「さてと、今日は誰だったかな」
予定を確認する為に机に向かう。机の上には一日目から四日目まで誰とデートするかが書いてあるのだ。今日は……モモ、メア、ヤミ、ルンさんか。……なかなか濃いメンツではあるが……なぁに、皆満足してくれるだろうよ。
そう考えていると電話が鳴る。まだ朝の7時だぞ?そう思って見てみると非通知設定。仕方なく出ることに。
「はい、もしもし」
『あ、よかった!出てくれた!もしもし!セフィよ!』
「……切りますよ」
『ご、後生だからやめて!今迷子なの!』
「はぁ?迷子ぉ?」
『手違いでチャームにかかった男の人達に追いかけ回されて……お願い、助けて……』
……何やってるんだ……!……ていうかそんな泣きそうな声を出すんじゃあないよ……!
「えーと、目印になるものわかりますか?」
『えぇと……目の前に公園があるわ。隣に交番がある公園よ』
「……わかりました、そこから動かないでください。すぐ行きますから」
『ありがとう……』
放っておく訳にもいかないし。何をしてるのか尋ねなければならない。僕は家を出て自転車を漕いでセフィさんを迎えに行く。ここからさほど遠くはないし、場所がわかるのが幸いしたからすぐに着ける。
公園が見えてきた。ここからでも分かる。優雅にベンチに座っている。全く……
「セフィさん」
「あ!明久君!来てくれてありがとう!」
こちらに気付いてやって来て抱きつかれる。……スキンシップが前より激しくない?
「……何してるんですか、ギドさんとイチャイチャしてるはずでは」
「あの人まーた側室にニヤニヤしてるから仕事部屋にぶち込んできたのよ。それにお前なんかに構ってられないって!だから明久君の所に来たんだけど……ワープ先を間違えて……」
「間違いは誰にでもありますから。行きましょう。てか僕も暇じゃないんですよ」
「何かあるの?」
「デートですよデート。……複数人とデートしなきゃいけなくなって。その2日目なんです」
「貴方も側室に……と思ったけど貴方はギドとは違うものね。私ともデートしない?」
「人妻じゃないですか貴方は」
「人妻は嫌い?」
「魅力はありますけど……複数人とイチャついてる人嫌いじゃないんですか」
何バカ正直に言ってんだ僕は。あーあ、僕がバカ正直に言ったせいでその気になってるし。
「素直な子は好きよ。それに貴方は別。で?今日は誰とデートするの?」
「モモとメアとヤミとルンさん」
「……何人とデートするの?」
「13か14で、もう4人終わってます」
「考案したのはモモかしら」
「……僕の母さんです」
そう言うと引いたりせずにほうほうと頷いていた。
「今居るの?ご挨拶したいのだけれど」
「居ますよ、部屋で仕事してます」
直ぐに家に着く。リビングに行くと、ご飯を食べるスーツ姿の父さんと母さんがいた。
「どこ行ってたのよこんな朝早くに」
「ララのお母さんにSOS出されて」
「すみません、道に迷ってしまい明久君に助けてもらおうと」
「あらら、なら仕方ありませんね。大丈夫でしたか?」
「はい。すぐに来てくれたので……」
暫く親同士にさせてあげよう。話したい事もあると言ってたし。まずはモモを呼ばないと。
「モモ、出れるー?」
『はーい!すぐ行きまーす』
出てきた私服のモモはいつもと違った大人びた雰囲気の服を身に纏っている。背伸びし過ぎでは無いかとも思ったけれど似合ってるし良しとしよう。
「あらモモ、羨ましいわね」
「お母様!?またお父様と喧嘩を!?」
「もうね、暫く別居するかもしれないから」
「……お父様も懲りませんね……て言うかお母様もそれで明久さんにすぐ頼るのやめた方がいいですよ?一応お姉様の婚約者名義ですし」
「姑だっけ、丈母だったかしら?それは嫌い?」
なんで迫ってくるんだこの人妻は。
「そうやってすぐ明久さんに迫って……お母様は仕事が出来て男の人なんてって言ってる印象が全て壊れました」
「仕方ないじゃない、こんないい男見逃す手はないわよ。私が同年代でギドとどっち選ぶって聞かれたら間違いなくこっちね」
……やめろ……!これ以上話を飛躍させるな……!
