PK廃人共の異世界   作:サイトー

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九・啓蒙を捧げよ

 人間の国。その王国にある街の何処かの屋敷の一室だった。その部屋は余りにもおぞましい者共が集い、レベルの低い者が入れば発狂し、そのまま精神が死んで植物人間と成り果てる事だろう。

 ……本来ならば、この二十一名が集まる事もない。

 百年の間でもこの同好会臨時集会は十回もしておらず、恐らくは今回で丁度その十回目程度だった。そして、一つだけ皆で決めた如何でも良い決まりがある。普段はスキルや魔法、あるいはアイテムで人化をしている者も全員が本当の異形種といての素顔を見せ、仮面や兜で顔を隠さないで会話に参加する事を条件にしていた。

 

「―――おいおいおい! モモンガが来たってよ、ナザリックと一緒に!!」

 

「「「「「なんだってーーー!」」」」」

 

 ひゃっはー、と二十一人全員がこの素晴しい異世界を祝福する。

 

「あーあー、この人らはほんま調子が良いわねぇ……」

 

「ここ数十年、そう言う面白い事もなかったからね」 

 

 そう返答したのはエルドダウン・シャーナであった。普段は着崩したダークスーツで眼鏡を掛けた麗人であるのだが、今は外なる神(アウターゴッド)である異形種本来の姿として、黒い霧の触手が集まったような人型の塊となり、頭部らしき部分は冒涜的に輝く三つの眼が存在していた。人間ならば見ただけで意識が外宇宙に飛び出てしまう狂乱を撒き散らすのだが、この場にいる者は誰も彼女を気にしていない。

 そのおぞましい神話生物的異形種は、まるで人間みたいに隣に座った眼玉埴輪と会話をしていた。

 

「そらそーですわ。私も自分の鍛錬の一環として弟子を育ててますが、まだまだウチを斬殺できる剣鬼を作り出せておらんのよ。

 活きの良いのが一匹いるにはいるけど、まだまだレベルの壁を超えられやへん」

 

「あらま。そんな事をしていたの、イチコ」

 

「そやね。暇やし。そー言うシャーナはんは、どうですか?」

 

 関西チックなのに、半端な標準語が混ざる独特な口調で喋るのは狂宙イチコだった。彼女も皆と同じく本性を現し、目隠しをした黒髪美女の姿から、義眼を両目に嵌めこんだ卵頭な埴輪顔でありドッペルゲンガーに戻っていた。その姿は眼玉が剥き出しになった怪物のようでいて、本当は更におぞましい斬殺狂いの居合廃人である。

 

「うーん。どうなんだろうなぁ……異形種研究も好きだからしてるけど、本当にどうなんだろう。今は魂の発狂実験とか好きだし、私の狂気や血液で人間や亜人を異形種化させてみたり、異形種を更に私達の種族の異形種化に出来ないか調べてるかな。でも本質的に私らって戦闘狂のPK廃人でしょ?

 そう言う知的好奇心を満たすよりも正直、どららが生きて死ぬか分からないギリギリな殺し合いが一番の娯楽で生き甲斐で、何より楽しいし。言ってしまうと、普段の生活と決めている活動って、自分の廃人欲求を満たす為の代償行為なのよね。

 まぁ、異形種としての本能や衝動のまま動いて、目に付く物を貪るのも嫌いじゃいけど、やっぱり異形種や人間種である前に、私達は前世だった廃人プレイヤーである事が前提条件に存在しててさぁ……」

 

 ウネウネと黒霧触手の三眼であるシャーナが唸り声を上げ、それを見ながら眼玉埴輪のイチコも同意する。

 

「その筈なんやけどねぇ……いやぁ、最初の内は同好会の奴らワイワイ皆で、こっちの異世界でも散々殺し合って、そらもー欲求不満なんて事は欠片もなかったんやけど――――殺す敵に、飽きた。

 なんでまぁ、同好会の仲間を殺したり殺されたりするのも、耐えらへん時に近くに居るのにメッセージして、衝動的に殺し合う程度になってしまってね。勝率も皆が皆で、殆んど五分五分やし。暫く殺し合ってれば、ああ今日はこんな感じで決着着きそうやって予感できてしもうて、あんまおもろない」

 

「その代わりに始めたのが、今の娯楽活動でしょう……?

