PK廃人共の異世界   作:サイトー

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七・法国首都ヤーナム

 嘗て、この異世界に転移してから百年目。レトロキャラコスプレ同好会のプレイヤーは原因不明の災害に襲われ、気が付けばこの異世界に転移し、異形種故に寿命を迎える事もなく変わらず異世界生活を謳歌していた。

 ……とは言え、何か変わった事もない。

 彼らは生粋の個人主義者である廃人であり、ネットゲームの中でさえソロPKに拘るRP勢。

 そして、彼ら彼女らは全員に自覚が転移した瞬間からあった。これは自分の肉体に非ず、異形の怪物そのものであると。この肉体にも本能に由来する人格らしき衝動と無意識が存在し、人間としての自我と融合してしまっているのだと。

 ―――12年間に及ぶ、死の思い出。

 対人厨廃人と成り果てる為に必要だった殺戮と虐殺と、心から酔いしれる一対一の決闘の記録が刻まれている。リアルとして肉体に刻まれている。ならば、同好会の者共はゲームの自分が現実を喰らい潰し、幻想だった電脳の自我が本当の自分になったのだとその日に全てを受け入れた。

 転移した場所は二十一カ所。

 全員が再会するのに有した時間はたったの一カ月。

 だが、今の同好会は共にいることを全員が拒否した。それではただのギルドと変わらず、ソロPKプレイヤー足りえないと、自分達ではないと感傷もなく別れた。何か心躍るような特別な事がない限り会う必要は皆無であり、会話をするだけならばメッセージの魔法で事足りる。共同で作業がする必要がある者は、その者同士で世界を玩べばいい。本当に何も変わらず、互いに協力し合うことさえ逆に厭い、各々が好き勝手に世界を楽しみ、時に蹂躙し、時に快楽を貪り、時に愛のため生きていた。

 

「あぁ、星の娘よ。泣いているのですか……―――何て、言うことになるとは思わなかったよ。けれど、けれどね、君はもっともっと、もっともっともっともっともっと泣いて貰わないとね。

 ―――さて。何時も通り、採血の時間だよ?」

 

 何かもを嘲笑う貌を作り上げ、聖典機関機関長ムーン・プレゼンスは装置を起動させた。

 

「―――ぁ……ぁ、ぁぁあ」

 

 苦しみ、悶え、喘ぐのは銀髪碧眼の美少女だった。服を剥ぎ取られ、手足を大の字に拘束され、全裸のまま寝たきりの姿勢を強制されていた。顔は目隠しによって目元は見れないが、布が涙で濡れているので泣いているが一目で分かる。

 ……全身に刺さるのは―――太い注射の針。

 少女の腕と脚を何本もの針が皮膚を破って突き刺さっており、しかし血は一滴も零れ堕ちていない。その針らは管と繋げられており、栄養剤を体に流し込むタイプと、少女の体から血を抜き取るタイプに分かれていた。

 

「いやぁ、しかし、君みたいな便利でタフなプレイヤーが敵になってくれて良かった良かった。本当に良かった。

 もう彼是百年前だもんね。この私がスレイン法国に転移してから二週間も掛けて裏側から支配して運営していたって言うのに、それはもう頑張ってヤマノオキナと死闘を繰り広げて説得したっていうのに。

 あの、あのオキナだぞ!

 六百年前から剣を振って鍛え続ける廃魔神だぞ!!

 一週間掛けてこの異世界の戦闘システムに私が感覚を馴らしたって言うのに、引き分けにするのが精一杯だったヤマノオキナと殺し合って手に入れた玩具だぞ!!