「それに私チャーム人で美しいのよ?それなのに堕ちない人がいるのが許せない」
「それが本音かぁッ!」
「うるさいわよ明久、朝からどうしたの?」
「……なんでもない……!あれ?母さんと父さんどこ行くの?」
「今日は取引先と会合があるからそっちに行くの。くれぐれも問題を起こさないように……と言っても問題起こしてるわよね」
ジト目で見られる。今の僕は大変宜しくない。人妻とその娘に抱きつかれている状況なのだ。
「他の星ではこれくらいが普通なのですか?」
「えぇ。スキンシップのようなものですわ」
「えっ、宇宙人だと認めるの?」
「そりゃあ尻尾あったりするし……発明品も見せてもらったしね。ララちゃんの発明品凄いじゃない。愛用させてもらうわね」
母さんがここまで言うほどの発明品だと?何を使ったんだ……?
「信じるの早いね」
「適応力は生きていく上で必要なのよ。……まぁでもセフィさんも旦那に色んな仕打ちを受けて苦しんでるからあんたが慰めてあげなさい」
……なんで僕なんだ……!おかしいだろ……!僕の意思も関係なく父さんと母さんは行ってしまう。
「……お母様、いくら何でも娘の婚約者を狙うのはよくありませんよ」
「良いのよ、欲しいものは自ら掴みにいくものなの」
「もう……見境がないです」
「貴方達も私の血を引いてるのだからそうなるわ。現に明久君の為なら見境がないじゃない」
「ぐぬぬ……」
「悪く言わないであげて下さい。モモは優柔不断な僕の為に色々やってくれてるんです」
「明久君が言うなら仕方ないわね……ほら、楽しんできなさい」
「じゃ、行こうか。セフィさんは家でのんびりしてていいですよ」
「ありがとう」
モモを連れて外へ出る。モモとは何をしようか?そんな事を思っていると、腕に抱き着かれる。
「さっきはありがとうございます」
「良いんだ。で?どこ行きたい?」
「見たい映画があるんです」
「わかった、行くか」
モモを連れて映画館へ。何を見たいのか尋ねると、指さした映画がこれまたなんとも言えない。女の人が主人公で、ドロドロした昼ドラのような……てかレビューで見た事あるぞ、確かこれ如何わしいシーンがあるとか……
「行きましょう!」
「モモってこういうの好きなの?」
「まぁ昼ドラ的展開は面白いですから!」
チケットを買って飲み物を買い、上映開始まで暫く待つ。映画館なんていつ以来だろうか。僕が美柑くらいの時だからなぁ……
そして映画が始まる。ストーリーとか色々とドロドロ過ぎて途中からトイレに行ったりして何とか心に平穏を保っていたが……キツ過ぎる。
主人公の女性はあれがやだこれもやだのワガママ女で、何人の男とも関係を持ったり愛がなんだかを知ろうとしたが、結局失敗に終わって周りの男達ともきっぱり関係を断ち、新天地に思いを馳せてこれからはこうなろうと決意した所で映画は終わった。
映画館を出て近くの公園で一休み。
「やっぱりドロドロしたのは良いですね。明久さんはどうでしたか?」
「うーん、女って皆あんなもんなのかなって思ったよ」
「今日は明久さんが私達以外の女性がどういうものか知って頂くべくこうしてね」
「……中々ゲスいな君は」
「私と明久さんはいつでも一緒ですからデートはもういいです。メアさんの所に行ってあげてください」
「……ありがとう、モモ」
身体を抱きしめて言う。いつもならこんなことはしないが、デートだからと言うのもあってかなり積極的になっている。
「……明久さん……温かいです」
「そっか」