 いやはや、ねぇ……不毛な部分もあるけど、異形種としての本能を理性で完全制御できるとは言えね。本能のまま衝動を撒き散らすのも悪いストレス発散でもないし……」

 

「そーよなぁ。でも、それ考えると一番分からへんのがムーンさんなんや。ぶっちゃけ、あの人が一番対人欲求強いやろ?

 狩人RPなんてやってるほどやし、そもそも一対一の殺し合いやと今も昔も最強なのに。

 国家運営なんて、私らの中じゃ一番キャラに合ってないし。兵力増強したり、魔法を作ったり、産業発展させたりなんて、クソじゃん面倒臭いって笑う筈。本当なら鍛えた狩人技巧を一本で、何かも脳筋思考のごり押しプレイでワールドボスも殺す啓蒙馬鹿だったのに」

 

「こっちに来て、心変わりがあったのかもね。彼女も私と同じで、無貌の外なる神に連なる異形種ですから、人間種も異形種も自分の真っ黒な企みで破滅させるのがとても楽しく感じるのは同じだけど、この私だってそもそも対人欲求の方がそれより上だから。

 ……ムーンは多分、私以上に狩りを愉しみたくて疼いている筈なんだけど」

 

「―――あれ、二人とも。私の話?」

 

「ムーンさんおひさー」

 

「あら。何時も通り、綺麗な無貌へフェイスね」

 

 そんな会話を続けるシャーナとイチコに割り込んだのは、話のネタになっていたムーンだった。彼女も同じく異形種の姿を出しており、まるで古樹のような化け物だ。顔の中心に歪な空洞が穿たれ、その穴の周囲に三つの目玉が埋め込まれている。神の毛も樹の枝のように後ろと上に流れ、その周囲を淡い紫色の天衣のようなオーラが漂っている異形の怪物だった。

 そして、ムーン・プレゼンスの目玉も狂宙イチコと義眼と同じ特別製。

 右目はワールドアイテムである時空旧神の瞳。左目が神器級のシューティングスター・アイ。そして、上の目玉が無貌の者として持つ邪悪な第三の目であった。

 

「それで?」

 

「ああ、話は簡単なんよ。ほら、幾ら啓蒙馬鹿な貴女でも、ここまで根気良く国家運営なんてやってやなぁ……って、シャーナはんと吃驚してやだけ。本当ならただの狩猟馬鹿で、そんな事より上位者狩りだぁって聖杯ダンジョン狂いだったのが嘘みたいやし」

 

「…………………そんな事ないです。何時も戦闘訓練はしてるし、狩りの技も毎日磨き上げてるよ」

 

「ふぅん……もしかして、ねぇ?」

 

「え、そんな凄く邪悪に眼を輝かせて。シャーナは何が言いたいのさ?」

 

「ずばり―――恋ね!」

 

「略してズバコイやね」

 

「はぁ……? いや私、人を好きになった事も無いし。そもそも人を愛した事も、誰かに愛された事もないから」

 

「喪女なの? 処女なの?」

 

「もしかして、もしかするん?

 異形種になってから始まる百年目の恋愛事情って、乙女チックやわ~」

 

「いや、そう言う訳じゃないけど……うーん。そうね。転移して百年経った今じゃ如何でも良い事だけど、前世の人間だった時は孤児でね。子供の頃、育ての親になってくれたお金持ちの優しいオジ様に股を開くだけで、一応は人並みの生活はしてたから、それなりに性経験は小学生の頃から豊富だよ。ぶっちゃけ、自分が使ってるゲームキャラと並べるくらい美人だったし。まぁ、あんな社会だと美人の方が喰い物にされたけど。

 それで学校もちゃんと行けてたから、大人になってゲーム会社に勤めたけど、その時も普通に彼氏っぽいセフレとかいたし」

 

「地雷踏んじゃったよ。まぁでも、皆似たようなものだし」

 

「いややわぁ。やっぱり前世の世界は地獄やわぁ……って、問題は過去よりも現在やし」

 

「いやいや、聞いて来たのそっちだし」

 

「まぁまぁ、ええからええから。それで、何で百年経っても法国なんて守ってるん?」

 

