「帰ったか明久」
「……お帰り」
「……うん、ただいま……」
消費した点数を回復すべく、補充試験を受けて中央グラウンドに戻ってきたが、何をやっているのだろうか?くじ引きをしているようだが、皆元気がない。
「あれはなんなの?」
「んむ?あぁ、くじ引きじゃが」
「わかる、それくらい僕にもわかる。なんのくじ引きか聞いてるんだ」
「二人三脚じゃな」
あー、プログラムに組み込まれてたっけ?でもなんであんなに意気消沈しているんだ?女の子がララしか居なくて、もう決まってたから?
「誰もララと当たってないんだ」
「へぇ」
「一説ではララが明久と当たるように何かしら仕組んでいるとも」
「いくらララでもそこまでしないだろ……何番?」
「8番じゃな、皆挙って狙っておるが、もう残りワシと明久のみ。まだ8番は出ておらん」
「俺はムッツリーニとだ。勝ったも同然だな」
「じゃあ僕は秀吉と組んで勝ちを狙いに行くか」
「なーにー?私とじゃ勝てないとでもー?」
後ろから覇気を感じた。振り向くと何故か8の番号札を二つ持っていたララ。
「はい、明久の分」
「嘘だろ……あの中から8だけ二つ取り出したのかよ……」
通りで8が当たらない訳だ。皆も落胆しながら小声でブツブツと何かを呟いている。因みに残った秀吉は奇数なので誰とも組む事無くチアガールとして応援する事になった。
「なんでワシの服は女物なのじゃ……」
「今に始まった事じゃねぇだろ」
「そんな事言ってものう……」
諦めてチアガールになり切ろうと踊りの練習を始めた秀吉を横目にララと紐を結ぶ最中。
「いざとなったら明久引っ張ってでも走るからね」
「甘いなララ、お前ら夫婦だろ?夫婦なら息ピッタリじゃないといけない」
そこに横槍を刺す雄二。その言葉にハッとなって顔を赤くしながら僕の足と自分の足をくっつけて縄を結んでいく。
「流石正妻だな」
「それほどでもあるよ〜!むほほ〜!」
どんな笑い方だ。てか夫婦って何を言って……
『次は二人三脚、二人三脚です。出場する選手は──────』
考えるのも束の間、直ぐに二人三脚のアナウンスが流れる。ララと向かう。僕らはほぼ初っ端からスタートなのでこれが終われば昼休憩を挟み、野球に戻る。なのでこの二人三脚は重要ではないから、さっさと終わらせようなんて思っていても……
「絶対勝つよ!1着取るんだから!」
パートナーは凄いやる気である。そんなに夫婦と呼ばれた事が嬉しかったのだろうか?
『……プリンセスララ、変わってください』
『そうだよ、せんぱいと走るのは私でしょ』
『いやいや、ここは私だろう』
中の3人も凄い不満げなご様子。まるで『正妻は私だ』と言わんばかりの……
「ふふ〜ん、て言うか3人共別クラスだしなんなら別学年でしょ」
『……どうして私は1年生なのですか』
『思えば……私達せんぱい卒業しても1年いないといけないの地獄では?』
『……誤算だった……!』
さて、もうそろそろ競技も始まるし気を引き締めていかないとね。思考をシャットアウトしてゲートを潜った。
◇
勝負というものはあっという間に終わってしまうものだ。特にララが張り切ってしまった故に。
一人で僕を引っ張って走ったのだ。そのせいで僕は引き摺られ、身体の至る所に擦り傷が出来ている。今はヤミ達が身体から出て来て僕の介抱をしてくれている。
「……プリンセスララ、なんて事を」
「流石にこれはアウトだろ」
「いくら夫婦と言われたからって夫引き摺り回すのはどうかと思うよ?」
「……アキはこれから準決勝があるのです、直ちに治さなくては……」
「痛み止め持ってきたわ」
そう言って白衣を靡かせる保健医。なんて事だ、依怙贔屓と言われてもおかしくない。そんな事を考えさせるくらいここに居るのはあまりにも不自然だった。
「これ飲んで頑張りなさい」
「こ、これは?」
「私が調合した薬よ。飲んでみて」
言われるがままに飲んでみる。十数秒後にみるみる痛みが引いていく。
しまいには傷が塞がりつつあった。
「な、なんですかこれ」
「そりゃ宇宙クオリティのお薬だから地球の男の子が使えば一瞬よ」
説明になってない。なんにせよ動けるのならいいか。
「ありがとうございます」
「……ドクター・ミカド、私達の仕事を取らないでください」
「ごめんなさいね、でも……ね?愛した男が怪我してたら助けるのは普通でしょ?朝起きたら顔洗って歯磨きするのと同じくらい普通なのよ」
こっちにウィンクしてくるんじゃあありません。て言うか愛が重くないか?なんて考えたら優雅に帰っていくし……
「吉井、もう準決勝始まるぞ」
「あ、あぁ。すぐ行くよ」
コイツらももう本当に何もしなくなったな……それはそれでなんか寂しい気もするが……てか前に言われた「お前と接してると女の子と接する機会無くなるから」とか言われたのがマジでショックだった。僕と話してるだけで女の子と接点なくなるから話しかけるの辞めるとか僕何もしてないぞ???
