瞳の輝きこそ、啓蒙にとって最も重要な機関。曇りがあれば不可視のモノを見れず、理解出来ぬモノを理解出来ず、知らないモノを知ることは不可能だ。
聖典機関機関長プレゼンスは、自身の瞳によって、あのお気に入りの元漆黒聖典がこの街に居ることを知っていた。見ていた。嘗て生け捕りにして改造し、狩人衆に無理矢理転生させたもう一人のお気に入りであるヤマムラも、この王国にいることも理解している。異形種への転生である狩人化手術で記憶を失った男にヤマムラと偽名を与え、カンストにまで育てた後は逃走を許した。何故か今は狂宙イチコが拾って人斬り侍の弟子として育てていると聞くが、あの男も如何に面白可笑しくなっているのか興味がある。このお気に入りであるクレマンティーヌと同じく確認する必要がある。
王国こそ、ムーン・プレゼンスにとって今一番の娯楽。
そんな彼女はとても気分が良く、元から面倒事に進んで介入する変態。お気に入りのクレマンティーヌが作り上げた死体を見てみたいと、トモダチ・ユージンフレンドと言う怪人に扮したヒャッハーダークの元へ訪れていた。
「何と言う屍。クレちゃん、相変わらず良い仕事してますね。うーん、気に入ったし、これも何かの縁だと思うし……良し!
―――この死体と魂は私が貰いましょう。
私の法国に運んで全員、私の分身である聖歌隊メンバーにしてしまいましょうか。四人分の戦力を聖歌隊に追加決定と」
改造手術はやはり浪漫である。それも人造神人である狩人衆ではなく、自分自身の複製体である聖歌隊の方を選んだ。男も女も、老人も子供も、ムーン・プレゼンスの姿に近づき、思考回路も
狩人衆は、一人一人が改造される前から狂人だった。あるいは、狂気に育つ意志を持っていた。その心を持たぬ実験素体は基本的に聖歌隊に生み直され、ムーンの駒になるのが基本だった。
「何の意味や価値があるのか、俺には分からないな」
「意味なんて必要ないのよ。ましてや価値なんて、考えた所で正解はない。利益や損得で命を殺すようじゃ、そんなんはただの政治家で、マフィアで―――普通の人間種。感情で殺すのならば、化け物じゃなくて人間種の腕白っ子。
でもほら、私達は無駄に長生きした異形種じゃない?
だからね、こう言うことに意味も価値も求めないし、考えないし、必要がない。私がこのクレマンティーヌの芸術作品を見て、そうしてみたくなったから、ただただそうするだけなのよ」
「成る程。俺と同じか」
「うん、同じね」
周囲からの監視が消え、魔法による遠距離監視も消え、トモダチの正体―――ヒャッハーダークは個室にて、その変装を解いてムーンの前に現れている。ムーンも監視網が消えた事を確認してから、こうしてヒャッハーダークと会話をしていた。
「しかし、良い具合に脅しが効いた。前世の記憶は100年も前であるが、異形種化したおかげで記憶力は衰えてないからな。俺自慢の逆勘違い系作戦、いやはや楽しいくらいに効果的だったな」
「嫌がらせよね。見てる分には笑えるけど」
「第三者視点からはな。人が勘違いしている姿は、それはもう娯楽になる。人間とは、他者の滑稽な姿に愉悦を覚えるものだ」
「うんうん。凄く分かりますとも。私って無貌の一柱だから、人間の全てが楽しく思えちゃうんだよね。勿論、人間種以外もそうだし、仲間や身内が苦しむのもそれはそれで有りだと思っちゃうのです」
「アンデッドの俺が言える事じゃないが、それはそれで心労が積りそうな事だな」
「異形種としての在り方も娯楽品にしないと、長生きしてるだけで退屈に心が殺されちゃうんだよね。怖い話です」
「いや、全く。それを考えると、百年に一度の揺さ振りも、自分達不老不死の異形種に対する世界の救済処置に感じて来る。
なにせ百年さえ経てば、新しい玩具が与えられる。
しかも自分達は最初の百年目で、モモンガとナザリックと言う贅沢品を楽しめるラッキーさだ」
「その割にはかなり意地悪なことをしてたみたいに見えるけど」
「はははは。どうせ蘇生すれば良いだけの話。
