刀使ト修羅   作:ひのきの棒

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S装備関連は全部オリジナル設定です。多分。
色々ツッコミどころはあるけど、まぁいいじゃん。


第170話

 陸上自衛隊の輸送ヘリCH-47の大型ローターが上空1640フィート(約500メートル)を飛行している。後部ハッチには、ヘリとも異なる機械の関節部が駆動する音が聞こえる。

 

 市ヶ谷基地から出発した輸送ヘリに乗った可奈美たちは、予めS装備を装着し攻撃の準備を万全にしていた。

 地上の交通網麻痺により、車両で現場に赴くことが不可能となった。――とすれば、上空からの急行が現実的となった。

 ――――あくまで自衛隊の派遣ではなく、刀使を運搬するだけ。

 現場での半ば応急処置的な対応だったが、責任は刀剣類管理局と自衛隊の側が受け持つことにより派遣が決まった。

 

 

 オレンジ色のバイザーを触りながら次々と表示される情報から視線を逸らした。

「ふぅ、こんなものか」

 薫は額を手で拭う仕草をしてワザと仕事をしたフリをする。

 彼女の手には休暇届の用紙がすでに記入済みであった。

「薫ぅ~、こんな時マデお休みのコトですカ?」

 ジト目でエレンは薫の頬を指で突く。

「あ~、いいだろべつにー。こんな陰気くさい時くらいオレの好きなようにさせろー」

 むくれながら薫は反駁する。

 長船の二人組がしょうもない言い合いをしているのを遠目に見ていた可奈美が、

「あはは、いつものやり取りだねー」

 微笑みながら言った。

「…………まったく、緊張感のない奴らだ。それにしても、S装備専用コンテナを使用できないのは心残りではあるが」

 姫和が呆れつつも、嘆息まじりにいう。

 S装備輸送ポッド。

 それはストームアーマーを人員と装備、同時に輸送する場合にのみ使用される輸送機であった。

 全長5・5~6・0m

 フロント部分が流線形であり、戦闘機のような推進エンジン2基を備えている。初めて見る者の印象として、ちょっとした戦闘機であろう。

最大時速は500㎞に達する。これは、ポッド内部にかかる加速度は約5Gであり、これはリニアモーターとほぼ同義と言えた。

 伍箇伝の各校でS装備が配備される前から懸念されていた事項が、この「S装備用コンテナ」であった。

 三半規管の弱い者や、搭乗者が極度に疲労を感じる装置であれば、派遣先での任務遂行に支障をきたす。

 事実S装備の射出ポッドの使用許可は、健康面で問題のない者と限定された。

 また、通常の加速では推進剤も調整され、300~400を最大時速と設定された。(推進剤の更なる注入により、700㎞まで加速可能である)

 時速100㎞=約1Gと考えた場合、訓練した者であれば過負荷状態とは言えない。

 

 

 「あ~、あれは着陸……つーか、ポッドの前部にブッ刺さる場所が決まってんだよ。周囲に人が居ない場合とか、周辺に被害影響を与えないとかな」

 ――――勿論、折神家屋敷突入作戦時は例外である、と薫は内心思った。

 「ま、なんにしても電車でも市ヶ谷から渋谷なんてせいぜい15分くらいだろ? ヘリならすぐだぞ、すぐ」

 と、いいながら祢々切丸を引き寄せ薫は欠伸をした。

 「ねね~!」

 小動物のように薫の肩で可愛らしく鳴く荒魂――ねねは、昨夜の市谷基地襲撃の巨大化から元の姿に戻っていた。

 下あごを指先で撫でた薫は、「…………何があっても離れるなよ」と真面目な声で語り掛ける。

 「ねね?」

 愛らしくねねは首を傾げる。

 「ふっ」と、薫は思わず噴き出した。

 これから惨状を呈する現場に直行する。そんな緊張状態の中でも、昔からの親友は相変わらず癒してくれる。――――人と荒魂は必ずしも敵対だけではない。そう思える瞬間に思えた。

 

 

 

 2

 

 

