「西村先生、知的好奇心を育む為には具体的な目的が必要だと思うんだ」
相手の目を真っ直ぐに見つめた雄二が鉄人の心に届けるように言葉を紡ぐ。その発言に鉄人は何も言わない。
「古今東西、科学技術の発展の裏には必ず戦争の影が存在した。鉄が生産されたのは工業のためではない。剣や鎧を作る為であり、馬を育てられたのも農業の為ではなく騎兵の生産の為。近代で挙げるなら各技術の発端だって戦争だと言えると俺は思う」
鉄人は何も言わない。それをいい事にさらに続ける。
「科学技術の発展という明るい結果が生まれる背景には人類同士の戦争という暗い過程が存在し続けてきた……とまで言うと言い過ぎかもしれないが、戦争は危険なのに、明確な目的を持つとその度に科学技術は飛躍的に発展を遂げた。これは残念ながら目を背けてはいけない事実と言える」
鉄人は何も言わない。
「本来、科学技術の発展は知的好奇心を原動力として発生する。それは古代だろうと現代だろうと……どのような時代であっても変わらない。だがその原動力がより効率的に結果に結びつくのは……過去の事例に目を向ければ『戦争の勝利』という闘争本能に根ざした『具体的な目的』が存在する場合が多いと見える。別にだからって戦争が必要かと言われればNoと俺は言う。戦争と言うのは多くの死者を出し、同族種を殺す。タブー破りもいいところだ」
「…………」
「だがそれが愚行であってもそこなら学び取れる事も存在する。それは『知的好奇心は具体的な目的を持つことで、より良い結果へとつながりやすい』という事実。……ここまで言えば西村先生にもわかってもらえるはずだと俺は信じている」
雄二がそこまで言うと、鉄人はここで初めて反応を見せる。
「坂本、お前の言わんとしてることは伝わってきた。確かに知的好奇心は目的の有無によって在り方、存在が変わってくる。それはその通りだ。共感しよう。だが……」
鉄人が腕組みを解いて僕ら全員にはっきりと告げる。
「没収したエロ本の返却は認めん」
『『『『くそぉぉぉーっ!!』』』』
男達の悲鳴が聞こえてくる。僕は連日で動かした身体のあちこちが悲鳴を上げている為、机に突っ伏していた。
「吉井を見習え、アイツは最近悪さをしないとは言えないが成績はAクラスレベルでこう言った事にも参加しなくなった」
「鉄人!それはアイツに何人も嫁が居るからだ!日本の法律である一夫一婦制を無視して15人くらい女侍らせてんだよ!」
「吉井に関しては2年の美少女という美少女を根こそぎかっさらっていった上に3年や1年の注目されてる美少女まで持って行っちまったから俺らにはエロ本しかねぇんだ!」
風評被害を受けている気がする。いや、間違ってないんだけど……なんだろう、改めて口にされるとクズ度が増してる気がする。
「アンタそれでも教育者かよ!保健体育で足りない知識をこれで補おうと思ってたのに……!」
「吉井に関しては話を聞くとして……大前提として、お前らから没収した本は成人向けだ」
「くそぉ!」
「おい吉井!お前は俺らの仲間だろ!」
「根性見せて仲間に加われや!」
この前爽やかな雰囲気を出してた横溝君も今じゃこの腐れ外道っぷり。早かったな……にしてもそうだな、エロ本か……
「そうだなぁ……鉄人、僕から没収したブツも返して頂きたいのですが」
「お前は犯罪臭がするからダメだ」
「な、なんでですか!」
「自分より小さな者……まぁ年の差はマイナス1か2程度だが、毒牙を向けようと言うその魂胆に加え、自分のストライクゾーンを広げて人妻までとは……しかもお前に関しては他の者より冊数が多い。よって……」
「あ、じゃあ焼却処分しといてください、お願いします」
「お前はなんで処分を願って土下座しているのだ?」
そりゃもう人妻だとか貧乳とかのエロ本を無理矢理押し付けられて勉強しておくようにと言われたものだ。僕には不要なものである。元々雄二達に押し付けようとした所だし。
「お前!女の身体を知ったからエロ本は要らないってか!」
「誤解だ!僕はまだ大人の階段を登った覚えはない!ただ押し付けられて自分で買ってないエロ本なんかに興味は無いだけだ!」
隣のララから凄い視線を感じるけど気にしない。気にしたら僕の負けだ。僕が10何人の女と関係を持ったなんて知られたら表を歩けない。本格的に宇宙に行って地球に帰ってくることはなくなるかもしれない。
「そもそもの話、エロ本はまた買えばいいんじゃないかと思うけど」
「お前天才か?」
「いや待て!俺らが奪われたのは俺らにとってたった一冊のエロ本なんだ!それを奪われたのは屈辱ではないのか!?」
「お前の性癖が巨乳ポニーテールでブラフに選んだ年下や人妻系を処分されていいのはわかるが奪われた中には取り返したいものがあるのではないのか!?」
熱演されて思考を再開。ふむ、一理どころか百理ある。取り返したいエロ本か……あ。そう言えば……!