「どうした吉井」
「……い、いや……なんでもないんだ……」
「何しょげてんだ?勝つんだろ?」
……でも、一定数はちゃんとこうやって接してくれる。……ならいいか。僕は僕のやるべき事を為さないと。
三年のEクラスとFクラスが勝負がつかなかったから僕らはそのまま不戦勝となり、3年Aクラスと戦う事になった。
「また戦う事になるとは思いませんでしたね」
「僕はまたアンタをボッコボコに出来るのが嬉しくて堪らないですよ」
「あなたのそういう所は変わりませんね、ハーレム王君」
「オーケイ喧嘩売ってんだなちょっと校舎裏までツラ貸せや」
コイツに言われると血液が沸騰するくらいキレそう。いや、もう八割八分八厘キレてるんだけども。
「キレ過ぎだろ落ち着けよハーレム王」
「そうだぜハーレム王」
常夏コンビまで現れてそんな事を言う。……絶対に許しておく訳にはいかない。まだ高城に言われるなら百歩譲って許せるが、このモヒカンとハゲに関しては絶対に許したくない。
「……おい雄二、止めてくれよ……手が出そうになっちまったよ……」
「常夏コンビはいいだろ、仮に死んだって悲しむ人間がいるか怪しい所だしな」
……人権まで無視し始めたぞコイツ。許さないとは言ったが流石に僕でも人権は否定したりはしない。
「お前俺らをなんだと思ってやがる!?」
「黙れ。だが高城のヤローは不味い。いくら3年の女先輩達が明久に惹かれているとはいえ奴のファンはまだ多い。明久、お前が全員堕としてから殺れ」
コイツもコイツでムカつく事を言いやがる。友達だと思っていたのは嘘だったらしい。
「僕をなんだと思ってるんだ!」
「坂本君は私に対して直接手は出さないようですね」
「あぁ。アンタが如何に間抜けで阿呆でただ成績が高いだけのクソ童貞だと知っていても俺はアンタには手出しはしないさ」
雄二への怒りが失せるくらい知りたくない事実を知ってしまった気分だ。え?高城先輩遊んでんじゃないの?チェリーなの?……うわぁ、本人図星みたいだし……
『嘘だろ……高城先輩童貞なのかよ……』
『あれは図星だろ……えぇ……』
『吉井の方が格上じゃねぇか……』
そんな声がチラホラ上がる。それに乗じて雄二が畳みかけ始めた。
「そうだぞ、明久は美少女美女に手を出しまくってる中コイツは女にキザな態度取っているが経験ないイキリ野郎だからな。既に何人も手を出してる明久の方が上だ」
「おい!僕だってまだ……」
その雄二の発言が遂に逆鱗に触れたみたいで……見てわかるくらい高城先輩がキレ始めた。この人もやはりキレるんだな。
「じゃあ……君達には本格的に痛い目を見てもらいましょうか」
何を偉そうに言ってるんだ、前にガチで戦って負けた癖に。しかもクロ憑依させて負けたのは決定的に僕の方が上だろ。
「……じゃあ来いよ。お前が二度と僕らの前に現れたくないと思うまで叩き潰してやる」
「辞めとくのじゃ明久、こんな童貞で手を汚す必要もなかろう」
秀吉まで弄り始めてるとは……もう童貞先輩なんて言われ始めてるし……
「そこの大半も童貞でしょう!」
「高城……気にすんなよ……」
「……俺らは気にしねぇからよ……」
常夏コンビからも同情を得られている。これは屈辱だろう。
『む、前に戦ったあの男……ふむ、面白いじゃないか』
やめろ。君が出たら事態が混乱しかねない。なんて考えるのも束の間。身体を乗っ取られる。あーあ、僕は知らない。
「なぁ雄二、随分と面白そうな話になってるじゃないか」
「……お前出てきたら本当に相手が再起不能になるからやめろ」
流石の雄二ですらストップかけるネメちゃん先輩流石です。てかマジでメンタル粉々にしたいのか……前に言ってた『精神的に調教するの大好き』は本当だと信じたくなかった。いや、何度も見てきてるが目を逸らしていた。今回ばかりは目を逸らせない……!