この世界だと、むしろ灰になる弱者ではなくて強者の方が、その命に価値が全くない。モモンガとナザリックの財を考えれば、配下の命は床に転がっている金貨に過ぎないからな。俺が殺したあいつらも中身の記録や人格は知らないが、モンスターだったのを考えれば、ナザリックが持つダンジョンのシステムで甦っている事だろうさ」
「理屈屋ね」
「モモンガにも蘇生アイテムを後で渡せば許してくれる事だろう。ほら、あいつも所詮は俺らと同じだし、人を殺し続ければ同じ存在に化けるだろう。
俺やお前はそうだし、同好会のヤツも許すだろうしな。誰も身内は大事なのだろうが……いや、それは人それぞれか。ムーン、お前みたいに自分の不幸も仲間の不幸も楽しく感じる破綻者も、こんな世界だと珍しくない普通の感性だからな」
「異常者が別に異常じゃない異常な異世界だもんね。だから、厚顔無恥に私みたいな鬼畜変態のド外道が、国家を裏から管理する影の支配者面出来る訳でもあるのだけど」
「無論、俺もだ。配下のNPCに人間種生息圏であるこの地域で物資流通会社ユージンフレンド商会を普段は任せて、竜王国辺境に企業支配化のマイタウンを今も拡張しているけど、それは全て俺のNPCの手柄。一応、俺は商会会長ではなるが、俺自身は興味はないし、普段はこの惑星を旅しながら武者修行してるだけの趣味人だ。
それをこうやって、今の自分は自分のNPCの成果を借りて楽しんでる訳であるのでね」
「ふぅん? まぁ、人間種にとって得にしかなってないし、良い事じゃないの?
法国の神官らもユージンフレンド商会には助かってるって言うし、私達法国の亜人種や異形種を狩り殺す為の道具の流通も、貴方の商会のおかげで人間の生存地域は維持出来ている訳だしさ」
「まぁ、維持はするさ。人間種が滅びると娯楽が減るし、そうなれば世界を滅ぼしてみるのも一興だ。とは言え、繁栄させる気もさらさら無いが」
「分かるなぁ。人間、亜人、異形、どれも違いなんて感じないけど、やっぱり一番愉しい生き物が人間なんだもの。元人間な私も前世的にさ、玩具にすると一番具合が良いのも人間だよ。
……そうだね。人間が滅びれば、全て滅ぼしてみますか。
この世界で昔は最強を誇っていた竜族も、五百年前に転移した八人の内、リーダーをしている廃人プレイヤーたった一人の手で壊滅させられたって話だものね。こっちで言うところの、神である“ぷれいやー”の中で更に上位種である“はいじん”が一気に二十一人も来た事態に、流石の竜王ツアーさんも世界終わったって絶望してた事だしさ」
「いやはや、あれはあれで面白かった。突撃、隣国の竜王の晩御飯ってノリノリで、同好会全員であいつのハウスにごめんくださーいとアポ無しで遊びに行ったからな」
「可哀想だった。全員でツアーを囲んで円陣を組んで、一日中質問漬けにしてたもんね……って、そろそろかしら」
「ああ。さてはて、モモンガさんには丁度良いカンスト現地民だけど、どんな風になることやら」
あらゆる攻性防壁を無力化するメリーのスキルと幻術により、この地に集まっていた同好会全員は、ナザリックとモモンガの監視網に引っ掛かる事無く、この茶番劇を楽しむ態勢に入っていた。彼女から送られてくる映像魔法によって、メリーが監視している光景を全員が盗み見しており、これから戦闘が始まるのを見守っていた。
死の支配者である廃人プレイヤーと、人造神人である血の狩人。
さて、どちらが勝ち上がるのか。全員が既に予想を一致させているが、どんな風に嬲り殺しにされるのか愉しむ為に、同好会たちはメリーから送られる映像に集中していた。
◆◆◆
モモンは目の前の相手を観察する。とは言え、既に情報収集はしており、一目で理解してしまっていた。モモンのままでは勝てず、舐めプでは先制打でダメージを受けると分かっていた。
故にモモンは、冒険者モモンである事を直ぐに止めた。
