ー出来ないことではなかった。ー
ーだから、彼女達のために、この力を使った。ー
ーその代償がどんなものであるかは、俺が一番よく知っている。ー
「むむむ…」
第一管理世界ミッドチルダ、時空管理局本部のある一室にて、一人の青年が項垂れていた。
「これで終わり……」
青年の名は、リッカ=E=タチバナ。この管理局の片隅にある、特殊装備科に所属しているしがない局員である。
「お荷物部署だからしょうがないとはいえ、事務作業多すぎだろ…」
そう、リッカの所属している部署は、構成人数がとても少なく、目立った成果もあげていないため周りからお荷物呼ばれされている。
リッカが独り言を言っていると、ドアが開く音が聞こえて来る。
「先輩、失礼します」
「おかえり、マシュウ」
ドアが開くと、リッカがマシュウと呼んだー本名、マシュルマロール=G=カリエールー紫髪の顔立ちの整った青年が入ってきた。
「…先輩」
「何、マシュウ。なんか怒ってる声がするんだけど」
マシュウはリッカの机の上を見ると、静かに声をあげる。
「いつも言ってますよね、事務仕事なら後輩の僕がやるって」
「そんなこと言ったって、役割分担ってものがあるだろう?お前はこの部署のエースなんだから、どんどん現場に出てもらわないと、ここがなくなっちゃうよ」
「しかし、それでも僕の尊敬する先輩に、事務仕事なんてふさわしくありません」
「じゃあマシュウは俺になにしろっていうの?」
「先輩はここにいるだけでいいんです。後のことは僕たちが全部やりますから」
「お前、ヤンデレかよ」
リッカは苦笑を浮かべると、椅子から立ち上がりマシュウの肩をポンと叩く。
「じゃあ先輩からのお願いだ。飯でも一緒に食いに行こうか」
「…それが先輩からの頼みならば、僕はどこにでも行きます」
「んじゃ、行こうか」
リッカとマシュウは特殊装備科の扉をくぐると、食堂へと向かう。
「それで今日の任務はどうだったんだ?」
「簡単なものでしたが、先輩がいらっしゃらなかったので、効率が悪かったです」
「それはお前の気持ちだろうよ」
「しかし、事実です」
「はいはい」
二人が食堂へと向かっていると、周りからの声が聞こえて来る。
『キャー、マシュウさんよ‼︎』
『本当にイケメンよね…』
『顔も良くてランクAオーバー。それに性格もいいなんて、非の打ち所がないわね』
『かっこいい…』
そのほとんどがマシュウへの感嘆が漏れたものであった。
「手でも振ってやれば?」
「先輩以外からのものなんて、ゴミ当然いやそれ以下です」
「…頼むから、それは俺たち以外に言わないでくれよ?」
「?事実なのですが、何か間違っていますか?」
「この忠犬は…」
マシュウはリッカに盲目しており、それにリッカは頭を悩ませていた。どこで接し方を間違ったのか、そればかりを毎日考えている。そんなことをまた考えていると、マシュウではなくリッカのことも言われていた。
『ねえ、あの隣にいるのって…」
『ええ、管理局のお荷物よ』
『全く早くやめればいいのに」
『ランクもF–らしいよ』
『そんな無能なのに、マシュウさんを顎で使ってるのね』
それは全てリッカに対する誹謗中傷であった。その言葉を耳に挟んだ途端、マシュウは顔を歪ませ噂の元へ足を向ける。だが、それをリッカは腕を掴んで制する。周りは自分たちの方に、マシュウが来ると勘違いし色めき立っている。
「やめとけ」
静かにリッカはそう言う。
「しかし、あいつらは僕の尊敬する先輩を侮辱しました。滅ぼすのには十分な理由であると考えます」
「滅ぼすってそんな物騒な…」
「先輩が手を出さない理由は存じてあります。ですので、代わりに僕が…」
そこからマシュウは何もいえなかった。掴んでいたリッカの手の力が、強くなったからだ。
「なんども言わせんな、やめとけって。ここで手を出せば、お前もあいつらと同じなんだよ。手を出そうが口で言おうが、相手を傷つければ同じなんだ。…マシュウ、それでお前はどうしたい?」
静かに淡々と、だがそこに意思は込められていた。その言葉を聞いてマシュウはリッカに並ぶ。