「明久さん……私、明久さんにハーレムを作りましょうと言ったのには自分の為でもあったんです。……明久さんを利用していたんです。……ごめんなさい」
……里紗の時も似たような話を聞いたな……
「……誰も怒ってないよ。……僕はハーレムじゃなかったら誰も選ばなかったし。……君が色々働きかけてくれたからここまで来たんだ。……ありがとう、モモ」
「……明久さん、私は貴方が好きです」
「……うん」
「貴方の一番でなくてもいい。傍に居てもいいですか?」
「……分かりきったことを聞くんじゃないよ」
「言葉として聞きたいのです」
彼女の目はとても輝いていた。その輝きに圧倒され、僕は静かに呟く。
「……いいよ、僕も君が必要だから」
「では、失礼しますね」
そう言って唇が重なる。女の子とキスするのはドキドキするものだと分かっていたはずなのに。今でもドキドキが止まらない。
「ふふっ、私の事少しでも意識してくれると嬉しいです」
「バカだな、これで意識しないってのは同性愛者か僕を超えるバカだ。君は魅力的だ」
「これからもお傍でサポートさせて頂きますねっ、じゃあ帰ります。メアさんとも仲良くするんですよ!」
そう行って帰っていく。勿論だとも。さてと……
「もしもしメア?」
『せんぱい!私の番!?』
「そうだよ。迎えに行く。今どこ?」
『今はね、住んでるマンションを解約して外だよ!今度からせんぱいの家で住みたいの!ダメ?』
一種の告白ではないか。来る者拒まずの精神だから別にいいけど……
「いいけど……あれ?じゃあ今は引越しの準備?」
『いや?それはもう終わってるから。今挨拶終わって出たとこ!せんぱいは何処にいるの?』
「駅の近くの公園。そこでモモと別れたんだ」
『りょうかーい!私から迎えに行くねー!』
すると直ぐに声が聞こえてくる。入口を見れば、メアがニコニコしながらやってくる。
「せーんぱいっ!」
「次は君の番だ。したい事とかを聞くよ?」
「じゃあ私をぺろぺろしてとか?」
この娘本気でこういう事を平気で言うからな……少し念を押しとくか。
「……あのですね、自分で何言ってるかわかってる?」
「勿論!こんなの他の男には言わないよ?優しくてかっこいいせんぱいだから言うの!ねぇ、お願いを聞いて欲しいな」
「何かな?」
「私、せんぱいのものになりたいの。前はネメちゃんだったけど……せんぱいをマスターにして……あはっ、せんぱいとイチャイチャしたいな」
「……マスターとかそういうのじゃなくていいよ。普通の男の子と女の子として……いや、僕は普通じゃないけど……つまり!そういうのは禁止!……マスターとかにならなくても、僕は君の傍に居るからさ」
「……そうやって皆を堕としたんだね……狡いよ」
静かに呟いて腕に抱き着くメア。
「私せんぱいから離れないよ。良いの?」
「君がハーレム許容なら僕は構わん。それに僕は君を放っておけないから」
「ずるいなぁ……もう……さて!ぺろぺろは後日に回すね。今日はちゃんとしたデート!プラン練ってきたからこれを実行するよ」
と言ってもメアとした事と言えば喫茶店に入ってお喋りしたり、買い物をしたりと普通だった。
……下着を選べなんて言わなければ。
「せんぱい、私えっちぃ下着を買おうと思ってるの!私に似合うの選んで欲しいなぁ?」
「まぁ、今日は君のお願いを聞くと決めたんだ。決めてやろうじゃないの」
「やった!じゃーねー、これなんてどう?」
……あまり下着を吟味した事は無いのだが……いや待てよ?
