刀使ト修羅   作:ひのきの棒

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第172話

 赤い焔の柱が天空に高く立ち昇る。…………

 眩くて思わず顔を顰める。熱波が髪を軽く浚い、息苦しさを覚えた。

 だが、一秒も視線を逸らすことなく、両目で敵を捕捉し続ける。早鐘のように打つ心臓の鼓動が全身に熱く駆け巡る。

 「へへへへへ、火葬を用意してやったぞォ!」

 百鬼丸の声が奇妙な高揚を抑えるような口調で告げる。

 口端に煙草を銜え、紫煙を燻らせていた。左手には燐寸(マッチ)。摘まんだ燐寸棒は手を振り消した。

 首を二三、斜めに傾ける。

 燃え盛る焔を瞳に映しながら刀を握り直す。――――トドメを刺すために固く柄を掴んで微笑む。

 

 

 

 1

 

 リボルバー方式の加速装置の場合、加速時間=瞬発力であり、長く加速し続ける際には瞬発力が低下し、逆に短ければ瞬発力が上がる。単純な話だった。

 

 つまり、現在の百鬼丸が使用できる加速装置の使用時間は90秒。これを瞬発力のみに振り切ったとき稼働限界は更に短くなる。

 その間にケリをつけなければ…………。

 考えながらも、百鬼丸は妙に明澄になる思考に我ながら驚かされた。

 数々の死線を潜り抜けた経験と記憶がどんな状況であっても、現状打破に至る道筋を発見する。

 

 

 ヴォォゴオオオオオオオオオオオオ!

 

 バラゴンはようやく、地面に埋まった下半身を抜き出せる機会(チャンス)を得たようだ。埋没していた後ろ足が次第に泥濘のような土面から抜け出そうとしている。

 

 「マズいな…………」

 百鬼丸は一切表情を変えず、屈み込み加速装置を駆動させる。

 ガチャン、とリボルバーが回転すると、間髪を入れず体躯が猛烈な速度で弾かれた。

 紅の残光を曳く刃がバラゴンの喉元を目掛けて飛ぶ。

 

 視界を掠める巨影――――もとい、水掻きを有した前脚の爪が容赦なく少年に襲い掛かかる。加速装置の特性上、急な軌道変更は不可能。――――であれば、攻撃を避ける方法は一つ。

 「チッ」鋭い舌打ちをしながら、二回目のリボルバーを回す。

 バラゴンの巨大な前脚を避けるため、体を大きく捻り斜め上空へと方向を移動させる。

 爪と爪の間をすり抜け、噴射軌道の煙を宙に描きながらバラゴンの頭より高い位置にまで到達した。

 

 生物として弱点箇所であろう喉元を狙った筈が、先制攻撃は防がれた。

 百鬼丸は地上30メートル(マンション10階相当)の位置からバラゴンの全容を把握した。

 

 (えら)のような突起物が背中を覆っている。微かに空から注ぐ寂光に照らされた背中の皮膚は硬質な印象を受けた。茶褐色に近い色合いは長年地中に潜っていた影響だろうか、赤土のようなイメージが湧いた。

 まるで、人間の下半身にも似たバラゴンの太い太腿部が今、まさに地上へと解き放たれようとしている。

 

 

 ギャオオオオオオオオオン!! ギャオオオオオオオオオン!!

 

 相当な質量の金属同士を擦り合わせるような不快な咆哮が、原始生物の喉から迸る。かつて地上を支配した生き物としての矜持のようにも思われた。

 

 顔の丁度中心に位置する箇所に光る角のようなものが、より一層の光を輝かせる。

 バラバラと土砂の被った耳は、蝙蝠の翼と同じような形をしており、器用にその耳を動かして土砂を払う。

 

 しかし、バラゴンは終始、宙を自在に動き回る人影…………百鬼丸から目を離さずにいた。それは、人が蚊を煩わしく思うのと同様に憎しみに満ちた目線で百鬼丸を捉え続ける。

 

 

 百鬼丸とバラゴンの目が同時に一致し、かつ、両者を激しい憎悪の視線が絡まり結びあった。

 

 巨大生物の下顎から粘着質な唾液が牙の間から垂れる。吐き出す呼気は血生臭く、内臓の腐敗臭のようなものが漂う。

 

 

 その口腔で50名以上の人間を喰い尽した。人間の恐怖、絶望、悲鳴を飲み干し、本能の赴くままに地上を蹂躙する。

 

 

 ヴォォゴオオオオオオオオオオオオ!!

 

 怒号のように咆哮する。何度も繰り返し空気が振動するので、鼓膜が破れそうだ。

 怪獣の生態を眺めながら、少年は辟易した息を吐く。

 「うるせぇな! チッ、ブチのめすぞ」

 長い後ろ髪が顔の前に流れる。秀でた眉を低くして弱点箇所を見出す。

 

 以前、戦った怪獣同様に口内にゆけば確実に殺すことができるだろう。しかし、仮に火炎放射の類を考えた場合、タイミングを考慮せねばいけない。

 とにかく、体内からの侵入を前提として戦闘を推移させる。これより他に方法が思いつかない。

 義眼が鈍く太陽光を反射する。

 自由落下する体を後押しするように加速装置の残りで速度を上げた。

 

 

 

 

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