PK廃人共の異世界   作:サイトー

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三・地下大墳墓救世主伝説「至高のNPC」

 ―――しかし、現実は無常だった。

 モモンガに勝機は薄く、それ自体は彼も分かっていたことだ。HPを半分以上削られたモモンガと、僅かにHPを減らしただけのヒャッハーダークは、勝負の終わりを悟りながらも一対一で対峙していた。

 

「ふぅふふふふー。さてはて、楽しいPVPもここまでですかね。いや、本当に楽しかったですよ、モモンガさん。ギルド攻めの醍醐味はこの瞬間ですしね。

 本当に、この為だけに1500人を囮にして、フレンドの20人に頼み込んだ訳ですしね」

 

 ゲーム故にキャラの顔は動かず、そもそも顔が見えない仮面兜を被っているが、その声に感情が乗せられる。この廃人ゲーマーは心の底から、ユグドラシルと言うゲームを面白可笑しく楽しんでいるのがモモンガには分かった。ナザリック地下大墳墓を―――このアインズ・ウール・ゴウンを、壊したいから壊すのだろう。勝ちたいから、壊すのだろう。

 その熱狂こそ、ソロでPKランキング1位に昇りつめた廃人ゲーマーの能力である。

 そして、その熱に引き寄せられて生まれたのが、レトロキャラコスプレ同好会と言う、RP大好きゲーマー集団であった。

 

「―――ヒャッハーダークさん。

 言うまでも無いですが、それは私も同じことですよ」

 

「良い事ですね、それは。うん。だからこそ、私達同好会はナザリック攻略をした訳ですけど」

 

「しかし、まぁ、私一人では勝ち目ゼロですかぁ……」

 

 ヒャッハーダークのHPを確認し、モモンガは相手のカラクリを理解した。このPKが持つHP量は並のカンストキャラの二倍以上はあり、モモンガの約三倍はあった。種は単純、敵が持つワールドアイテムにある。ヒャッハーダークが持つエフェクト型装備は能力を開放すれば敵のHPとMPを吸収するが、ワールドアイテムに相応しい破格の性能を持ち―――ステータスの限界値を突破して、吸収分のHPとMPを保持し続ける。しかも、吸収した相手がPCやNPCならばスキル使用回数も回復する優れ物。

 モモンガは知らないがヒャッハーダークはタブラ撃破後、アルベドと言うNPCを相手にこのワールドアイテムでHPとMPのエネルギー補給を行っていた。

 もう一度使えばHPとMPもリセットされるが、消費するまでのタフネスさは異常。モモンガがヒャッハーダークに勝つには即死攻撃を当てる事しかなかったが、そもそも当てるのも至難であり、発動さえ許される機会が訪れない。

 

「……一人では、ね?」

 

 だが、それでも、このモモンガに勝機がない訳がない。

 

「――――ほぉ」

 

 そして、ヒャッハーダークは空中から迫るバックスタブ攻撃を左手でパリィし、モモンガが放った無詠唱魔法を右手の大剣で弾き飛ばした。カンストキャラによる同時挟撃を右手と左手でパリィするあたり、廃人度が高い気が狂う様な所業だが、モモンガもやろうと思えば出来ない事でもない。しかし、成功率は余り高くはないだろう。

 

「伏兵か。スキルでは分からなかったが……―――ん? 弐式炎雷さん?

 可笑しいな。貴方の死亡報告はシャーナさんから聞いたのですけど。復活も妙に早いですね」

 

 最上位種族スキルにより、隠蔽系統スキルを看破する異形種:外なる神(アウターゴッド)のエルトダウン・シャーナは、幻術師と暗殺者にとって最悪の敵。更に特殊職業:クアエシトールによって、モモンガが誇るエクリプスに匹敵する絶対性を持つPKだ。

 あれの触手劇場か宇宙的悪夢でPKされたとなれば、可哀想な事になっている筈なのだがとヒャッハーダークは考え、ふと簡単なカラクリを思い付いた。

 

「なんだ。コスプレ衣装をしたヤツか、あるいはドッペルゲンガーのNPCか」

 

 機械(AI)的な動作に、モモンガの指令を待つような姿勢。彼が見抜けるのも容易かった。恐らくは天井で張り付き続け、ここぞと言う場面までずっと待ち伏せており、タイミングが来た瞬間に先程のような死角攻撃を行い失敗したのだろう。

