PK廃人共の異世界   作:サイトー

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十五・その日暮らしのヤマムラさん

 記憶喪失になってから、どのくらい経っただろうか?

 同僚の狩人が秘宝と聖杯を強奪し、聖典機関から逃走した騒ぎに乗じて自分も逃げ出したが、何故か非常に運がない。どうしようもなくついていなかった。狩人になる以前の失くした記憶を探しに旅をしていたが、自分はあの刀の悪魔――イチコと殺し合い、負けた。殺されはしなかったが敗北した瞬間、あの女の刃に魅せられてしまった。

 これ以上強くなれない程、肉体は極めた。

 しかして、狩人を作った奴らが語る“れべる”の壁は超えられなかった。

 あの化け物二匹も自分と同じ“れべる”を極めた“かんすと”と言う領域であったが、訓練で自分は一度も勝てた事もなく、何時も死ぬ直前まで嬲られるか、殺されて蘇生されるのが常だった。狩人衆は人類を辞めた元人間の最上位の超越者であるが、あの“はいじん”共からすれば、ただただ殺して愉しむだけの慰め者である弱者に過ぎなかった。だから、更に強くなってムーン・プレゼンス機関長を殺し得る境地を得るために、狩人の流儀ではない斬殺者の境地を得る為に、自分はクレマンティーヌの騒動を利用して狩人衆を抜け出した。

 そうして出会ったのが狂宙イチコであり、自分が求めている境地にあの女は至っていた。

 狩人としてのクラスに染まってはいるが、それらも所詮は自分の肉体と魂に刻まれた物。

 欲したのはヤツら“はいじん”と呼ばれる“ぷれいやー”の強さであり、狩人の自分のままでは決して辿り着けない強さでもあると気が付いていた。プレゼンス機関長を殺して斬りたいが、その為には“はいじん”の狂気を得る必要がある。

 必要となるのは職業にも種族にも関係ない自分自身の技。

 この世界の定められた技能や武技でもなく自由自在の業。

 ただ強く、何よりも巧く、遥か鋭く。ヤツらの肉体に宿る研鑽の後は幾度も死を乗り越えた刻印であり、それを操る精神はあらゆる死を許容している。自分が死ぬのさえ愉しく、人を殺す過程を極限の悦楽として、命を奪うことに何処までも無関心だった。戦闘職でさえない魔法職のコギル・デンスタンであろうとも、自分を接近戦で惨殺する絶対性を誇り、あらゆるスキルも武技も通じなかった。

 ―――欲しい。

 それら全てが欲しい。

 幾度死んでも欲しい。

 何度甦ろうと欲しい。

 欲しいから、欲しているから、ヤマムラとプレゼンス機関長に名付けられた名無しの刀使いは、ただただ“はいじん”を殺し得る“ぷれいやーすきる”が欲しかった。狂宙イチコを師匠として敬い、その命を何時か斬り欲するのもまた彼にとって当然のことで、彼女と殺し合う事が何よりも優先される訓練となった。

 ……とは言え、それだけで生きている訳ではない。

 その日暮らしが似合っている自分は、好き放題生きる事しか出来ない。とのことで、依頼を気分次第でこなす冒険者が性に合っていた。別段、生活の手段に拘る方ではないが、やはり悪行を犯して生きるよりかは、人間社会の為に労働をした方が人間性が満ちてくれる。

 愛用の剣と鍛え極める剣術にのみ拘っている自分だが、それだけ。なので、このような事態こそ望んだ危機でもあった。殺し合える相手は師がいるので充分だが、やはり敵となる者は多い方が有り難い。

 

「そこのお前、人蛭か?」

 

「おやおや、酷い言い様でありんすえ」

 

 夜の森と月の光。風は僅かに吹き、草が揺れ、血の臭いが僅かに漂っている。雲と雲の間から覗く月明りが地上を照らし、出会った二人は顔を会わせていた。

 

「酷いのはお前だろう。構わず殺戮したと見えるが」

 

「当然でありんす。わたしには不必要でありんすゆえ、構わないのも当たり前」

 