「なんでランジェリーなのさ」
「せんぱいの好きな女の子の下着ってランジェリーじゃないの?皆そう言ってるよ?」
誰がいつ流した?にしても許されざる蛮行。いずれ犯人を突き止めて息の根を止めねばならぬ。
「せんぱい?」
「あぁ、ごめん。まぁ嫌いではないよ」
「良かった!じゃあこっちとこっち、どっちが良い?」
黒と赤のランジェリー。うーん……メアのイメージカラーは赤だが、赤で統一すると情熱的ではあるがメアはそんなタイプではない……かと言って黒にすると背伸びしてる感が半端ない……ならなんだ?白か?白は清純な女の子が穿くイメージなので小悪魔なメアには似合わない。となると……
「ふぅむ、僕は正直どちらもメアのイメージとは違うと思う。君は欲しいのはどっち?」
「せんぱいの好きなのを着たいんだけど……うーん、やっぱ赤にしようかな」
途中で考えを辞め、自分で選んでしまった。それについて尋ねる。
「どうして自分で?」
「せんぱいはお姉ちゃんや私に言ったよね、自分で決めろって。私も色々と自分で決めたいから。だって、私を兵器でなく、一人の女の子として接してくれるせんぱいだもの」
「……そう思ってるなら、僕も君の選んだ意思を尊重する。……君がそうやってちゃんと自分で決められるようになったのはいい事だから。……そういう点では他の二人よりメアはちゃんと聞き分け良くて偉いよ」
「やった、褒められた!……さてと、これで必要なものも買ったし、私の時間ももう終わりだね。……せんぱい、キスしよっ」
そう言って有無を言わさず唇が重なる。キスも何度目だろう。慣れてきてしまっている自分が怖い。
「……せんぱい、大好き。帰ったら覚えててね?本当にぺろぺろしちゃうから」
「……あのね、そういうえっちぃのは良くないと思うのです」
「何言ってるの?せんぱいは性欲はないの?……私達元兵器でもそういうのはあるんだよ」
「……だからって……」
「だから早くプリンセスララに手を出さないと。せんぱいの事食べちゃうのも時間の問題だよ。私達皆、我慢の限界だから。それにこれも、自分で決めた事だよ。皆そう。皆精一杯悩んで決めたの。覚悟を決めてね」
……その言い方は狡い。……だけど僕が言った言葉だ。責任を取らねばならない。
「わかった。好きにすりゃいい」
「え?良いの?」
「……自分で決めたんだろ?それを尊重するとも言った」
「……ねぇ、本当に私のマスターになってよ。私、せんぱいの物になりたいの。せんぱいはそんなの違うと思うけれど、私の全てをせんぱいにあげたいから」
「……マスターになれって、どうすりゃいいのさ?ネメシスみたいにしろってこと?」
「いや?いつも通りにしてていいよ。私がせんぱいのピンチの時には直ぐにヤミお姉ちゃんと助けに来るから。ふふっ、嬉しいんだ。せんぱいの物になれたの。一人の女の子としてね」
「……全く、どこまでも狡い子だよ、君は」
そんな事を言って頭を撫でる。3時間が経過したアラームが鳴り響いた。
「行ってあげて!次はせんぱいのオキニのヤミお姉ちゃんだよ!」
「さて、じゃあ最後に、マスターからの命令を一つだけ伝える」
「え?何かな」
「自分の心に従うんだ。自分で決めて、行動せよ。それだけ」
「……なーんだ、命令とか言いながらいつも言ってる事じゃん」
「それが出来ないと困るからだよ。……出来る?」
「出来るよ!じゃあね!私は帰るから、ヤミお姉ちゃんとの待ち合わせの場所に行ってらっしゃい!明久せんぱい!」
そう言って走っていってしまった。やれやれ……天真爛漫な女の子には振り回されがちだなぁ……そんな事を考えながら僕はヤミが指定した場所へと向かった。
「あ、明久……!こっちです」
おぉ、日頃黒いいつもの服と制服しか見ないから普段着と言うか、普通の女の子の格好を見るのは初めてである。浴衣とか色々見た事はあるけれどね……
「お待たせ、ごめんね?」
「いえ、大丈夫です。ふふっ、ようやくこの時が来ました」