 シャーナとイチコの関心は、この百年と言う節目でムーンの娯楽活動に移っていた。

 

「何でって、そりゃ私が無貌の化身の一柱である異形だからさ。啓蒙よりも狩猟の方が今も遥かに楽しいけど、一番手応えがあって楽しい同好会の皆はもう一通り狩り殺した獲物だし、何度も狩ってると作業になっちゃってさぁ……何か、啓蒙狩人として脳死状態になるのは間違ってるもの。

 この世界の人間も、強いの少ないし。

 八欲王の生き残りのパルパルさんとも殺し合ったけど、PVPに勝ってもう狩ったし。

 先代ルドウイークから月光の聖剣を渡されて、二代目聖剣遣いルドウイークになった番外席次も、まだまだ愉しむ為には鍛錬と勉強させて成長させないと美味しくないし。

 偶にこの異世界に流れ着くワールドボスだったり隠しボスだったりも、こっちでちゃんと鍛錬を積んで強くなった個体じゃないとゴミだし。

 その点、法国のオキナは最高で、無敵で、狩り甲斐のある最上位異形種だけど、これはこれでまだ私があの領域に辿り着いてないから、勝つ為に搦め手使わないといけないから、ギリギリの生死を愉しめないし……」

 

 数十年前から狩りにマンネリ感を覚えているムーン・プレゼンス。百年前に異形種として衝動的に始めた国家事業を辞めないのはその為であり、彼女は彼女なりに邪悪の叡智を絞って、異世界と言うゲーム盤を好きに操るプレイヤーになっていた。

 

「……ああ。そう言う。それで、異形種である無貌の者(フェイスレス・ワン)の本能を利用して、そっち方面で欲求不満を代償的に解消している訳ね」

 

「うん。シャーナの言う通り」

 

「そうなんだ。だったら、エブリちゃん解放してくれない? あの娘、私の友人なのよ?

 助けられるのだったら助けたいし、出来ればまた会いたいから」

 

 ユグドラシル時代、異形種:外なる神(アウターゴッド)であるエルトダウン・シャーナは、異形種:異界の娘(ドウター・オブ・コスモス)であるエブリエタスと知人だった。エブリの方はギルドに入っていたので、同じ所属でもなく、そう頻繁に会う訳でもなかったが、とても気が合う相手だったのでメッセージを使って良く長電話をしていた程に良好な関係であった。

 そして、シャーナは触手を武器とするマジック・キャスターであり、エブリは触手を拳代わりに使うマジック・モンク。戦闘方法が似ているのもあって、二人で良く新戦術を生み出してはPKに悪用して、相手を血祭り上げて愉しんでいた。

 

「そうは言ってもなぁ……一応、ちゃんと法国の裁判で有罪判決が出て、法的な手続きを踏んだ処遇なんだよ。民間人虐殺、公務員虐殺、軍人虐殺、器物損壊、内乱罪と、スレイン法国だと滅茶苦茶罪科のある重罪人だもの。しかも大罪人過ぎるから、秘密裏に軍事裁判を行って私自家製の牢獄に収容するしかなかったんだよ。

 なので懲役100年の拷問刑って言う、人間が相手だったら拷問して処刑するって言う実質的な死刑判決が下ったの。でも彼女は異形種だから頑丈で、種族特性で発狂して楽になりたくても精神安定するから意識は大丈夫だし、後五十年もすればちゃんと釈放される予定だよ。

 まぁ、それなんで、ただただ拷問するのも凄く勿体無いし、実益がないし。こいつなら血液素材に丁度良いやって思って、コギルと協力して蒼褪めた血の狩人衆や聖歌隊を私兵として、趣味で作ってる最中なんだ」

 

「そこをなんとか!!」

 

「いやこの裁判、異形種プレイヤーが相手だからキチンと法律に則るべきだと、神官どもが私に処刑してくれって嘆願したのをヤマノオキナが止めてやったことだから。

 あの娘を解放させたいんだったら、法国のオキナさんに言って下さい」

 

「後五十年の辛抱だから大丈夫かな。うん頑張って下さい、エブリちゃん」

 