 ……その私の国を、アンタみたいなプレイヤーに首都を滅茶苦茶にされるとは思わなかったよ。君の手で前の首都をボロボロにされて、五十年掛けてやっとここまで進化した」

 

 スレイン法国。六百年前から変わらず存在する人間種国家であり、宗教国家。そして、百年前に転移して来たムーン・プレゼンスの手で支配された玩具でもあった。

 だが、その国には魔物が潜んでいた。

 名前はヤマノオキナ。嘗てコギル・デンスタンが生み出したNPCにして、裏切りの八欲王に殺された死の神スルシャーナに忠誠を誓う魔神の一柱。

 ―――彼は、余りにも強かった。遥かに強かった。

 ステータスやスキルが強力なのではない。それらの単純なスペックはカンストキャラクターと変化はない。だが純粋なプレイヤースキルとして振われる剣技が、常軌を逸して鋭過ぎたのだ。ユグドラシル時代では人型ならワールド級のボスさえ単騎撃破し、転移したことで更に超進化した戦闘感覚と戦闘技術を持つムーンからして、ヤマノオキナは自分以上の殺戮技巧を誇るヒャッハーダークを超えて強く、剣の業が遥か遠くの頂きに居る程に巧かった。

 

「あぁ。だけど、これだけは感謝しても良い。君の御蔭で、私は大義を以って都市作りを行う事が出来たんだから。

 その名も―――ヤーナム!

 世界全ての最新にして最深を進む医療都市!!

 堅物のオキナさんに都市の魔改造を説得するのも、それのおかげで簡単だったさ!!」

 

 死した契約者の国を守るヤマノオキナの強さは、自分達レトロキャラコスプレ同好会の廃人衆数人分。ルベドを単騎撃破した狂人のムーン・プレゼンスだからこそ、百年前は死に物狂いで引き分けにまで持ち込む事が出来ただけ。当時はあのまま殺し合えば敗北していただろうが……―――いや、だが今となっては如何でも良いと、彼女は自分自身に納得させた。

 百年前の殺し合いの最中、自分がユグドラシル時代に作ったNPCの気配を感じ取り、転移後直ぐに法国へ足を運んだコギル・デンスタンの登場と言うアクシデントが無かれば、死んでいた事実は覆らない。尤も、死んだ所で消滅する訳でもなく、それ用の対策もしているので殺されても良かったが、コギルに助けられたのも事実である。

 ヤマノオキナの創造主であるコギルは、二人を説得させ、国家運営に“ぷれいやぁ”ムーン・プレゼンスの介入を認可させた。百年前にあったのはそんな簡単な話であり、鍛錬を続けた今のムーンならばオキナにも勝機は存在する。何時かは廃人プレイヤーとして決着は付けたいが今は勝ち目が在ると言うだけで、あのオキナの領域に自分の境地を鍛え上げるには数十年は必要だろうとも考えていた。

 

「ぅ、ぅぅ……ぅぅぅうう―――」

 

「そんな可愛らしい呻き声を上げないでくれ給え。興奮してしまうだろう?

 何より抵抗は無駄さ、無駄。君の事は既に細胞の一つ一つまで理解している。私の無貌の目から逃れられず、血の一滴まで利用させて頂くよ。

 我ら転移プレイヤーの大先輩――エブリエタス・コスモス」

 

 同好会が転移して来る前の三百年前であり、現代から四百年前の事。八欲王が世界中を荒らし始めて百年後程度の時期に、プレイヤー:エブリエタス・コスモスは異世界に転移した。

 ……そこまでは良かった。

 彼女はただただ静かに暮らしていたかっただけだった。しかし、独りでの生活は寂しく、人間は数十年もすれば直ぐ死ぬ。なのでエブリは森の辺境にあったエルフの里を住処に選び、そこで誰にも迷惑を掛けずに暮らしていた元ユグドラシル廃人プレイヤーに過ぎなかった。ユグドラシル時代では同好会廃人衆や骸骨廃人モモンガと同等の超越的なプレイヤースキルを持ち、転移後の異世界では神と呼べる超越者であったが、彼女はただ寿命の長いエルフたちと生活を続けたいだけだった。

 少し遠出をしていた間、法国の部隊の手で―――里が焼き払われるまでは。

 彼女は純粋に心が折れた。絶望した。人間に失望した後、心の底から憤怒し、異形種特有の超越的殺意に突き動かされ、法国首都の殲滅に乗り出した。目に付く人間を殺し、発狂させ、オーラで即死させ、殺し尽くした。建物も破壊し回った。それが今から五十年前の話であり、都市破壊の頃合いを計ったムーン・プレゼンスの手で生け捕りにされ、今は首都ヤーナムの医療教会地下大聖堂に囚われ続けている身であった。