「君が喜んでくれるなら僕も嬉しいよ。さて、何処へ行くの?」
「お買い物した後、部屋に戻ってデートです」
「了解、何を買う?」
「お洋服と本です。……後は、明久みたいに料理がしたい」
「じゃあ買い物したら料理しよっか」
「えぇ、そうします」
手を繋いでヤミを連れ回して買い物へ。何人かと買い物へ行ったけど、やっぱり全員違うから面白いな。
洋服屋にやって来てヤミが試着室へ入っていく。五分も経たずにカーテンが開いた。そこに居たのはいつもとは全然違うヤミの姿。
「明久、似合いますか?」
「凄い似合ってる。この調子で普段着買っちゃおうか。……ヤミももう普通の女の子なんだから」
「……信じられません、まだ夢の中にいるような感じなんです。……私が殺し屋をやめて、普通の女の子として暮らすのが……貴方と出会って全部良い方向に変わっていきました。……あなたと出会えて良かった。……ラコスポが貴方を殺す依頼を出さなかったら、私は今頃どうなってたか」
あの出来事からもう半年経って……そうか、あの時は本当に必死になってたな……
今だから言おうか。自分の命が惜しかったのもあるけどヤミが可愛かったから普通の女の子にしてやるって思いもあった。つまり下心なのだ。でも、その下心で何かが良い方向に変わったのなら無駄ではなかった。
「……明久は、私と出会って……良かったと思いますか?」
「あ?何馬鹿な事聞いてるのさ?今の質問で僕と同等のおバカになっちゃうよ?」
「……教えて、ください」
あまりにも真剣な顔。溜息を吐いて、頭を掻きむしって答える。
「馬鹿な事を聞かないの。……君と出会って良かったと思ってる。その思いに嘘はない」
「……ありがとう。やはり、貴方を好きになれて良かった」
素直になったヤミも破壊力が凄まじい。何故か?あれだけ『触らないでください』とか『近寄らないでください』と言い放って髪の毛を変形させてぶん殴ってきたヤミは何処へ?そんな風に考えさせるほどスキンシップが激しい。密着率が半端ない上にあれだけ無表情だったヤミがこんなに色っぽい顔をして……全く、お兄ちゃん何処でそんなの覚えたか気になるな?……いや待て、モモとかか?なんにせよ笑う事が多くなったヤミは普通にドキドキするものがある。
「明久、帰りましょう。一緒に料理するんです」
「あいあいさ」
家に帰るまでも僕とヤミが片方の手で荷物を持ち、片方の腕にヤミが抱きつく形で……傍から見たら恋人に見えるのだろうか。……ハーレムが無かったら、一人の女の子とこういう風にイチャイチャしてたのだろうか?……何れにせよ前の僕が見たら卒倒する程の変化だ。
家に帰ってきてエプロンを着る。ヤミにもエプロンを渡したのだが、なかなか上手く着れてない。
「ほら、着せてあげる」
「……私、情けないです」
「そんな事ないよ。これから沢山着る事があるだろうからね。じゃあまず料理の基本から」
包丁の持ち方、具材の切り方。調味料の量り方などを丁寧に教えていく。料理はレシピ見れば出来るだろうし、まずは道具の使い方から教えれば問題ないだろう。
「ふふっ、料理楽しいです」
「じゃあ今度ヤミに何か作ってもらおうかな」
「……はいっ、楽しみにしててください」
反射的に頭を撫でる。前なら突っ撥ねられただろうけど今なら子猫のように撫でられるのに抵抗もない。可愛くなっちゃって……
「あ、そろそろ三時間経つな……早いね」
「……えぇ。……約束してください。また私とデートするって。そしたら、い、良いことしてあげます」
顔を赤くしてなんて事を言ってるんだ。
「……明久は、嫌ですか」
「い、嫌じゃない……けど……うーん……」
「……大丈夫、私はいつまでも待ってます。……明久も教えてくれました。焦らなくていいって」
「……わかった、ちゃんと答えは出すよ」
「えぇ、待ってます」
そう言って顔を近づけて来る。そう言えば二度目だな、ヤミとキスするのって……
