ナザリックが燃えている……と、最下層の玉座に戻ったモモンガは感慨に耽っていた。こちらがマネーを消費すれば全て元通りに戻るとは言え、ギルドが粉々に破壊されていく光景。オブジェクト破壊効果のあるスキルや魔法、あるいはアイテムで粉砕されていく様は、自分達アインズ・ウール・ゴウンがこのダンジョン・ナザリック地下大墳墓に攻め入った時を思い出される程の暴れっぷり。
「あー、ヘロヘロさん。熱の入りっぷりが凄いですね」
幾つもの映像画面を作り出し、個別で音声も自分に聞こえる様にモモンガは操作していた。その中で、一際演技に熱が入り過ぎて少し危険なぐらい熱狂しているのがヘロヘロの所だった。
「―――動くな」
メイドを一人拘束して盾代わりにし、ヘロヘロに銃口を向ける敵プレイヤーの声。その映像を見たモモンガは少しだけ手を出して楽しんだVRステルスアクションゲームを思い出し、これはあかんヤツやぁと先の展開を予想出来た。
「貴方は、そこまで……エキタイオロチ!」
「いや、まぁ、そりゃするきゃないでしょ、普通。うんうん。その為のゲームだし。それにハラスメント警告が出ない絶秒な女性キャラへの拘束技術、意味も無く難しいので、こんなある意味美味しい場面は逃せないのです。
良いですねぇ。こう、女性を人質にして、その親であるプレイヤーを脅す何てヒールRPの真骨頂と言いますか」
エキタイオロチと呼ばれたプレイヤーは常時発動型スキルCQCにより、銃とナイフと格闘を併用可能なアサシンタイプのガンナーだ。知り合いの錬金術師に依頼した作った爆弾アイテム・遠隔起爆設置爆雷TNT(凶)を使い、既に隠れながら第九層と第十層のあちらこちらに設置していた。このプレイヤーの手で同時多発爆破が決行され、決戦の場は既に第八層よりも下の階へと移動している。
第八階層にいる最強のNPCとモンスターはまだ殺されてはいないものの、レトロキャラコスプレ同好会の連中はナザリック侵略を進めていた。しかし、第八階層のルベトらもキルされるのも時間の問題であり、ナザリックのメンバーも彼らが生きている内に敵陣営の何人かを仕留めたいと考え、第八階層に残っている者も数名いた。何より、あのナザリック最高傑作のNPCとモンスターを相手に出来るプレイヤーが第九階層まで降りるとなれば、一気に戦局は傾いてしまうだろう。
「そこで急に素に戻られましても、エキタイオロチさん」
「あ、はい。すみません、ヘロヘロさん」
機械眼帯を付けた白髪髭のプレイヤーは、女性メイドを人質にして上位異形種スライムに銃口に向けると言う殺伐&シュールな光景に似合わず、凄く日常的な会話を行っていた。
「あ、では続きを―――……って、言っても、やることなんてヘロヘロさんをキルするだけ何ですけど」
そう言って、無造作にエキタイオロチは発砲し、ついでにナイフでメイドの首を欠き切った。その上でメイドの背中を脚蹴りしてヘロヘロの方へ吹き飛ばし、更に発砲を続ける。幾度もスライムに銃弾が命中し、HPを無慈悲に抉り続ける。
「撃った、マジ撃った!」
死体になって消滅寸前になった自分作成のメイドを受け止め、更にスキルで強化された錬金魔弾が何発も命中し、だからこそヘロヘロはヤル気を出した。
「―――だが、遅い」
そしてエキタイオロチは隠し持っていたスティック型神器級アイテム・万能スイッチを取り出し、ポチリと親指でボタンを押した―――刹那、起爆。あろうことかエキタイオロチはメイドの背中にTNTを取り付け、ヘロヘロをPKする為だけの人型爆弾として利用した。
そんな光景を、一人茫然と見続けていたプレイヤーが一人。
「……―――これは酷い」
その映像を見ていたモモンガは思わず呟いた。1500名のプレイヤーをNPCを生贄に捧げて行動不能にした上で、ワールドアイテムで皆殺しにした自分が言えた事ではないが、これは酷い。
しかし、惨劇はそれだけではない。
「ヒャッハッハハハハハハハハ!! 特に意味も無く轢いてやるぜ!!」
「ターゲットに入れてスイッチ、ターゲットに入れてスイッチ、ターゲットに入れてスイッチ」
