PK廃人共の異世界   作:サイトー

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十六・獄の女

 その女は悪魔よりもおぞましく、天使よりも麗しかった。

 

「ふぅん、ふむむ……あ。何となくだけど、事情は分かった」

 

 月光の聖剣を青く光らせ、完全な臨戦態勢を整えつつ、奇妙な白黒の髪をした少女――絶死絶命は笑った。既に名前を捨て、ただの絶死絶命と言うシステムに成り果て、聖剣を得たことで二代目聖剣遣いとなった女は、もはやルドウイークと言う名前の称号でしかない。その女が聖剣を持ちながら笑うとは、つまりもうすべきことが決っているという暗示でもあった。

 何時もと何も変わらない。

 これより先は狩りの時間だ。

 敵は自分と同じ超越者なだけ。

 

「吸血鬼は殺すと死体が消えそうだから、カイレちゃんコースかな。そこの裏切り狩人は国に持ち帰った後、略式裁判で拷問懲役刑にして、アイテム製造機にするのがベターだよね。本当ならクレマンちゃん見付けたかったけど、あなたでも機関長への良い御土産になると思うのよ。

 ねぇ……――ヤマムラ?」

 

 機関長直属医療教会の人事課の職員に誘拐され、そのタレントと意志から狩人へ転生された改造人間の一人。脱走自体は殺せば良いのでそこまで拘る事ではないが、この男の装備品は医療教会の聖歌隊が製造したアイテム。その値段は個人でどうこう出来ない国家予算レベルの物で、人間が数十万人いても足りない程の価値がある。それを盗んだままであるのは、どうしても国家公務員として見逃せない。単純に職務怠慢であり、普段はそれなりに裕福な生活を送っている軍人としての義務もある。ある意味でそんな人間性に溢れた一般的な社会人としての考えもあるが、それは給料分は働こうと言う程度。

 狩人狩り程――素晴しい仕事は存在しない。

 月光に光り輝く聖剣遣いは、青い啓蒙のままこれより先の歓びを感じて微笑んでいる。

 

「絶死絶命……か?」

 

「そうだよ」

 

「あ~……いや、本当についてないなぁ」

 

 吸血鬼だけでも一杯だと言うのに、この場でまさか漆黒聖典最強の化け物に遭遇してしまった。

 

「ちょっと。そこのぬし、いいでありんすか?」

 

「え、なに?」

 

「今、わたしはそこの男と殺し合っていたでありんすが、それを邪魔したぬしはわたしと戦うつもりでありんすか?」

 

「まぁね。破滅の竜王(カタストロフ・ドラゴンロード)は見逃せないのよ」

 

 とはいえ、部隊は引き連れていない。遠目から一目で狩人と吸血鬼の殺し合いを見た絶死絶命(ルドウイーク)は、その戦闘能力を把握し、更に鑑定の魔法によって装備品も観察していた。だから、彼女は一人で此処に来た。仲間そのものは隊長以外は弱く足手纏いとは言え、持っているアイテムやタレントは有能だ。そして、中でもカイレのアイテムは絶対的な能力を持ち、レベルもクラスも関係ない敵にとって災厄のもの。だがしかし、同じ絶対的なアイテムを持つ相手には無力である。

 狩人ヤマムラは兎も角、あの吸血鬼は駄目だ。同格のアイテムを持つあれには通じない。

 何よりも、ヤマムラの前でアイテムを使えば一瞬で撃ち殺される。恐らくは、あの吸血鬼もアイテムを使われる前に敵を魔法で瞬間的に殺す技を体得していることだろう。

 だから狩人はえげつない。

 どんなスキルもアイテムも魔法も、使わせなければ問題ない。

 だから彼女は此処にいる。そこそこに仲間思いな彼女は部隊員を敵に殺させる趣味は全く無く、殺し合える自分だけが表に出た。

 

「だから、取り敢えず―――私に斬られて、襤褸雑巾になってね」

 

 青い紋様は更に輝き、月光の聖剣はついにその真なる姿を具現させた。天上の欠けた三日月も共鳴して青く光り出し、段々と満月へと変化していく。絶死絶命(ルドウイーク)は天に剣先を向け、啓蒙を得た賢人の如き穏やかな微笑みを浮かべ、月光の蒼い剣で世界を悪夢で蒼く映し出す。

