エンリがチェーロ達に薬草を見せている頃、エンリの父親は村長宅に訪れていた。
「村長!!前々から言っているが、この村も自衛の手段を持つべきだ!!このままじゃモンスターはおろか盗賊相手にも蹂躙されてしまう!!」
「お前の言いたいこともわかるが、この村では過去にモンスターに襲われたこともないし、盗賊がこの村を襲うメリットはないじゃろ。なにをそんな焦っておるんじゃ。」
「過去は過去、この先もそんな考えで安全に暮らしていける保障はないでしょ!!」
「何度言われても儂はこのままでいいという返事しかするつもりはない。この話は終わりじゃ。」
「村長!!」
エンリの父親の用件は村の防衛についてであったが、村長からしてみれば過去に防衛が必要な事態になることもなかったためこの先も必要ないと提案を却下する。引き下がるエンリの父親を家から追い出すように外に押し出し扉を閉めてしまった。
「あなたどうだった?」
「今回もダメだった。なんでわかってもらえないんだ!!」
「ただいま~~」
「おかえりなさいエンリ。その様子だと上手くいったみたいね。」
「うん!籠の中身全部買ってもらっちゃった!すごくいい人達で三人共女の人なんだけどね。綺麗で優しいの!いつもンフィーと来る冒険者の人は男の人ばかりだし、女性の冒険者って初めて見たからびっくりしちゃった。」
「そうか・・・・・。エンリ大事な話がある。すまないがネムを起こして来てくれ。」
「?どうしたのお父さん?寝ているネムを起こすなんて、明日じゃダメなの?」
「今夜じゃないとダメなんだ。俺と母さんは一度あの冒険者たちの所に行って来る。」
「いまは何も聞かずにネムを起こして待っていて頂戴。」
エンリがチェーロ達の元から戻ってくると両親が難しい顔をして話しており、話題を変えようとワザと大袈裟に感じたことを話し出す。その話をきいた父親は覚悟を決めた顔で立ち上がり、母親に目を向けると母親も頷いて立ち上がった。エンリに寝ているネムを起こしておくように伝えるとそのままチェーロ達のいる空き家へと向かって行った。
「どうしたんだろう。可哀そうだけど起こすしかないのかな。・・・・ネム、ネム。起きて。」
「ん~~~~。な~~にお姉ちゃん。」
「ごめんね。お父さん達が大事な話があるんだって。抱っこしてあげるから居間に行こ。」
「ん。」
エンリはネムを起こすと寝ぼけているネムを抱っこして居間へと運び、目が覚めるように白湯を二つ用意し始める。
「夜分に申し訳ない。先ほど薬草を買っていただいたエンリ・エモットの両親です。少しお話をさせていただくことはできないでしょうか。」
「なんのお話でしょうか?・・・・込み入ったお話のようですね。とりあえず中にお入りください。」
エンリの両親を最初に対応したレイナは二人から切羽詰まったような雰囲気を感じ取る。一度チェーロとアルシェに確認をするように目を向けると二人もその雰囲気を感じ取ったらしく頷くことで返事を返した。中に入った二人を椅子に座るように促し、その正面に三人も腰かけた。
「不躾な質問で申し訳ないのだが、貴女達が連れていた魔獣は森の賢王でお間違いはないでしょうか?」
「私達夫婦は一度あったことがあるんです。」
「・・・それを知ってどうするつもり?」
「アルシェ。杖を下ろして。レイナさんも。」
「ん。わかった。」
「わかりましたわ。この件はチェーロさんにお任せいたしますわね。」
「二人が失礼しました。確かにあの魔獣は森の賢王になるかと思います。」
「やはりか・・・。お願いがあります!娘二人を一時預かってはもらえないでしょうか?」
「近くのエ・ランテルまで一緒に連れて行ってほしいのよ。あそこに行けば頼れる相手もいるし、もしくは他の仕事でも探すこともできるはずだから。」
「なるほど。モンスターの襲撃を危惧しているんですね。お二人はどうするんですか?」
「私達は法により村から移動することはできない。」
「あの子達だけなら出稼ぎ目的で誤魔化せるはずなのよ。」
「どうするチェーロ?」
「私達の次の目的地もエ・ランテルですから問題ないといえばないですわね。」
「はぁ、わかりました。エ・ランテルまでは同行しましょう。ですが、その先からは責任を持てませんので。」
「ありがとう。その先については私達から伝えておく。」
「エンリとネムのことをよろしくお願いします。」
エンリの両親はチェーロ達が村に来た時に窓からハムスケの姿を目撃しており、以前薬草を収集している時に森で出くわした森の賢王と名乗った魔獣と似ていることに気づいていた。
一緒にいる女性達が冒険者だという情報を入手すると、森の賢王が冒険者に使役され、森の縄張りがなくなり今までの恩恵もなくなってしまうことに結論付いていた。
その為、村長宅で防衛について直談判するが話を聞いてもらえずに最終手段である娘二人を避難させる計画にうつり、女性三人という娘を預けるには申し分無い条件のチェーロ達に縋る思いで訪ねて来ていた。