「そう邪険にするな。僕は腹抱えて笑い転げる位には面白いと思っている」
「……お前って奴は……」
「出ましたね、数多の女性を惹かせるドSモード……」
「羨ましいか?羨ましいだろうなぁ?なんて言ったって女に手を出す度胸もない上に僕に一度も勝ったことないただのクソ雑魚チェリーだもんなぁ」
こめかみに手を当てている高城先輩。確かに嫌いだけどここまで追い詰める必要も無いだろうに。
「フェアな勝負と行こうじゃないか。僕らに勝てば嫌でもモテる方法を教えてやろう……そう、それこそ……まともに女の一人も堕とせんサルのような理解力の奴でも。流石にお前達男にはあるんじゃないか?モテたいという深層心理」
3年の男子が半々で興味あると興味無いの反応を示す。そりゃそうだ。いくらそんな事を言っても彼女がいる人は普通にいるのだ。
「まぁ無理だろうけどな。僕らに試召戦争で一度も勝った事がないお前達では……まぁ?あの時は2年VS3年だったから全体での戦いだったが、今回はバカしか居ないクラスを相手にするんだ。勝ち目はあるんじゃないか?肩の力を抜きなよ、この学園で一番頭良いんだろ?」
その発言でとうとう3年Aクラスの怒りのボルテージがMAXになってしまったらしく、あんな奴に負けるかなんて声が聞こえてくる。しかも男だけ。女の人からは羨望の眼差しを貰っている。何故だ、何故こうなった?自分のクラスのベンチに行くとネメシスがククッと笑う。
「本当に単純な奴らだ。乗せるなんて造作もないな」
「……未だにお前が憑依した時の明久は見慣れねぇや……」
「なんだ、メアよりはマシだろ」
「……あっちはあっちで別ベクトルで危険じゃからな」
「……明るい分殺されかけた時の事考えると恐怖を上乗せしてくるからな」
『失礼な!』
確かに笑いながら召喚獣の顔や喉を狙うの控えめに言ってサイコパスだと思う。
「そんな事言ってたら僕がダークネス化した時にお前達は耐えられるのか?」
……は?僕がダークネス化……だと?ダークネスって確か……
「待て、ダークネス化ってーと明久のオキニがおっかない状態になった時のことだろ、なんでそれを明久がなるんだよ」
そう。ヤミが惑星を叩き切ったと言うあのおっかない状態なのに何故か服の面積が極少になる罠。そしてヤミ自身がえっちぃサイコパスになってしまったあの状態。
『ネメシス、どういうことですか』
「どうもこうもない。ヤミがこの中に居るんだ。その上でダークネスの力を使えばコイツもダークネス化と同等の力を得るぞ」
とんでも理論を展開するな。僕があんなんになるなんて有り得ない。強い心で乗り越えてみせる。
『じゃあマスターもえっちぃの大好きになって……おぉう』
『それはない。あれはヤミがラキスケされまくってバグったせいでなったものだ』
『……破壊衝動を抑えるえっちぃ事って冷静に考えたら凄い事なのでは……流石人間の三大欲求……』
何感心してんだ。君は被害者なんだからもっと抵抗しろ。
『本来なら明久も破壊衝動に駆られてしまうが……ヤミ自身が完全に制御してるなら問題は無い。遥かにいつもより強気になってしまうがな』
「……た、例えば?」
『この学園を退学になってもおかしくない事はやりそうではある』
「……まぁ明久は素で怖い所あるからな……」
『ダークネス化……見てみたくもある。……いや、ぶっちゃけめっちゃ見たい。今までバカにしてきた奴らを悉く蹂躙して再起不能にする所を見てみたい……!』
僕がそんな事を望むと思ってるのかこのメスガキ。にしても……
「まぁいい。奴らを全員潰せば話は終わるんだろう?私としてもただ外見のいいだけのブ男を許すわけにもいかんからな」
「お前は何もされてないだろ」
「我が下僕の唇を奪ったと聞いた時は頭の血管が浮き出た」
「……お前も苦労してんだな」
思い出させるんじゃあない。さてと。気持ちを切り替えていくか。
「……さて……どうやって奴の顔面にバットをぶつけるかだな」
「お前ってほんと嫌いな奴はすぐぶちのめそうとするよな」
「お前にだけは言われたくない。常夏コンビをサンドバッグにする権利はくれてやる。だがあのクソチェリーは僕に譲ってくれ。バットで五、六発は殴らないと気が済まない」