「巨乳パラダイスの袋とじ……まだ開けてない……!」
「そうだ!お前はそれを開けずして死ぬ事が出来るか!?」
「立て!俺らと共に失われたものを取り戻すんだ!」
叱咤激励を受けて立ち上がる。ごめん、皆……僕も男だから。それに……皆と何かをするって素晴らしいと思うから……
「すまない鉄人……僕はやらなきゃ……まだ、それを見てないから」
「デビルークがお前の事をゴミのように見ているのは気にしなくていいのか?」
「視線を気にしてエロ本が読めるかよッ!!」
「そうだそうだぁー!」
「やっぱお前もこっち側が似合うぜ兄弟!」
待ってましたと言わんばかりの熱気で性根の腐ったクラスメイト達が鉄人を囲い始めた。
「よぉし、流石の鉄人もこの人数相手なら無理だろ」
「貴様ら……いい度胸じゃないか」
「鉄人覚悟ぉぉぉーッ!!」
恨み募る怨敵に対して拳を固め、一同全員で飛び掛かった。
◇
「あの野郎、絶対人間じゃねぇよ」
先程熱弁を語っていた雄二が悪態を吐いていた。体格も良く、喧嘩慣れしているはずの悪友は一本背負いでやられた背中を摩っていた。
「にしてもお前、なんで攻撃に参加しなかった?」
「勝てない勝負はしないタイプなんだ」
「にしてもお前、エロ本あったんだな?てかなんで年下ものや人妻ものを持ってたんだよ」
「年下の奴は扱いを勉強しろと言う事でネメシス達から……人妻ものはセフィさんから押し付けられた」
「……なんかすまんな」
本当にどうにかしないといけない。このままだと僕の威厳は丸潰れ、それに加えて今回はお気に入りの音楽プレイヤーを取られたのである。僕がどうなっても構わないから音楽プレイヤーは取り戻さねばならない。
「同じだ。最近新しい新譜入れたのにパァだ」
「明久も雄二も持ってこなきゃいいのに」
「お前わかってねぇなぁ、毎日好きな曲を聴きながら登校するのは精神衛生上非常にいいんだぞ」
「……俺はカメラ」
「なるほどな……ララは何かないのか?」
「だって関係ないもの持って行って没収されるのやだし」
「至極真っ当な意見をどうも」
さて、どうするか。エロ本はどうでもいいとして音楽プレイヤーは取り戻さねばならない。僕のささやかな趣味なのだ。
「明久、やるか?」
「……あぁ、やるしかないね」
「あーあ、懲りないねぇアンタ達も」
里紗が瑞希と春菜を連れてやってきた。
「アンタはエロ本なんて無くてもいいでしょ」
「音楽プレイヤーを取り返すんだよ」
「なんだお前ら、いつもならイチャイチャすんなって明久に突っかかってたのに突撃しなくていいのか?」
雄二が要らん事を言うが、こちらをなんか辛そうな目で見て答える。
「いや、俺ら吉井のせいでハーレム別にいいかなって」
「アイツハーレム徒党組んでからなんかゲッソリしてるし、よく良く考えれば全員満足させなきゃいけないのストレス半端なさそう」
「吉井、頑張れよ」
「何その反応!?なんで!?」
「だって毎日のお前見てたらハーレムって思ったより地獄そうだなって思っただけだよ」
「そりゃ腹立つけどもっといい獲物いるしな」
そう言って雄二を見る皆。なるほどな、純愛を狩りたい派なのか。まぁそりゃそうだろ。普通は普通の恋愛をして居るはず。僕は普通を貫けなかったからこうなっただけで……普通の恋愛をしてる奴が目の敵にされるのは当たり前。
「ふざけんな明久!」
「霧島さんに雄二がハーレムがいいと伝えておくね」
「どっちを転んでも地獄かチクショウ!」
「やめなよ明久、坂本は坂本の告白のタイミングがあるんでしょ」
「そうですよ、口ではあぁ言っても翔子ちゃんにメロメロですもん」
「お前らはどういう解釈したらそういう意見が出てくるんだ!?」
そりゃいつ見てもラブラブだからに決まってるだろ。霧島さんと接してる時の雄二もなんだかんだ言って仕方ないなと言いつつも構ってあげるのはもう好きだからに決まっている。にしてもなんでこの3人ここに来たんだ?
「にしても明久、まだエロ本隠し持ってたとはねぇ?」
「だーまーれ、僕は悪くないだろ」
「いいえ、大方明久君はエッチな本をこのクラスの人達に押し付けようと持ってきたんですよね」
「確かに必要としてる人の手に渡すのは悪くはないけど学校に持ってきたらそれはアウトだよ」
至極真っ当な正論で何も言えない。
「にしても吉井、お前の横にいつも居る金色の髪の毛の子とかが理由で年下を選ぶのはわかるがなぜ人妻を?」
「そりゃお前、デビルークさんの母親と手を組んでいたのが怪しいだろ」
「吉井NTR趣味ってマジ?」
「アイツ自身で脳を壊すコンテンツはNGしておきながら自分でそれを承認するとは見下げた奴よ」
「違う!断じて寝取った覚えはない!」
「そうだよ!ママが勝手に明久がタイプって言って言い寄ってるだけだから!娘側は困ってるんだよ!」
「……吉井……」
なんで言わなくていいこと普通にバラすんだろう。僕の学校での立ち位置危ういものになってるの気付いて欲しいんだけど?