廊下を爆走しながらショットガンを発砲する火炎髑髏ライダーと、小型ロボットに乗ってガトリング銃を撃ちまくるプレイヤーの二人も特に酷い。プレアデスのメンバーを轢殺した上で撃ち殺し、タッチ・ミーが作ったセバスもとっくに蒸発してしまった。ギルドメンバーはまだ戦ってはいるものの、逃げ場の少ない廊下で行われる炎上バイクアタックと、魔法と違って途切れることなくブッパされる機関銃乱射攻撃と、序でにロボット突進は戦術的に第九階層と第十階層の攻略に嵌まっていた。
そんな光景を見るモモンガは、ポチポチと画面を操りながら各場所の戦局を見守っていた。不意を突かれた所為と、向こうが勢いに乗っているのもあってナザリック側が押されてはいるものの、ナザリックのメンバーは殺されても時間が経過すればまた蘇生が可能。しかし、相手側は一度でもキルされてしまえば大墳墓の外側からやり直さなければならず、そもそもリスポーン地点も遠い街や、自分のギルド拠点である。
その事もあり、時間が経てば経つほど有利になるのは
しかし、相手はそもそもソロで攻略組をPKする事を得意とする上位プレイヤーが徒党を組んだパーティだ。一人一人のキャラが個人で完結しており、それぞれが個人プレイをすることで結果的に協力している雰囲気になっているだけ。よって、そもそもスタンドプレイに特化しており、誰か一人を倒した所で全体として弱体化はせず、一人PKするだけでもかなり労力が必要となる厭らしい奴らであった。
「やぁっと、見付けた」
故に、ここまでこのプレイヤーが来るのも必然だった。そう笑いながら、ついにレトロキャラコスプレ同好会を率いるナザリック攻略の黒幕―――同好会会長ヒャッハーダークは玉座に座るモモンガの前まで辿り着いた。
「……アルベドは?」
防衛線の為に、タブラが臨時戦力として連れ出したNPC。彼が死んだのはもうメッセージで知ったが、あのNPCがまだ生きているならば、自分一人で戦うよりも勝率は少しだけ高くなる。
「ああ、始末したよ。所詮NPCさ。隙だらけで困ったものだ。ふぅーふふー」
邪悪に笑うヒャッハーダークこそ、正に悪を体現するPKの権化。アインズ・ウール・ゴウンと同じ異形種でありながら人間種も異形種も関係無く、ダンジョン攻略中のカンスト上位プレイヤーを襲う御邪魔モンスター系対人厨。今はランキングの為に初心者狩りやモンスタートレインも行く腐れ外道であるが、本来ならば攻略組を妨害するのが大好きなだけの性質が悪いPKである。
……それが今、モモンガの前にいるプレイヤーだった。
「ついで俺のフレンドもな、この騒ぎに乗じ、上の階層に潜んでいた重要そうなNPCを殺し回ってもいるそうだ」
「知っているとも」
アルベドの姉の設定を付けられたNPCも、プレアデスの末妹のNPCも、全て残さず殺されてしまった。もうこのナザリックで生き残っているのは、殆んどプレイヤーだけになってしまった。
「―――さぁて、さてさて。決着を付けてしまおうか、モモンガ」
「そうか。ならば行くぞ、ヒャッハーダーク!」
「おうよ!」
伏兵はもういない。モモンガが守るべき者はギルド長ではなく、ギルドの要であるギルド武器。自分こそ敵陣最悪のヒャッハーダークを誘き出す為の囮であり、ギルド武器は違う場所に隠して設置してある。仲間も連れず、NPCの守りもないのは、ただただヒャッハーダークと勝負を決める為だけであり、此処で一対一でなくなればこの敵の行動も読めなくなるだろう。
誘われていることを理解しながら、髑髏騎士の格好をした同好会会長はモモンガの元まで来た。
「マキシマ……―――!」
「―――……ふぅははは、チャージなどさせるものか!」
だが、敵は上位プレイヤーの廃人共の中でも、更なる上位カテゴリに入る廃人対人厨PKプレイヤー。魔法を使う、スキルを使う、それだけで致命的な隙となる高速テンポ戦闘が基礎になる。無論、消費アイテムを使うなど以ての外。ダウン攻撃を当たられ、更なる隙を晒し、HPの大部分を削る致命攻撃をされて終わりだろう。
