学園長室に辿り着き、ノックすらせずに部屋に入っていって、優雅にお茶を飲んでいる学園長の机を叩いた。
「学園長、説明してください。僕は今……冷静さを欠こうとしています」
「既にノックもせずに入って来てアタシの所に来てる時点で冷静さの欠片も見えないけどねぇ」
「頼むババア長。俺らはどうしても鉄人に復讐してぇんだ」
「それをさせない為にこうしたんだろう?」
まぁ学園長の言う事が正しい。だけど今回ばかりは引けない。音楽プレイヤーを没収されたのだ。
「この際成人向け雑誌の返却はどうでもいい。不当な持ち物検査を行って、尚且つ特定の生徒に向け他の生徒より遥かに厳重なプライバシーを侵害しかねない持ち物検査を行ったのは良くないと思います。現に、僕はもう観察処分者ではありません。それは学園長も承認してくださいましたよね」
「ああ、それに関しては認めている。それにお前さんは成績も良くなった。それに関しては鼻が高い。だがお前さんが問題を起こさないと決まったわけではない。お前さん、自分の噂については知ってるのかい?」
「……えぇ、クラスメイトから聞きました」
「お前は別の意味で要注意人物となっているからねぇ。前の3年生との対決では人格が変わり、女性を辱めたりする発言を繰り返し……まぁここまで言えばわかるね?」
「確かにそうです。ですから問題児という点には目を瞑りましょう。ですが、僕は不当な持ち物検査を行った件に関して許さないと言っているんです。僕だけパンツ一丁にされましたからねあのチンパンジーに」
最悪だった。何も仕込んでないと言うのに。エロ本だって持ち物検査さえなければクラスメイト共に押し付ける予定だった。エロ本に関してはもういい。十人十色の十数人の美女美少女。そんなのに囲まれていれば女に関してはもうお腹いっぱいレベル。正直勘弁してくれと言うレベルだ。
「だからババア長。俺らは考えた。アンタはこの調整されたプログラムを他にアピールしたい。違うか?」
「……続けな」
「だから俺らはそれに則って試合をする。この大前提にケチをつけたりはしない。ただ追加ルールを欲しいだけだ」
「と言うと?」
「景品として僕らは持ち物検査で没収された品々を取り返したいという事です。これならそちらは景品を用意する必要は無いし、僕らは満足します。あの仕様に文句を言う生徒達もある程度鎮められる文言を用意すればいい。『交流試合で教師チームと当たって勝ったクラスには叶えられる範囲で願いを一つ叶える』とね」
僕らの即興で考えた文言は結構当たり障りが良かったみたいで、ふむふむと頷きながら考えてくれていた。
「……ふむ、名より実を取る……か。お前達にしてはよく考えられている」
「……じゃあいいんだな?」
「その代わりこちらからも一つだけ頼みたい事がある」
「……聞きましょう」
「お前さん達にはスポンサーから注目を集めている。特にお前さんだ。腕輪はどのように発現するか覚えているかい?」
「400点以上ですよね」
「そう。400点以上を取ったものに『ランダム』で能力が与えられる。その能力に関してはこちらからは干渉の余地がない。吉井の場合は完全に使用者と召喚獣がリンクして、今までの召喚獣の動きとは別次元の動きを可能にする……坂本の場合はまだ見た事がないからわからんがね」
「何が言いたい?」
確かにこれだけでは何が言いたいかサッパリだ。雄二と共に学園長の言葉に耳を傾ける。
「教師達もそれぞれ、腕輪を持っているのだが如何せん教師達の召喚獣もアップグレードした。つまりお前さん達に頼みたいのは出場する教師9名の召喚獣のデータを取りたい。武器や服装、腕輪の内容など」
「俺らをモルモットにしたいって訳か」
「データを取るのに協力が必要ってだけさね。お前さん方には勝ち上がって、教師チームと戦ってもらう。そして腕輪を使わせる事。それが絶対条件だ」
「はっ、俺らが途中で負けるとでも?」
「Fクラスの大概は馬鹿揃いではあるが、お前さん達は例外だ。……条件を呑むかい?」
「あぁ。呑んでやる。最悪明久一人がなんとかするからな」
待て。それだと僕が過労死するではないか。あ、そうだ。
「じゃあルールの明文化は君に頼むよ」
「任せとけ」
「それに今回からお前さん達の召喚獣もアップグレードされている。これは全生徒が対象さね。今回は全員野球着を着たモデルとなっているが、今までとはほんの少し使用感が違う。そこは慣れて欲しい」
「分かりました。では」
後は雄二に任せ、教室に戻ろうとしたところで……
「……吉井?」
「霧島さん?どうしたの?」
「……雄二と肩を並べて歩いていたから浮気調査」
「待て、君は僕が男と浮気するように見えるのかい?」
この人はたまに怖い。雄二の為ならなんでもしそうだ。
「……半分冗談」
「半分は本気なのが怖いよ」
「……吉井のツッコミ、雄二と同じ」
「そう?」
アイツと同レベルかぁ……ちょっと傷ついたでござるよ?てか冗談はさておいて半分をつけるとそうなるのは当たり前では?