「そうか。まぁ、別に生き死には如何でも良い。俺はただただ同僚を殺されたのが傷ましいだけさ」

 

「そうでありんすか……で、ぬしはなにをいたしんしょうか?」

 

「お前を斬る。死ね」

 

「……ふ―――ふふふ。うふふふふ」

 

 そんな会話をしつつも、ヤマムラはついてないと内心で嘆いており、吸血鬼――シャルティアはついていると喜んでいた。

 拷問してアジトを吐かせた盗賊団は雑魚だった。運の悪い事に自分が盗賊団を虐殺している間、ここを討伐をしに来た冒険者も雑魚だった。彼女が欲しているのは武技を使う強者であり、我らナザリック地下大墳墓に利益を与える実験動物である。よって自分を問答無用で攻撃して来た冒険者を殺害し、何故か赤いポーションを持っていた女も捕え、前もってアジトを召喚した眷属で囲んでおくことで、この場所から逃げようとする斥候も捕まえた。

 ―――全ては、アインズ様の教えの儘に。

 人間一人、蟻一匹この場所から逃がす不手際をシャルティアは犯さない。

 敵拠点を襲撃する為に、獲物をそこから逃がさないと決めたのなら、そのアジトを眷属で取り囲むは当然の戦術。自分は異世界を知る為に遣わされたナザリックの破壊鎚であり、セバスから言われた通り、本当はこう言う誘拐と拉致はデミウルゴスの方が優れている。しかし、だからと言って、それが正解とは限らず、あのアインズ様が理解いていない訳がない。ならばこそ、自分がこうして防衛戦や侵略戦以外の用途で使われるのも意味があり、向いていない自分が行う人間狩りにも価値がある。

 監視網と連絡網の構築は戦略の基礎であり、彼女は教科書通りに虐殺本能を理性的に運用している。そして、冒険者には別動隊がアジト出口の反対側にも存在していた。

 そして――居た。目の前に現れた。

 間違いなく強者であり、欲した技術を持っているだろう原住人間種――否、人間もどき。それも濃い血臭が染み込んだ人殺しの気配がする異形の物の怪。

 

「ふふ。では、殺すしんしょう。あなたの血を頂くでありんすよ」

 

「そうか。名は?」

 

「……はい?」

 

「だから、名は?」

 

「名でありんすか。この状況で?」

 

「おう。一対一の果し合いになるのなら、聞いておきたいだけだ。ああ、おまえは知りたくも無いかもしれないが、礼儀として先に名乗っておく。

 狩人、我流剣士。名はヤマムラ。これから死ぬまでの間、宜しく頼む」

 

「礼儀でありんすか……成る程、では仕方ないしんしょう。

 わらわはナザリック第一階層守護者。名はシャルティア・ブラッドフォールンでありんすよ」

 

 今まで愉しみ殺した獲物とは……いや、この世界で初めて敵となる者の言葉にシャルティアは笑みを溢した。何よりも姿も鬼気迫る圧迫感があり、この世界では珍しい装束。彼女が持っている花魁衣装と同じ和服に属する物で、男は血と泥で小汚い旅人の服装。そして何故か、頭だけは和服ではない黒色のハット帽。

 しかし、それらは自分が持つ装備と同等にまて強化されている。見た目通りのモノではない。腰に刺した刀剣も異常な気配を纏い、シズが愛用している銃器と似たアイテムも男は背負っていた。

 

「とは言え、わたしに武の心は皆無でありんすから、ぬしは―――ただ死ぬ。わたしはただ殺し、あるいはただただ殺されて死ぬ。たったそれだけの話でありんす」

 

 素手とドレスだった装備を換える。全力を出せる武器を取り出す。自分は敵を侮る癖が身に付いているが、そんな程度の思い込みはアインズ様から与えられた教えに比較すれば如何でも良い事。我らが王の言葉は絶対であり、人間を食べ物として軽視する在り方は創造主に定められた吸血鬼としての誇りであるが、それは殺す相手が敵ではない場合。加えて人間を愉しむのは主命ではなく、自分のプレイベートだけと自分に戒めを掛けている。シャルティアはアインズ様からの言葉を守る為、そう在ろうと自分自身に王の教えを刻み込んでいる。