 

「神の生き血。宙の血液。青ざめた血―――ペイルブラッド。あぁ、エブリちゃん。美しい君に相応しい蒼褪めた朱色さね」

 

 法国の組織図に大きな変化はない。だが、ムーン・プレゼンスの参加によってある程度は効率的な作りとなり、部署も数十年前に新設したものもある。

 一つ目が六色聖典の全てを纏める聖典機関。

 二つ目が聖典機関機関長直属実行部隊の聖歌隊。

 三つ目が聖典機関機関員である蒼褪めた血の狩人衆。

 四つ目がヤーナムにおける新たな宗派である医療教会。

 聖典機関がムーン・プレゼンスの手で作り上げられたのは百年前だが、他の三つはエブリエタス・コスモスを捕えてから生み出された新組織。

 理由は簡単にして唯一の存在。

 ―――異世界では血の狩人を生み出す為の血液が、異形種プレイヤー:エブリエタス・コスモスからのみ採取可能な素材であるからだった。それが彼女が医療教会地下大聖堂に幽閉されている理由だった。ムーンが彼女を生け捕りにした最大の理由だった。

 現代より四百年前、ムーン・プレゼンスが求めていたプレイヤーが転移済みだったのは実に皮肉が効いた事実であったのだ。

 

「折角、我らの世界(ゲーム)に侵食された私が生きる異世界だもの。だったら、この異世界もゲームみたいに、あのユグドラシルと同じ様に隅々まで愉しみ切らないと生き甲斐も死に甲斐もない。

 だから君も、私の大事な玩具にしたマイ法国に復讐したんでしょ?

 楽しかっただろうねぇ……―――憎い人間を殺すのは?

 良く分かるよ。嘘じゃないよ、本当だよ?

 やっぱり殺人なんて重労働なんだからさ、面白くないのは勿体無い。折角虐殺するんだったら、邪悪に落ちた人間の屑として、極悪を得た異形種として、廃人だった頃を懐かしみながら死を尊ぶのが私達転移プレイヤーの人生じゃないかな?」

 

「ぁ……――――」

 

「おっと。血を吸い過ぎたか。ごめんごめん。でもまだ止めないよ。死んでもコギル・デンスタン特性の完全蘇生の秘薬があるからさ、何度だって死ねるさ。

 異形種は不滅。特に私と貴女は同じ種類の化け物なんだし」

 

 猿轡と目隠しに、耳栓。使える感覚器官は嗅覚と痛覚のみ。エブリエタスの意識は悪夢の中に失墜し、存在そのものがムーンの手の内に落ちてしまっていた。

 

「おやおや。何時もみたいに、その娘を陵辱しないのかね、ムーン?」

 

「困るなぁ、コギル。私は狂気と苦痛を好むだけでさ、別に色欲魔じゃないんだよ。そもそも私も元々は人間の女性だったし、この肉体も人外である無貌の者(フェイスレス・ワン)とは言え種別は雌。遺伝子と魂に刻まれた本能は男の方を求めるさ。

 私が同性に性的欲求を求めるのは単純、ただただ愉しみを食べたいだけ」

 

 装置を使ってギリギリまで血を抜き、それと等化以上のエネルギー量を持つ栄養素を流し込み続ける。医療教会にとって最も重要な作業であり、エブリエタスの血が無ければ狩人は完全蘇生による不死性を誇れず、血の神の信仰者を作り上げられない。

 そんな大切な事をしているムーンの背後から、片目眼鏡(モノクル)を付けた人間種の老人が声を掛けた。

 

「ふむ。そんなものか。まぁ、別段その辺は如何でも良い。しかし、そのプレイヤーは貴重なアイテム素材生産機だからな。

 ……壊すでないぞ。それは私も必要としてる者。

 幾度でも殺してもレベルダウンをさせずに強制的な蘇生が可能とは言え、魂が壊れてしまえば輪廻の内に自然と戻るだろう」

 

