今日も今日とてバイト中。朝方の、人がいないいつもの時間帯。店内には、なんだか妙にそわそわした上原さんがいた。どうしたのだろう。ガルジャムの出演案内が届いたとか、そんな感じかな。どことなく忙しない様子の上原さんを見守っていると、ドアベルがいつもと変わらない音を響かせた。
「あ、来た来た! みんな、遅いよーっ!!」
上原さんが待ってましたと言わんばかりの勢いで立ち上がり、みんなを迎えていた。それからの話を聞くと、やはりガルジャムの案内が正式に届いたようだった。それを見た反応はそれぞれ違ったけれど、みんな嬉しいそうだということは、俺にも分かった。羽沢さんに至っては泣いていた。超可愛い。
上原さんの話はそれで終わりかと思いきや、まだあるようだった。
「……じゃーん! ひまり特製のお守りだよー!」
なんと上原さんは、Afterglow全員分のお守り的なものを、手作りしてきたらしい。それ自体はすごいことなのだろうけれど、みんなの反応はイマイチだった。かく言う俺も、思わず苦笑いしてしまった。
——なんかの儀式とかに使われそうな形してんなあ。
ただ、上原さんのこういうところが、彼女のリーダーたる所以なんだろうな、とかしみじみ思っていた。
あと、羽沢さんのフォローの仕方が可愛かったし、美竹さんは相変わらずのツンデレだった。
* * *
ガルジャムの出演案内が届いたあの日から、羽沢さんの様子がおかしい。宇田川さんに相談したあの時よりも、明らかに。あの時はまだ予兆のようなものだったが、今回ははっきりと分かる。
羽沢さんは、焦りを感じている。きっと、自分はみんなより遅れているから、頑張らなければいけない、というふうなことを思っているのだろう。止めるべきなのだろうか。あまり頑張りすぎないでと、言うべきなのだろうか。羽沢さんの邪魔をしていいのだろうか。そんな思いが俺の中を巡って、結局答えは出なかった。
無理に答えを出すよりも、羽沢さんの負担を減らすために出来ることをすることにした俺は、まずは羽沢さんに、しばらくは店の手伝いをしなくてもいいと伝えた。これは既に羽沢さんのご両親にも話をして、了承を得ている。もちろん、羽沢さんがいない分の穴は俺が埋めることになるが、羽沢さんのためなら、そのくらい喜んで引き受けよう。
羽沢さんには、ガルジャムのことに集中してほしいと言った。それを聞いた羽沢さんは、何処か納得のいかないような表情をしていたが、なんとか押し切った。美竹さんや青葉さんに聞いた話によれば、生徒会に所属している羽沢さんは、学校でも仕事で駆け回っている姿をよく見るらしい。普段からそんなに頑張っているのに、これ以上、負担が増してしまうようなことは避けなければ。
* * *
もう学校と同じくらい、いや、それ以上に通いなれた羽沢珈琲店に向かって歩く。羽沢さんの分も働くようになってからは、羽沢さんに会う時間はバイト終わりのちょっとした時間だけになっていた。羽沢さんの疲労の色は日に日に濃くなっていって、俺はその事に対して、何と言えばいいのか分からず、”お疲れ様”だとか、そんな言葉に逃げてしまっていた。こんなことになるなら、もっといろんな人と関わっておけば良かったなと、今更どうにもならない思いを抱きながら足を進める。
ふと、空を見上げた。
夕日は雲に隠れ、視界には、今にも雨が降り出しそうな、曇天が広がっていた。
羽沢珈琲店についた頃には、雨が降り出してしまっていて、帰る時には止んでくれないと困るなあなんて考えながらながら、着替え始めようとすると、ポケットの中に突っ込んでいた携帯が震えた。画面に目を落とすと、上原さんからの電話だった。何故か嫌な予感に駆られた俺は、その電話に出ることに忌避感を覚えながらも、けれど出ないわけにも、いかず、携帯を操作し、耳に当てた。
「もしもし、上原さん? どうしたの?」
「あ、あのね、落ち着いて聞いて欲しんだけどね、つ、つぐが倒れたのっ……!」
世界が、凍りついたような気がした。