事実、ヒャッハーダークと一対一で魔法を唱える暇などない。モモンガは対人用に用意した無詠唱スキルの魔法で何とかモーションだけで対抗し、接近戦にならぬように心掛けるも、それは相手も同じこと。少しでも距離が離れれば魔法詠唱をしながら戦闘行為をモモンガはするも、その隙を狙ってヒャッハーダークも同じくモーションだけの魔法攻撃「ダークボムファイア」を左手のエフェクト装備から放ち、モモンガに強制ダウン攻撃を行った。
……そうなれば必然、戦闘はモモンガの不利となる。
いや、そもそも此処まで戦えている事がモモンガのプレイヤースキルの高さの現れ。魔法特化職である時点で一対一での戦いは限定され、アンデッドモンスターを召喚しようにもその為の呪文詠唱さえ許されない。モモンガは無詠唱で予めセットしておいた対人用魔法と、ここぞと言う為に修得しておいた白兵戦用近距離魔法による接近戦闘に移行するしか道はない。
だがしかし、抜け道がない訳ではなかった。
無詠唱で右手から展開した第九位階魔法「
「なんと…っ!」
「―――
何とか、時間を掛けて魔法を一つ発動させた。モモンガは敵のHPを抉り取る高威力魔法で以って戦局を自分の有利に運ぼうとし―――
「ぇ…‥」
―――そんな、呆れた声を出してしまった。この廃人、第十位階魔法を平然と斬り流した。魔法パリィの一種だろうが、至近距離で放たれる魔法さえ無力化するとなれば、そもそも第十位階魔法などMPの無駄になる。超位魔法など行えば致命攻撃であっさり死に、課金アイテムを取り出して使うこともヒャッハーダークは許さないだろう。
瞬間―――ヒャッハーダークの左握り拳がモモンガの顔面に直撃。
エフェクト型装備ワールドアイテム「暗い深淵の手」の一打が決まり、モモンガはダウン状態になりながら吹き飛んだ。職業クラス「ダークナイト」の10lvが持つ武装強化スキルである「暗黒強化」による打撃は、スケルトンの弱点属性である打撃物理攻撃を更に強化し、闇属性の追加ダメージさえあった。
「ワールドアイテム……!!」
吹き飛んだモモンガが、自分が腹部に装備するアイテムと同じ世界級を見る。とあるコラボで実装されたエフェクト型装備アイテム「闇の手」の最上位武装であり、且つ唯一無二の世界級。しかし、先程の打撃攻撃は世界級の能力を発揮した訳ではない通常攻撃であり、同じワールドアイテムを持つ故にワールドアイテムを無力化可能なモモンガにも十分なダメージを与えた通常攻撃。しかし、元のアイテムがワールドクラスである為に、能力を開放していないとは言えダメージは無視できない程のもの。
一撃必殺に相応しいヒャッハーダークのワールドアイテムだが、同じワールドアイテム持ちが相手だと、シールド、ナックル、魔法やスキルの触媒にしかならなかった。
「モモンガさんみたいにワールドアイテム持ちだと、むしろ神器級に落ちる方の
……いやぁ、ジレンマですよ。
防御を取るか、能力を取るか。まぁ、けれども、触媒としてはこの武器が一番ですけどね」
そう長ったらしく喋りながら態と隙を晒し、魔法やスキルを使うように促すのもヒャッハーダークの手だ。勿論、使った瞬間に不意を突かれ、キルされるのも自然な流れ。モモンガは無詠唱魔法を確認しながら発動モーションを整理し、ヒャッハーダークの動作をきめ細かに観察する。
「……ク―――!」
無詠唱で魔法の矢や、魔法の散弾を撃つも、全てヒャッハーダークの左手から生み出たシールドエフェクトによって消滅する。
「そら、それでどうしますかねモモンガさん!?」
そのまま接近して彼は剣を振り下し、モモンガも何とかエナジーブレイドを展開して剣戟を止める。
「闘いはここからですよ、ヒャッハーダークさん!」
対人廃人が相手とはいえ、相手は全盛期ナザリックですのでこのままではないですよ。しかし、転移後で凄まじい程に怨まれるフラグをもっと作らなければ。そんな使命感に燃えています。転移前でしかNPC虐殺は出来ませんから。
後、モモンガさんはナザリック全盛期なので、個人的なプレイヤースキルはまだまだ弱いです。廃人度もそんなにないです。今はオリキャラ・ヒャッハーダークよりも弱いですが、単純に対人経験の密度だと思って頂ければ。
早く過疎期に入り、一人墓地に残された彼をさらなる廃人修羅にしたいこの頃です。例えるならそう、未だに森にいる仮面巨人先輩や、聖杯狂い狩人の地底人みたいに。