「まぁ何れこの学園の女という女は堕としそうだよな」
「ドSモードのせいでお前学園の女を自分の欲を発散させるだけの道具としか見てなさそうとか思われてるからな」
「なんにせよこの学園の女子はお前に反抗出来ないのはもう決まりだよ」
「そんな事ないから!……あー!明久が泡吹いて倒れてるじゃん!」
ダメだこりゃ。僕にはどうしようもない。ネメシスがSに振る舞いたいお年頃だからなんとかしてやったけどそれのせいで僕が学園の種馬とか女の子を快楽で屈服させるの好きそうとか女の子を従わせて下僕にする鬼畜とか風評被害が酷過ぎる。
「まぁ、女が迫ってきた時はこいつを盾にすりゃいいとしてだな」
雄二が訳わかんない事を言って話を仕切り直す。
「俺らは俺らのブツを取り返さなきゃならん。それをどうしようか考えるのが先だ」
「まぁ、そうだよな」
「吉井、起きて作戦会議に加わるんだ」
「はいはい」
目を覚まして辺りを見渡す。そこに入ってきた一枚のポスター。それに惹かれるが如く、僕はそのポスターの前に歩いていった。
「あ?どうした明久」
「……全員、バットを持て」
「「「「「は?」」」」」
「僕らが合法的に鉄人をぶっ潰すチャンスがある」
そう言って雄二にポスターを渡す。それを見た雄二もニヤリと悪い笑みを浮かべた。
「へっ、いい事考えるじゃねぇか明久。お前も悪だな?」
「いやいや、代表様程では」
僕が渡したのは球技大会のポスター。もうすぐ体育祭が始まる。それに乗じて球技を用いた大会が開かれるのだ。野球やサッカー、バレーボールetc。
ならば答えは1つ。『どさくさに紛れ、接触事故を装って鉄人に復讐作戦』である。それを聞いた皆のボルテージも上がってきた。
「お前ら、今は牙を研いで待て。地に伏して屈辱に耐え、チャンスの為に力を貯めておくんだ。そして忘れるな。今まで俺らが虐げられてきた事実を……俺らが叛逆の牙をまだ失っていないことを!」
『よぉし!一泡吹かせてやるぜ……!』
『俺達の底力を見せてやる!』
『そうだな……俺らは積もりに積もった恨みを晴らす権利と義務がある!』
「……あんた達ってほんと懲りないよね」
「明久、お願いだから馬鹿な真似は辞めてよね……」
お願いだから外野は黙っておいてくれ。僕が困る。
「冗談じゃない!今まで虐げられてきた屈辱を無に帰せと言うのか!」
『残念だったな籾岡!もう吉井は俺らの味方だからな!』
『吉井!お前が居てくれたら百人力だぜ!』
どんな形であれ、頼ってくれるのは嬉しいものだ。こうやって仲間でバカやるのも楽しいわけで。
「悪いけど今回ばかりは僕もこっち側だから」
「そんなにエロ本が大事なわけ!?」
「いや、エロ本はどうでもいいんだけどね」
「ふぅん……あんた、家帰ったら覚えときなよ……!行くよララちぃも!」
そう言って4人が出て行ってしまった。
「……明久、ご愁傷さま」
「待て、僕はまだ死ぬのが確定したわけじゃない。とにかく!僕らは勝たねばならない!お前らー!鉄人というチンパンジーに奪われたものを取り返したいかぁッ!!」
『『『うぉぉぉぉぉー!』』』
「鉄人に日和ってる奴いる!?居ねぇよなぁ!!鉄人潰すぞぉッ!!」
『『『『おぉぉぉぉぉぉぉ!!』』』』
よし、士気は最高。こうなったら誰も止められないだろう。覚えてろ鉄人。僕は鉄人をバットで殴り飛ばし、鉄人にギャフンと言わせてやる……!
「あ、そうだ。あんたら」
里紗が戻ってきた。
『なんだ吉井の嫁第2号』
「私を番号扱いすんじゃないっての!全く……あんたらの企み、無かったことになりそうだよ?」
「「「「「は?」」」」」
全員の目が点になってしまい、間抜けな声を出す。何を言ってるんだ里紗は?
「はい、追加でポスターを西村先生が貼ってたよ」
里紗から受け取ったポスターを見て、僕は雄二と学園長室へ駆け出すのだった。
━━━━━━━━連絡事項━━━━━━
文月学園体育祭 親睦競技 『生徒対教師交流野球試合』
上記の種目に対し、本年は実施要項を変更し、『競技に召喚獣を用いるもの』とする。
文月学園学園長 藤堂カヲル