 ―――おぞましき悪夢への誘いだった。

 もはやこの空間は異界へと失墜してしまい、星一つない夜空は青い満月だけが輝いている。世界全てが青く、蒼く、ただただ碧く照らし出され、あらゆる存在が啓蒙され尽くされてしまっていた。

 狂気こそ――正気。

 発狂こそ――真実。

 月光の聖剣とはもう一つの世界から産み落とされた悪夢の断章。

 彼女が持つ異世界限定の特殊職業クラス――(メンシス)が持つスキルによって、月の聖剣は本当の能力を引き摺りだされる。

 

「青い世界―――美しい。

 あぁ、ああ、とてもとても綺麗でありんすねぇ……」

 

 青い闇の中、蒼い満月と碧い聖剣――――月光の悪夢。

 シャルティアは脳内に何かが蟲の群れみたいに蠢いている幻覚があり、その死にそうな程の異物感が至高の快楽となって体中に電流が走っていた。ヤマムラも同じく青色の狂気に身を焦がされていた。

 何かが見えそうで、何かに見られていそうで、何もかもが狂ってしまいそうだった。

 理解してはならぬ真実が、この世の本当の姿が、月の光で浮き彫りになる。

 

「私の聖剣、私の真実、私の満月―――これが、私の真世界(リアル・オブ・ザ・ワールド)!」

 

 メンシスの力、ムーンズフィールド。一定空間を悪夢に歪め、青い満月を投影し、月光の聖剣の力をワールドアイテムレベルにまで強化する。一刺しでHPを吹き飛ばす異常なる聖剣は月そのものになり、天上の幻月は聖剣に呼応して更に輝く。とある古典エロゲ好きの同好会メンバーがそう名付けた武技と魔法とスキルを融合させた異端なる能力は、絶死絶命だからこそ使用可能な最上位の世界だった。

 月が、囁いている。

 狩人と吸血鬼を滅する為に、狂った波動を迸ている――!

 

「うわぁ……こりゃ駄目だ。逃げるか」

 

 そんな呟きを洩らすヤマムラだが、彼には更なる悲劇が待ち受けていた。蒼い満月を背後に新たなる介入者がこの場に現れた。

 

「ふむ。君達は何者かな?」

 

 白銀の鎧に、背後に浮かぶ数多の武器の群れ。

 

「あら、そう言うあなたこそ何者よ? 答えないなら、こっちも答える気はないわよ?」

 

「同じく、わららもよ」

 

 しかし、ヤマムラと違って女性二人は勇ましかった。そもそも無礼な男など唾を吐き捨てる程度の扱いで良いと考えており、そもそもその程度で済めば御の字だ。ヤマムラはあいつ死んだなと考えながら、自分抜きの三人同士仲良く殺し合わせようかと画策していた。

 

「え。なにこれ。うわぁ、うわぁ……王国って法国に負けない修羅の巷だったんかよ……」

 

 ただでさえ同僚が皆殺しにされて少しナイーヴになっていたと言うのに、これである。戦乙女吸血鬼(かんすと)でも災厄と呼べるのに、次が月光聖剣啓蒙魔(かんすと)に加え、何か青い月光の宙から浮遊獅子鎧(多分かんすと)が降って来た。もはや意味が分からず、誰かに言っても信じて貰えない状況だが、これが現実。

 やはりこの世界はクソッタレだ、とヤマムラは毒を吐いた。

 ただの剣士に過ぎない自分では身が重い。まだ奴らと同じ“はいじん”の境地ではない自分では、時間を忘却する無念無想には程遠い。あの機関長ならばこの三人相手でも、特別な道具も必要とせずあっさりと勝利するのだろうが、自分では逃走するのが精一杯だ。

 

「はぁ……―――ぬしら、まずは跪きなんし。

 全員、誰も逃さずその命、わらわが縊り殺すでありんすよ」

 

 そう言いつつ、シャルティアはアルベドに現状報告のメッセージをとっくに送っており、それが出来ない異常事態に対する動揺を内心で留めていた。誰がしたのか、魔法なのか、スキルなのか、アイテムなのか分からないが、どうやらメッセージ封じの魔法が一定空間に施されているようだ。確かアインズ様が言っていたPK戦術で、殺す相手が仲間に増援を呼ばないようにする手段の一つとして聞いていたが、それを実際に使われる脅威をシャルティアはその身で味わっていた。

 となれば、すべきことは単純である。

 自らの使命を完全に自覚したナザリック階層守護者――シャルティア・ブラッドフォールンは、敵対する三名を欺く為に行動を開始した。

 

 

◆◆◆

 

 

「―――で、逃げ帰ったの?」

 

「業腹ながら、そうでありんすねぇ……残念でありんしたが。まぁ、わたしも戦力くらいは見れば分かりんす。敵を捕えれなければ利益はないんでいたいんしょうが、わたしが死ねば戦力でも、財力でも損になりんしょう?

