刀使ト修羅   作:ひのきの棒

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第21話

 ――一体なにが血を滾らせているというのか?

 

 百鬼丸の肩周りは自身の肉体であるが、脚部は太腿からが義足である。この人口皮膚・筋肉には排熱器官がなく、そのため水冷式(つまり血液で冷却)する目的と、神経伝達の精度を上げるため毛細血管に神経を繋いでいる。

 このため、百鬼丸の脚部から溢れる血は常人のソレより高温である。

 しかし、血液中の鉄分もまた義手義足には多分に含まれており彼専用の鉄分による膠着を促すスプレーを吹きかけるだけで傷口は閉塞する。

 「……っ、イテテ」

 顔を顰めながら、百鬼丸はベルトに差したスプレー缶で肩と太腿に吹きかけた。

 傷口の辺りを手で触れると、硬質な膜に覆われていた。しばらくすると活性細胞の皮膚と同化してしまうだろう。

 

 《知性体》との戦闘の前には必ず準備を整えなければならない。

 

 両手を握り締めて開く運動を繰り返す。

 準備は万全のようだ。

 

 

 

 既に時間は夜を迎えていた。都合ここに丸一日も逗留していた計算になる。

 百鬼丸は研ぎ澄まされた感覚を駆使してソナーのように周囲を探った。深い山の中では一寸先は闇であり、命取りになりかねない。

 (近いな……)

 斜面を下りながら、思った。

 実際に山の斜面を下り終わると九十九折の道路に出た。

 外灯が僅かに点るほどで、延々と続くアスファルト舗道のみがあるだけだ。

 首を小さく動かして気配の方向をより精密に手繰り寄せる。

 ――いる、確実に近い!

 百鬼丸は背後を振り返った。

 

 「……アアアッ、ああああああ、ああああ、ミツケタ……新しい宿主……百鬼丸……ミツケタ」

 五〇メートル後方に居たのはスーツ姿の男性だった。一般的な三〇代のサラリーマン男性という印象しかない、何十にもねじ曲がった首を除けば。

 男は口から血泡を吹き出しており、白目を剥いている。黒縁のメガネは斜めにズレ落ちている。

 「あーあ、ご愁傷様だな。こりゃあ」

 時々発生する、《知性体》の人間との融合の失敗。

 その理由は様々であるが、単純に荒魂やノロを受け入れるキャパシティ不足などが挙げられる。一番いい肉体は刀使である少女であり、それ以外の年齢はたいして変わりない。

 もし、肉体が不一致だった場合《知性体》は次々と宿主を変えて生きながらえる。

 百鬼丸は一目で悟った。

 あの宿主の男は助からない。

 足も内股で歩行しているのだと勘違いしていたが、よくみると針金のようにグルグルと捻れていた。首と同様に……。

 あの肉体では限界が近い。

 

 「チッ、やるしかないか……」

 左腕を噛み――銀閃を煌めかせる。

 摩訶不思議な文字の刻まれた刀身は、外灯の光に震える。

 

