刀使ト修羅   作:ひのきの棒

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単発。続かないと思います。
しょうもない話がしたいだけでした。


閑話休題、パラレルワールドその1

 …………朝、わたしが目覚めると見知らぬ部屋に居た。

 カーテンの隙間から射す朝陽が眩しくて自然と顔を顰めていた。

 ぼーっ、とした視線で周囲を確認してみる。

 知らない家具。

 知らない部屋の匂い。

 知らないパジャマを着ている。

 何度も瞬きをして確認しても、これが夢じゃないと理解するまでに時間が掛かった。

(え、なにこれ…………)

 再確認した後、全身から変な汗が噴き出そうな気分になった。見た感じでは男の部屋、ではないと思う。だけど、脱ぎ捨てた衣服とかが散乱していて、足の踏み場がない。

「嘘、でしょ」

――――と、呟く声すらも別の人物の「声」だった。

 変な気分を払拭するために、わたしは姿見のある方まで移動した。

 普通の木枠で作られた姿見には、《わたし》ではない少女の姿を映し出していた。

 亜麻色の髪が所々寝ぐせで跳ねているが、艶がかかっている。人一倍大きな瞳は琥珀色を湛え、好奇心の強そうな印象を受ける。

「わたし、じゃないよね」

 ペトペト両手で触って顔を確かめる。うん、可愛い。そして、わたしは昨日整形をした覚えはない。

 ゆっくり、唇に触れるとプルンと柔らかい。リップを塗っているワケでもなさそうなのに程よく潤っている。

 

「……ん? この顔、待って――――あれ? もしかして」

 この顔に見覚えがある。いや、あるどころの騒ぎではない。有名人だ。

 

――――衛藤可奈美だ。

 

『えええええええええええええええっ!!』

 わたしは思わず大声を上げた。

 彼女は刀使の中でも有名人だ。

 というか、日本中を一時期騒がせた『ある事件』にも関わっており、知らない人は居ないと思う。

 剣術の腕前は勿論のこと、インターネットの界隈では、その愛らしいルックスから一時期だが変な話題となっていた。勿論、肖像権の問題とか広報用ではない隠し撮りなどだったために、すぐに削除祭りになったとか――――。

 にしても。

 「これ、現実だよ、ね?」

 誰に問いかけるでもなく一人で呟きながら、わたしは試しに姿見に思いっきり笑顔を作って見せる。

 にこっ、とごく自然に笑顔をつくる少女の表情が鏡面に映し出されていた。

 …………元々のわたしでは絶対に出来ない事だった。なんせ、表情筋は衰えて笑顔なんてしようものなら痙攣したみたいで不気味な顔になる。

 「へー、それにしても可愛いなぁ」

 改めて顔をまじまじと見る。

 なによりも、人懐っこい雰囲気がいい。誰とでも打ち解けられそうな感じが男女問わず人気なんだろうなー、という印象を受ける。

 ――――それと何よりも、先程から気になっていたのが胸の辺り。恐る恐る胸の膨らみに手を伸ばすと、ちゃんと柔らかい。

 本来のわたしであれば、そこには壁があるだけ…………。くっ!!

 形のいい胸の膨らみが〝可愛い系〟の顔と不釣り合いで、それが余計に魅力になりそう。

 「どーして、神様って平等じゃないかなー」

 わたしは色々と確かめながら気分が凄く落ち込んだ。

 完璧な人間っているんだなーって、思った。というか、自覚させられた。

 

 

 ◇

 安河内成美、十四歳。鎌府女学院の生徒――――以上、それがわたしの経歴。

 特別に選ばれた「刀使」でもなければ、なんでもない。刀使をサポートする人間、ただそれだけ。地味、ひたすら地味な存在としてわたしの一生は構築されている。

 

 

 じゃあなんで、『衛藤可奈美』という少女に自分がなっているか?