 何より――アインズ様の秘宝を頂いた我ら守護者は、プライドを捨ててまでナザリックに帰還する義務がありんす」

 

「……そう。嫌に利口になったわね、シャルティア。確かに私も、貴女と全く同じ選択をするから、守護者統括として言うべき事は何も無いわ。

 いえ、むしろ良く生きて帰って来れたと讃える立場に私はいる」

 

「アルベドにそう言われれば、わたしも少しは気が安らぐでありんすよ」

 

 彼女は敵を脳裏で思い出す。狩人、月光、空鎧――全員ほぼ同格。

 

「わたしは死ぬのは怖くないでありんす。ナザリックの為に、何よりアインズ様の為に死ねるなら、これ以上ない尊厳に満ち溢れた死に方でありんしょう?

 ああ……あぁ、けれども、深淵なる叡智を持ち、誰よりも賢きあの御方であろうとも、確かに伝わって来る気持ちがありんす。こんなわたしでも、あの御方の考えは感じ取れるでありんすから。

 誰かが死ねば―――アインズ様は悲しみんしょう。

 こんな薄情で、化け物なわたしでさえ、守護者の誰かが死ねば、胸が裂ける程に悲しいでありんす。だったら、誰よりもナザリックを深く愛するアインズ様ならば、どれだけの悲しみに魂が割かれるか、理解さえ出来ない感情になりんしょう。

 それを考えれば、何時までもペロロンチーノ様の教えに甘え続けることは、罪でありんす。あの方が定めたモノは決してナザリックの枷ではなく、ナザリックにとって掛け替えの物であるのだと、アインズ様が大事にする思い出の一つなのだと、このわらわが証明する必要がありんすから」

 

「成長したわね。頭が良くなったのかしら」

 

「いや、わたしはペロロンチーノ様が求めたままの、天然で、お茶目な、ちょっと間の抜けた可憐な吸血鬼でありんすよ。ただそんなわたしのまま、アインズ様の教えを守り抜くことこそ、ナザリックの守護者としての責務であり、被造物としての義務でありんすから。

 そういうアルベドは、もう少しお馬鹿な振りをした方が、アインズ様に愛され易くなると思うでありんすよ。誰かを愛することは、誰かに愛されることと話は別物でありんしょうし」

 

「―――愛。愛ね。

 正直、私も良く分からないのよね。アインズ様こそ私にとって最高の御方だけど、こんな私風情の愛が、あの御方が愛でる程の価値があるのかどうか。誰よりも愛してるし、誰よりも愛して貰いたいと願っているし、そう行動しているけど―――……なんだか、今一そう言う実感がないの。

 弱音とは分かってるのだけど……」

 

「気にする必要はないでありんすよ。我らは強欲であるべきと生み出された悪魔と吸血鬼でありんすから」

 

 そう笑い、シャルティアは紅茶を一口。任務を終えた同僚を気遣って報告ついでに、アインズ様が提案した午後の一時間の休憩時間を使ってシャルティアをアルベドはお茶に誘っていた。

 

「所詮……なんて言葉は、ペロロンチーノ様が望むヒロインらしくない無知無能を晒して好きでないでありんすが。やっぱり所詮、わたしの命はユグドラシル金貨でどうとでもなるものでありんす。この命、その対価に相応しいモノをナザリックが得る為でありんしたら、アインズ様に捧げることこそ使命なんしょう。

 しかし、それもあの恩方が我らをそう道具扱いすることを望めばこそ。

 まさか敵が持っているであろうワールドアイテムから我ら守護者を守る為に、あの秘宝を我らに授けるとはあの御方は慈悲が深すぎるでありんす。これでは死ぬことも出来ずにこの命を賭して、ワールドアイテムを守る為ならば、戦場から逃げる不名誉も甘んじて受けねばならなんしょう」

 