 加速装置の稼働時間は残り130秒。

 リボルバーが回転すると同時に、再び一発蒸気が噴出し全身を加速させた。

 百鬼丸の顔には喜色が浮かんでいる。敵を見つけ、それに全力でブチ当たる事の出来る喜び。「壊して」も構わない存在であること。

 

 「最高だなぁ、おい!」

 左腕を噛み、ワイヤーで連結した義手を街灯に投げる。しゅるしゅる、と8メートルほど伸びたワイヤーの先に繋がった義手が外灯の鉄棒を握り、落下速度を保ちながら大きく振り子の運動に似て弧を描く。

 激しい土埃を濛々とあげたバラゴンの下まで直行する。

 百鬼丸の剥き出しの犬歯に唸り声が混じる。

 紅の残影を煙の如く漂わせながら、少年が自身の数十倍の体積を有する生き物へと挑む。

 群衆の惑う光景を上空から横切り、右腕に掴んだ《無銘刀》を全力で振りかぶる。移動時の速度を斬撃の圧に変え、刃を打ち込む。

 

 

 バラゴンの纏う土埃の気流が一気に変わった。

 ゴマ粒程度にしか思っていなかった「人間」が、コチラに向かってくるではないか。

 巨大な目玉は、人影に気付くと巨木の太さと変わらなぬ前脚で百鬼丸を圧し潰そうとした。しかし、余りに目標が小さかったために、バラゴンの前脚が直撃することはなかった。

「あっぶねぇ」

 せせら笑いながら、内心の百鬼丸は大きすぎる一撃に肝を冷やした。

 

 グニャッ、と百鬼丸の義手が掴んでいた街灯が歪な軋みをたて折れ曲がり始めた。

 ――――チッ、と舌打ちをして義手が鉄棒を手放した。

 空中に投げ出される格好となった百鬼丸だったが、宙でもバランスを失わぬようコマのように回転しながら、勢いを保持して巨大生物の弱点を窺う。

 

 

 

 ふと、下界に人影を幾つか散見した。

 「刀使……か。チッ、厄介な」

 深く溜息を吐き出し、一時的に戦闘モードから頭を切り替えた。右手に握る《無銘刀》を納刀して高揚する気分を鎮める。

 回転したままの体を巧妙に動かし、街灯の一本に狙いを定め義手を投げた。しゅる、しゅる、とワイヤーが伸びてゆき、棒状の部分を掴む感触がした。

 地上20メートルから一気に降下を始める。ゴウゴウ、と烈風が耳元を通過する。

 黒い髪を靡かせながら百鬼丸は、バラゴンに対峙する刀使の一人に向かっていった。

 

『あんたらも早く逃げろ』

 そう言いながら、百鬼丸は真正面まで迫った刀使の少女の襟首を乱暴に掴み抱き抱えた。

 突然の出来事にまるっきり現状を理解できない、鎌府の制服を着た少女が目を点にする。

「いいか、聞こえないのか! 早くこの場から離脱しろ」

 もう一度、分かりやすく聞こえるように耳元で百鬼丸は叫ぶ。

 「は、はぁ!? あ、あなたは誰ですか? 一般人なら早く非難を……」

 「あははは、アンタ面白いな。人の心配なんてすんなよ。あんなデケェバケモン相手に刀使は遊び相手として不足だよ。おれみたいな奴じゃないと満足しないと思うぞ」

 不敵な笑みで口角を釣る。

 その表情が悪戯を仕掛ける前の少年のようで、思わず鎌府の刀使は毒気が抜かれた。

 

 「わ、わたし達は…………先遣隊として派遣されました。持ち場を退く事はできません」

 「おいおい、職務を遂行するのも大事だけどな。人に任せるのも大事だぞ」

 百鬼丸は会話しながら倒壊するビルの巨大な瓦礫の連続を巧妙に潜り抜け、抱きかかえた刀使を安全そうな場所まで運ぶ。

 

 「あなた、誰なんですか!?」

 上空を移動する際に発生する激しい風に煽られながら、鎌府の刀使は怒鳴るように尋ねる。

 「――――うーん、名もなきイケメンです☆ってどうだ?」

 「ふざけないで!」

 「…………ちぇっ」

 ちょっと残念そうに百鬼丸は口を3にして、いじけた。

 

 


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