今はナザリック最高支配者アインズ・ウール・ゴウンとして、ナザリックの利益の為に人を狩り殺すオーバーロードとして君臨する事に決めていた。個人的な楽しみとして、廃人の愉しみとしてならばモモンガとして戦うが、今はアインズとしての在り方が優先されると、彼は魔王RPに徹することで外道も鬼畜も良しとする不死者と成り果てた。
「へぇ~、なんだ。そのまま舐めた真似してくれていた方が、私としては嬉しかったんだけどなぁ」
骸骨姿の魔法使い装束。今この場に漆黒の鎧を纏う戦士はおらず、人外の化け物が一柱だけ具現しているのみ。
「そうかな」
「うん。まぁーねぇ。油断してる所をグサリと頭蓋に孔を開ければ、カジっちゃんは助けられそうだったから。可哀想だけど助けられないものは助けれそうもないし、あの綺麗な女性の物真似をした貌無しの醜い化け物の手で死んで貰いましょう」
「醜いだと……いや、今は良い。それよりも、見破っているのか」
仲間が作り上げた娘を馬鹿にされて殺意が一気に溜まったが、アインズは敵から情報を引き出すことを優先する。
「うん……? ま、いっか。見破ってるって言うか、真実を理解出来るの。私の種族はさ」
「成る程。人間ではないと」
「御明察。でも、貴方はとても分かり易いわね。資料でしかしらなかったんだけど、それが本物のオーバーロードってやつみたいね」
「さて。ただのエルダーリッチかもしれんぞ」
「いやいや。あの異形はもっと貧弱だから。それに見た雰囲気、難度300は余裕で越えてるみたいだしさぁ」
「ほぅ……ほうほう。お前、この世界で出会った現地民で二番目に博識だな。あの茸には負けるが」
「王国で茸ってなるとぉ……え、まさかアレに出会ってるの? まぁ、あの化け茸は次元が違い過ぎてあれだけど、穏健派で大人しい魔神な筈だけど。
まさか―――同格?
もしかしなくても話からして、我らが神である“ぷれいやー”様なのかしら?」
「だとしたら?」
「別に。確かぷれいやー風に言うなら“かんすと”だったかな。うん、そんな程度で胡坐してる雑魚なら、むしろ可愛らしいって思っちゃうもの」
「その口ぶり、プレイヤーと殺し合った事があるみたいだな」
「うん。悪神“ろーるぷれい”をする“ぷれいやー”様や、落ちた“えぬぴーしー”魔神を殺して死体収集したり、生け捕りにしたりと、そう言うのも狩人衆だった私のお仕事だったもの。何でもこの世界で良いアイテム素材を手に入れるなら、“れべる”上位者を捕まえて解剖するのが一番なんだって。
人間や亜人、異形種の生皮はスクロールの素材にもなるし、魔力が満ちた臓器もポーションとかの材料にもなり、鱗や牙や骨は武器や防具の大元にもなる。筋肉は身体能力を上げる薬品にもなって、脳味噌は最高の魔法演算機だし。中でも上位異形種にもなれば、それはもう神様並の力を持つ武器の原材料になるからさ」
「そうか。雰囲気からして貴様は法国出身者か。そして、機密情報であるそれをペラペラ喋るあたり―――」
「―――うーん。まぁ御想像通りだよ」
「成る程。裏切り者」
「んっふっふふふ。向こうが先に裏切ってきたんだもん、最初から。私も悪いけど、向こうも悪いから、結局全部が悪いんだから仕方がない事。
……ああ、でも、記憶もぐちゃぐちゃにされちゃったから、何で裏切ったのかって言う理由は思い出せないんだけどさ。分からないけど、理解出来ないけど、裏切らないといけないから裏切って、狩らないといけないから殺すだけなんだ。
―――今もね。
だから、貴方も狩り殺すよ」
レイテルパラッシュの狩人――クレマンティーヌは、装備を万全にしていた。これから殺し合う相手に対する礼儀として、狩人としての心得として、狩猟は全身全霊で在らないといけない。愉しむは勝った後のご褒美であり、狩りは精根使い果たす臨死で在る事が好ましい。
右手には限界強化済みレイテルパラッシュ。
左手には限界強化済み魔法装填エヴェリン。
腰にあるアイテム入れには数多の狩猟道具。
狩人衆基本装束であるヤーナムの狩り装束。