 故に、この選択は必然。

 彼女は神に等しき創造主ペロロンチーノから与えられた赤き戦乙女鎧を身に纏い、生命力を啜り奪うスポイトランスを握り締める。

 

「分かった。では――参る」

 

「どうぞ。ぬしの御好きな様に」

 

 領域、構え、踏み込み、抜刀――――即斬。

 このヤマムラ、油断もなかれば躊躇いも全くない。初手にて必殺。全霊を込めた一刀で以ってシャルティアの全てを一切両断せんと殺す。殺さねばならない。血を愉しむ化け物は、ここで死なせなくてはならない。しかし、必殺の意を込めた居合斬りは確かに攻撃速度そのものは世界最速の武術と呼べるが、これほど斬撃軌道を読み易い攻撃もないのも事実。銃弾が銃口からのみ発射されるのと同じく、鞘から刀身を煌かせる最速だからこそ―――剣閃はただただ唯一の軌跡を残すのみ。

 

「―――っ」

 

 よって、回避に成功せし―――再度、鞘に刃を納刀しているヤマムラの姿。彼女はあの一閃が無造作に放たれただけのただの斬撃だと理解し、必殺の居合ではなく、ただの抜刀術だと把握した。つまるところ、あの迅速さで必殺の意を込めず、単純な殺意だけを込めた技。

 恐らくは、これより放たれる居合こそヤマムラの業となる。

 職業クラスのスキルを解放し、その上で武技を同時に発動させた。納刀と同時に血液を刀身に付与し、領域によって全てを把握し、神閃を超えた(つい)の神閃で居合を構え、無言のまま職業クラス:ケンシンのスキルを使う。

 

「ぎぃ……!」

 

 身に纏った赤い鎧ごと両断された。シャルティアは激毒が自分を犯し、斬撃の傷痕を灼熱と感じながら、倒れ込む自分を実感し―――真っ二つにされた己を回復させる。時間逆行により、斬られる前の自分の状態に戻した。

 

「やはり、超越者か。喜ばしいが、逃げたくもある」

 

 刀身に纏った血液をヤマムラは解除する。この刀の血液強化は攻撃力を劇的に上昇させて、毒を遥かに越えた即死性の高い劇毒の状態異常にするが、常時HPが減るデメリットを持つ。常に血刀を維持すれば数分で命が空になるある意味呪われた武器なので、小まめに納刀と抜刀を繰り返す必要がある面倒なアイテムであり、だからこそ劇的な殺傷効果を誇る兵器であった。

 

「くはぁ、あはは。イヒヒヒヒヒヒひゃぁ、痛くて熱くて、泣いてしまいそうでありんすよ。痛すぎて、気持ちよくて、快楽の余り哭きたくなるでありんす!

 あぁん、アアァァア、もっともっと、わたしを斬るでありんす! お礼にぬしも気持ち良く突き殺してありんしょう!」

 

「あ、やばい。これヤバいドMだ」

 

「ふふ。それとも男のぬしは突くのは慣れていても、突かれるのはいやでありんすか?」

 

「くそ、それも真性の変態だ」

 

「良いでありんす。わたしをもっと褒めなんし!」

 

「褒めてねぇよ」

 

「良い突っ込みでありんす。ぬしは面白い雄役のペットになりんしょう!

 そうでありんすね、何時かは人間種の尻尾付き雌犬でもペットに飼って、それの公開自慰ショーの観客役でもいたしんしょうか!?