「分かってるって。貴方に狩人への輸血液や神秘薬を作ってもらえてるのも、この星の娘が生きて、苦しんで、悶えているからだもんね。初めて殺しちゃった時、蘇生を拒まれて焦ったけど、コギルのおかげで無理矢理蘇生出来るようになったのは感謝してるさ」

 

「ならば、良し。何事もやり過ぎ位が丁度良く感じる我々だが、こう言うものは程々に抑えておけ」

 

「へいへーい」

 

 そう嘲笑い、ムーンを呼びに来たコギルは地下大聖堂の扉を開いて出て行った。ムーンも同じく、コギルの後に付いて出て行く。そして、扉を出て直ぐにあるのは、この世界で珍しい文明の利器だった。本来ならば教会地下階層に様々な施設があり、階段で地下大聖堂まで降りる必要があったが、一々階段が面倒に思ったムーンが技術者に作らせた装置がそれだった。それはコギルが待機させておいた旧式エレベーターであり、二人で乗り込み、遠い地上へ一気に昇っていた。

 地下には悠久を生かされている少女がただ一人。

 スレイン法国国立宗教組織医療教会。その暗部であり、地下に造られた地下大聖堂は少女の悲しい泣き声が溢れ返る事から、蒼褪めた血の狩人衆は自然と「嘆きの祭壇」と呼ぶようになった。

 

 

◆◆◆

 

 

 地下大聖堂と地下研究施設の上に立てられた医療教会の大聖堂。そこから聖堂街上層に抜け、そのまま下層に降りて市街地へと向かった。

 用事が出来た二人は、活気が溢れるヤーナム市街を練り歩く。目的地はエブリエタス・コスモスによって破壊されなかった地区であり、昔ながらのスレイン法国の街並みが並ぶ旧市街。その旧市街も活気に溢れており、人々の声や馬車の音で生活感に溢れた騒がしさに満ちていた。

 

「しっかし、珍しい。コギルの方から、メッセージも使わないで私に会いに来るなんて。

 実験材料が豊富な漁村の近くに建築した貴方のラボラトリ―――医療教会の実験棟から出て来るなんて、かなりの珍事ね」

 

「うむ。その通りだとも。ムーン、私がお前の娯楽に付き合っているのも、お前の娯楽が私の娯楽でもあるからであり、それだけの理由だ。勿論、換え難き前世からの友人であるもあるし、無償で助けたり助けられたりもあるが、この異世界での生活は己が尊ぶ娯楽と愉悦が全てである。

 よって、そもそもが愉しみを得るための利害関係であり、娯楽においてのみ我ら二十一名は等価交換を良しとする」

 

「勿論さ。私も同好会会員が困ってるなら無償で助けるけど、娯楽や生活にまで干渉する気はないよ」

 

「その通り。それが我らの決めた異世界での掟であり、会員に生き様を強制しないことを良しとする」

 

「当たり前だよね。私たちって廃人だから、自分の娯楽は自分でやらないと情緒不安定になって発狂するし。だから現世だとゲームに入り込んで、社会不適合者だった訳だし」

 

「正しく、異論もない。なので、私がお前の法国にいるのは、私が楽しいと感じているからだ。法国に作ったムーン・プレゼンスの研究施設が素晴しく、研究の為の素材アイテムが素晴しく、研究テーマもまた素晴しいからだ。そして、法国国立大学ビルゲンワースで教鞭をとるのも素晴しいと感じている。

 何よりも、異形種になった私が素晴しいと思える―――血と獣の狂界!!