「そう言えば雄二なら今学園長と話をしてるよ」
「……雄二が?」
そこで学園長室の扉が開かれた。
「あぁ、じゃあよろしく頼む。そちらの条件もちゃんと完遂するさ。失礼しました」
「……雄二」
「なんで翔子が明久と居るんだ?ついにこいつのハーレムに加わる気になったとか?」
「彼女曰く僕が雄二と浮気していたらしいよ」
「男に浮気するほど追い詰められてねぇ」
おお、これくらいでは動じない。流石と思ったが、聞けばいつも霧島さんは僕と雄二で浮気してるとか秀吉と〜なんて言ってるらしい。風評被害もいい所だ。
「……雄二、何話してたの?」
「昨今の経済情勢をな」
「……嘘ついたから雄二の熱帯魚の水槽に完全防水で敷いてあるエッチな本を焼く」
「……悪かった……てかなんで知ってるんだよ!?」
僕としては霧島さんもすごいと思うけど熱帯魚の水槽の底に沈めたりしてる君の方がすごいと思うよ?それもう見たい時に取り出せるレベルではないのでは?
「……他にも本棚の下とか天井裏にもあるのはお見通し。他にも雄二の部屋の机の上に堂々と置いてある参考書のカバーを被せてあるやつとか」
「頼むからお前俺の思春期生活を阻まないでくれよ……」
珍しく雄二が泣き言を言っている。これも一重に霧島さんの愛だろう。
「……私には雄二の成長を確認する義務がある。身長、体重……オットセイの大きさ」
「……翔子、俺はもうお前と幼馴染としてやっていける気がしないんだ」
「……気のせい」
なるほど。愛妻による身体成長過程観察。僕だったら逃げていただろう。てか気のせいでやり過ごそうとする心胆といい、頬や顔を赤らめることなく言い放つその度量。彼女だからこそできるのだろう。
「……吉井、雄二に女の子の扱い方のレクチャーをして欲しい」
「待つんだ霧島さん。僕はそんなの会得した覚えはない」
「……?毎晩調教して手懐けてるんじゃないの?」
「僕はそんなにドSになった覚えはなーいっ!!」
なんて事だ。ドSである事を否定しないと僕がこの学園で過ごすあと一年、絶対女性から引かれてしまう。
「そういやそんなにコイツのドSが印象に残ってるのか?」
「……中にはドSで罵って欲しいなんて人もいる」
「おい明久、白目剥いて泡吹きながら気絶するな」
「どうすりゃいいんだよ!僕がドSな訳じゃない!つい最近編入したネメシスのせいだ!」
「……でも普通の人はネメちゃんが吉井に憑依できるのは知らない」
「そうだな、明久に三人も憑依していたなんて想像できないだろ。諦めろ、お前は女性からは畏怖と恍惚の視線を、野郎共からは崇められて生きていけ……て言うか最近ネメシスってそんなイタズラとか高圧的な態度取るか?マジでただの天真爛漫なJKにしか見えないが」
「……吉井が調教して性格を変えたとか」
「……お前……」
「ああああああああああ!!」
間違ってないから否定できない。ネメシスの事を嬲りまくってたら性格が変わってしまったのだ。悪魔みたいな高圧的な態度からただの小悪魔的な感じに……何も言えないから発狂するしかない。
「……でもなんだかんだ言って吉井は優しいから」
「お前もう明久の所に永久就職しろよ」
「……雄二は私が吉井に寝取られるのが見たいの?」
「そうじゃねぇ!それだと俺がただのクズになるじゃねぇか!」
「そうだよ、雄二がクズなのは決まっているとして僕もクズになるじゃないか」
「一夫一婦制を無視したクズが言えた事か!」
それ言われたらなんも返せないだろ!一発で勝負が決まるワイルドドローフォーはやめろ!
「やめてくれ雄二、その一言は僕に効く……てかもう諦めないと収束しないから……」
「……雄二、吉井は苦労している……吉井を見習うべき」
「何故だ……!?俺が間違えているのか……!?」
「……例え間違っていても、傷つけさせまいとした行動だから」
「霧島さんは僕の味方なんだねぇ……」
「クソッ」
なんとか教室に帰ってくる。クラスメイトの他、里紗がまだ残っていた。
「どうだった?」
「まぁなんとかなりそう。鉄人を直接ボコるのは出来なくなったが球技大会で負かしてやればいい。勝てば没収物も帰ってくるから勝ってしまえばいい」
「本当にやる気なんだねぇ……」
ララすら呆れたこの状況。僕らが悪いのか?否だ。断じて否。
「君はどうするの?呆れたから帰る?」
「まさか、明久側についてあげる。召喚獣なら私強いしね」
「確かにララが居ないと壊滅だからな。最悪トーナメントを見たんだが、3年のAクラスとも戦わねばならんからな」
「へぇ、あのイケメン童貞先輩またぶちのめせるんだ」
「お前ほんと高城のヤロー嫌いだよな」
「男にキスされたらこうもなるよ……オェッ」
僕は滅多に人を嫌いにならないけど、高城先輩だけは別だ。常夏コンビくらいヘイトを向けている。
「あき……吉井君居ますか」
そこにやってきたティアーユ先生。学園ではちゃんと贔屓せずに他の皆と同じように呼んでくださいと頼んでいるけどもうチラホラ見えている。
「なんですか」
「あのね、学園長から野球試合のトーナメント表を渡して欲しいって言われて……」
「ありがとうございます」
「……ルナティーク先生もそういや吉井のハーレムに居たよなぁ」
「吉井も罪な男だぜ、なぁ?」
後ろの野次が五月蝿い。ティアーユ先生を虐めるんじゃない!