 あの堅物NPCは六百年ものの廃魔神。明らかに次元が違うので、法国深部はシャーナも迂闊に手が出せない不可侵領域である。とは言えオキナと戦って殺されてみたい気持ちも十分にあるし、何度も殺されても挑み続けて一度は勝ってみたい気持ちもある。

 しかし、法国はムーン・プレゼンスが先に手を出した玩具。

 同じ廃人なのでシャーナは理解していた。もし自分が無許可で法国に手を出せば、ムーンと余り楽しくない殺し合いをしないといけなくなると珍しく自重していた。

 

「友人って存在が、ウチはほんま怖く感じる時があるよ」

 

「人殺しておいて負けるのが悪いのです。悲しいけど、これって戦争なんだから」

 

 ムーンは転移した異世界でも、そして前世である前の世界でも実感した思いを言葉にした。

 

「事実やけどね。でもシャーナはんは素で冷たい人や」

 

 カラカラと目玉埴輪(イチコ)が笑い、ねっとりと黒霧触手(シャーナ)は笑っていた。その二人を顔孔古樹(ムーン)は不機嫌そうに見るも、やっぱり如何でも良いと穏やかな微笑みを浮かべる。

 

「でなぁ……やっぱウチが気になるんは、なんであの慎重派のモモンガはんと戦争一歩手前になってるのかって話ね?」

 

「うーん。そんな複雑な話じゃないの。斬殺狂のイチコでも分かる簡単な経緯でね、神官たちが人間社会を纏めて亜人や異形に抵抗できる世界にしようと今も奮闘しているの。

 ほら彼らって、私が作った狩人衆や聖歌隊のレベルとか知らないし、その強さも実感がないから。今も結構頑張って秘密工作してて、私の医療教会に頼んで他国殲滅とか考えないし……」

 

「悪人や、人外やけど」

 

「なんて邪悪な生命体」

 

「……うるさいよ、二人。人間共が足掻く姿が好きだし、そうじゃないと狩りたくなるし。

 でさ、この王国って滅茶苦茶腐敗政治が進んでるんで、強い人間とかもバンバン出ないし、軍隊も圧政の所為で微妙だし、君主に嫌がらせをする貴族が多いし。私も自分の法国の都市開発の為、帝国とか王国の首都を御忍びで視察したけど、王都は帝都より暗黒面が強くてね。なんか異世界マフィア多くて、貴族も昔から繋がってて、性奴隷を拷問して性的快楽を愉しむ風俗店も結構あるのよ。腐った狂気と絶望が心地良い街並みでした。

 それなんで、じゃもう帝国をちょちょいと嗾けて、滅ぼして貰って、人類に要らない貴族も虐殺して、巨大な人間国家にした方が人間社会の為じゃなかなぁって悪巧みしてるようで。

 その一環として、王の懐刀である戦士長を殺したいって事で、囮作戦で帝国国境付近の開拓村をヒャッハー汚物は消毒だ作戦を実行し、何某戦士長を誘き出そうとしてさぁ……まぁ、それで」

 

「「それで?」」

 

「開拓民消毒中のヒャッハー部隊と、戦士長抹殺し隊の陽光聖典が、愛と正義の心に目覚めたオーバーロードなモモンガにぶっ殺されたみたい。

 あ、それと、転移して来たばっかりみたいで、多分情報収集のために陽光聖典は拉致されました」

 

「あんな、それ、法国が悪い。人様のものを屠殺したんや、豚みたいに殺されるのも道理やろ」

 

「人殺しておいて負けるのが悪いのです。二度目だけど。と言うか、その作戦って、機関長やってるムーンにも事前に知らせがあった筈だと思うけど?」

 

「デスクワークだと私、ただの自動判子押し機なので」

 

「じゃあ結局、民間人虐殺にオーケーサイン出したの貴女なのでは?」

 

 異形種の様相なのに、シャーナが真顔になっているのは簡単に分かった。

 

「そうだね。後、神官達から漆黒聖典を王国に送って調査してみてもいいって書類も来てたから、反射的にハンコ押して許可を出してみた」

 

「もぉ~……駄目やん。絶対碌でも無い事態になって戦争やわ。参加して私も楽しみたいけど、それだとモモンガはんをリンチしてるみたいでおもろないわなぁ。むしろ、モモンガはんの方に参加してみる方が楽しそうやわ。