「同意ね。いえ、ここは同感と言っておきましょう。あの御方はナザリックの為と言いながら、私達個人一人一人を大事にしておられるわ。この大墳墓と言う組織ではなく私達がいるから、ナザリック大墳墓を守ろうと考えている至高の王であらせられるの。

 それは、とても慈悲深い事だわ。けれども慈悲深いと言うことは、それだけ心も傷め易いと言うことでもある。あの御方は強く、我らの死も受け入れる超越した絶対支配者であるは当然のことであるけど……―――えぇ、同じくらいに、脆い部分も持っていらっしゃるの。

 ……盲信と狂信は違うのよ。

 私達は至高の恩方が定めた規律を盲信しながらも、恩方だけを狂信しなければならない。その二つを混合すれば、身一つでナザリックを背負うアインズ様の枷に私達は堕落してしまう」

 

「あぁ、流石はアインズ様。だからこそ、我らの至高の王でありんす。慈悲深く、完全な叡智を誇り、完璧の御心を持つ御方。だからこそアルベドの言う通り、わたしたちは自分の創造理念を盲信する下僕。自分の思考なく、そう在らねばならない臣下でありんす。

 しかし、御方をこうだからと盲信するのは罪!

 それはわたしたち風情の下僕が、まるで御方達がわたしたちそう在れかしと定めた行いを模倣する不敬の極みでありんす。

 すべきは狂信ただ一つでありんす!

 ただただ、あの御方の為に。

 ただただ、それだけの為に―――わたしは呼吸をして、生きている」

 

「ええ。その通りね」

 

 アルベドはシャルティアの言葉が心地良かった。この大墳墓に残った恩方はモモンガ様だけであり、決してアインズ・ウール・ゴウンでは有り得ない。自分達が不甲斐なく、ナザリックを守れなかった不忠者であるが故に、アルベドも自分の創造主を含めた“アイツラ”が消えた事を責める気はない。

 しかし、もはや興味はない。

 モモンガ様を悲しませた裏切り者に、憎悪も、未練も―――思い出も、何も無い。

 彼女は純粋無垢な心で憎いだけ。恨んでいるだけ。裏切り者共がナザリックを去った理由であろう者共が、あの侵入者共を殺せなかった自分達が、余りにも憎かった。弱い自分がどうしようもなく、憎かった。

 だから、アインズ・ウール・ゴウンなど如何でも良い。

 あんなモノは過去の遺物であり、既に消え果てた残骸。

 アルベドはモモンガが存在しているナザリック大墳墓が好きで、モモンガだけを愛して、あの御方だけに恋をしている女に過ぎない。

 

「ねぇ……シャルティア」

 

「うん? どうしたでありんすか、アルベド?」

 

 それを思えば、昔のシャルティアよりも今のシャルティアの方が素晴しい。あんな下らないモノよりも、アインズ・ウール・ゴウンよりも、全ての下僕がモモンガ様のモノになるべきだった。だからこそ、今のシャルティアの変化は歓迎すべきこと。

 彼女は強くなっている。一日経つごとに経験を積み、モモンガ様が求めるシャルティアに変わりつつある。自分があの時にモモンガ様の手で愛せよとモモンガ様のモノに生み変わったように、他の者もモモンガ様だけが支配する下僕に生み変わりつつある。

 これを歓迎せずに、何が守護者統括か。

 自分が守護すべき物はアインズ・ウール・ゴウンに非ず。

 統括として守護者を操り、アルベドはモモンガ様だけのナザリック大墳墓を護る悪魔。

 

「敵は強大よ。今のままでは私たち全員で挑んでも、あの怨敵共の一匹さえ殺せない。私たちはどうしようもなく弱く、アインズ様のお役に立てない無能の輩。この世界にいるあれらと殺し合いも演じられない弱者になってしまっている。

 だから、だから―――……だから、力が。もっと力が」

 

「ええ。ええ。分かっているでありんすよ……―――本当に」

 

 ―――アルベドは微笑んでいた。
















 読んで頂き、ありがとうございました。
 書きたい場面まで後少しで辿り着きそうです。その為に始めたクロス二次創作ですので、早くプレイヤーの分身である不死人として活躍させたいです。これはしない不死人とか呪われ人とか灰の人はぶっちゃけ、ダークソウルを持たないただのソンビ野郎に過ぎないので早く活躍させたいこの頃です。
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