ドン引きされるが気にしない。ハーレム王と揶揄してきた時の奴の顔。あれは絶対に面白がってる顔だった。それを許しておいたら自分が自分でなくなってしまう。
「よろしくお願いします!」
選手が一列に並び同時にお辞儀する。ちゃんとスポーツマンシップに乗っ取って戦う為、ここら辺はしっかりしないと……あれ?
「沙姫ちゃ……天条院先輩は?」
点数が高いはずなのに姿が見えない。こういう時取り巻きと一緒に居るはずだが……Where is she?
「あぁ、君と戦うのは嫌だと言ってAクラスの女の子とお茶しに行きましたよ」
「えぇ……」
自由奔放過ぎる。九条先輩とかはちゃんと公私混同しないのに……九条先輩はちゃんと出てるのに……
「にしても天条院さんまで手篭めにしていたとは驚きです。やはりハーレム王のアドバイスを頂きたいものですね」
「悪意なく言ってるの一番害悪なのに気付け阿呆」
「それは失敬。ですが驚きの方が大きいのです。あんなに高らかに悪役令嬢みたいな笑いをしていた彼女が豹変した。君は知っていますか?彼女ボンデージを着てAクラスのクラスメイトに鞭打ってたのを」
え、そんな事してたの?後で問い質さないと。割とマジでそんなキャラじゃないだろと思ってたが……マジか。高笑いしてたとかは聞いてたし知ってはいるけれど流石に女王様みたいなことをしてたなんて……
『な、なんてことをバラしているの!』
観客席から癇癪を起こす沙姫ちゃん。どうやら本当らしい。
『あ、アキ君!違うの!あれは小暮さんに唆されて……な、何をするの!離しなさい里紗ちゃん!私は訂正を──────!』
「ふふ、あれは楽しかったですわ」
「あなたの仕業ですか」
腰をくねらせている小暮葵先輩。歩く18禁。声とかからしてもう大人のお姉さんである。僕がハーレムでうんざりしてなければ目をハートにして追いかけていただろう。
「男子生徒達へ、サービスサービスぅ!ですのよ」
「怒られてくれ頼むから」
「私が言うと似合いますでしょう?」
「無敵かよ」
なんでこの人ちょっと面白そうなのか。サービスサービスって……妙にテンション高かったし……何よりマッチしてるし……アニメの次回予告で聞いた声と全く同じだし……別人なのは知ってるけど凄いな……
なんて考えながら配置に着く。打席に三年生の一人が立つ。攻撃は向こうからだ。ピッチャーもキャッチャーも引き続き同じで僕とララ。
『今度は私がいきます、ちゃんとルールも2人とは違って覚えてますので』
そう言ってヤミが憑依する。どんなプレイをするんだろう。少し気になりはします。だって如何にも運動しなさそうな女の子。ルールがわかってても実戦は厳しいだろうし……
「ストレート、投げます」
……なんか投球宣言しちゃったよ。相当舐めてるのか、それともなにか作戦があるのか。いや、これはストレートを投げると言って変化球を投げるのでは?なるほど、相手も動揺しているし……てかネメシスといい、ヤミといい……野球に詳し過ぎる。
僕の召喚獣が第一球を投げる。それと同時に召喚獣が目の前に出た。は?何をやって……
「へ、血迷ったか馬鹿め!こんなの簡単に打てるぜ!」
そう言ってカキンッと甲高い音が鳴るが、球はどこへ?空中に浮いてないし……なんて思ってたら……
「……甘いですね、本当に……」
なんと打った球をバッターの眼前で捕らえてしまったのである。ありかよ、反則だ。なんて思ったけどそんな反則どこにも無いし、強過ぎだろ……バット毎受け止めてるし……
「バッターアウト」
「な、なんだと!?」
「……どうして勝てると思ったのですか?本当に浅まし過ぎです」
「クソッ……!あんな化け物に勝てるか……!」
「……次の打者、来なさい。すぐに三振にしてみせましょう」
「けっ、今度は冷静モードかよハーレム王君よ」
やってきたのは常夏コンビのハゲの方だ。
「……あなたですか。なら顔面と股間にストレートを投げますので」
「ちょっと待て!審判!あれは許していいのか!?」
「プレイボール」
僕のよく知る保健医が淡々と告げた。嘘だろ……!
