ」
「えぇ、勝手よ。だからアキ君も勝手にすればいいの。私達はアキ君と居るだけで幸せだもの。……それに、アキ君のハーレムの皆と仲良いしね」
だからって……そんな簡単に……自分達の人生なんだぞ?棒に振るような事をしていいのか……
「アキ君、私はあなたの味方だから。何かあったら抱え込まないで欲しいの。相談にも乗る。手を貸して欲しい時はいつでも貸すわ。……だから、一人で抱え込まないで?」
その言葉がずっと胸に反芻して、考えていると御屋敷に着いた。もう中には執事やメイドさん達が沢山居た。
「お嬢様、お帰りなさいませ」
「ただいま。アキ君、ありがとう」
「……僕なんかにはもったいないよ、君は」
「え?何が?」
「……でも、僕こそありがとう。……バカだから見えなかった。……相談に乗ってくれる人達も居るって事。……君のお陰だよ」
「……そうよ。いつでも相談に乗るわ。……じゃ、お風呂に入って寝るわね。……アキ君、お休みなさい」
「うん、お休み」
執事やメイドさん達に見送られて僕は家へと帰る。家に帰ってきて部屋のベッドで寝転がり始めた。
「……心を救う……か」
ヤミやメア、ネメシスの心を救えたからなんでもできるって思っていた。自分が血を流せばなんだってできるって。……でも、それは間違っていたんだ。
僕には彼女達全員を笑顔にする事はできない。僕は元からこんな性格だし、女の子の気持ちは考えられない。そんな僕がハーレムを築く事自体が間違いなはずなのだ。
大体……いいや、やめよう。皆に責任を押し付けるなんて僕は屑だ。……気分を切り替えるために何かしよう……
そう思っていると、モモが部屋に入ってきた。
「失礼します。……元気、無いですね?」
「……考え事をしてたんだ。……ハーレム計画が……本当に僕に合っているのか」
「……合っているか……ですか?」
「やっぱり不安なんだ。僕だって……全員を笑顔にする事なんて……心を救うだなんて、本当はそんな大それた事は出来ない……単に運が良かっただけなんだ。……メアやヤミ、ネメシス達も。……僕が身体を張ったからなんとかなっただけ。……でも……分からないんだ。ハーレムになって、この先うまくやって行けるのか。怖くて仕方がない」
「……明久さん……あ、いい事思い付きました!」
「え?」
「明久さんのお父様とお母様に相談してみましょう!先程電話がかかってきたんです!一旦家に帰ると」
「……父さんと母さんに……相談……」
「……私達の時もそうして乗り切りました。次は明久さんが乗り越える番です」
頷いて電話をかける。相手は母さんだ。
『あんたから連絡なんて珍しいじゃない』
「……相談が、あるんだ。帰ってくると聞いた。……目を見て話がしたい。……今、どうしようもないくらい悩んでて」
『……わかったわ。あと三十分でそっち着くから待ってなさい』
え?三十分?そう思っていると電話が切れた。
◆
三十分経つと、父さんや母さんが帰ってくる。
「ただいま、明久。……あら?」
「あ、明久のお母さんにお父さん!こんばんは、お邪魔してます」
「里紗ちゃん達はお泊まり会かしら?」
「えぇ!明久に無理言ってお邪魔させてもらってるんです」
「良いわよ、部屋も余ってるし。明久、玲は?」
「姉さんなら友達と出掛けたよ」
「わかったわ。あら?こちらの人は?」
「ティアーユ・ルナティーク先生。家がなくて困ってるヤミのお姉さんなんだ」
「そうなの。よろしくお願いします、ルナティーク先生」
「いえ、こちらこそよろしくお願いします」
「ごめん皆、母さんと父さんと話があるから少しの間リビングには来ないで欲しい」
「わかった、瑞希達も行くよ」
皆がリビングから出て行く。その後、僕は机に向かい合うように座って話を始める。
「で?悩みって言うのは?もしかしてハーレムの事とか?」
「……うん」
「話してみなさい」
「……僕は不安なんだ。ハーレムでやっていっていいのか……どうしても怖くなって……逃げ出したくなるんだ。……ヤミ……金髪の女の子いたでしょ?あの子を守る為に血を流して……死ぬ寸前までいって、普通の女の子として暮らせる位には出来た。……なんでもできるって……思ってたんだ。……でも、皆の心を救うとかカッコつけたけど……結局それも無理だ……怖いんだ、普通じゃない道を進んで行った先に何があるのか分からなくて……」
「じゃあ辞めたら?……なんて言っても納得しないでしょう?……あなたは私の息子だもの。……負けず嫌いで……納得するまで続けるに決まってる」
「……うん」
「なんでもかんでもやってみなさいよ。……それで失敗しても、支えてくれる人達がいるでしょう?」
「……そんなんじゃ……皆に申し訳ないよ」
「僕は別に反対しないよ。明久が決めた道だから。……彼女達は良い子だ。……明久には勿体ないくらい」
「そうなんだ。……だからこそ不思議で仕方がない。……なんで僕なんだって。……僕は心配をかけさせる事しかできないし」
「そんな事ないよ!」
そこにララがやって来た。聞いていたのか?
