刀使ト修羅   作:ひのきの棒

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ある日の一日

 目を覚ますと、眩い木漏れ日に重なった頭部の影が見えた。

 「百鬼丸さん。大丈夫?」

 心配そうな顔でそう訊ねる少女の声音。

 「う、う~ん。平気、だと思う」

 ズキズキと痛む額を抑えながらおれは起き上がる。

 少女――衛藤可奈美に膝枕をされていたらしい。剣術の稽古中、誤って木刀がおれの頭に衝突した。一瞬だけ考え事をしていたとはいえ、おれらしくなかった。

 不安げになった可奈美の表情を見ると、罪悪感で押しつぶされそうだ。

 「あ、あはは……すまん。途中よそ見してた」

 素直に打ち明ける。

 「ううん。こっちこそ勢いを落とせなくて――」

 「いや。剣術になると手加減できないのは分かってるぞ。だから、おれが悪かった」

 「でも、どうして集中力が切れちゃったのか聞いていいかな?」

 可奈美は、不思議そうに言った。

 「うげぇ!?」

 思わず、おれの口から素っ頓狂な驚きが漏れた。

 (まさか、スカートのスリットからパンツ見えてて集中できませんでしたとか言えないだろ)

 おれは視線を泳がせ、

 「な、なんでだろうな……アハハ」誤魔化した。

 「そういえば、百鬼丸さん普段より視線が下にあったけど……?」

 いきなり核心を衝く質問におれは焦った。

 「ばか、そりゃあ、お前あれだよ。足運びだ。可奈美の足運びは時々綺麗だから思わず見入ってたんだ」

 「あ、そうなんだ! 最近は、古武術の足さばきを応用してみたんだよ! 百鬼丸さんなら気付いてくれると思ったんだ~」

 無邪気な天使のような笑顔で笑いかける。

 「うっ」思わず、おれの良心が痛む。

 「う~ん、それでも時々だけど腰に視線も感じたんだけど、それはなんでかな?」

 「うぇっ!? それは……あれだよ。腰の動きが剣術にとって大事だからだな…………そこも重点的に見てたんだ」

 「あっ、そっかー。百鬼丸さんも色々考えてたんだね!」

 嬉しそうにいう可奈美。

 正直、やましい気持ちだったことが本当に申し訳ない。

 気絶したおれを、膝枕して介抱してくれたのは有難い。柔らかい女性らしい肉感が首筋に伝わって、役得だと思った。

 「しかし、サンキューな。膝枕までしてもらって」

 「ううん。これくらいさせて」

 「その、悪いな。おれの不注意が原因とはいえ、ここまでさせて」

 「ううん。全然だよ。それより――剣術の稽古、嫌いにならないかな?」

 可奈美は不安げに眉を落としておれの目を見た。

 「いや。……寧ろ可奈美に教えてもらってから技術も向上してきてるし、こっちの方が恩恵を受けてる気すらするけど」

 「本当!?」

 よかった~、と両手を合わせて微笑む。

 こういう時の無邪気な表情って、和むんだよな。

 「このまま、私と稽古していつか嫌になっちゃうかも……って思ったけど良かった~」

 「なんでだよ」

 「うん、前にね。美濃関で刀使の同級生に剣術の稽古をしたことがあったんだけど……私、つい剣術になると他がみえなくなるから、皆に色々無理させちゃったから……あはは。舞衣ちゃん以外には心置きなく頼める人も少くなっちゃって……」

 沈んだ口調で、可奈美は苦い過去を語る。

 「ふーむ、成程な。でもまあ安心だぞ、おれは。くっそ可愛い師匠様に稽古をつけてもらえて、さらにピンクのパンツまで拝めるという日には最高すぎてご飯のおかわり自由状態だぜ」

 おれは親指を立てて励ます。

 可奈美は眉を開いてパッと明るくなった。

 「本当!? だったらうれしいな~~。百鬼丸さんって本当に努力して憶えてくれるからつい私も教える時に力が入っちゃうんだよ。うん? ピンク?」

 突然、少女の顔色が変わった。

 美濃関の赤いスカートのスリット部分に可奈美が視線を向ける。パンツのピンク色のレースがチラリと見えた。

 ゴクリ、おれは唾を呑む。一応、今覚悟を決めた。

 「……ねぇ、もしかしてだけどさ」

 「うん」

 「見えてた、のかな?」

 可奈美は下に俯いて、プルプルと羞恥に小刻みに震えていた。刀使は女子にしかなれない。だから、刀使は自然と男の視線を忘れてしまう。

 「――はい。とても、ご馳走様でした」

 おれは心の底から感謝しながら、お礼をいう。

 「~~~~~~百鬼丸さんのばかーーーーーっ!!」

 甘栗色の髪の毛が木漏れ日に反射しながら、素早いビンタを繰り出す。

 「うごふっ」

 強烈な一撃だった。

 霞む視界から見えたのは、琥珀色の大きな瞳に浮かぶ涙目だった。

 (あっ、めちゃ可愛い……。)

 こういう、羞恥の混ざった表情もいいよね、と思いながらおれは往復ビンタを受けた。

 

 

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