「そうだった……!御門先生も確か吉井のハーレムの一員だったな……!」
よくあの人審判許されたな。何やってんだ。大人しく保健医として働いていれば僕の風評被害も少なかったのに。
「ドクターミカド、贔屓はいけません」
「いいえ違います。当たらなければどうということはありませんし現に吉井君は先程の試合でデッドボールを躱しながらホームランを打っていました。他にもそういった芸当を行った生徒も何人か居ましたので、召喚獣の扱いを信じて頑張ってください」
「いつもの3倍頭のネジ外れてねぇか!?無茶しか言ってねぇ!」
真剣な顔をしてとんでもない事を言い出したぞあの人。こっちにウィンクするな!共犯に思われるだろ!
「では第一球を投げます。フォークボール、股間へ」
「待て!完全に当てに来てるぞ!?」
「気の所為です」
「無表情で棒読みな分怖さが増すなこれ!代打!常村!」
「バカか夏川、俺は次打つから代打は認められん」
「裏切るなー!」
その日、一人のハゲが命を散らした。無駄に精度の良い球がネメシスが憑依していた時より遥かに早く強く、ハゲの召喚獣の股間へ飛んで行った。フィードバックによる痛みにより、彼は天寿をまっとうしたのである。
「ザマァァァァァッ!悪い事ばかり考えるからだよバーカ!」
「へっ!ようやく逝ったかあのクズ!目障りだったんだよなぁ!」
「頭良いだけの阿呆がよ!死んで当然だクソッタレェッ!」
「よくやった吉井ィッ!お前は勇者だぁッ!」
「よくやったぞ明久、今俺達は雨上がりの空を見ているくらい晴れやかに気分だ」
こいつらは絶対にまともな死に方しない。僕はこの日確信した。人の不幸は蜜の味なんて言うけれどこんな事しておいて喜べるわけがない。相手がいくら常夏コンビだったとしても。高城だったとしても。流石に痛めつけて喜ぶなんて間違ってるだろう。恥を知れ俗物共め。中指を立てるな。全く、どういう教育を受けたんだ……
「夏川俊平、負傷につき退場。次の方どうぞ」
「狂ってやがる……!命が散ったんだぞ!?」
「厳正な審判の元です」
「クソッ……!あいつガン有利じゃねぇか……!」
これに関しては本当に同情する。アウェーな環境でデッドボールを喰らった選手を畳み掛けるかのように罵声を浴びせるなんて人のやる事じゃない。
「……私が言うのもなんですが、あなた達相当狂ってますね」
「やったのおめぇだろ!」
「でもそれでいいんだ!お前だって散々嫌がらせされただろ!」
確かに嫌がらせとかされてたけど……中の三人がドン引きするくらいクズ具合MAXだった。
『……明久、よくこんな人達と一緒に居られますね』
『Aクラスに行って桃色生活を満喫した方がいいんじゃないの?』
『これに関しては私も反吐が出るほど薄汚いな、アイツら』
流石に僕もそう思う。まぁ今回に限っては奴らについたから僕は夢を見せてやらねばならない。仕方なく思考をリセットして……
「次はあんただろモヒカン、来いよ」
「……高城、降参しようぜ?悪いことは言わねぇ」
凄い、一人やられてすぐに降参に走るあの姿勢。あれは自然界では必須スキルだ。危機回避能力とでも言えば良いか。それがバッチリである。
「いいえ、降伏はしません」
「お前!俺らはまだ軽いかもしれんがアイツはお前に関しては多分再起不能にされるぞ!?」
「……例え彼がその気でも私は最後まで戦います。それがスポーツマンシップであり、私達に必要な諦めない心なのです」
なんでこっちが悪者みたいになってるんだ?物語の主役は僕だ!お前達は悪!正義は僕が決めるんだ!お前達じゃない!
