刀使ト修羅   作:ひのきの棒

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第134話

 周囲へ首を一つ巡らし、

「しかし、高級なお部屋ですねぇ……」

 皮肉っぽい調子でジャグラーは、高級スイートルームを隅から隅まで眺めていた。

 

 その部屋の主、タギツヒメは別段不愉快な態度をとる相手を不服に思うでもなく、別次元からの来訪者の不躾な様子を反射して映る像を窓越しに見ている。

 

 『して、ここに来たのは何用じゃ?』

 輝きを放つ橙色の瞳が、そう訊ねる。

 白く光った躰は神々しく、常人であれば畏怖するであろう。――しかし、ジャグラーという男は別である。大銀河団を渡り歩いた彼からすれば、さほどの興味を惹く存在ではない。

 

 「ええ、一つお伺いしたいことがありましてね。いいえ、難しい話ではありませんよ。そうですねぇ……単刀直入に聞きますが、オレをどうやってこの世界に呼んだのか? それに合わせて理由も――勿論わかる範囲でお伺いしましょうか」

 ふてぶてしい態度で、両手をポケットに突っ込みニタニタ笑っている。

 失礼――という概念を大きく外したジャグラーを、ようやくタギツヒメは踵を返して正面から見据える。

 

 『――ほぉ、それが貴様の望みか?』

 

 「望み、というのは本来であれば元の世界に帰ることを指すのですが……まぁ、いいでしょう」

 真剣味を帯びた声音で、ジャグラーは相手の放つ圧力に対抗するように鋭く睨みつける。

 

 

 タギツヒメは苦笑する。

 『成程、面白い奴だ、妾の知っている範囲であれば答えよう――』童女の声で、しかし大人びた口調がアンバランスな印象を与える。

 『確かお主の――この世界に来た方法と理由か。妾はお主を呼んでおらぬ。』

 結論からはいったタギツヒメは、更に言葉を続ける。

 『お主を呼んだのは、荒魂じゃ』

 「荒魂? あの地上を跋扈する怪物ですか? ハッ、まさか」

 『いいや、あれらとも少し異なる。知性を有する存在じゃ。百鬼丸――という少年を知っているのであろう?』挑発的な語調で、ジャグラーに質問する。

 「ええ、この世界に来たとき出会った少年ですかねぇ」

 『であれば話は早い。アレの肉体を喰らって寄り代としたのが〝知性体〟と呼ばれる荒魂じゃ。あやつらが、共同で現世に顕現し続けるエネルギーを、すべて次元を超えて強力な存在を降臨させる為に使った』

 

 ジャグラーは突然の話に、思わず余裕の態度を崩した。

 「…………どういう事です? まさかその〝知性体〟とかいう連中が数匹で生贄のようにしてこの世界にオレを呼んだ。そう言いたいんですか?」

 

 『だからそう申しているであろう。……尤も、お主の体の中にはその生贄として参加した〝知性体〟の肉体が含まれておるがな』

 くくくっ、と珍しくタギツヒメはわらう。しかし、残忍な笑みを含む横顔がジャグラーには印象的であった。

 

 「では貴女がオレを呼んだ訳ではない、そう言いたいんですね?」

 

 『ああ、無論。でなくば我も貴様のように扱いにくい男なぞ呼ばぬ』

 

 「成程、ではオレが元の世界に帰るには…………」

 

 『百鬼丸を殺すか――或は、貴様がこの世界で死ぬか。それだけじゃ。妾がこの場で殺しても構わぬが……』

 

 その言葉にジャグラーは荒立ちを強めた。

 「黙れッ! オレは選ばれし者だ。その百鬼丸…………少年を殺せばいい。なに、単純なことじゃないですか」

 開きなったように、ジャグラーは余裕の笑みを回復させ、なんとか平静を保とうとする。

 

 

 『……して、あやつの居場所は解るのか?』

 