元々は法国辺境を治める狩人衆の貴族カインハーストの衣装を好んでいたが、逃走には目立つとヤーナムの衣にクレマンティーヌは変えていた。
「狩り、か……ふ。大言だな、血の魔物風情が。しかし、良い戦意だな」
その装備と服装に覚えがモモンガにはあった。ユグドラシルにおいて、共に何度も聖杯ダンジョンを潜った相棒が身に付けていた装備の一つだった。アインズとしてその記憶を、ナザリックの為に有効活用する。今まで出来なかった事をするには、とても良い相手だとアインズは判断していた。
全力で魔法を使い、本気で策を練り、全開で技術を運営する。
この相手は殺すにはとても良い実験相手だと感じた。それも今のナザリックにおいて一番の仮想敵相手として存在する法国の兵士であり、その裏切り者であり、自分達ナザリックに害を成した外敵でもある。
「何より―――これ程、都合の良い奴もいない」
スキルによって無詠唱で右手に墓王剣を召喚。空間にアイテムボックスと繋がる異次元の孔を開け、左手に取り出した魔杖を握る。何時も使っているスタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンのレプリカではなく、対人戦に適したネクロマンサー用魔法触媒であり、オーバーロードの死骸で作成された邪骨杖。
骨剣と骨杖を持つ骸骨の魔法使い。
見るからに禍々しく、だからこそ魔王RPロマンに満ちた戦闘衣装。
「ああ。だからこそ、加減は有り得ないと知り、故に―――死ね。ただただ死ね」
絶望のオーラを全開にし、そこに自分自身の怨念も加え、それら全てが装備品によって威圧感が相乗される。周囲にいる生き物はアインズとクレマンティーヌを除き、全てあっさりと死んだ。宙を舞う羽虫が落ち、地面を這う虫が息絶え、地中の微生物まで全てが死に取り込まれた。
刹那、エヴェリンを発砲。
―――眉間に迫る弾丸をアインズは容易く剣で弾いた。
しかし、そんなものは子供騙し。スキルと武技を移動しながら発動させ、自分の肉体を強化し、敵の骸骨に一瞬で彼女は近づいた。まずは小手調べとレイテルパラッシュで瞬間的に数十閃と刺突を煌かせる。無論、相手は斬撃と刺突に耐性を持つスケルトン故に、手足や胴体では効果が全くないので、狙いは全て頭蓋である。だが、アインズも既に無詠唱で用意しておいた魔法位階上昇化・加速によってバフ状態にあり、素早さ重視の戦士職とまではいかないが、何でも無いかのように後衛魔法職から逸脱した動きで回避し、あるいは剣か杖で弾いた。
その動きで相手の技量を彼女は把握。
一旦距離を取ろうとし、骸骨を視界に入れながらバックステップ。
「
「―――あは」
そんな隙を逃す訳がない。魔法詠唱やスキル使用、あるいは武技の使用は戦闘中だと危険な行為。一日に何百何千と繰り返し、反復して肉体に刻み込んでも、戦闘では大きな隙になってしまう。アインズは銃弾を喰らって衝撃で体勢が崩れ、弾丸の能力もあって意識に一瞬の空白が生まれていることだろう。
―――レイテルパラッシュを変形射撃。右肩に当たり、後ろへ仰け反ってしまった。
その間にアヴェリンに仕込んだ銃弾超強化の魔法を発動させながら、あの骸骨の眉間をスタブする為に接近。再度、レイピアに変形させながら一気に刺突を放つ。そして、突き刺した後に強化したエヴェリンの魔弾を近距離で撃ち、更に刀身に仕込んだ魔法を発動させれば、一気に生命力を削り取れる。
……その全てが、ただのフリでなければの話だが。
ユグドラシル時代の騙し技だが、自分のキャラがパリィされた真似をし、近づいて攻撃してきた敵の攻撃を更に自分がパリィすると言う技術がある。アインズはそもそも魔法を発動させてさえおらず、スキルも魔法も使わず単純に弾丸を気合いで我慢していたのみ。その詠唱が本物と思った時点でクレマンティーヌはアインズの仕込んだ流れの中にいた。
余りに自然な流れで狩人は刺突を弾き流され、眼前に死の刃が迫り来る。無詠唱で発動させたパリィ系防御魔法「
「――――っち!」