 

 一応、心当たりがないワケではない。

 というのも、昨日の夜に出現した荒魂が原因だと思う。

 相模原圏内に現れた荒魂を討伐しに刀使とわたし達のサポート班が出動した。幸いにして数が3体ほどだった為にすぐ討伐は終わった……けど、潜んでいた荒魂が突然にわたし達サポート班の方に襲い掛かってきた。

 パニックになったけど、救援に駆け付けた衛藤さんたちによって無事、討伐された…………はず。

 最後の荒魂が斬られた直後に胴体から噴出させた真紅の霧を、わたしと可奈美さんが直に浴びた。

 

 

 うん、もしかしたらそれが原因かも知れない。

 

 わたしの推測が正しいならば、いま、わたしは『衛藤可奈美』と入れ替わっている可能性が高い。

「まじかー」

 鏡の前で、可奈美(わたし)がつぶやいた。

 

 

 ◇

 ドタドタドタ!!

 と、廊下を走る音が聞こえて、直後に部屋の扉がドンドンと何度も叩く音が聞こえた。

(えっ、何ホラー映画?)

 わたしは怯えながらも、「は、はーい」と冷静なフリをして返事をした。

 しかし、扉は容赦なく開かれて勢いよく人影が闖入してきた。

 

 『可奈美ちゃん、大丈夫!?』

 息を切らしながら駆け込んできたのは、柳瀬舞衣さんだった。……また有名人だ。

 大企業グループのご令嬢。そんな人がわたし(正確には可奈美さんだけど)を心配そうに見つめながら手を握った。

 「さっき、大きな叫び声が聞こえたけど、平気?」

 ぎゅっ、と若干強めに握られながら尋ねる。……いや、距離が近い近い、すごく近い。

 もう、鼻息すら吹きかかる距離。

 「う、うん、へいきだよー(棒読)」と、何とか引き攣った笑みで誤魔化す。

 翡翠色の綺麗な瞳がじーっ、とわたしを見詰めながら瞬く。

 「なんだかいつもと雰囲気が違うけど……?」

 舞衣さんが首を傾げながら言った。

 「そ、そっかなー? あははー」

 頬に冷や汗を流しながらもわたしは咄嗟に嘘をついた。……何となくだけど、この人に事情がバレると色々と怖い気がした。

 「本当? 信じていいんだよね?」

 「う、うん。ちょっとだけ疲れたかもー(棒読み)」

 そう言いながら、わたしはワザとらしい具合の悪い仕草で演技をした。

 「ほ、本当に!? だったら今すぐ病院に――」

 「あ、あのそこまでしなくても、少し眠ればいい気がするかなー?」

 「うん、わかった。可奈美ちゃんの看病は責任を持って私がするから」

 (えぇーー、いい人だけども)

 おっとりした雰囲気の舞衣さんだけど、なんか怖い。

 「あ、あー少し疲れたかなー」

 これ以上の対処の仕方が解らなくなってわたしは、ワザと舞衣さんの方に軽く倒れ込んでみた。

 もにゅっ、という柔和な感触と同時に、

 「かっ、可奈美ちゃんっ!?」

 上ずった声で動揺する舞衣さんの声が聞こえた。

 ラッキーなことにわたしは舞衣さんの大きな胸に顔を埋めるような形になり、むにゅん、むにゅん、という至福の感触を味わっている。

 (うん、もうこのまま強引に話題を変えよう)

 両腕を相手の背中に回して緩く抱きしめるような恰好で、

 「あー。疲れすぎたかなー? こうやって甘えるのもいいかもー。お姉ちゃんに甘えるみたいに…………」

 そう言いながら、あざとく上目遣いで舞衣さんをみる。

 すると、

 「あ、あわわわ、か、可奈美ちゃん……もう一回、もう一回言って……」

 すごく動揺しながらも、口を撓んだ縄みたいにアワアワさせながらも、強い意志で要求された。

 「えー、何を?」

 普段のわたしならば絶対に出来ないような思わせぶりな言い方で、相手を試してみる。

 案の定、舞衣さんはズッキューンとかの効果音が似合いそうな表情で、更に心を乱していた。

 「お、お姉ちゃんって…………言って」恥ずかしそうに、消え入りそうな声でいった。

 わたしは、美少女小悪魔ムーブが楽しくなってきた。普段の自分じゃない自分で好き勝手にする快楽に抗いがたくなっていた。

 ――――だから。

 「えー、どーしてかな――……お・ね・ぇ・ち・ゃ・ん?」

 口角を微かに釣り上げて言葉を丁寧に区切る。

 「あわぁわぁ―――――か、かな……っ」

 言葉にならない言葉をつぶやきながら、舞衣さんがその場にへたり込む。わたしも一緒になってフローリングにゆっくり座り込む。

 すーーーーっ、と鼻で息をする。優しい匂いが舞衣さんから漂う。バニラエッセンスとかミルクの匂いとか、お菓子の類の匂い。

 すりすりと舞衣さんの胸に頬擦りしながら、次にどうやって対処した方がいいのか考えを巡らせていた。

 