「やめろ、ティアーユ先生は明久のラキスケの被害者だ。明久にラキスケされた女は堕ちるともう決定したんだ」
「……吉井……俺らでもそういうの良くないって分かるぞ」
「だぁぁぁぁぁー!僕は悪くねぇぇぇーっ!大体皆チョロいんだ!こんなのに一目惚れしたとか優しくされたから堕ちたとか!そんなんで堕ちるなーッ!僕がラキスケした時点でドン引きしろぉぉぉー!」
僕を見る目が可哀想なものになっていく。僕はもうハーレムの王として生きていかねばならないらしい。
「……吉井、お前の言う事は正しいが……我々異端審問会はお前のせいでハーレムが嫌になったのだ……責任を取れ……」
「知るかぁー!」
「静かにせんか馬鹿者ッ!」
いきなり帰ってきた鉄人の怒鳴り声で冷静になった。鉄人はティアーユ先生の方を向いた。
「ルナティーク先生、どうなされたのです?」
「あ、その……学園長から坂本君と吉井君にこのトーナメント表を渡してくれと頼まれたんです」
「なるほど。……お前達、野球試合では覚えておくのだな。俺達が勝った暁には過去問10冊を1週間後に提出するよう仕向けてやるからな」
「この鬼畜チンパンジー!絶対覚えておけよ!」
「そんな脳の破壊を促す行為をさせるのが教師のやることか!絶対鉄人の召喚獣にフィードバックつけて股間にホームラン打ってやるからな!」
「貴様はどうしてそんなピンポイントで恐ろしいことが言えるのだ!」
絶対に許さない。僕をひん剥いたその罪は鉄人の股間への一撃で償ってもらう。
「にしても9人も教師チーム居たとして……誰居るんです?鉄人と高橋女史以外総合科目僕でも勝てそうですけど」
「お前は教師陣を舐め過ぎだ。それぞれに特化した科目の教師に合わせたテストでやればいい。ただこのクラスには土屋が居る為保健体育の大島先生が保健体育を選ぶ事は無い。大島先生曰く、『土屋がナンバーワンだ』と仰っていたからな」
「……我が恩師に圧倒的感謝を」
まぁムッツリーニその内保健体育だけで1000点取りそうだからなぁ……他の科目未だに150点すら越えてないけど。
「まぁ楽しみにしておけ。いくらお前達が最近成績が良くなったって、教師を越えられぬという事を叩き込んでやる」
「……鉄人だって人間なんだ。僕らにも勝機はある。……僕は宣誓する。僕の全てを使って……あなたを打ち砕くと」
「……ほう?言うではないか」
「何事も全力で取り組めばチャンスは訪れる。……鉄人の言葉だ。僕はそれを信じてあなたと対峙する……それまで負けないでくださいよ」
「……面白い。お前達こそ負けるんじゃないぞ」
火花をバチバチと散らせて今日は授業が終わり、鉄人が帰って行く。絶対に勝ってやるからな!覚えとけよ!他の皆が帰って行く中、いつものメンツで固まる。
「よし、作戦会議だ。明久、家OKか?」
「散らかってるから掃除に30分欲しい」
「OK。その間家に帰って用意したりしとく」
「わかった。さっさと帰るか」
ララと家に帰ってきたが、まだお昼回らない程度。この時間、家には誰もいない。セリーヌも今は寝ている。
「さて、片付けるか」
「にしても本気なんだね」
「音楽プレーヤーは僕の命と言ってもいい。それを奪われたのは終わりだ」
「嘘つくのが下手なの変わってないねぇ〜」
ララに後ろから抱きつかれた。
「本当は誰かと一緒に何かをしたいだけなんでしょ?」
「……ほんっと君には勝てないな」
「にへへ、そうでしょ?だって私明久を変えた女だもの!」
「……そうだね……よし!じゃあ二人で掃除終わらせよう!」
「おぉー!」
雄二達が来るまでになんとか自室とリビングの掃除を終わらせねば。そんな思いでララに僕とララの部屋の掃除を頼んで、リビングの掃除に手を付け始めた。