 あの漁村はとても良かった。私がお前の血液から作り上げた異形種により、あの漁村は異形種の村となり、異世界の突然変異として進化した新人類の村だ。そして、被検体を愉しむあの実験棟もまた良き研究施設だった」

 

「ありがとう。私、頑張った」

 

「どういたしまして、ムーン……とまぁ。この国はそれだけで私にとって最高なのだよ。

 何よりも、この世界にハグれていたワールドボスをお前が捕え、会員皆で生きたまま悪夢の異界に閉じ込め、その生態系と固有能力を調べる最上位異形種研究所もまた、私の錬金術発展にとても有効であるからな」

 

 コギル・デンスタンにとってスレイン法国は娯楽に溢れていた。エブリエタス・コスモスの血による聖典機関員狩人衆の開発と強化手術。この異世界で発生した新種の異形である漁村の住人の実験と、異形種が進化する為の遺伝子の仕組みを調べる生態調査。上位異形種や最上位異形種が持つ理不尽な種族固有の能力の調査と、それが生み出る異世界の仕組みの解明。

 それらを利用したコギル・デンスタンが生み出す新異形種のカンストモンスターたち。あるいは、新素材を原料に生産されるカンストNPC集団。

 

「お前もここまで遊んだのだ。分かっているとは思うが、この異世界は素晴しい未知のシステムで運営されている。まだまだ解明できていない神秘で溢れている。

 何と言う冒険。実に探究し甲斐のある未知。

 これで心躍らないとなれば、人間種や異形種である以前に、知性体である必要性が皆無であろう」

 

「ふふふ。この異世界、ユグドラシルっぽいシステムが組み込まれているのに、レベルが高い生物が溢れていないからね。未知のアイテムは沢山あるんだけれども、モンスターを生み出す為の上位生命体の素材は中々手に入り難い。

 けれどさ、コギルに必要なのは量では無くて質。

 肉の一片でも良い素材さえあれば、最上位モンスターを錬金術で作り出すのに材料は不必要だものね」

 

「ああ、そうだとも。私が持つワールドアイテム、融合生命炉(フュージョンライフ・リアクター)は錬金術系統の能力を補助してくれる優れ物でね。

 モンスターやNPCを作る際、そのレベルを代償なくカンストさせてくれるアイテムだ。他のプレイヤーからすれば実に微妙なワールドアイテムだったんだろうがね。まぁ、私のような生命創造をRPにする錬金術師廃人からすれば、利用価値が在り過ぎて怖かったくらいだよ」

 

「そして、この転移先の異世界では最強の軍勢をあっさり量産する訳ね」

 

「その通りだとも。とは言え、ここはゲームではなく現実だからね。HPなんて概念もあるにはあるが、脳味噌を粉砕したり、心臓を砕いたり、魂を浄化したりと、ユグドラシルではHPが大幅に減るだけの攻撃でも、あっさりとクリティカルが決まれば一撃で死ぬ。同レベル帯では特に顕著だ。

 それを考えると我々みたいな廃人にとって、PKが更にヌルゲーになっていた。電脳空間と違い現実の異世界である此処は、本当にモンスターやプレイヤーを殺し易くて困ってしまう。一撃死が基本になると、カンストしているだけではただの雑魚に過ぎないし、私が作ったカンスト軍勢もユグドラシルでは少し厄介かもしれんが、異世界に転移した廃人組からすればただの経験値稼ぎの雑魚モンスターだ。一撃で死ぬのであるのだから、レベル1でもレベル100でも殺す難易度が少し違うだけで、殺害に必要な時間に違いは余りないのでな」

 

「そう言わずに。この異世界では最強の軍団じゃないの」

 

「良く言う。お前ならば私が特別に戦闘技術を教え込み、みっしり鍛え上げたNPCでなければ、一方的な虐殺も容易かろうて」

 

「その為の狩人衆に聖歌隊だもの。プレイヤースキルをとことん鍛えてあげなきゃね。貴方がただ作るだけで満足しないで、生み出した後もちゃんと教育して、愛情をもって強く鍛えてるのもその為なんだし」

 

「当然だろう。量産品と違って、お手製NPCは格が違うぞ」

 

 会話を積み重ね、言葉を交わすだけで娯楽となる。友人とはそう言う在り様なのだろうと互いに感じながら、美女と御老体は旧市街を進んで行く。途中で馬車にのって長い道を短縮し、また降りては歩いて進んで行く。

 目指す場所は旧市街の中心部である教会街。

 このスレイン法国の核であり、真に人類を憂う守護者が集まる最後の聖地。

 