 だが、それで良い。

 モモンガは大いに喜んだ。

 戦闘は単調である程に意識が慣れて敵の動作が最適化されてしまうが、大きな変化を作れば自分の方へ勢いを寄せる事が可能。

 

「パンドラズ・アクター……―――最終状態(ラストシフト)に移行せよ」

 

 組み込んだ脅威のAIを起動させる。そしてモモンガは、こんな場面にまでギルド戦が辿り着いた事を心の底から感謝した。既にナザリックのNPCは殆んど皆殺しにされ、残るはアイテム保管庫に設置した自分のNPCのみ。そして、ギルド武器も保管庫の方へ隠し置き、自分がキャラ設定を作り―――メンバー皆でAIを組み立てた真の意味での、ナザリック地下大墳墓最終形態とでも言うべきNPCを玉座にて動かした。

 

「ウルベルト!」

 

 その言葉一つで、NPCは変貌。山羊の悪魔と変わり、決められた条件に合わせて無詠唱魔法を複数展開し、速射を開始する。人間のプレイヤーには出来ない機械的な高速魔法展開であり、だからこそPKには先読みが容易いのであるが、一撃一撃がプレイヤーが考えるような厭らしい魔法を選択する。

 無論、モモンガも同じく攻撃を開始する。ヒャッハーダークは魔法弾幕を大剣と暗い深淵の手(シールド)で逸らし、モモンガの方へ接近。大剣を振り下し―――

 

「たっち・みー!」

 

 ―――その攻撃を、白銀の騎士によって防がれる。

 

「成る程。成る程。いやぁ、まさに芸術品ですね」

 

 ウルベルドとは全く違う動作基準。つまるところ、大元のパンドラズ・アクターを操作するAIに加え、変身後の41人分のAIが記入されている。変身後はそれぞれのキャラクターデータに最適化された動きを行い、このNPCには本当にナザリックメンバーの殆んどが刻まれたギルドの結晶となっていた。

 

「凄いな。本場のAI職人が作ったのか、それ。ナザリックにはゲームクリエイターもいる訳ですか」

 

「メンバーにいましてね……!」

 

 とは言え、モモンガの心境は焦りの一言。パンドラズ・アクターの最終形態は、応用性、攻撃性、防御性、突破性、全てに優れているものの、MP消費が非常に高い。それに加え、魔法職に変化すれば更に魔力消費が加速し、戦士職に変化してスキルを使えば同じくMPが枯渇する。

 ―――短期決戦。

 NPCのMPが尽いた時、モモンガの死が決定する。

 

「ならば、主従揃って斬る(キル)までのこと」

 

「やれるものなら!!」

 

 そう声だけで笑うヒャッハーダークは、職業クラス「アンホーリーナイト」と「暗黒騎士(ダークナイト)」だけで戦っていた自重を止める。スキル回数を念の為に温存したおいたが、一気に攻勢へするべきだろう。

 

「モモンガ!」

 

 己の名を叫ぶプレイヤー。ついに骸骨姿の二体の死の支配者(オーバーロード)が具現する。

 対峙するは、全身髑髏甲冑の騎士。暗黒騎士(ダークナイト)として、大剣に物理&闇属性の強化スキルを施す。更に暗黒騎士の進化系「深淵騎士(アビスナイト)」がクエストとPK報酬によって変化した職業クラス「虐殺者(ジェノサイダー)」のスキルを使い、更に攻撃特化属性に移行する。

 モモンガが廃人共を纏め上げるPKの権化の姿を、遂に垣間見ることになった。VRコスプレが好き過ぎて、プレイヤースキルがワールドアイテムレベルで気持ち悪いと嫌われる二十一名のPK連中の中で、更にワールドボスを討伐しようとダンジョンに潜った攻略組を一人でPKし尽くした一番頭が狂ったプレイヤーの本気度を。ついでにそのボスさえ参加人数で難易度が変わる特殊仕様とは言え、援護もなく単騎撃破した集中力を。

 

「―――黒炎(ブラックフレイム)

 

 (ダーク)(フレイム)(マスター)(笑)と掲示板で笑われる原因が開放された。特殊職業クラス「炎殺者(パイロマーダラー)」による自動黒炎化スキルをオンに切り替え、ヒャッハーダークは二体のオーバーロードを目指して疾走する。

 

魔法最強化(マキシマイムマジック)―――」

 

