屍の上にたつ者たち   作:クラッカー少尉

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森の中で

意識が戻るような感覚がすると、視界には一面の木々が映った。

ここはどこであろうか、と益体のないことを考えても仕方ないので辺りを観察することにした。

 

目の前の木々は照葉樹林だろうか。

木漏れ日を浴びている葉は光沢していてどことなく分厚い。

 

気温は自分が木陰にいるため暖かいというには少し物足りなく、日向に出たらさぞ良い陽気なのだろうなと思うほどの暖かさだ。

 

また、湿度も体感低くないことを感じ取れたため、日本くらいの緯度や気候であろうかと推察する。

 

いや、実際には違うのだろう。

彼女は俺の知らない場所と言った。

もしそれが本当だとしたら、自分が状況から仮説した現状は当てにならない。

 

思考の渦に入り込みそうになったので気分転換に周囲を歩いてみる。

土はほどよく湿っていて木々の生長には良さそうだ。

しばらく考えながら歩いていると、少し離れたところから何やら足音とともに声が聞こえてくる。

 

 

「確かこの辺にいるってな話だったんだがなあ。見つかったかハルト!」

 

 

そう中年の男は青年に話しかける。

 

 

「そう簡単にはわかりませんって。こんなところじゃ何も使えないんですから」

 

 

「じゃなきゃ俺たちが探す必要もねえかっと」

 

 

中年の男は急に立ち止まる。

 

 

「どうしたんですか?」

 

 

怪訝そうに青年――ハルトが尋ねる。

 

 

「足跡だ。どうやらお目当てさんはこの辺にいるそうだ」

 

 

中年は自分の足下より少し離れた地面を凝視しそう語った。

その言葉を聞いた途端、ハルトの顔が引き締まる。

 

 

「そうですか。何か無礼があってはいけませんし一度お声掛けしましょう」

 

「お声掛けってもなあ……何て言えばいいんだ?」

 

「そこは……ほら……転生者の方いらっしゃいますかー、とか我らが呼びし偉大なる主よ我が眼前に現れたまえ……とか?」

 

「お前、それ本気で言えるのか?」

 

「前者はともかく後者は無理です」

 

「だろうな」

 

 

ハルトはニヤリと笑い一拍おく。

 

 

「では一度お声掛けしましょう。せーのでいきますよ」

 

「ちょっ、ちょっと待て!」

 

「せーの――」

 

「転生者の方いらっしゃいますかー!」

 

 

中年の男の声が虚しく響く。

 

 

「お前……」

 

「いや、いくら人っ子一人いない状況とはいえ、大声なんてとてもじゃないけど出せませんよ」

 

「クソ……このボンボンめ!」

 

 

一連の漫才?を聞いていた旭はどう行動をとろうかと思案した。

 

彼らは転生者を探しているようだ。

自分のことでいいのだろうか?

 

現状を反芻した後、旭は彼らの前に姿を現した。

 

 

「その転生者というのは私でいいのかね?」

 

 

「……あなたは?」

 

 

急に現れた旭に困惑しつつも、すぐにハルトは冷静さをとりもどす。

 

 

「いえ、失礼しました。私はアルフレート・フォン・ハルトマンです。そして――」

 

「俺……じゃなくて、拙者はデミストロ・アナリヒオと申す者です!」

 

 

二人が名乗りを終える。

 

前者の名乗りは立派なものだったが後者は辿々しさがある。

次は自分が名乗ることを求められるだろうと考えた旭は口を開く。

 

 

「私は橘旭だ」

 

「タチ……バナ……」

 

何か思うところがあったのだろうか二人の表情が曇った。

だがそれは一瞬のことですぐに平静が戻る。

 

 

「ではタチバナ様、我々が帝都までお送りいたしますのでご同行ください」

 

「了解した」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼ら二人の先導の途中、ギャップ――一帯の木々が倒れていて陽光が十分に差し込む場所――で二人が立ち止まる。

 

 

「タチバナ様。これより飛んで帝都へ向かいます」

 

「飛べるのか?」

 

「はい。我々は飛べます」

 

「そうか背中に乗ればいいのか?」

 

 

ハルトは旭が冷静に返したことに若干驚きつつも背中に旭を背負い――

 

 

「それでは上昇します」

 

 

その言葉の後に猛スピードで上空へ上がる。

 

すると彼の言う帝都なのだろうか、眼下には大きな建物が並ぶ都市を確認できる。

 

 

「あれが我らがライヒの帝都コクトーハイムです」

 

 

黒糖の家?何だか甘そうだな。

 

 

「色々と聞きたいことはあるでしょうが、諸々の説明は帝都に到着し次第させていただきます」

 

 

「了解した」

 

 

そうして三人は帝都へ向かうのであった。

 

 

 

 

 

 

 




退屈な導入の部分はもうすぐ終わってすぐに本編に入れる……はず

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