「……あの時も言いましたがまた言います。私は貴方が好き。だから絶対に離れません。覚悟しといてください」
「……あぁ、わかった」
ヤミがるんるんと料理の続きをしているのを横目で見ながらルンさんとの待ち合わせの場所に向かう。ヤミとのデート中に指定された場所へ。そこはルンさんの家の前。
インターホンを鳴らしてみる。そこに出てきたのは……
「あ!ルンがご執心な男じゃないか」
ルンさんそっくりの男の人が出てくる。確か、第三次成長期の際にルンさんと分離した男の子だったような。
「あの時ルンさんと分離した……」
「レンだ。レン・エルシ・ジュエリア。ルンに呼ばれてるんだろ」
「まぁ、ね」
「行けよ、ルンは部屋だ」
「ありがとう」
「にしても……ふぅむ……本当に金色の闇に刺されて生きてるなんてな」
「いつの話だよ」
それこそもう三ヶ月四ヶ月程前の話では?とにかく礼を言ってから、『RUN』と書かれた看板の部屋の前にやってくる。意を決して扉をノックした。
『はーい』
「お邪魔します」
「あ!明久君!来てくれてありがとう!」
いきなり抱き着かれる。……彼女も普通にスタイル良いから恥ずかしいんだよなぁ……
「さて、三時間コースだよね」
「急になんか変な感じになるからその言い方はやめてくれ」
「ごめんごめん。さてと!じゃあ明久君に特別ライブを開きたいと思います!私の歌、聞いてくれる?」
「RUNの生歌をたった一人で聞けるなんて多分僕だけじゃないかな?是非お願いするよ」
「了解!じゃあ特別ステージにごあんな〜い♪」
そう言い手に持っていたスイッチを押したルンさん。床が急に開いてしまう。
「えっ、ぎゃぁぁぁぁぁっ!」
真っ暗な部屋に落とされてしまう。下にはマットか何かが敷かれていてそれで助かったものの、下手したら死んでいたかもしれない……いや、誇張し過ぎた。途中から滑り台みたいになっていたし。
「吉井明久君!今日はこのRUNの特別ライブに来てくれてありがとう!」
いきなり部屋がフラッシュで眩しくなる。そのフラッシュに目をやられるも、すぐに視界が回復してくる。目の前は本格的なライブステージで、その上には特別衣装を着たルンさん。
「そ、それはッ!マジカルキョーコの敵役、ブルーメタリアの時の特別衣装!」
「見てくれてるの!?ありがとう!」
何を隠そう、このマジカルキョーコ、普通に面白いのである。ストーリー良し、キャスト良し、音楽良し。見る前はそんなの見ねぇよなんてバカにしてたからあれだけど普通に面白いから今も録画して見る位には好き。
それになんと言ってもブルーメタリアの衣装。なんとエロい事か。純情な男子高校生の劣情を催させる衣装。小さい子が早くからその手の道に目覚めてしまったらどうするんだと問い質したいが、僕はこの服装が好きな為何も言わない。
後はもうRUNの歌を合いの手を合わせて聞くだけ。僕だって聞いたり予習したりしている。余裕で合わせられるし、彼女の歌も全部聞いている。熱烈なファンになってしまったのだ。僕好みの歌詞と歌。これはファンにならざるを得ないほど。小遣いでCDを買うにはね。
なんと三時間、途中途中で休憩を挟んでライブ感想。
「凄いよ!生演奏凄い良かった!僕の為にありがとう!」
「えへへ、喜んでくれたなら嬉しいな」
「いや〜CDとかウォークマンで聞く声もいいけど生が一番なんだなぁ」
「え!?CD買ってくれてるの!?」
「だって君の歌好きだもの。よく聞いてるよ、ウォークマンにも入れてよく聞く」
「嬉しい……!明久君に聞いてもらえてるならこれからも頑張れそうだよ!」
「ただ無理はしないでくれ……君が倒れるのはダメだからね」
「わかってる。明久君の為だもの。よいしょっと」
休み終わったのかルンさんが立ち上がる。その瞬間だった。あまりにも際どい衣装がついにポロリしたのである。
「へ?きゃぁぁっ!」
「わぁぁぁぁっ!?」
……見えた。見えてしまった。淡いピンク色の……やめろ!考えるのは辞めるんだ!