しかし、その程度で死ぬ狩人ではない。体勢が崩れたままで良いと彼女は後ろへ退避。背を仰け反り、気が狂う程に戦い慣れている骸骨から距離を取り―――
「―――は?」
―――気が付けば、何故か自分は空中に投げ出されていた。下には剣先を上に、つまりは自分に向けて立っている敵の姿。あろうことか、あの骸骨姿も魔法使いは、クレマンティーヌに気付かれない程の速度と隠密で、彼女の退路を予想してその場所に
簡単な話、狩人が逃げた先に魔法使いが作ったゲートの出口があり、その男の真上に入口が作られていた。
「ぐぅ……が―――!」
「串刺しだな。心臓を抉り刺されるのは初めてかね」
何でも無いように骸骨は嗤う。その声でクレマンティーヌは、相手が百戦錬磨の魔法使いであり、自分よりも遥かに強者を殺し続けていた殺人者などだと分かってしまう。
勝てない―――と。
そして、彼女の視界は夜空からゆっくりと水平に戻った。アインズは墓王剣を前方に構え、クレマンテーヌの背中に微笑んでいた。
「そして、残念だったな、狩人。PKは相手の思考回路を殺さねば、勝ち残れない。相手の戦略と戦術を把握し、如何に自分の戦略と戦術で勢いになるかが重要でね」
魔法触媒であり、鈍器であり、万能の盾である骨杖。
処刑器具であり、防具であり、死神の刃である骨剣。
「まぁ、あれだ。貴様以上の狩人など―――腐る程、地底で殺している」
ゲーム時代と転移後の世界では、戦闘速度や戦闘技量に差はある。ただの人間だった頃に比べ、こちらの自分はあらゆる部分が超越者になっている。戦闘における思考回路の速度も、魔法と殺しの錬度も、廃人アバターに相応しいレベルになっている。そのゲーム時代と今の差を体感的に埋める前提で例えると、クレマンティーヌの強さは自分達のような生活を捨てた廃人には届かない。十二年間死に続けて操った鈴木悟のオーバーロードには、最適化された殺戮の歴史が刻み込まれている。
ナザリックのダンジョン素材の為、NPCもPCも殺しに殺した。
聖杯ダンジョンの中を彷徨い、MPがゼロになる危機的状態になっても敵を殺し、狩人を殺しながらダンジョンを攻略した。ゲームでの話であるが、今の自分の肉体にとってそれは現実。
魔法職が魔法を唱えると――死ぬ。
戦士職がスキルを使うと――死ぬ。
電脳空間に適応した廃人共との殺し合いにおいてただの常識であり、特に早撃ちを好むガンマン系キャラクターとの殺し合いでは当たり前。異世界に転移することで更に戦闘速度が上がった現状だと、カンスト帯では百分の一秒さえ気の遠くなる時間経過に思えてしまう程。
廃人モモンガのように思考速度で無詠唱が使いこなせない魔法職など、後衛でしか役に立たない案山子に過ぎず、今のアインズはそれを行いながら接近戦と白兵戦魔法も自在とする怪物だった。
「……この、化け物髑髏―――!」
「成る程。では―――」
あっさりと、墓王の刃は狩人を心臓の上から串刺しにしていた。刃は死霊の怨念が染み込み、継続的に生命力を侵食するスリップダメージでHPを削り、更に刃は相手を猛毒状態にし、無詠唱で発動させた死霊系付与魔法「死霊の束縛」で串刺しにした相手のモーションを一定時間拘束する能力を持つ。
「―――
「ァァアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
よって、墓王剣を触媒にアインズは魔法を詠唱。第七位階魔法を発動させ、敵のHP量を把握しながら、ギリギリまで生命力を削り取る事にした。
体内の心臓から発する雷電でクレマンティーヌは感電し、煙を発しながら狂ったダンスを踊った。
「
本当に死ぬ直前の、虫の息にまで弱体化させる。その上でアインズは拘束系魔法を多重展開し、念力の魔法で空中で固定。その彼女にアイテムボックスから取り出したアイテムを投げ、更にクレマンティーヌを束縛した。
「……ふむ。捕縛完了」