 でも、やっぱそれなら、傍観者でいる方が娯楽になるもんなぁ……」

 

 久方ぶりに在った所為か、女性異形種同士数十年ぶりに会話に熱が入っていた。

 

「おーおー、あっちは女死会になってるよ。あ、女子会では無い方だぞ」

 

 そんな三人から離れ、異形種が一体笑っていた。仮面巨人ヌードルも他メンバーと同じく、人を小馬鹿にした何時もの仮面を剥ぎ取り、異形種の顔を見せていた。と言っても、彼の顔は非常に分かり易く―――箱である。360度何処から見ても、ダンジョンに置いてありそうな宝箱である。しかも唯の箱ではなく、箱の中から舌と腕が出ており、箱の蓋の部分とその下部にはぎっしりと牙が並んでいる。しかし、肉体の方はそのまま人型で今も黄金鎧を纏っている。

 貪欲者と呼ばれるモンスター。

 それがモデルであるミミックの異形種がヌードルの本性だった。

 本当ならドッペルゲンガーの能力も持つので人間種にも異形種にもなれ、モンスターにもなれる。大きさを無視して色々な物体や生物にもなれるが、この宝箱が彼の本当の顔であった。

 

「ヌードルってやっぱり、その姿かなりシュールだよな」

 

「まぁ、ヒャッハーに比べれば。お前、この中だと凄く地味だし」

 

 水分が枯れたゾンビフェイス。髑髏仮面兜を外したヒャッハーダークの素顔はそれだけ。何の変哲もないPK廃人の姿だった。

 

「俺はただのゾンビだ。この中だと一番まともさ」

 

「何処がだ。オレの方がまともだよ」

 

 パカパカと宝箱の蓋を動かしながら、ヌードルはツッコミを入れた。

 

「はぁ~……ムーンが羨ましい。自分もこんな面白い異世界に来たのだから、国盗りとか国作りとか巧くやりたかったぜ。

 はぁ……辛いな。世間は世知辛いぜ、はぁ……」

 

 何時もならミイラ異形種専用の包帯で全身を隠しているが、CCO間古徒はこの集会の意味のない決まりとしてしっかりと素顔を晒していた。とはいえ、その顔はヒャッハーダークと余り変わりはない。肉が爛れて枯れ、焼け焦げた焼死体の顔であり、この場ではとても普通でグロテスクでさえなかった。

 そのCCOは先程から溜め息ばかり。そんなCCOと会話をしていた蜘蛛人のゲノムンムーと骸骨騎兵のセイキマツ・ライダーは、毒有効にして酒の飲み比べを始め、鬱が入ったCCOは気分になれずその二人を放置し、ヒャッハーダークと仮面巨人ヌードルの方へやって来ていた。

 

「溜め息ばかり吐くと幸せが逃げるぞ、CCO」

 

 とはいえ、自分達PK廃人異形種の幸せを考えると、周辺国家はとても可哀想な事になるなぁと思いつつ、ヒャッハーダークはその部分を言葉にしなかった。

 

「ヒャッハーの言う通り。そんなに気が落ち込むなら、ミミックの俺が美女に変形して―――」

 

「―――断る!

 中身ヌードルの美女とか気色悪いぜ」

 

 火傷で爛れた皮膚に鳥肌が、とおぞましい光景を想像して悶えるCCOは、そのまま手に持ったコップに入ったビールを一気飲みした。

 

「ああ。俺も男に掘られるのは趣味じゃない。しかしな、ミミックって意外な事に……いや、意外でもないか。普通に何でも食べる雑食で、結構人間も美味しく感じる異形種だ。

 ユグドラシル時代も騙したプレイヤーをパクリと踊り食いをしていたが、異世界転移後も好奇心に負けてミミック道を進んでみた結果、悪くはなかった。そして、スキルシステムの所為で料理ができないプレイヤーの身だと、生肉を美味しく食べられる異形種の肉体は中々便利だった」

 

「もう人間じゃないなぁ……って、ヌードルを悪く言うつもりはない。俺もソンビ系列であるからな、実は生きた人間をそのまま食べる事も出来る。

 とは言え上位種なので、生肉を美味しく食べられる種族特性が残っているだけに過ぎないが」

 

