SAO世界に注意喚起しにきたが駄目だったようだ... 作:8bit
ここに集められたるは、9000人強のプレイヤー。
「皆さん、一様にいろんな表情をしていますなぁ。」
私の声は、まだ茅場の演説も始まっていないのに不安な声と喧騒に包まれているはじまりの広場に掻き消えた。
みんな多種多様な外見と表情をしていた。
周りの風景が夕焼けで紅暗くなってきた空に一つの赤いオブジェクト。
綺麗な夕空に似つかわしくない明滅するそれに何人かが気づいて見上げる。それに気づいた周りが何名かが上を見ると同時にその赤いオブジェクトは、夕焼けをさらに真っ赤に染めた。
赤い空に何かのイベントかと思うような光景が、ここをゲームだと少し忘れさせる。
赤い何かが、空に何かを形作っていく。それは、大きなローブ。人の形を模した中身のないローブの男は、次々と言葉を連ねていく。その言葉は、先ほどまでのイベントかな?と思わせるような登場とは打って変わって、現実味を帯びた脅迫に代わっていく。ナーブギアを外した犠牲者の末路を語られてからは、みんな茅場に目が釘付けであった。
「諸君のアイテムストレージに私からプレゼントを用意してある。確認してくれたまえ」
その言葉を茅場明彦が言った数瞬後、周りが白く変わっていく。
思ったよりまぶしいな、おい。というか、私は手鏡を覗いてないのだが、やはり変わるのか、そうか。
白いモヤが晴れると私の周りは、女の子ばっかりだったはずだが、全員例外なく男になっていた。
なにそれ、怖い。男性比率が高すぎ君。もともと現実の体とそんなに大差なく作っていた自分は、違和感もなんもないわけだが。
「諸君らはなぜと思っているだろう。なぜソードアートオンラインおよびナーブギア開発者の茅場明彦はこんなことをするのかと。私の目的は達せられている。この世界を作り出し、観賞するためだけにソードアートオンラインを作った。そして今すべては達成さしめられた。これにてソードアートオンラインの正式サービスのチュートリアルを終了する。プレイヤーの諸君、検討を祈る。」
熱弁ご苦労様です。茅場さん、割と動機はしっかりしとるよね。たぶん、マスコミや警察の人も理解するだろうけど、それを理由だと分かってもそのまんまは発表しないだろうなーと思った。それにしても、さっきまでの多種多様な外見と表情は、よくある日本人顔と恐怖の顔に変わっていた。
数瞬静かだなーと思ったら、一人の怒声を皮切りに、思い思いの感情を空虚な空に投げかけている。目の端では、この状況をすでに理解し終え、行動に移し始める人たちもいた。理解し終えているかは微妙かもだけど、少なくとも行動に移す人たちは、フィールドに近い通路に向かっていた。
本当は、ああいう行動に移す人たちと共にぱっぱと強くなっていくのがいいのかもしれん。でも、私がここに来た理由とは、違うんだよなーと自問自答する。
私は、このソードアートオンラインで指導者として頑張ります。(中学生並みの感想)
周りが落ち着き始め、行動する人が出始める30分後まで、何人かβテスターの知り合いいないかなーと辺りを探す。探すが、みんな外見違って分かりません(笑)βテスターのときに名前もさりげなくチェックしていたけども9000人強いる、この人ごみの中から探すのは至難の業だぞ...と苦笑いを浮かべる。人の記憶は割と曖昧で名前と顔が一致しない、みんなその顔も違うとあれば、こりゃわからんわ。知っている名前を見つけても、絶望的な顔をしていたりしていたので、そっとしておこう。たぶん、今話しかけてもいい返事は返ってこないだろうし。こう思うと物語の主人公は、行動も早くて理解もある完璧超人に見えてくる。私も、前世のありがたい記憶がなければ...たぶん、SAOやってないな。まず、あのβテスターに選ばれる段階から神様選考なるものに振るい落とされてた気がする。
ひとまず、私はよく目立つ体躯をしているので、警戒心を持たれるだろうが、まだ話を聞いてくれそうな同じ女性の人に話しかけていく。みんなを注目させるのにも準備が必要だからです。応援者やパトロン?と同じです。路上ライブをするにも、数人の人が立ち止まってくれないと人だかりは多くならないのと一緒です。聞いてくれる人を増やす努力をしないとこの切迫した事態に聞こうという人は現れないと私は思うのですよ。
あ、できるだけ意見を交わせそうな人に話しかけよう。そんな自分の考えに余裕があるなぁと自嘲気味に笑う。
「こんにちは~。今、お話大丈夫ですか。」
「ん?おぉ...なんだい?こんな状況で、いい話ならいいけどね。何の用?」
お姉さんもだいぶ背が高いが、それを上回るのが私のコンプレックスでもある。見たところ170くらいある大人の女性に話しかけたんだけど、ね。
「これから、このゲームの今後について話をしようと思うのです。演説するにも、聞いてもらえる人に話しかけようと思って...」
「なんで、あんたがするの?さすがに、いくらさっきのやつが本当だとしてもずっとってことはないだろうし、どうにかなると思うけど?」
「私このゲームのβテスターで、ある程度ならこのゲームの知識はあるんです。それにこの状況が結構長かった時に困るのは最初に行動を起こさなかった人だと思います。お姉さんも周りの観察をしていたので、話がしやすそうだなと思って。」
「まぁ、私も元々このゲームをプレイしに来たんだし、そろそろ行動を起こそうと思っていたところだから渡りに船だけど」
「とりあえず、人数集めて広場の時計台で話そうと思うので、手伝ってくれたらうれしいです。とりあえず、フレンド交換しときます?」
ん、この人、ロザリアっていうのか、どこかで既視感がある。
「いいよ、はい、受諾っと。ルーナね」
ロザリアさんが、仲間に加わり、何名かの人にも30分の間に声を掛け終える。
その中に、βテスターの人はいなかったが、仕方ない。意見のすり合わせとかできればよかったんだけどねー。
話しかけているうちに連鎖的に10数人の所帯ができ始めたので、みんなに中央の時計台に集まってもらうよう声を掛けてもらった。この状況ってあれに似てるよね。誰かが倒れて、みんなパニックになった状況で救命士が周りの人に名指しで役割を与えるやつね。みんな名指しで役割を言われると行動できる、いざってときはこれが有効だと医療現場で働く母上に聞いておいて助かった。
さて、時計台によじ登りますか...
私はこの喧騒の中、良く目立つ中央の時計台によじ登る。