とはいえ、心臓に穴は空いたまま。本当に死んでしまうと、折角生け捕りにしたカンスト現地民がレベルダウンしてしまう。彼は僅かにHPを回復させる為のポーションを風穴の開いた胸部に注ぎ、ついでに墓王剣による状態異常も解除しておいた。
「テメェ、糞が。とっとと殺せ」
「そう言うな。今の私には、お前のような現地での強者が必要でね。と言うよりも、まだ喋る気力があるのか?」
「うるせぇよ。このクレマンティーヌ様を手玉にして殺した相手だ。此処で死ぬんかもしれないだから、ここでちゃんとしてないとアンタを一生分憎悪して死に切れない」
「嫌に潔いな。自殺志願者か?」
「―――あん? 馬鹿か。これからアンタに殺されそうになってるの。自殺じゃなくて他殺だし……そもそも、死にたくない。死にたくないけど……まぁ、殺し合いの結果で殺されるんなら、本望かなぁ。望んで狩人になった訳だし。
やりたいことして死ぬんだから、多分私は幸福な方だと思うんだよね」
「幸福?」
「うん、幸福。狩るんだから、狩られるだろうし。殺すんなら、何時か殺されるだけだしね。自分でその循環の輪に飛び込んだんだから、死ぬのも不幸な事じゃない。寿命じゃなくて、強い奴に殺されるんなら、悪い死に方じゃないって私は思っていたり」
「……口が達者になったな」
「そりゃ最期かもしれないし。言いたいこともいっとかないとスッキリ死ねないじゃん?」
「それは確かに。納得しかないな。やりたいことして死ぬのなら、幸福以外に有り得ない。なるほど、なるほど。そうだな、だから―――気が変わった」
「あ?」
冷静になれば、この女を殺すのはナザリックの利益にならない。手に入れない方が不利益になる。現地の情報に精通した法国の元狩人であり、ニグン以上にあの国について知っている筈。旅をした同僚を殺されたのは腹が立つが、それは自分が苛立っているだけの話。
何より、強い。ステータスやクラスは兎も角、PSは育てているNPCより巧い。練習相手にもなるし、法国の対狩人戦を想定すれば逃さない訳にもいかない。
「私は、お前を―――コレクションする」
「は?」
「必要だったのは知識だけであり、法国の裏切り者と聞いて一石二鳥と思ったのだがな。あの人に遠慮することなく情報を抜き取れると思い、この世界を知る都合の良い拾い物と考えたが。
……ふむ。そう言うこともありと言えばありだな」
取り敢えず、ナザリック色に染める所からだな。と、クレマンティーヌを部下にしてみようと思い付いてしまった。本当ならこの世界の情報を知る為に捕虜にした後、拷問し、洗脳し、殺し、何かの材料にでもしようと考えたがやめることにした。
「ちょ……おま、てめぇ―――!」
狩人をゲートで空けた穴にポイっと投げ入れた。冒険者モモンとしての手柄はナーベが殺したネクロマンサーだけになったが、この騒ぎの主犯としては十分な獲物だろう。
「アルベドとパンドラ。宜しく頼む。取り敢えず、装備品全部毟って状態異常が出来るようにし、きちんと見張りを付けて拘束しておくように」
ふむふむ、と頷き、彼は何時もの黒甲冑の冒険者姿に戻った。ナーベにはメッセージでとっとと殺して良いと伝えてあるので、もう始末し終えていることだろう。後は自分が囚われの少年を助ければ、この依頼も無事達成。意気揚々と彼は要塞都市へ戻る準備を始めるのであった。
とのことで、VS狩人クレマンティーヌでした。
これでナザリックは法国の機密情報盗み放題になりました。血の聖女の誕生です。法国のアイデアをデミさんは手に入れましたのでワクワクさんになります。なので今は成長する現地生物での人体実験に着手する方向になるかなぁと考えてます。カンスト生命体の血液や細胞を材料に、タブラ化した錬金術師パンドラがいれば人体改造諸々やりたい放題。パンドラが便利過ぎて困る。
後、アインズさんはソロで活動していたので、後衛職で最前線で生きる為に実は魔法による防御PSが圧倒的に巧かったりします。今回のアインズ様は動きそのものは本腰を入れてますが、作戦自体は適度に軽くしました。