「ルンさん、これ!」
タオルを投げる。包まった後は僕は見ないように着替えてもらう。
「ちょっと驚いたけど私は別に明久君なら見ても良かったのに。生着替え見ないの?」
「まだレベル高いかな……」
「そっか。明久君が大丈夫になるまで何時でも待ってるよ。私はアイドルだけど、明久君の女でもあるからね」
「ファンの皆に言ったら卒倒するよそれ」
「大丈夫、いつか辞める時も来るから……それまでは頑張るけどね」
「応援してる。だから……また、君の歌を聞かせて欲しいんだ」
「その一言でまた明日も頑張れそう!明久君、こっち向いて」
言われた通りに向くと、キスしてしまう。……今日で4回もしてるのか……傍から見たら相当なクズだな僕って……
「いつもはRUNでいなきゃいけないけど、明久君の前ではルン・エルシ・ジュエリアでいるからね。……今日はありがとう、私の歌を聞いてくれて」
「こちらこそありがとう。……そうだ、これ差し入れね」
のど飴だったりはちみつをたっぷり入れたチャイが入った水筒を差し出す。
「辛くなったり嫌な事があったら遠慮なく家においで。愚痴とかも聞くし、一緒にご飯食べたりすれば乗り越えられると思うから。ね?」
「ありがとう!」
眩しいばかりの笑顔で見送ってもらい、僕は歩き出した。さてと。今は夜中の20時。これならいけるかな。そう考え家とは反対側の道を歩き出す。
辿り着いた家の前。『籾岡』と書かれた表札。そう。里紗の家。昨日デートが無くなったから埋め合わせである。
『こんな時間に誰だろう……はーい』
出て来た里紗は凄いラフな格好だった。
「あ、明久!?あんた何してるの!?」
「デートの埋め合わせに来た。支度をしろ」
「えっ、えぇ!?お風呂入っちゃったし……!お父さんとお母さん居ないし……」
「構わん。……て言うか家に上がるよ」
無理矢理里紗の家の中に上がってリビングにやってきた。本当に誰も居ない。仕事に帰ったようだ。
「……デートの埋め合わせ……昨日のだよね」
「あぁ」
「……今から?」
「そうだとも。行きたい場所とか選べ。今なら全然問題なく店もやってるだろうし……まだご飯作ってないなら作るし」
「じゃあ一緒に作ろうよ。私もまだだし」
「オーライ」
里紗とキッチンで並んでご飯を作り始める。……久しぶりだな、キッチンに並んで料理するの。……昔と今じゃ立場が逆転することになるなんてね。
ご飯を作り終えたら一緒に食べる。……うん。コイツ普通に料理上手いし結構お嫁さんスキル高いのよね。
「美味しいね」
「上達したじゃないか。昔からっきしだったのに」
「色々頑張ってるからね……にしても、もうデートも8回目でしょ?疲れない?」
「疲れはするけど、皆の為だもの。それに僕も楽しいから」
「……今だからぶっちゃけるよ。……本当はね?私ワガママだから……ハーレムにも賛成してはいなかった。心の中ではずっと明久と一緒がいいって……周りの子の事なんて全く関係ないって思ってたの。ハーレムなんて上手くいかないって思って……だけどアンタは普通の恋愛より、皆の心を取った。その時私も目が覚めたよ。皆で幸せになれるんだって思える様になったら肯定的になれた。……アンタは本当にすごいよ。私は、明久を好きになれて良かった。アンタは?私の事好き?」
里紗の一言に茶碗を置いてテレビを見ながら答える。
