ふたりはハンター   作:かたまり

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3話.ルドウイーク

 ルドウイークが、高く跳んだ。

 薄暗い地下の死体溜まりでは天井まで光は届かず、二人はルドウイークを見失う。

 

「まずいですね」

「けど奴だってずっと天井に張り付いてられるとは思えない」

「落ちてきたところを集中砲火ですか」

「うん。…おじさん、危ない!」

 

 ぽたぽたとギルバートの上に血がしたたり落ち、数舜後にルドウイークの巨躯が音を立てて姿を現す。

 

「っ!」

 

 ギリギリのところで身を転がして避けたギルバートだが、体は血でべちゃべちゃだ。

 

「ああ、気分が悪い」

「そんなの気にしてる場合じゃないでしょ!?」

 

 立ち上がりつつ火炎放射するギルバート。相手が獣ということもあってか有効のようだ。

 少女も反対側から殴り掛かる。だがここまでの大物にはさすがに力不足が否めない。

 

「だったらっ!」

 

 ルドウイークから距離を離し、床から拾った肋骨数本をリボンで右手に巻き付けると、それはさながら「獣の爪」のような様相を呈した。

 これならいけそうだ、と再び距離を詰めようとし、しかし本能が警鐘を鳴らした。慌てて身を低くする少女。なにかはわからないが、体のすぐ上に何らかの液体が迸っている。僅かに滴ったそれは水銀だった。

 

「水銀…」

 

 攻撃に水銀を用いる獣など聞いたこともない。水銀を用いるのはいつだって狩人だったはずだ。あるいは。

 だが今は悠長にものを考えられる状況ではない。横に転がり射線を抜け、馬面目掛けて駆ける。

 ならば食らい付こうとしたルドウイークの、その行動を読んでいた少女は慣性を知らぬが如く急停止し、跳んだ。

 空中でルドウイークの頭を踏み台にし、さらなる高みで振り向いた少女は首根っこに爪を突き立てる。

 これは堪らんと嘶く獣は、その膂力をもってして無理やり少女を引きはがした。宙を舞う少女。なんとか体勢を立て直し、ギルバートのそばに着地する。

 

「首筋をぶち抜いたってのにぴんぴんしてるね」

「これまでの獣とは訳が違うということでしょう。久しぶりですよ、ここまでしぶといのは」

 

 そう言いながらギルバートは火炎放射器のつまみを回しきる。

 

「最大出力です」

 

 ルドウイークの咆哮と同時に立ち上った炎は今までのそれとは一線を画していた。ギルバートがじり、と後ずさる。それは放射の反動によるものだった。

 

「すごいじゃんおじさん! 最初からそれでいけばよかったのに」

「いきたいのは山々でしたが何分燃費が悪く、それに扱いには手を焼くので」

 

 放射器の取っ手は赤熱していた。

 

「あー…ほどほどに」

 

 わかっています。ギルバートがそう返そうとした瞬間、炎の中からルドウイークが現れた。

 それとほぼ同時に少女は右に跳び、ギルバートは上に跳ぶと同時に直下へ火炎放射器を向けた。それは跳躍ではなく、飛躍であった。火炎放射の反作用による、つかの間の飛行。

 炎は突進してきたルドウイークの背を焼き、ルドウイークは悲鳴を上げた。よく見ればもともと恐ろしい顔面が焼けただれている。効いている。

 

 だが黙って焼かれるようなルドウイークではない。急反転し、ギルバートを追うように跳んだ。まずい。瞬発力では勝てない。せめて横に放射すれば腕の一本で済むだろうか。

 気づけばギルバートは仰向けで地面に叩き付けられていた。肺の空気が一気に押し出される。足に違和感を感じるのはリボンが巻かれているからで、こんなことをするのはあの少女以外にいない。

 

「助けてくれたのはありがたいですが、もう少しお手柔らかに」

「贅沢ね」

 

 全身血塗(ずぶぬ)れになってしまった。心の中でため息をつくギルバート。だがそれが己の血ではないのは、この少女のおかげなのだ。

 数奇なものだ。こんな年端もゆかぬ少女と二人、前代未聞の獣退治。まるで夢みたいじゃないか。

 だったら映えさせてやろう。どでかいのを一発。

 それにはこの少女のリボンさばきが必要だ。

 

 ギルバートは火炎放射器のつまみをさらに、捻る。ガチンと何かのストッパが外れたような音をさせたそれは、徐々に熱を増していた。

 

「面白いことを思いつきました」

「ついさっき食べられそうになってた人のセリフじゃないね」

「あなたのリボンが必要です」

「聞いてないし…」

「たった今、火炎放射器のリミットを外しました。あと十数秒でここらは火の海です」

「へぇ、それで?」

「それまでにこれをあいつの口に投げ込んでくれませんか?」

「どうぞご自由に」

「それがもうそろそろ熱くて持てなくなっちゃうんですよ」

「だからリボンを使うって?」

「話が早い」

「おじさん結構強引なところがあるんだね…ま、面白いからいいけど」

 

 火炎放射器にくるくるとリボンを巻き付ける少女。どういう原理か、しっかりとホールドされたようだ。

 

「じゃあおじさんが釣り餌ってことで」

「望むところです」

 

 残ったほうの火炎放射器を使ってギルバートルドウイークへと向かう。

 

「ほら! うまいぞ! 新鮮な人間だ!」

 

 言葉は解していないだろう。それでも挑発は通じたようで、大口を開けて飛び込んでくるルドウイーク。

 だがすでにギルバートはいない。代わりにリボンでラッピングされた火炎放射器がルドウイークの口へ吸い込まれていった。

 反射的に飲み込むと同時に、腹の中で炎が炸裂する。

 口から炎を吐くルドウイーク。

 まるで地獄だな、と空中のギルバートは呟く。

 ルドウイークはしばらくのたうち回り、最後に黒煙と何らかの体液にまみれた火炎放射器を吐き出し沈黙した。

 

「ありゃ、やっぱリボンは耐えきれなかったか」

「耐え切れられるとこの作戦が…」

「いやわかってるけどさ、数も限られてるし」

「それは申し訳ない」

「ほんとに思ってる?」

 

 でもまあ、何とか倒せた。さあ先に進もう。

 そうして歩を進めようとした二人を制止するかのように、眼前に大剣が突き刺さった。




試験じゃ~
試験はあっち(明日)じゃ~
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