「……来ないならここから投げますね、モヒカン、顔面」
なんて事を言うんだ。無差別に攻撃はNGだろ。いや、指定してるから無差別ではないが……流石元殺し屋……僕の無理だと思った事を平然とやってのける。
「し、審判!アイツ目がイカれてやがる!クスリやってるような目だぞ!」
「……無駄です。御門先生は吉井君に貪られ堕ちてしまったのです。もう私達が何を言っても吉井君の言葉にしか耳を傾けないでしょう」
「安心なさい、私は教師であり医者だからそこら辺はちゃんと弁えてるわよ。現に股間を強打した彼は病院へ送ったし」
「そういう事じゃねぇだろ!あれは反則にしないのか!?」
「教師達の満場一致で続行らしいわよ」
「この学校は狂ってんのか!」
それは僕も思うけど……あんたが言えた口ではないだろ。今までズルしてきた罰が当たったのだろう。竹原と色々悪さした時とかの影響でよく思われてないらしい。
「とにかく!俺は殺されたかねぇ!」
「……ククッ、無駄な事だ」
あ、ネメシスが出て……ヤミが出した様なワームホールがモヒカン先輩の進行方向上に現れた。その中に入っていったモヒカンが……え?いつの間にバッターボックスに立ってんだあの人。てか本人ですら立ったことすら気付いてない。チート能力じゃん。何?キン○・クリムゾンなの?
「え、えっ!?なんで俺はバッターボックスに居るんだ!?確かに俺はグラウンドを出ようとして……!あのベンチを出た!なのにどうして……!」
「お前も一人の男だろう?そんな情けない声を出してないで構えろ」
観念した様子でバットを構えたモヒカン先輩の召喚獣。見ていて可哀想だが……いや、めっちゃ可哀想。いくら悪い事したからってこれから痛めつけられると知ってると素直に喜べない。
その日、僕は悪魔と英雄の肩書きを同時に背負う事になってしまった。僕はなんも悪くないのに……モヒカンも股間にボールを食らって意識不明の重体となってしまった。
そして第三打席。大きなメロンを揺らしながらその人はバッターボックスに立つ。
「次は私ですわ、よろしくお願いします」
「おおー!歩く18禁先輩!運動出来るんですか?」
「勿論!新体操部に入っておりますので……野球は難しいですが頑張りますわ」
「じゃあ手加減してあげる!まぁ打ったとしてもアウトなんだけどね」
メアが暇だからと言う理由で出ていった。……やばいよ、僕を見る目が完全にアウトじゃないか。そりゃそうだ。人格コロコロ変わるんだから。
「ところで吉井君にお聞きしたいのですが」
「へ?何?」
「ハーレムはまだ募集中でしょうか」
なんて事を聞いてるんだ試合中に。中の三人もビクッてなったのわかるぞ。それに向こうの観客席。あの瑞希ですら殺気が……
「もうお断りだよ!ただでさえ多いんだから!」
『そうですわ!なんであなたがそんな事をぉぉぉぉー!』
「単なる冗談ですわ。私が打ったらハーレムに加える……と言うね」
「小暮選手、退場で」
審判!頼むから公平に審判してくれ!そんなおっかない顔してそんな事言わないでくれ!周りの評価が!僕のこれからの学園生活が終わる!