「……君が居なかったら僕はずっと独りだったからね。感謝もしてるし、なんだかんだ言って優しいしスタイル良いし……献身的な所とか、周りを盛り上げられるところとか……僕は君のいい所をいっぱい知ってる。……そうやっていい所をくまなく探すくらいには好意は抱いてるよ」
「……そっか、ありがとう。ねぇ、お願いがあるの」
「何?」
「一緒にお風呂入ろうよ。……悪ふざけとかなし。私も何もしないから。何かしたら速攻出てもいい。……一緒に入りたい……ダメ?」
「……今日の僕は否定しないんだ。良かったね、僕がデートモードで」
「……へへ、ありがと」
先にお風呂を頂き、身体を洗って湯船に入ってるところ、里紗がタオルを巻いて入ってくる。彼女も身体を洗って湯船の中で背中合わせにして浸かる。……これ誰かに見られたらアウトなのでは?てかタオル付けてないし……里紗も外しちまったし……
「……アンタは本当に優しいよ。こんなワガママにも答えてくれるもの」
「……別に。僕が断ったら悲しそうな顔するだろ。それを見たくないだけだ。後味が悪い」
「……ほんと、底無しに優しい」
後ろから抱き着かれる。……でも、不思議と悪い気はしなかった。いつもなら『離れろ』とか『何してんだ』とか突っ撥ねるけど……僕も大人になったということかな……
「……今日はやめろとか言わないんだね」
「……こう言うのも、悪くないと思った。それに言ったのは君だろ。こういう事は女の子もしたいんだから否定するのは良くないって」
「……ふふっ、やっぱアンタ以外考えられない」
そう言って離れていく。浴槽を出ていった。身体を拭きながら彼女は言った。
「……でも、私のワガママでこれ以上困らせたくないから、この先はアンタがちゃんと言ってくれるまでは我慢する。……それに私だけにかまけてるわけにもいかないしね」
「……君も大概だ」
「え?何が?」
「こっちの話だ。……さて!じゃあ子守唄でも歌ってやろうかな」
「逆に起きてそうだよ、私は」
「あと一時間、何するも君の自由だ。早く寝て明日に備えるもよし、一時間で何かお願いがあるならそれをしてもいいし」
「……今はいいかな、あとして欲しいことはもうちゃんとアンタにとって今は嫌な事だろうし。アンタから言って欲しいから今は我慢するよ」
「……わかった」
「それまでは待っててあげるけど、あまり焦らされるのも好きじゃないから宜しくね」
「……その時はちゃんと決めて面と向かって言うよ」
満足したようで今日は帰りなさい言われたので家路に着いた。里紗のして欲しい事って、つまりそういう事だろう?……否定はしない。だけど、僕はどうすればいいんだろう?責任も取れないのに……そんな事をして……それに、自分がそういう事をするって実感とか想像もつかない。
家に着くと、ヤミが出迎えてくれた。
「遅かったですね、どうしたんですか?」
「埋め合わせだよ。里紗の時は中止になったから今日に持ってきたんだ」
「そうですか、じゃあ寝ましょう」
「……はい?」
「ですから、寝るんです」
「いや、その……なんで掴んでるの?」
「……私と寝るのは嫌ですか?」
仕方ないので何も言わずに部屋へ行く。無言は肯定と言う言葉はどこから来たのだろうか。そんなことを考えて寝間着に着替えた途端にヤミが入って来た。
「……お邪魔します」
「寝るだけだからね、何も無いよ」
「はいっ」
おやすみとだけ伝えて布団の中で目を閉じる。後ろから抱き着かれながら……ダメだ、寝るんだ……明日も皆を連れ回すんだから……寝ないと……
そう考え続けて、僕が寝れたのは一時間後の事だった。