「…申し訳ありませんでした、先輩」
「わかればいいのよ、わかれば」
リッカ笑うとマシュウと共に食堂へと向かった。残ったのはマシュウが来ると思って、期待していた局員たちだけであった。
「先輩は席でお待ちになっていてください。僕が食事を取ってきますので」
「おー、悪いな。俺は何時もので頼むわ。じゃあ席とって待ってるわ」
「はい、特盛メガAランチですね。行ってきます‼︎」
「いや、俺のいつものは和食…って、もう行っちまいやがった」
マシュウはリッカに頼まれたのがよっぽど嬉しかったのか、鼻息を荒くしてカウンターへと行った。リッカが話しかけた頃には時すでに遅く、マシュウはリッカの目の前からいなくなってしまった。
「ま、食べきれなかったらマシュウにあげればいいか」
そうこぼすと、リッカは自分たちが座れるであろう席を探す。さすがは昼時、どこも混んでいる。しかしひと席の周りだけは、空いておりそこにリッカは腰掛けた。
「しっかし、なんでこの辺は空いてるだろうな」
腰掛けた席の周りを見ても、この昼時にここが空いている理由が分からなかった。しかし、その空いていた理由が向こうからやってきた。
「あ、リッカ君」
「……」
「げ…お前らがいたからか」
リッカに話しかけてきたのは、管理局のエースオブエースと呼ばれる高町なのはで、その後ろに執務官のフェイト・テスタロッサ・ハラウオンがだった。
「もう、げって言わなくたっていいじゃない」
「お前ら眩しいから目がくらむんだよ」
「…なのは」
「フェイトちゃん?」
なのはは友好的に接したが、フェイトはリッカに目も合わせなかった。
「私なんだか気分が悪くなったから、お昼ご飯やっぱりいいや」
「え?でも、さっきはお腹減ったって…」
「おーおー、そんなに俺が嫌かい、執務官殿」
フェイトにリッカは口を挟むが、フェイトはゴミを見るような目でリッカを見下す。
「意識しすぎなんじゃないかな、誰もあなたのことなんて言ってないから」
「しかし、なのはの言葉から察するに俺がいるから、飯いらねえって言ったんだろ?」
「お前が…」
「ん?」
「お前がなのはの名前を呼ぶな‼︎」
フェイトが大きく声を上げると、食堂はしんと静かになり、周りは三人を見た。
「…ごめんなのは。これ食べといてくれないかな」
「え、あ、フェイトちゃん⁉︎」
フェイトは持っていたトレイをなのはに渡すと、食堂から立ち去っていった。周りの目はだんだんと落ち着き、元の喧騒溢れる食堂へと戻っていた。
「まあ、座れよなのは」
「うん…」
リッカが促すと、なのははリッカの向かいに座る。
「ごめんね、リッカ君」
「なのはが謝ることじゃないさ、俺が悪いんだから」
「そんなこと…‼︎」
「そんなことある」
リッカは腕を組むと、視線を上げる。
「まだ俺がフェイトと向き合えてないから、こうなっているんだから。言うべきことしかないのに、俺が勇気を出せないから」
「でも、私が助かったのはリッカ君のお陰なのに…それが原因でフェイトちゃんと仲良くできないなんて…‼︎」
「それも俺がしたいから勝手にしただけ、そうあの時も言っただろ?」
「………」
なのははまだ納得をしていなかったが、リッカは苦笑いを浮かべるとパンと手を叩く。
「この話はこれでおしまい。早く食べないと、飯が冷めるぞ?」
「…そうだね。う、そういえばフェイトちゃん私に二人分食べさせる気なの…」
「いいんじゃないか?なのは細いんだから、食べないと大きくなれないぞ?」
「女の子は色々とデリケートなの‼︎」
「おや、先輩どうして、高町一等空尉と同じなのですか?」
そこにマシュウが帰ってきた。その手には大きく盛られた昼食があった。
「……なあ、マシュウ俺いつものって言ったよな?」
「?はい、ですから僕のいつものを頼みました」
それはリッカの想像を絶するランチだった。
「…リッカ君頑張って」
「なのは、お前もな」
「?」
なのはとリッカの会話の意味が分からなかったので、マシュウは頭を傾げた。
ちなみに、リッカとなのははご飯を食べきれず、余ったものはマシュウによって処理がなされた。