「……いいえ、そんな事しなくて大丈夫です。絶対に打たせません」
ヤミが普通にキレてる。なんでだ……あの温厚で優しくなったヤミが僕がラキスケした時と同じくらいキレてる……
「もう胸の大きい女性はいりません……!」
待つんだ。それを僕の身体で言ったらアウトだろ。ふと自チームのベンチを見れば……
『ゴルァ吉井ィィィィィ!テメェまたそんなことをぉぉぉぉ!』
「……うるさい人は嫌いです」
なんとこの娘僕の身体使って味方のベンチにボールを投げやがった。投げられたボールは騒ぎを立てた横溝君の横数ミリを通り過ぎた。……なんて事を。下手すれば死ぬぞあれ。震えて倒れてしまったし……
「……次僕が不利になる事を騒いだら……あなた達の命はありません、返事は?」
『『『イェス!ユアマジェスティ!』』』
「分かればよろしい。彼は気絶しただけです。この試合が終わった後に目が覚めます」
ちょっと前みたいなヤミを見れたのが僕の中で嬉しいので良しとする。……いや、鬼の心で叱らねば。ヤミがこんな事をするのは良くない。普通の女の子はこんな殺気出さないし無闇矢鱈に人を脅したりしない。
「では行きますよ、歩く(自主規制)さん」
「ふふっ、そんな風に言われるなんて興奮しますわね」
「……ッ!」
余裕そうな小暮先輩を見て召喚獣がボールを投げる。……てか何てことを言うんだ。僕は君をそんな風にした覚えはありません。
なんて考えてたらバットに球が当たる。それと同時にやや後ろ気味に上に飛んでいく。
「……やらせない……ッ!」
なんと僕の召喚獣が走って軸を合わせ、ジャンプしてボールをキャッチした。僕の召喚獣は難なく着地してボールを取ったのを見せる。
「バッターアウト」
「まぁ……流石ですわ吉井君、益々あんな外見だけの高城君より惚れてしまいそうです」
「帰ってください……!」
猫みたいに威嚇するとふふっと笑って帰っていく。なんとか0点に抑えて攻守交替となるが……
「ちょっと!なんであんた歩く(自主規制)先輩に言い寄られてたわけ?」
「なんでここに居るんだよ!」
里紗が僕の胸倉を掴んでは僕の身体を揺らす。そう、Fクラスに紛れ込んでいるのだ。なんでも『あんなのに言い寄られてたのを問い詰める為』との事。あれ、僕何も悪くなくね?
「私もFクラスに編入しようかなー」
「旦那を監視する為だろ」
「にゃはは当たり〜」
「籾岡も吉井にはゾッコンだもんな」
「里紗は僕居ないとなんも出来ないからね……グェッ」
「余計な事を言うんじゃないよっと」
そこ持たれたら死ぬんだが?てか割と照れてるの可愛いですね……おい心を読むな足を踏むな。いつも僕に対して責めばっかなんだから今度は弄られ側になれ。
「吉井もハーレムでお疲れだしなぁ、ここは俺らがパパッと決めますか」
「やめとけよ雑魚、今のお前イキって瞬殺される雑魚キャラだぞ」
「俺らは俺らで這いつくばって点数上位者様に倒してもらえればいいのさ」
卑屈かつクソみたいな事をほざいているの本当に良くないと思います。そんなんだから女も寄ってこないのに。
「あんた達って性格が曲がり過ぎじゃない?」
「何を言う?俺らは甘い汁を啜って生きていたいだけだ」
「性根の曲がった奴らねぇ、少しは明久見習ってみたら?」
そう言うと反吐が出ると言った顔で首を横に降り始めた。
「だって命懸けなきゃいけないんだろ?」
「吉井のオキニの金髪の女の子を助ける為に1回死にかけたって聞いたぜ?」
「他にも色々あるらしいが……」
「俺らにはそんな主人公ムーブ出来ねぇよ」
無茶苦茶やってただけでそんなでもないんだがなぁ。まぁ確かにヤミの一件はあるけど……
「別に死にかけろなんて言わないから誰かを想って一生懸命になったら?って話よ。女ってのはそういうのに弱いってこと」
「籾岡言っても説得力がなぁ」
「里紗はいつも絡んでるメンバーの中で一番乙女だよ」
「マジで?ギャップ萌えじゃん」
「これは参考にさせて頂きますわ」