「実はオレも」

 

「ほぉ、CCOもそうなのか?」

 

「まぁな。ヒャッハーと同じでゾンビからミイラになったから、魔力に満ちたフレッシュミートは結構好きだ。食事を楽しみたい時とか、弱肉強食系男子じゃなくて異形種RPする時は、VRホラーゲームを物真似してるぜ……―――って、んな事は如何でも良い。

 それよりも聞いてくれ。

 オレはさぁ、最近のPKマンネリを解決する為に傭兵国家作ろうと頑張ってるんだよ」

 

「ほぉ、良いな」

 

「なるほどね。楽しそうじゃないか」

 

「―――反乱された……」

 

「ああ。それは残念だ」

 

「あ、うん。そうだね、反乱だね」

 

「やはりカリスマ性の問題なんだろうか。いやな、副団長に選んだヤツが偉く面白いド外道の人間種でさ、面白半分で余ってたゴミアイテムで悪魔化させてみたんだよ。そしたらハジケ出して、我ら黒犬騎士団のモットーはエンジョイ&エキサイティングとか叫んでは、部下を恐怖と暴力のカリスマで支配してな。

 オレは将来的な支配力を考えて、普通の傭兵団にしたい方向性だったが、そいつがもう戦場で暴れに暴れて。敵以外も殺すわ、女を犯して殺すわ、死体を玩具にして遊ぶわ、部下もつられてヒャッハーし始めるわで」

 

「良くある話だ。この異世界、基本的に中世暗黒時代なダークファンタジーワールドだからな。プラスαでトールキンやら、ラブクラフトやら、色んな世界観も混ざってる」

 

「ああ。オレも旅をしてると良く見る虐殺風景だ」

 

「そこまでは良いんだ。そして、副団長がオレから離反して、兵団全部がオレを裏切りって―――通り掛かりの、ゲハルに元手下を皆殺しにされた」

 

 そして、CCOの主な話は終わった。

 

「どうも、そのゲハルノートです」

 

「あ、狂戦士マニアのゲハルさん」

 

 彼の姿は普通の人間だった。しかし、左腕が超激レア金属アイテム製の鉄腕義手で、右目も閉じている隻眼もどきだ。伝説的古典漫画の主人公を模したキャラであり、昔の漫画好きなら一目で分かる造形だった。しかし、彼もまた異形種。贄人と呼ばれ、体の一部分を異界の邪神っぽいナニカに捧げることで時の輪廻から外れた怪物となり、人外の身体能力を得ている種族。そして、一番の特典として義体と呼ばれるアイテムを装備することが出来た。

 しかも、他の同好会の連中と同じで、コスプレをしているだけ。

 実は隻眼のふりをしているだけで、厨二病の邪鬼眼持ち宜しく義眼アイテムを隠しているのだが、滅多なことでは狂戦士RPを崩すことは無かった。

 

「CCOさんの手持ちとは知らなくてな。女を集団で犯し回して、男を投げ斧の的にし、子供を火達磨にして遊んでいたものだったから、ついつい皆殺しにしてしまった」

 

 何の感情も出さず喋るゲハルであったが、そんな男の背後から女が一人近寄って来た。

 

「そーなのよー……ヒック。こいつったら、取り敢えず悪い奴は斬れば良いって考え方しかしないから、私の可愛い部下のね、敵対してる人間や亜人の村を踊り喰いしてたワイバーンライダー軍団も、通り掛かりにちょちょいと皆殺しにするだもの。

 その所為で大赤字。また飛竜も騎兵も育て直しよ!」

 

「オルタナちゃん、酔ってるね?」

 

「酔ってなーい……って、そんなことよりタイヤキ! 嫌な顔してないで呑みなさいよ!!」

 

「えー。貴女の絡み酒しつこいから苦手なんだけど。面倒だから、毒状態無効化をオンにして呑んで」

 

「いやよ!」

 

「―――っち」

 

「あー、舌打したわねこの暗黒厨!!」

 

「……パイロマニアがしゃらくさい」

 

