――――腑破十臓の体は異様という他なかった。
人体骨格模型と、甲冑を融合した不思議なシルエットは、一種の神秘さと不気味さを備えていた――――。
能楽の猿面を思わせる顔部は赤く、双眸は妖しい白の眼が冷徹に光る。
「もっと面白味のあるやつだと期待していたが……これでは、秀光の命令を待たずに殺すべきだな」つまらなそうにつぶやく。
興味のない玩具を与えられた子供のように失望感を露わにしていた。
「――――――ッ!?」
遠い場所から突然の闖入者をみた可奈美は、思わず息を呑んでしまった。腹部を貫かれた半獣の悪魔――――百鬼丸は、茫然と刃をみている。
「ゴフッ、…………っ、くっ、」
ようやく理解が追い付いたようで、苦悶に歪んだ声を発して刃を握る。
「引き抜く時にお前の指がバラバラになるが、いいのか?」
「おヴぁぇ、をゴロズ、おまヴあをゴロス…………」
金色の眼には涙が浮かんでいる。
牙の間から洩れる呪詛のような言葉は、純粋な憎悪よりも悲嘆の意味合いが色濃く反映されているようだった。
十臓は半獣の悪魔の抵抗する姿を面白げに眺めながら、耳元に頭を寄せる。
「……外道に堕ちた、この人ではない身の上の者として教えてやろう。お前の伸ばした腕は永遠に届かない。お前はこちら側の匂いがする。殺し合いに意味や生きがいを見出す者だ」
決定的な一言を囁く。
半獣の悪魔――――もとい、百鬼丸の抵抗する動作はピタッと止まった。刃を握っていた手を離し、ダラリと両腕を垂らす。すべてにやる気が失せたように曇天の空を仰ぎ見る。
氷雨が絶え間なく、百鬼丸の顔に降りしきる。
(馬鹿な奴め…………。)
肚の底から百鬼丸を軽蔑した十臓。
人に拘る彼の姿は滑稽を通り越した哀れさすら感じた。
「失望した。お前は、人になぞ拘らなければ、俺の求める高みへと到達できる存在だったかもしれないが…………」
言いながら、十臓は刀を思い切り引き抜いた。と、同時に赤黒い液体が百鬼丸の腹部から噴出する。ドロッ、と血塊のようなモノまで溢れ、太腿のあたりまで零れ落ちた。
「…………ッ、グァアアアああああああああ!!!」
激痛に悶えながら百鬼丸は、膝から崩れ落ちた肉体はバラゴンの死骸上に折り重なる。
皮肉なことに、《無銘刀》の効力が切れたのだろう。次第に百鬼丸の体から黒い獣毛が消えはじめ、元の人間の姿に戻りつつあった。
思う存分に口から血を吐き出しながら、百鬼丸は、恨むような眼差しで十臓を睨みつける。
「いい目だ。だが、今更そんな目をしても無駄だ。今のお前では俺には勝てない」
客観的な事実を述べながら追い打ちをかけるように裸の背中を踏みつける。「グッ」と、激痛を堪える表情を、愉快そうに見下す十臓。
「ゴホッ、ぐほっ、うぅ……………」むせ返りながらも、百鬼丸は強い意志によって十臓の踏みつける足首を、背中に腕を回し掴む。
「ばーか、お前なんかに負けるかよッ」
挑発的な言葉で、笑う。
「―――――死に急ぐようだな」
無機質に十臓は刃を下に持ち替えて最後の一撃を加えようとした。
しかし、刃が肉を突き刺すことはなかった。
刃の付け根からガキッ、と金属同士の衝突する激しい音が響く。
巨大なドーム状となったクレーターの底には、バラゴンの死骸が大きく横たわり、その上に立つ十臓…………彼を目掛けて、一閃の斬撃が襲い掛かる。
「…………やはりお前か! 来てくれると信じていたぞ! 衛藤可奈美! お前でなければ真の斬り合いはできない! そうだろォ!」
赤い顔面が歓喜に打ち震えた声音で問いかける。
「―――――――百鬼丸さんは殺させないからッ!」
S装備に身を包んだ可奈美が《迅移》と装備による身体能力を飛躍的に向上させた状態で、十臓に斬り掛かった。
御刀――――《千鳥》は、邪悪な刀《裏正》を止める。
両者の目線は一直線にぶつかり、鞏固に結びつく。
「…………ッ、逃げろっ、げほっ、げほっ、可奈美、にげ――――グっ!」
息を喘がせながら叫ぶ百鬼丸の背中を更に力強く踏みつける十臓。
「黙れッ! お前にはもう用なぞない! 俺はこの世界でようやく真の理解者に出会ったんだ! そうだ、かかって来い、衛藤可奈美。お前の実力を俺に魅せてみろォ!」
多分、終わるの来年になりそーう。