二人はチェーロ達が頼みを了承すると、安堵の表情を浮かべて立ち上がる。するとチェーロからこの御守りを二つ肌身離さず持っているように渡された。それを受け取った二人は首から提げて会釈をし自宅へと戻って行った。
「チェーロ。いまのは?」
「渡してもよかったんですの?」
「あれは俺の自作のアイテムで一定の条件を満たすと攻撃を無効化することができるんだ。でも俺から10~20㎞以上離れてないと発動しないから使い勝手も悪いんだよね。」
チェーロが二人に渡したのは【覚悟の具現化】というアイテムで装備することにより、装備者が生命の危機を感じ、死にたくないと強く願い運命に抗う決意をすると防御魔法が発動するチェーロ自作のアイテムだった。しかし、チェーロから離れていないと発動することもなく、発動条件も曖昧なため今までに渡しているのはナザリックの一般メイド達のみであり、一般メイド達も主に創造主からいただいた装飾品という認識でいた。
「戻ったぞ。」
「おかえりなさい。話って?」
「エンリ、ネムも落ち着いて聞いてね。」
「・・・うん。」
「二人にはこの村を出てエ・ランテルで生活してほしい。エ・ランテルまであの冒険者たちに護衛を頼んできた。」
「え!!お父さんちょっと待って、きちんと説明して!いきなりそんなこと言われても訳がわからないよ。」
「私たち捨てられちゃうの?」
「エンリ落ち着いて。ネムも泣かないの。あなたもきちんと説明しないと二人には伝わらないわよ。」
口数が少ない父親からの言葉にエンリは動揺しネムは捨てられてしまうのかと泣いてしまう。そんな三人を母親がフォローしながら父親はポツリポツリと状況を説明し、それをきいたエンリは次第に顔を青くしていった。
「そんな・・・お父さんとお母さんはどうするの!?村のみんなは?」
「そんなのやだ!!お父さんとお母さんと一緒にいたいよ。ンアァァァアァッァーヤダーー」
「私達は村から移動することはできない。それこそ農村の役目を放棄したとして罰せられてしまうだろう。村の人達についてはお前の気にすることではない。」
「エンリ、ネムもよく聞いて。私達は二人が大事なの。危ないとわかっている場所にいるよりも安全な場所で幸せに暮らしてほしいのよ。ね?だから私達の我儘を聞いてくれないかしら。冒険者さん達は明日の陽が昇るころには旅立つらしいからそれまでにどうするか決めて荷物を纏めておいて。」
「・・・お母さん。うん。ネムと二人で話し合って決まるね。行こうネム。」
「ヒック・・・グス。・・うん。」
エンリは母親に促されて泣いているネムを抱いて寝室へと向かう。母親も目に涙を浮かべているが父親は歯を食いしばって泣くのを耐えていた。
その夜、エンリはネムと話し合い。両親は二人のためになるものを家から集めて持ちやすいように選別し四人共一睡もできずに夜が明けた。
「おはよう。よく・・・眠れていないわよね。エンリひどい顔よ。」
「おはよう。・・・お母さんこそ。」
「おはよう。お母さんお父さん。」
「おはよう。どうするか決めたか?」
「うん。・・・・・・・・・・ネムと一緒にエ・ランテルに行くことにするわ。」
「・・お母さん抱っこ。」
「フフ ネムは甘えん坊さんね。」
「そうか。ならこれを持っていきなさい。」
「ありがとうお父さん。でも防衛の面についてはンフィーにも相談してみる。」
「バレアレさんか。あの人が進言してくれれば何かがかわるかもな。助かるよ。」
「ん・・・お父さんも抱っこ。」
「ネムこれが最後になるわけではない。お前の大きくなった姿を見るのが楽しみだよ。」
「エンリ。元気でやるのよ。」
「お母さんも・・・お父さんをよろしくね。」
ネムを含めて四人共これが最後になるかもしれないという思いはあったが、誰一人としてそのことは口に出さずに抱きしめあい会話を続けていた。時間になってしまったため四人は冒険者達のいる空き家へと向かうことにした。
「エンリさんとネムちゃんですね。いらっしゃい。」
「今日はよろしくお願いいたします。」
「よろしくおねがいします!」
「こちらこそよろしくね。じゃあお二人は責任を持ってお預かりいたします。」
「「娘をよろしくお願いします。」」
「二人ともよろしく。ネムと同じくらいの妹を紹介する。」
「わたしクーデリカ!」
「わたしはウレイリカ!」
「「二人合わせてーーーー二人はリカリカ!」」
「なにそれ!?そんなの考えてたの?」
「「うん!」」
「やっぱり私の妹達は天使だった。(やっぱり私の妹達は天使だった。)」
「アルシェさん。二人が可愛いのは認めますがそういうのは心に留めておいてください。」
「大丈夫。心の中でも思ってる。咄嗟のことに口に出してしまっただけ。」
「わぁーーー可愛いポーズ!私はネム!よろしくね!!」
その後、ハムスケも合流し各々自己紹介をしたチェーロ達は村を出発した。