刀使ト修羅   作:ひのきの棒

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第154話

 …………手ひどい敗北を被った。

 国防の中枢を担う市ヶ谷基地を「維新派」を標榜(ひょうぼう)する刀使の部隊に襲撃された。

 この被害は報道発表されている以上のモノだった。

 世間には『市ヶ谷基地を襲撃した謎の荒魂群』という見出しで発表された。しかし、つい数か月前の『鎌倉特別危険廃棄物漏出問題』で人々はメディアや行政の報じる内容を信用しなかった。

 世間の目は概ね正しかった。

 まず、宗像三女神のひと柱――――タキリヒメが奪われた。本来であればパワーバランスを保つ為に三柱の神々を分散させる方針だった。…………ところが。

 

 

 「現状はこんな有様かよ」

 ちっ、と短く舌打ちをしたのは小学生ほどの背丈をした少女だった。

 薄桃色の髪をツインテールに結んだ少女、益子薫は広場に続く階段の途中で腰を下ろしてボヤく。

 目前には、多くの照明に当てられた刀使や自衛隊員たちの倒れる姿が散見された。幸いにして死者は――――ゼロではないにしろ、奇跡的に少数で抑えられた。

 ――――だが。

 「まるで戦争じゃねーか。こんな身内同士でなにしてんだよッ」

 と、一言吐き捨てた。

 この(日本)には危機が迫っている。それは以前から刀使が隠世との不思議な同調による媒介を通して、感じられる現象から多くの刀使が知るものだった。

 『鎌倉特別危険廃棄物漏出問題』は序曲に過ぎない。

 崩壊の狂騒曲が列島を覆いつつある、と薫は予感していた。しかし、一介の刀使である自身()にはどうしようも出来ない。

(なんでオレは特別じゃねーんだ!!)

 小さな掌を開いては、口惜しさで硬く拳を握る。

 

 『薫っ、こんな所にいたんデスか』

 背後から声がした。

 「エレンか。どーした?」普段通りの怠惰な調子で返事をする。

 その答えに、エレンと呼ばれた少女はムッとした頬を膨らませる。

 「〝どーした〟じゃなくて怪我の手当の途中じゃないデスか!」

 基地の建物から洩れる窓明かりに照らされた金髪が豪華に揺れ、華やかな印象を与えた。

 「……オレは別に大したことないからいい」

 「そーゆー問題じゃありませんヨ!」

 ぷりぷりと怒りながらも薫の隣に近づき階段に座った。

 不意に、冬を告げる冷風が妙に熱っぽい頬を撫でゆく。

 

 

 膝を支えに頬杖をついた薫は、静かに自衛隊基地の広場で行われる救援活動と慌ただしい人々の姿を眺めている。

 「…………オレたちの相手はあくまで人間に害を与える荒魂のはずだ」

 「薫?」心配そうな表情で、夜闇の中つぶやく親友に声をかけた。

 「いや、大丈夫だ。オレは別にそこまでショックじゃない。アイツ(可奈美)は色々と思う所があるとおもうけどな」一旦言葉を区切って、再び続ける。

 「仮にこの先、タギツヒメとかの問題を乗り越えたとしても、このまま人間が平和な世界を目指せるとは思えねーんだ。もちろん、オレたちは刀使で〝守る〟こと〝祓う〟ことが仕事だ。それに今更文句はない――けどな、エレン。荒魂といい関係になりたい人間が増えるとも思えないんだ」

 そう言いながら、薫は市ヶ谷基地の中央建物の入り口で巨体を横たえた一個の荒魂……………ねねに視線を注ぐ。

 「人間同士でアホらしい内部闘争をして、挙句が刀使を駒みたいにして戦争ごっこか!? ワケがわからねーよ! 確かにオレたちは公務員だ。上からの命令なら黙って従う。……けどな、だけど一個人として文句をいう権利までは奪われてないはずだぞ。――――なんでこんなことになっちまったんだよっ」

 どこにも逃げ場のないような、悔しさの滲む声で歯噛みをする。

 「薫…………」

 「な、エレン。お前はどう思う?」

 そういいながら、襲撃側である綾小路の制服を着た刀使の少女が担架に乗せられ、運ばれる様子を見ていた。敵とはいえ、彼女たちもまた被害者である。

 「ワタシは薫とねねの関係性が大好きデス。でも、薫がこうやって感情を吐露するのも久々に見まシタ」

「…………悪い、自分でも頭の整理ができてねーんだ」

「違いマスヨ。誰よりも荒魂との関係を考えてる薫だかラ、今日のコトはきっと色々とショックだった――――」

「それは買い被りすぎだ。オレはただぐーたらしたいだけなんだ」

 エレンの言葉を遮るように否定した。

「だけど、平和じゃないとおちおち、ぐーたらも出来ないだろ?」

 そこで、ようやくエレンの方に顔を向けた。

ふっ、と安堵の息を漏らしてエレンは頷く。普段の「眠そう」な顔つきの益子薫に戻ってきたと思えた。

 「そうデスよ薫。その調子でバンバン仕事をしていきマショー!」

 「ふざけんなっ!! 誰が好き好んで仕事なんてするか! オレは一生ぐーたらするって決めたんだぞ!」

 「あれ? でもさっきと言ってること違いマセンか?」

 「うぐっ、それはあくまで言葉の綾だ」

 「仕事、しないんデスか?」

 「当たり前だ、お前もあの〝おばさん〟みたいな事をいうんじゃない」

 「――おばさん?」

 エレンはいたずらっ子のような顔つきで、携帯端末を薫の前に出した。画面には薫の最も恐れる人物の名前が表示されていた。

 「おい、エレン。まさか通話状態になってないよな?」

 頬に冷や汗を流しながら訊ねた。

 エレンは肩を竦めて溜息を零す。

 「ちょうど、今さっき電話が掛かってきたんデスよ」

 「は、は、は……え、エレンも面白いこと言うようになったなー」

 『おい、薫。誰がなんだって?』

 底冷えするような女性の声が電話口から聞こえた。

 ピン、と背筋を伸ばした薫はガタガタと震えながらスクッ、と階段から立ち上がり脱走を図ろうとした。

 それを電話越しで察した真庭紗南は、「おい、薫。逃げられると思うなよ?」と脅した。

 「な、なんの冗談だ(棒読み)」

 『――逃げれないよう頼むぞ』

 「ハイ、紗南センセー!!」とびっきりの明るく弾けた声でエレンは長い両腕を伸ばして薫を羽交い絞めにした。

 「あがががが、離せーーー。オレはこれから南の島に逃げるんだーー!!」

 「薫、良かったデスね。これから紗南センセーに会えマスよ?」

 「今一番会いたくない人間だぞ!? 横暴だ、こんな横暴許されるはずないぞーーっ」

 ジタバタする薫を抱きかかえながらエレンは、普段通りのやり取りができることに小さな安らぎを感じていた。

 

 

 

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