「あー……ムーンね。貴女がこっちに来るなんて珍しいじゃない」

 

「……番外も暇そうね」

 

 その教会の庭で日向で陽光を浴びながら、白黒の少女がベンチに座ってぼんやりと景色を眺めていた。手に持っているのはスレイン法国国立大学ビルゲンワースが作った魔法システムを運営する魔術理論の解明書であり、傍には六面全て揃ったルービックキューブと言う名前の玩具が置いてあった。

 

「ルビク……じゃなくて、本当はルービックキューブだったけ。あれも全部揃えちゃったし、財宝の番人も今は狩人衆や聖歌隊の狂人共が当番の交代制でちゃんとやってるし……」

 

「じゃあ、魔法と戦術の勉強してなさい。私達プレイヤーと違って、そっちはまだカンストしてもスキルや武技に可能性があるのだし」

 

「―――嫌! 勉強したくない!!」

 

 そして番外は、手に持つ本をベンチに叩き付けた。

 

「駄目です。プレイヤーはレベルがカンストしてから本番なのと同じで、最上位の貴女も限界まで強くなってからが技術を磨き上げる本番なのよ」

 

「なんでよ! 自分で言うのもあれだけど、私めっちゃ頭良いわよ!! ビルゲンワース主席卒業生だし!!」

 

「十年前に卒業して、今はもう助教授の研究職員でしょう。それにこの法国にはさ、八欲王のリーダーだったパルパルさんから教えを受けた弟子は貴女しかいないのだし」

 

「関係無いし、そもそも純魔法職とか殆んど取れてないしさ! 研究とか向いてないんだよ!!」

 

「嘘つきなさい。魔法戦士系の職業沢山持っているじゃないの」

 

「あれは魔法が使えるだけの戦闘職なの! それよりも私と戦って!! 鍛えるんだったら戦闘技巧の方が断然私に向いてるから!!

 …………オキナ見ればそれが分かるでしょ。

 私と貴女やコギルと同じカンストなのに圧倒的な戦闘能力持ってるのも、カンストしてから剣技を鍛え込んだから何だし。私と同じ戦闘狂(バトルマニア)の貴女だったら、実践の方が何倍も自分の利益になるじゃないい?」

 

 とはいえ、戦闘鍛錬はカンスト組は集まって定期的に行っている。腕が鈍るのは、それだけ死に近づくと言う事だ。

 

「それはそうだけど、コギルが認める万能の天才じゃない。持ってる職業クラスは全部戦闘特化だけど、素の頭の良さは法国一なんだから、魔法技術発展に使わないのは勿体無いし。

 ……でしょ、コギル?」

 

「ああ、その通りだな。私は種族クラスと職業クラスをそう鍛え込んだだけの狂人に過ぎず、生命創造の錬金術学者としての頭脳も転移してからゼロより積み重ね、実践と実験で鍛え上げたもの。頭の良さも負ける気はないが、天才的な想像力は番外の方が優れている。特に戦闘法面における新魔法開発や新魔力技術は、錬金術師の私以上に素晴しい。

 文武両道のパーフェクト美少女と言う訳だな。

 と言うことで番外、遺伝子提供してくれないか。君の複製生命体とか量産したいのだが? それが駄目なら私の傑作作品と一発交配してベイビーを孕んでくれないか?」

 

「馬鹿なの死ぬの! それで頷く訳あるか!?」

 

「残念だな。頭が良く、武の才能に溢れ、魔法も強くデザインエルフベイビーを作れると思って期待してるんだけどね」

 

 コギル・デンスタンは転移してから腐れ外道になったものの、一応は身内に対する人権はしっかりと守り抜く。白黒の美少女――番外次席から許可が下りればヒャッハーと遠慮は消えるが、嫌がる相手の尊厳を穢すことはしない紳士である。

 

「あーもー、この狂人共は。本当に疲れるわね……って、私の事は如何でも良いでしょ。さっさと教会に行って用事を済ませて来なよ」

 

 シッシッと羽虫を払う様に手を振り、嫌悪感を表情に出しながら番外席次はそっぽを向いた。

 