 「フッ、それも存じているんでしょう? 〝タギツヒメ〟さま?」

 痙攣した頬の筋肉を何とか指で押さえつけて、精一杯の冷静な声で尋ねる。

 

 目を細めたタギツヒメ。彼女は不意に、窓の遥か下へと目線を向ける。

 『さぁ……? 妾にもわからぬ』ジャグラーの口調を真似るように、皮肉の笑みを薄く浮かべた。

 

 

 「………………。成程、ではオレはこの辺で」

 タギツヒメの動作から大体の考えは読めた。そう悟ったジャグラーは、ポケットへ乱暴に手を入れて、足早に歩き出した。

 

 『貴様からは――刀使の匂いがするな』

 部屋の去り際、タギツヒメは苛立つ背中にむけて挑発的な文言を投げかけた。

 

 クルッ、と踵を返したジャグラーは忌々しいような言いにくい顔つきで、

 「さぁ? オレにも目的がありますからね。貴女には全てお話する義務はない。お互い様でしょう?」

 両者の視線は、激しい火花を散らし、静寂を保つ室内に剣呑な雰囲気を漂わせた。

 

 

 

 2

 (う~ん、ジャグラーさん遅いなぁ~)

 内心で、帰りを待っていた。

 安桜美炎は、東京駅に近い周辺に整備された植え込み花壇の縁に腰を下ろして、暇そうに足をブラブラさせていた。

 空を仰ぎ見ると、曇天。

 ジャグラーと共に、鎌倉方面から東京駅に到着するまでは良かった。しかし、肝心のジャグラーがそれ以降の同行を拒否した。カチン、と頭にきた美炎はそれに反駁するように、『わたし、ここでずっと待ってるから!』と一方的に宣言した。

 

 無言で立ち去ったジャグラーを眺めながら美炎は、戻るか解らない相手を強い眼差しで見送った。

 

 

 …………ここまでは良かった。

 しかし。

 何事にも、不運というのは付きまとう。

 

 「貴女は美濃関の制服を着ているけど、どこの所属かしら?」

 「答えない場合は拘束させてもらう」

 美炎の目前には、綾小路武芸学舎の刀使二人が厳しい態度で、尋問をした。この東京駅周辺が、明らかに異質な雰囲気を纏うのは、綾小路と鎌府女学院の刀使が警備をしているからに他ならない。

 

 「え~っと、今人を待ってて……」

 頬に冷や汗を浮かべながら美炎は「あはは」と愛想笑いを浮かべて人差し指で耳の傍を掻いた。

 

 

 怪訝に寄せた眉根で、綾小路の刀使たちは納得しない。

 「……悪いけど、今日からここは厳戒態勢を敷いているから、甘い検問はできないの」

 年長者らしき綾小路の刀使が、美炎を見据える。

 「あはは……本当なんですってば」

 「貴女、美濃関ってことは、鎌府に出向している刀使ね?」年少らしき方の刀使が、鋭い疑問を投げかける。

 

 

 ――うっ、と思わず美炎は呻く。

 図星だった。というよりも、安桜美炎は嘘が下手であり欺く方法を知らない。

 「あはは……で、でもここに居るだけなら――」

 

 

 グラッ、と突如、全身を揺らす振動を感じた。

 たった数秒だったが、不吉な「揺れ」であり、地層からくる自然現象というよりも、何か大きなモノが倒れたか爆発の衝撃に似た……不吉な揺れだった。

 

 「な、なに?」

 

 「なんなの?」

 慌てた二人の綾小路の刀使たちは、美穂の事など気に留める様子もなく、震源地であろう方向へと走って行った。

 

 「どうしちゃったんだろう……?」

 一連の出来事に、呆然と、思わず美炎は本音を呟く。

 

 曇天は更に密度を増して、いずれ雨を齎すかに思われた。

 

 警戒態勢だった東京駅周辺が、俄かに時勢によって蠢動を始めた。――――

 

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