 オルタナと呼ばれたプレイヤーは、フルネームでオルタナティブJDと言う美女型の女性キャラ。煤けた金髪のショートカットであり、眼光が獣ように鋭く、体が炎のように輪郭が歪んでいた。種族は精霊の火人(イフリート)と呼ばれる異形種であり、肉体が実体化した火炎であるので、両目が真っ赤に染まり、常に体の輪郭が揺らいでいる。そして今はオフにしているが、種族固有の常時発動型技能をオンにするとそれだけで周囲を高温の灼熱地獄に変える傍迷惑な化け物だった。

 そして、舌打ちしたタイヤキと呼ばれたのが、鯛焼(たいやき)仙人掌(さぼてん)と呼ばれる美少女型の女性キャラ。暗黒厨と呼ばれた通り、生粋の暗黒騎士RPに特化した厨二病罹患者で、本人もゲーム内ではダークナイトバカとして弾けまくっていたが、転移してからはリアル厨二病になってしまってちょっとだけ落ち着いたプレイヤーだった。ついでに精霊の闇人(シャイターン)と呼ばれる異形種であり、完全に闇属性特化した化け物で、両目が真っ黒に澱んでおり、人型の輪郭も暗闇みたいに歪んでいた。

 そして、毒有効にした異形種共がワイワイと酒の力で周りに絡み、他の奴も酒は飲むもアルコールを無効化しながら会話を楽しんでいた。

 

「―――同好会の皆さん。別に静粛にしなくて良いんで、取り敢えず話だけでも聞くように」

 

 会長のヒャッハーダークは、ゴホンと咳をして他二十名の元廃人異形種を回し見た。

 

「わざわざこんな辺境国家の王国の、田舎町まで来て頂き感謝します。

 この度は転移百年目にして、異世界にどうやらモモンガさんが来た事がムーンさんからの連絡で分かりました。つきましては、最後にナザリックをテーマに話し合いをしようと考えております」

 

「意見を良いか、会長」

 

「どうぞ。話してくれ、トフェッサン」

 

「すまないな。まぁ、正直な話、向こうからこっちに接触するまでは放置で良いじゃないだろうか」

 

「うむ。その心は?」

 

「いや、モモンガさんがやけになってゲリラ戦なんて始めると、世界滅亡待った無しだからな。あの人のビルドとスキルを考えると、転移した異世界だとカンストプレイヤー殲滅に関しては、どう足掻いても圧倒的だろう。

 こちらがどれだけ兵力を揃えようとも、モモンガさんならあっさり虐殺できる。接触した法国は高い戦力を持つが、そもそもモモンガさん一人いるだけで危ない」

 

「……あー、それってどんな雰囲気に危ないの?」

 

「ムーンはもう喧嘩を売られてたんだったか。そうだな、お前の所の法国はかなりカンストを量産しているようだが、モモンガさんからすれば軍勢みたいに纏めていれば皆殺しも簡単だろう。散兵として使っても、それならそれでナザリックもゲリラ戦に移行する。

 だがな、あの人はアンデットも作れる。法国に無差別テロもしてくる可能性は高く、そもそもあの人自体が核弾頭発射兵器みたいな化け物になっていることだ。

 勿論、蘇生アイテムを装備していれば、対策も出来なくもないのだが―――」

 

「―――いやぁ、ナザリックがいる時点で対策も無意味なんだよ。

 転移して来たプレイヤーがモモンガだけかもしれなくても、あのギルドはエグイアイテム沢山ある。

 そもそもギルドメンバーもモモンガ一人いるだけで戦力は十分機能するからね」

 

 ひひ、と邪笑するシャーナ。

 

「作った当初の彼自身はそんなつもりはなかったのかもしれないけど、過疎化した事であのギルドにはメンバー全員の霊廟として機能するNPCがいる。

 モモンガさんが作った最高の拠点NPC―――黒歴史、パンドラズ・アクターだね。

 あのドッペルゲンガーはメンバー41人分全員の戦略的行動を可能とし、一人で41人分の戦術的選択を取る事が出来る。

 なので、ギルドメンバーがいなければ不可能なコンボ戦術も出来ると思うんだ。

 例えばそう―――復活系の能力を封じる魔法とか。その上で、エクリプスによる問答無用の即死攻撃をするとかね」

 