後で覚えてろって顔をしながら観客席に戻って行く。ほらぁ乙女じゃないか。
『……明久、里紗に甘い』
『何言ってるの?一番甘やかしてるのはお姉ちゃんだよ?』
『これはメアの言う通りだ。お前、最近明久に甘え過ぎて元のキャラ壊れてるぞ』
『……そんなの知りません、私は明久に一生甘やかして貰いたいです』
そんな話を聞きつつ攻撃に移る。ピッチャーは高城。僕は3番だから……スリーアウトになる前には来るのか。
「おや、まずは君ですか木下君」
「おう。ワシもやれる所を見せてやらんとな」
「えぇ、では『男らしく』正々堂々勝負です。小細工無しですよ」
あ。向こうも対策してやがる。秀吉がいつものジジイ言葉を忘れて『よっしゃこーい!』なんて張り切ってるし。もちろん三振だけど。
「お前後で姉貴にチクるからな」
「……ワシは後悔はない……!男扱いされた事に意味がある!」
「何と戦ってんだよお前……」
「元はと言えばお主らがワシを男扱いしないから……!」
「もう引っ込んでろお前、次!」
次は康太だが、もう結果が見えきっている。だって、保健体育以外の康太って居てもいなくても変わらん有象無象と同じようなものだし。最近Eクラスくらいには点数を取るみたいだけど……
「……もうお前行くしかないな」
「あのチェリーに一泡吹かせてやるか」
立ち上がって召喚獣を呼び出す。ピッチャーボックスに居る高城先輩もこちらを憎たらしそうに見た。
「なるほど、君ですか……」
「簡単に勝てると思ったかマヌケ」
「いいえ、君相手は本当に小細工無しの必要がありますね」
「僕相手ならとかほざいてる時点でお前自信がもう負けてる事に気付け阿呆め」
「……君は本当に私の神経を逆撫でするのが得意ですね……!」
まぁ怒るだろうな。こんなに挑発してるし。
「ならなんだ?お前じゃ僕に勝てない。力の差も実感出来ない……そんな事もわからん奴に用はない。……さっさと投げろ雑魚」
挑発しまくった結果、もう元の爽やかキャラが嘘みたいにキレ始めた。
うわぁ、あんなの初めて見た。普段優しい人って本性表すとこんなになるのか。いや、一概にそうとは言えないけど……
「一々煩いんですよッ!!」
そう言って投げられた球。召喚獣が振り返す。……球はバットに当たり、豪快に飛んでいく。股間に当たった高城先輩の召喚獣ごと。
召喚獣は場外を飛び越えるかと思いきや直線で体育館に叩き付けられた。マジ?これ下手したら死ぬぞ?
「……う、あぐ……!」
「あーあ、さっさと降参すれば良かったのになぁ?ちょっとでも勝てると思ったか無能め……お前みたいな無能に女が寄る訳ないだろ?自覚しろ。顔だけ良くて例え成績が良くたって……お前は好かれる人間ではない」
球が当たった場所は股間な挙句、フィードバックは100%な上、体育館に叩きつけられた高城先輩の召喚獣。もう立ってる事すら無理だろう。視線を向ければ高城先輩がうつ伏せで気絶していた。……ここまでする必要あったか?
「勇気と無謀が違う事くらい分かると思ったんだが……まぁいいや。次のピッチャーを早く寄越せ、続行するんだろ?」
本当の悪魔じゃないか。なんて事を。僕はそんなキャラじゃないし……おい、笑うな。何笑いながら言ってんだ。
「……こ、降参します……」
Aクラスの生徒の1人がそう言った。よ、よし!このままなら犠牲者は三人で済む……!
「……情けないな、たかがバカクラスにこんなになるまで諦めないとかほざいた挙句負けるんだもんな……もっと根本的な所見直した方が良いんじゃないか?」
最後の最後で心を折るな。これで僕は完全なる悪役だ。勝ったとはいえ素直に喜べない。ベンチに戻ると僕を見る目が悪魔だ。完全に怯えられてる。
「……俺は吉井が怖いよ……」
「……明久……」
「……見るな、頼むから僕を見るな」
「後でネメちゃんは怒らなきゃね」
「……流石に看過しておけん」
『良いではないか。ストレスの元が減るぞ?』
そう弁明するネメシス。その弁明を聞き、項垂れながらFクラスのテントまで足を運ぶのだった。