 モモンガか、NPCか、どちらか分からないが、無詠唱で魔法弾幕を作る者と、背後に回って呪文詠唱を唱えて魔法発動の為の巨大魔法陣を作る者がいる。

 刹那―――ヒャッハーダークはジャンプした。

 彼は魔法職ではないが、暗黒騎士:10lvならば闇属性の魔法を習得可能。そのクラス能力でセットしておいた無詠唱魔法をモーションだけで起動。前衛の者が防御魔法を唱えるよりも早く、その即効魔法を空中より左手から撃ち放つ。

 

「ヒット!」

 

 魔法「ブラックレーザー」はビーム系の魔法であると同時、着弾時に爆発する。これに直撃するとダウン効果があり、魔法詠唱やスキル使用を強制中止される上に、無防備で当たるカウンターヒット状態になって体勢が大きく崩れる。

 後ろのオーバーロードは魔法詠唱が中断され、更に吹き飛んでしまう。

 

「……チャンス―――!?」

 

 モモンガはその光景に驚くが、逆に好機。フライなどの魔法が使われる前に、空中で身動きが出来ない。ヒャッハーダークが地面に落ちる瞬間、着地狩りをするべく魔法を高速展開。

 しかし―――

 

「……ふぅふははは! いくぞ、モモンガ!」

 

 ―――廃人は、相手にやられて嫌なことをされない様、予め準備する。足装備の鎧にはホバーブーツの能力が追加されており、浮遊状態になればモーションだけでボバー能力が発動。ヒャッハーダークは“地上”に向かって跳躍し、空中落下致命攻撃をモモンガに繰り出した。

 大剣による兜割。正に一刀両断。

 HPが減ったモモンガを一気に殺害し、キル出来ずとも殆んど削り取るだろう致死の大剣。

 

「はぁああ……ッ――――!」

 

 だが、その程度先読み出来ず、何がギルド長。既に準備しておいた防御魔法「衝撃の流盾(インパクト・パリングシールド)」を発動。これは衝撃波系魔法であり、一瞬だけ発動するタイミングで盾状魔法エフェクトで相手の攻撃を防ぐことで、ほぼ全ての攻撃をパリィする魔法だった。

 強力であるが使いこなすが非常に難しく、だからこそ防御系魔法のカテゴリーだとプレイヤースキルの奥義とも言えた。ついでに呪文詠唱で使うと魔法名が長いので接近戦では全く使い物にならず、無詠唱でないと無駄な魔法でもある。

 

「―――――!」

 

 そのままモモンガは無詠唱で複合準備しておいた奥の手、近接死霊魔法「致死の黒掌(デッドフィンガー)」を発動させる。掴んだ相手に死の魔力を一気に流し込んで致命ダメージを与える第10位階魔法であり、即死効果がない分ダメージに特化したほぼ一撃必殺。

 当たれば即死級大ダメージ。

 ―――その黒き手を、ヒャッハーダークは暗い深淵の手(ハンド・オブ・ダークアビス)で受け止めた。

 

「―――ペロロンチーノ!!」

 

 死を悟り、しかし逃れる一手も同時に浮かぶ。モモンガは一気にしゃがみ込み、自分の頭上を通るエネルギーアローを感じ取りながらも、手を離したヒャッハーダークから距離を取った。

 

「惜しいな。後少しで、黒炎で浄化出来たのですけど」

 

 爆炎の中からヒャッハーダークは現れた。モモンガは見ていなかったが、恐らくは何発も飛来してきた矢を全て受け流し、ダメージを全く負っていなかった。

 

「ああ。そうですね。しかし、NPCを仲間にして貴方が有利ですか。私もまだまだスキルが磨き足りないですね」

 

「ご謙遜を、モモンガさん。単純なビルドの向き不向きじゃないですか。

 ……にしても、あれですね。そのNPCは素晴しい。ここまで高性能なドッペルゲンガーは見た事がありません。

 AIの造り方からして、このナザリックにおける最高傑作の芸術品でしょうね。ゲームで出て来るボスAIでさえ、ここまでの完成度はないと思われますよ?」

 

「そうですかね。いやぁ、嬉しい事を言ってくれますね……―――武人建御雷」

 

 そう互いに笑みマークを表示しながら、距離を互いに見計る。モモンガがパンドラを武人建御雷に変身させ、ヒャッハーダークは更なる職業クラス「処刑者(エクスキューショナー)」のスキルを使う好機を窺いながらも、追い詰める為の戦術を練り直す。

 熱気が高まり、暴発寸前―――ダァン、と言う玉座の間に響く轟音がなった。

 

「はぁいはいはいはい! そこまでそこまで!! 二人ともそこまででぇーす!!」

 

 ルベトを嵌め殺してここまでやって来たプレイヤー―――ムーン・プレゼンスは古式拳銃を天井に撃った後、とても白ける台詞を喋った。

 

「……いやいやいや。何を言っているんですか、ムーンさん?