 ああ、この世界での夢が拡がるでありんすねぇ……」

 

「ダメだこいつ、頭がピンク色に湯出ってやがる」

 

「まぁ、それは兎も角、我が創造者から贈り物である鎧に傷を付けた罪は、苦痛でもって償って貰うでありんすが。

 取り敢えず、ぬしは死になんし」

 

「なんで変態は揃って理不尽なんだ。こんな奴ばっか強くて嫌になるぜ」

 

「では、わらわと一緒に踊るでありんす!」

 

「それには喜んで」

 

 高まった殺意が遂に暴発。そして、間合いが敵の武器と判断した彼女の行動は早かった。スキルと魔法による遠距離攻撃に移ろうと考え、魔法詠唱を開始した刹那、相手が背負っていた古式猟銃――貫通銃が瞬間発砲される。

 ……ふむ、と内心でシャルティアは納得していた。

 やはり敵はアインズ様が言っていた通り、廃人の殺し方を心得ている。スキルや魔法、アイテムなどを態と使わせ、それを潰して強制キャンセルさせ、その隙に自分のスキルや魔法を叩き込む。相手に回避行動や防御行動を行わせ、その間に必殺技と呼べる攻撃を準備する。試しに魔法を詠唱するフリをしてみたが、的確にそれを潰すための道具を持ち、しっかりと一撃で殺しに迫って来た。それをシャルティアは理解しており、ヤマムラの弾丸をスポイトランスで弾き飛ばした。その上でフリーになった左腕を使い、無詠唱で発動させた魔法をモーションで操作する。

 速射性の高い牽制用魔法、ブラッディジャベリン。まるでガンマンの早撃ちの如き素早さで放たれる魔法は音速を超え、ヤマムラはそれを血刃を纏わない即斬の抜刀術で切り捨て、そのまま接近。シャルティアも牽制のために左手をフリーにしながらランスで突進(チャージ)を決行。

 これこそ血で血を洗う――化け物同士の殺し合い。

 互いに技量を刻み合い、思考回路で戦術を潰し合い、スキルと魔法を穿ち合う。先に隙を晒した方は動きを断たれ、終の始末をその身で受ける事となる。刃で突撃槍の矛を止め、槍で刀の斬撃を受け流し、銃弾と魔法が交差する。

 

「……おまえ、その技量―――?」

 

 ヤマムラは疑念に思う。殺戮に特化していながら、殺し合いを試すような動作。慣れてはいるが、何処か実験的な雰囲気を持つ仕草。

 ―――NPC(えぬぴーしー)、従属神。

 その単語を彼は思い出し、相手の素性を何となくだが考察する。

 鍔迫り合いになった二人は互いに力を込め、あるいは引く。銃と魔法を何時使うか思考と視線を巡らせながら、ヤマムラは意味も無くそんな事を呟き、それにシャルティアは気紛れで答えていた。

 

「ふふふふ。まぁ、ぬしも同じくと言った所でありんしょう?

 わらわもまだまだ偉大なる御方に成す術もない修行不足の身ゆえ、ダンスは不慣れでありんすが、それもまたよいことでありんす。

 ほら―――あの御方達の境地こそ、至高天(エンピレオ)を嘲笑う至高そのものでありんす」

 

 この男は、必ずナザリックの為に手に入れる。雑魚しかいないこの世界で、ここまでの異分子を逃すとなればナザリックは後手に回る事になる。不足の事態こそ好機を招き、シャルティアはアインズ様に目の前の狩人を献上することが使命なのだと自覚した。

 何より――我らの王に届く牙が、この世界には存在する。

 奴らが居るのは分かっていた。捕虜からの情報をシャルティアは得ており、この世界にプレイヤーが存在している事も分かっていた。

 

「ああ、だから―――死ぬでありんす。わたしの手で、どうか無惨に死になんし」

 

 脳細胞の一粒さえ例外なく男は有益だ。ヤマムラの強さは素晴しく、我らナザリックと同じ異界の力が必ず関わっているに違いない。生け捕りが難しいならば殺し、死体に殺し(作り)変え、大墳墓へ持ち帰る。

 死ね、と声もなく戦乙女は疾走。

 斬る、と言葉もなく剣士は抜刀。

 

「ん~、あれ。もしかして―――あなたたちが噂の破滅の竜王(カタストロフ・ドラゴンロード)?」

 

 そして、その殺し合いを止める者が一人。

 白黒の奇妙な少女が、月明りの中から楽しそうに現れた。その手に月光の聖剣を握り締め、青い輝きで世界を啓蒙の狂気で照らしていた。










 一体このヤマムラ、誰が正体なのか。


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