「確かに明久にはヒヤヒヤさせられるけど、でも!明久と居て良かったと思う方が多いもん!」
「……ララ……」
「……明久が初めて会った時、私の事情をバカバカしいなんて思わずに必死に助けてくれた時……私はすっごく嬉しかった。だって、普通は出来ないもん。……周りの人もそうはしなかった。……だから……手を取って一緒に逃げてくれた時……明久しか居ないって思った!皆同じだよ!明久だから良かったんだよ!確かにほんの少しの優しさを握りしめてただけかもしれない。負けず嫌いだから自分の思い描くような結末しか見たくなかったのかもしれない!でも、その明久の行動が皆の堅い心を掴んで溶かしたんだよ!」
……僕の行動が……何度も聞いてきたけど、そんな事あったかな。……やられた方は覚えている理論だとどうしようも無いけれど……僕はただ、自分のしたいようにしてきただけだ。それでどうのこうの言われても……
「私たちだって不安だよ。……でも、精一杯話し合って決めた。だから私達はモモのハーレムだって了承してる。……皆気の済むまで話して決めたんだから、なんにも悔いなんてないよ」
そう言うララの顔は今までにないくらい真剣だった。悔いなんてない……か。あの顔は本当にそうだろう。
「……ほら、あんたの為にここまでしてくれる人達も居るんだから。……私も反対はしない。あなたの好きにすればいい」
「父さん……母さん……」
「……ただし、お互い了承してるからと言ってあんた手を出したらダメだからね」
「……どちらかと言うと襲われてるんだけど」
「まぁいいわ。……頑張りなさい。傍で支えてくれる人達も居るんだから精一杯頑張って……間違えてもいいのよ。……私だって間違えてたもの。家族との接し方。……だからそれを直して今私はあなたの前にいる。あなたの前では胸を張る母親でいたいもの」
「……そう。間違えても直せばいい。それが許されるんだからさ」
間違えても……直せば……
「それとも明久はララちゃん達の事が嫌い?」
「そんなはずない!」
「ならいいじゃない。お互い合意してるんだもの。……親ともちゃんと話してるはずよ。……あなたのしたい様にしなさい。応援するから」
「……ありがとう……」
「ほら、行ってきなさい。私達は部屋に戻るから。暫くはここに居るからね」
「わかった」
相談も終えて悩みも消え、部屋に戻るとハーレムが総集結していた。……なんという密度だろう。
「ありがとう、ララ……吹っ切れたよ」
「良かった!」
「モモもありがとうね」
「えぇ!では明久さんの部屋で寝れる人を選抜する大会でも開きましょう!これで!」
トランプを出して適当に遊ぶのを眺める僕。そうだ。なんでいつも直ぐに見失うのだろう。一緒に悩んでくれる人達が居るんだ。……どうしていつも直ぐに『僕が幸せにしなきゃいけない』なんで考えに囚われる?一緒に幸せになればいいと言ってくれたのに。本当に僕って馬鹿だ。
「やった!勝った!」
「ナナちぃ凄い喜びようだねぇ」
「ふん!今日は私が独占だからな!」
「……ナナのデレっぷりが凄過ぎるわ……明久さんの魔力よ……!」
「ツンデレってデレた時の反動凄いからねぇ……うわ、何あれもう別キャラじゃん」
そう言うナナは顔を綻ばせながら膝の上に乗ってニコニコしている。……あれ?こんなに可愛かったっけ?いや違う……ほとんど笑った顔を見た事なかったからだ。
「明久、ナナにデレデレしてる!」
「えっ、してる?」
「してもいいんだぞ〜」
「……な、なはは……あと何人?」
「あと二人だね……あ!メアちゃんが勝った!」
「ふふっ、せ〜んぱいっ」
後ろから抱きつかれる。ここまで来ると本当に……
「もう夜も遅いから静かにね……何してるのかしら?」
「明久と誰が寝るかトランプで勝負してるんです、今明久と居るのが今日一緒に寝れる組で」
「良かったわねぇ、こんな息子だけど支えてやってね」
「「「「はい!」」」」
「御門先生もルナティーク先生も何卒よろしくお願いします」
「いえ、私の方こそいつも明久君にはお世話になってますので……」
「えぇ、お任せ下さい」
「では私達は寝るわね。騒ぐのは厳禁よ?近所迷惑になるからね」
「「「はぁ〜い」」」
母さんも父さんもニコニコしながら部屋に戻って行った。勝ったのはナナ、メア、姫路さん。
「じゃあ残りは私の部屋に行こう!じゃあ明久、お休み!」
「お休みなさい」
「うん、お休み」
残った三人と配置の整理をする。
「どうやって寝るのかな」
「えーと……じゃあこうしましょう。ジャンケンして勝った人からアキの上。右、左。それぞれを選択できる」
上とはなんだと聞いてみると、覆い被さると言うらしくて……もうそれ駄目な奴です。本当にありがとうございました。
「いいですね!やりましょう!」
「「「ジャンケンポン」」」
まず勝ったのは姫路さん。なんと僕の上をご所望らしい。次にメアが左、ナナが右。こうしてまず寝始めるのだが……
「あ、明久君……お、重くないですか?」
「いや、全然軽い……けど、姫路さんはいいの?暑くない?」
「全然大丈夫です。……あ、でももしかしたら汗っかきなので嫌でしたらすぐ退きますから……ふぇっ!?」
足でがっちりとホールド。逃がすか。
「何を言ってる、君が勝ったんだから君の好きにしていいんだよ。ナナもメアもね。エッチな事以外なら何してもいいから」
「……どちらかと言うと明久君がする側ですよね」
「……細かいことは気にしない!さて、寝るか」
「「「お休みなさい」」」
新たに気持ちを切り替えて進む事を決意してすぐにこんな美少女を身体の上に載せて左右に美少女サンドイッチをして寝るなんて……まぁ、いいか。お互い合意してるんだし……もう考える事すら疲れてきたし……そう思いながら意識が落ちていくのだった。
この前、とある一読者様より『この作品のR-18版を書いて欲しい』と言う問い合わせがありました。
自分としては全年齢版で完結させたいと思うのですが、もし需要がおありでしたら一考します。億が一に書けやと言う人が居ましたら感想にお願いします。