 モモンガさんを倒してギルド武器を確保した後、壊されたくなかったらアイテム寄越せやぁって言って、ほどほどに恨まれない穏便な形でナザリック攻略を終わらせる予定だったじゃないですか?」

 

「アンタ最低だな!?」

 

「モモンガさんは黙らっしゃい!」

 

「酷いですね!?」

 

 やべぇ、ルベド倒した廃狂人も同時に相手とかしたくねぇとモモンガは思いつつ、結構外道な事を喋るヒャッハーダークを罵倒した。

 

「いやぁ、私もそのつもりだったんですけね。メリーさんがワールドアイテムをドロップさせられたって言う話でして……」

 

「あー……あー―――マジで?」

 

「マジで」

 

「マジかよ。そう言うことか……そっちもそっちで最低ですね、モモンガさん?」

 

「成る程。ははぁ、成る程。こっちも先程、仲間からメッセージを受け取りましたよ……で、どうしますかね。ヒャッハーダークさん?」

 

 モモンガもモモンガで、仲間からの連絡で事態を把握。

 

「これじゃあ、仕方がないですね。フレンドのアイテムの方が大事ですし」

 

「手打ち?」

 

「はい。手打ちで。取り敢えず、同好会の攻略作戦は終わりです。こっちが回収したそちらのドロップアイテムと、そっちが回収したドロップアイテムはそのまま交換する方向で等化の条件で終わりって雰囲気でしょうかね?

 ……にしても、メリーさんもちゃんとドロップ対策はしていた筈なんですけど」

 

「んー、相手側にそう言うのを破れるのがいたみたいですよ。ついでに、キルしたのはたっち・みーさんです」

 

「マジかよ。婦女子から金品を奪うとか、正義降臨も落ちたものだ」

 

「そだねー。まぁ、私がその隙をついて、たっち・みーさんから内臓を千切り取ったので何とも言えないですけど。

 しかし、勿体無い。ドロップしたたっち・みーさんの聖剣、コレクションにしたかったなぁ」

 

「あー……だったら、さっさと交渉しましょう。ドロップ品の交換の為、互いにアイテム名の把握しましょうか。

 後、たっちさんは本気で落ち込むと思うので、ムーン・プレゼンスさんはちゃんと聖剣を返して下さいね」

 

「分かってますよ。モモンガさん。血の狩人は嘘つかない」

 

 PKとして、同じ現場で良く会う異形種として、モモンガはレトロキャラコスプレ同好会の何人かとは知り合いだった。中にはフレンド登録をしている者もおり、交友関係は続いてはいるものの、基本的には良好的な殺し殺されの関係だ。

 今回の攻略も、そう言う事もあるだろう……―――と、PKとして納得はしていた。

 しかし、結果はこの通り。たっち・みーがメリー・トラフィックライトを殺害したおかげで、何とかナザリック崩壊は逃れられた。

 

「しかし、良かったですね。モモンガさん? そのNPCがいなかったら、モモンガさんがメリーさんにPKされる前にPKされていれば、結構なドロップ豊作だったんですけどね」

 

「パンドラズ・アクターは私自慢の、一番の最高傑作であり―――ナザリック至高のNPCですよ」

 

「成る程。良いですね。確かに、私が戦った中で一番の出来の良いNPCでした。正しくモモンガさんとナザリックの救世主ですね」

 

 そして、彼らは知らなかった。数年度、何処かの異世界で、ナザリック地下大墳墓救世主伝説が盛大に謳われる事を。

 









 このネタがしたかった。
 とのことで、生き残ったNPCは領域守護者のパンドラさんだけでした。転移後のNPC達の認識ですと、絶対支配者モモンガと共に、ナザリックを滅ぼす最強最悪の邪神ヒャッハダークを喰い止めた唯一の存在になります。
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