「……ちゃんと、勉強はしなさいよ」

 

「―――ムーンは私のお母さんなの!? 私の方が年上なのに!!」

 

「はいはい。後でコギルに提出した論文も見させてもらうからね。法国の戦闘技術発展は貴女の手に掛ってるのだから」

 

「そんなの知らない!!」

 

 勉強嫌いの人間種最強の叫びを背後から聞きながら、ムーンとコギルは用事のある一室へと更に進んで行った。その部屋は情報保管室の一つであり、中でも暗部組織である六色聖典の活動記録を自動的に保管する特殊な魔法アイテムがある場所だった。

 新体制になった法国では、六色聖典は活動時に厳しい監視下に置かれる。

 暗部故に当然と言えば当然であるも、情報収集特化型魔法職の聖歌隊が使われる事で、より連携を取り易くし、このように部隊が壊滅的被害を受けようとも直ぐに本国が詳細を知ることが出来るようになっていた。

 

「ムーン様。コギル様。こちらが陽光聖典を監視していた際、被害を受けた情報収集専門の術者の記録です」

 

「ああ、ありがとうね」

 

「ふむ。感謝する。後は自分達で確認するので、君は自分の仕事に戻ってくれ給え」

 

「わかりました。では私はこれにて」

 

 管理職員が先日記録された情報を二人に渡し、職務の方へ戻って行った。そして、受け取った映像記録媒体には、この二人にとって非常に興味深い情報が刻み込まれていた。

 正しく、死であった。

 陽光聖典の者が殺されていく攻撃。

 異形種の者共に連れ去れて行く生き残り達。

 そして、異形種によるものであろう攻性防壁の発動。

 最後に映ったのは、じっくりと此方側を覗き込むように見詰める死の支配者(オーバーロード)だった。

 

「ふ……ふふ。ふぅふふふぁああははははははははははははははは!!!!

 来た来た来た来た―――遂に、遂にあの最強の骸骨が、私達と沢山遊べる廃魔法使いがこの異世界にやって来たよ!!! なぁなぁなぁなぁ、コギル見たよね見たよね!!

 サイコーだよ!!! こんな嬉しい事は久しぶりだよぉ……はっはははははははは!!」

 

「来たか。やっと来たか。お前が、私達同好会よりもユグドラシルを愛したお前が、此処に来ない訳がないと思っていたぞ―――モモンガ。

 それもあのNPCは記録にある。記録にあるぞ。あのギルド、あのナザリックも連れて此処までやって来たか!!」

 

「そうだよ!! やったやったやった!!! しかもだよ、この私が作り上げた法国の部隊を虐殺して、生き残りを拉致して、多分だけど自分達の拠点で拷問したり、モンスターの餌にするんだよ!!

 ああ、これ以上素敵な宣戦布告は存在しないさ!

 だけどね、まだだ。だったらまだ駄目だ。あいつの、モモンガのスタンスは理解出来たからね。だから、まだまだ会うのは先にしないと。あいつが人間を殺して、異形種を殺して、殺して殺して殺して――――もう二度と、後戻り出来ない程に殺し尽くして、私達同好会の奴らと同種の狂人に成り果ててから!!

 私達法国は喜んで―――この、宣戦布告を受け入れようじゃないか!!

 あいつもびっくりする筈だ。こんな異世界で、私はここまで法国をヤーナムとして作り上げてたんだからさ」

 

「そうだな。実に素晴しい。戦える遊び相手がいなければ、狩人衆も聖歌隊も、私の造魔兵団も―――作り上げた価値が無い」

 

 笑った。彼女はと彼は嬉しそうに哂い声を上げた。この異世界を祝福した。ならば、すべき事はもう決まっている。同好会のメンバーに、異世界で知り合ったプレイヤー達に、その全てに―――ナザリックと言う地獄が異世界に生み出た事を知らせなばならない。

 ムーン・プレゼンスは一切躊躇わず、メッセージの魔法を世界中の会員と友人に使った。










 遂に同好会の皆に転移を知られてしまったモモンガ様、改めアインズ様。ナザリックの邁進がこれから始まります!!
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