 シャーナのナザリックメンバーのフレンドで、その手の嫌がらせが得意なヤツがいた。人間に化けられる魔導書の異形種であり、あらゆる魔法を行使し、自分自身を他プレイヤーに装備させて魔法の補助をするプレイヤーだった。彼女はプレイヤーでありながら、まるで規格外なワールドアイテムみたいに仲間を助けるロールプレイ好きである。

 個人対象の蘇生封印魔法「魂魄牢獄(ソウルプリズン)」。

 全体対象の蘇生封印魔法「閉じられた天国の扉(クローズド・ヘブンズドア)」。

 本来なら使えない筈のそれらをエクリプス使いが行使する絶望。しかし、パンドラズ・アクターがギルドメンバーに変化出来るのであれば可能。モモンガが使えない信仰系魔法の蘇生封じをした上で、効果範囲を極限まで広げた絶対なる即死魔法を放てた。

 

「あー……有ったね。信仰系の魔法であったかも。広範囲でそれを行う魔法もあったし。魔法補助をするキャラにも変身すれば、効果範囲を更に広げて、蘇生封じをした上で即死無効化無効即死攻撃が全体に撃たれるって訳ね。

 ―――……あ。私の法国終わった。

 折角育てた狩人衆も聖歌隊も、集団戦の戦争じゃ皆殺しにされちゃうよ。狩人らしく個人行動で動かせば纏めて殺される事もないけど、そうすれば……―――うーん、それすると都市部直接狙ってくる」

 

「多分ね。私達は対人厨PK廃人だけど、モモンガさんは過疎化で対人厨になる前は元々ギルド厨廃人だから」

 

「あー……あー……どうしよう、コギル?」

 

「知らんよ、ムーン。お前の国だ。お前が安全を考え給え。私は学者馬鹿なので、その手の戦略対策は何も思い浮かばない。

 やるならやるで、今から先手必勝でナザリック殲滅するくらいしか分からないが」

 

「ナザリックを、法国だけの戦力で攻められる? いや、多分無理だし。MP以外の消耗無しで玉座までごり押ししてモモンガさんと戦う事は出来るけど、勝てるかどうかは話は別だし。

 他の狩人や聖歌隊も、魔改造されたナザリックダンジョンは中々厳しいし。と言うよりも、ナザリック攻める戦力を派遣すると法国ががら空きになって、ナザリック侵攻が巧くいっても、抜け出たモモンガさんがこんにちわ死ねって魔法撃ったら国家崩壊間違い……あ、つんでない?

 ナザリックと戦うとつんでない……?

 結局、全部巻き込んだ総力戦で世界が滅びない……?」

 

 何よりも、ムーンはソロプレイヤー。相手の“プレイヤー人数”がソロなら、自分もソロでなくては殺し合ってもつまらない。同好会の誰かの手を借りる気は全く無く、コギルの提供済み造魔兵団なら法国戦力として使うのも良いが、彼に無理させて戦力増強させるのはソロPKとして面白くない。

 

「まぁ、とのことだ。本格的にナザリックと喧嘩するのは、向こうから宣戦布告されたムーン・プレゼンスだけだ。それも可能性の話だが、戦争自体は確実に起こるだろうし、他の者もナザリックの事は頭に入れておくと良い。

 ―――とのことで、はい。集会は解散だ」

 

 各々が了解の返事をし、アイテムや魔法、スキルを使って人間の姿に戻っていく。どうやら今この街にモモンと名乗るモモンガらしき冒険者もいると全員が情報を得て入り、気になる奴は会いに行こうかなと悩んでいた。










 同好会もナザリックを捕捉しました。
 妙に高くなっていた評価も、投稿最初程度にまで順調に落ちてきました。原作と違ってヒロインのモモンガ様が原作の雑魚キャラや弱い敵以外にも潜んでいるチート勢を相手にし、魔王様としてヒャッハーと頑張る話ですので受けは悪いだろうと思ってましたので一安心です。個人的には発酵食品みたいに人を選ぶ苦くて臭い二次創作ですので、遠慮なく厨二病設定をもっと煮詰めて行きたいです。
 とはいえ、主人公はヒャッハーダークですので、これからは彼の視点で送っていきます。
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