「か、可奈美ちゃん。ち、ちょっと待ってて――――」

 そう言いながら、わたしの腕を優しく振りほどいて舞衣さんが鼻を抑えて顔を真っ赤にして部屋の外へと勢いよく飛び出した。

『もう、もうっ、もうっっっっ!!』

 と、興奮を抑えきれないような声音が廊下を駆け抜けていった。

 

 

 「…………これで、当面の脅威は立ち去ったの、かな」

 わたしは内心で冷や汗をかきながら、煩悩に苛まれてそうな相手の後ろ姿を、茫然とした気分で見送った。

 

 

 立ち上がってカーテンを開くと、外は見慣れた校舎、鎌府女学院の赤煉瓦色の建物が視界に入り込む。

「そっか、この部屋も錬府の寮か――――」

 人の部屋だと印象が大分かわるものだな、とひとり納得した。

 いま現在、刀使は足りなくなっているから伍箇伝から刀使が出向している。

 当然、刀使の中でも屈指の剣士、衛藤可奈美も鎌府の寮にいても不思議ではない。

 

 …………もしかしたら、現状は夢なのかも知れない。

 そう思ってわたしは、まだ温もりの残るベッドに潜り込んだ。

 すぐに瞼が落ちた。

 

 

 ◇

 再びわたしが目を醒ますと、部屋が薄暗くなっていた。

 (もう夕方か)

 そう思いながら目を擦ると、やはり衛藤可奈美の部屋であった。

 起き上がろうとして――――違和感があった。

部屋に誰かいる気がした。見間違いかも知れないと思いながら、「だ、誰かいますか?」と聞いた。

 本音はビクビクだったけど、訊かずにはいられない。

 その気配は、ゆっくりと立ち上がった気がした。

 『ん? もう起きたか?』

 少年の声だった。

 「――――え、誰?」

 素の声が出た。

 

 人影はそのまま薄暗い部屋を歩いて電気を点けた。

 「おいおい、変な冗談は勘弁してくれよ。師匠さんよう」

 ちょっと困ったような顔で、わたしの方を覗っていた。

 「ごめんなさい、ほんとにだれ? あと、ここは確か女子寮だから……」

 「ああ、細かいことは気にするなって。しかも地味に傷つくから本当に誰って――――百鬼丸さんを忘れたんか?」

 やれやれ、といった様子で肩を竦める。

 「ごめんなさい、本当に知らない」

 わたしは、衛藤可奈美という人物のフリすら忘れて答えていた。その反応に対して、

 「えー」

 と、気の抜けた返事で少年が応じる。

 

 「今日は色々と剣術の面白い技を教えてくれるっていうから、ずーっと中央広場で待たされてたんだが…………そうですかい、そうですかい」

 拗ねたような調子で口を尖らせていた。

 「あ、そうだったんだ……ごめんなさい」

 「いや、まあ具合が悪いって舞衣から聞いてたから、それはいいんだけどな!」

 親指をぐっ、と立てて笑いかける。

 なんだか、悪い人じゃなさそうだな、と思った。

 

 「腹、減ってないか?」

 「ええっと、少しだけ……」

 「そっか、よかった。これから野生の熊か猪でもぶっ殺して鍋にするから待ってろ」

 へへへ、と嬉しそうに言いながら部屋を出ていこうとした。

 熊? 猪?

 この人は何を言っているの? 理解できない。

 「あ、あの、本当に大丈夫だから、うん」

 「ム、そうなのか?」

 器用に片方の眉を上げて、振り返る。

 「そ、そうそう」

 「そっかー」

百鬼丸と名乗った人は、素直に納得してくれた。

 「じゃあ、サメとかなら…………」

 「違う」

 即答で返事をした。

 ――――全然わかってないじゃん、この人。

 

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