 「ア、ア、ア、肉体……ほしいィ」

 剥き出しの歯茎には膿が溜まっている。恐らく何度も強く噛み締めた影響で歯が歯茎に埋まり、あるいは砕けた影響だろう。

 百鬼丸は目を瞑る。

 義手を地面に投げると、地面に落ちる寸前で飛び出して駆けた。

 五メートルほどの距離に詰めたとき、更に百鬼丸の背後に嫌な予感がして大きくバックステップを踏む。

 彼の予感は正しく、サラリーマンの《知性体》との間に「徐行」の標識で遮られた。

 突然現れた標識は無論、本来そこにあったものではない。誰かが投げたのだ。

 百鬼丸は振り返ると、もう一体《知性体》が居た。

 「あははは、二体同時とは……めんどくせ」

 もう一体の《知性体》は、力士や相撲取りのようにガッシリとした体格の男だった。現場作業に従事してきたような風貌でもあった。

 この男も、頭部の額半分がめくれあがり、脳みそが半分赤黒く見えていた。事故で瀕死の所を乗っ取られたのだろう。

 白のタンクトップから大粒の汗を流しながら、分厚い唇から、声がする。

 「お前、百鬼丸だな?」

 意外にも人間らしく会話できるようだ。

 「――ああ、そうだ。だからなんだ?」

 「お前に提案がある」

 「へぇ」

 意外だった。知性体とはこれまで戦いはしてきたが、このように提案をされるのは初めてだ。

 「なんだ、言ってみろ」

 肉だるまのようなデブ男はいう。

 「俺と共同であいつを殺そう」

 「は? つい今しがたおれを殺そうとした奴の言葉とは思えないな」

 デブ男は首を振り、

 「ちがう。最初に戦っていたのは俺の方だ。……まあいい。とにかく頼む」

 百鬼丸は怪訝に眉をひそめた。明らかに嘘だろう。それを信じるほどお人好しではない――

 「お前の目的はなんだ?」

 「……この肉体の持ち主の男の家族の元に一度帰る」

 「はぁ? バカかお前。もうそんな状態で帰って……ああそうか。家族を今度の寄生先にする気だな」

 目を細めて百鬼丸は中腰になる。さっさと片付けるのはこのデブの方だった。そう思い直した。

 だがデブ男は慌てて首を振り、

 「ちがう。この肉体の宿主の子供が今日……誕生日なんだ。それに遅れたくない。本当はこの男は三日前に死ぬ寸前だったが、俺と結合して一命をとりとめている」

 「よくも言えたな、クズ野郎。おれの体を奪っておいて今更善人面かよ?」

 と、唐突に質量のある風が頬を掠める錯覚がした。否、錯覚などではなく実際に先程の「徐行」の標識が投げ飛ばされたのだ!

 避けろ、という暇もなくデブ男は真横に倒れるようにして避けた。

 「ア……ア、ア、あ体くれふぃ」

 最早言葉ですらない。

 百鬼丸は目を眇め、つま先に力を込めると一気に弾丸の如くサラリーマンの《知性体》の首を切り落とした。ゴロン、とボーリングの玉が地面に転がるような音がした。

 すれ違いざまに百鬼丸は《知性体》の首を刎ねたのだ。

 「まだだ、心臓を貫け!」

 デブ男が叫ぶ。

 「チッ、言われなくても……!」

 歯を食いしばり、踵を返してトドメの一撃を左腕にこめて叩き込む。

 白いワイシャツに真っ赤なシミが徐々に広がりをみせて百鬼丸の左腕を生暖かい温度が満たす。

 

 ――と、その瞬間。

 百鬼丸の脳裏に、刺し貫いたサラリーマン男の記憶が一気に流れ込んだ。走馬灯のように誕生から入学、卒業、入社……嬉しかった事、辛かった事、怒った事、驚いた事、家族、友人、恋人。

 それらの顔が一々、サラリーマン男の感情と共に実感された。

 

 

 そして、最後に映る映像には《百鬼丸》自身によって、自らの生命を終わらせる映像だった。

 百鬼丸は思わず、

 「あああああああああああああああああああああああああああああああっ!」

 吐き出すように絶叫する。

 

 時間にすればわずか三秒もなかっただろう。

 しかし、百鬼丸は久々に味わう胸糞悪い感覚に犯されていた。精神が音もなく底の方から崩れていく感じがしていた。

 止めどなく溢れる罪悪感に、今すぐにでも首を吊りたいとすら思えた。

 左腕は勢いをつけて引き抜く。

 胸に穿たれた細長い刀傷から鮮血が空中に吹き出し、百鬼丸の頬を濡らす。

 どさり、と地面に崩れ落ちた男は穏やかな顔だった。

 「くそっ……」

 右手を握り締める。喪失感というか、絶望感が体全体に満ちてくる感じがした。

 そして、予定通り、遺体は灰となって山谷の風に流された。

 

 「百鬼丸くん、だったね……頼む、俺を見逃してくれ」

 デブの男は声をかけた。

 いつのまにか頭にタオルを巻いて怪我を誤魔化していた。

 渇いた喉に生唾を飲み込んだ百鬼丸は、

 「……お前はなんで他の知性体と違うんだ?」

 縋るように百鬼丸は相手に語りかけていた。普段では絶対にありえない態度だった。

 デブ男は困ったように、

 「俺もさっきの《知性体》みたいに渡り鳥だったが――だんだん人間社会に馴染むにつれて、俺も人間を理解してきたつもりだ。記憶も体験も宿主と共有するから当たり前だよな。……けどよ、ハッキリいうが、《知性》なんて持たない方がよかったと後悔している。俺が宿主を蝕む度に悔やむのも一個の人格を有したからだ。――なぁ、百鬼丸。俺の望みである、この男の家族に出会わせてくれれば、あとはお前に肉体を返す。それでどうだ? 頼む」

 デブの男は土下座をした。作業ズボンからでっぷりとはみ出したぜい肉には、既に死者の肌色を覗かせながら……。

 彼を一瞥しながら百鬼丸は、

 「もしそれが嘘だったとしても、今のおれは判断がつかない。だから、おれの前から消えるんだったら、はやく消えろ――そして、もう一度姿を見せたときはお前を殺す」

 血のついた左腕を掲げる。

 威嚇のつもりだった。

 だが、デブ男は顔を上げて柔和な笑みを浮かべた。

 「ありがとう……ありがとうよ……なぁ、必ず約束だ!」

 彼はそう言いながら、遠い街の方角に続く夜闇の道路を走り出した…………だが、それが完遂されることはなかった。

 

 バァン、と炸裂音が響いた。

 

 一歩、二歩、足を踏み出したデブ男はその場で崩れ去った。

 「えっ?」

 百鬼丸は呆気にとられ、暫く動けずにいた。

 

 

 「あぁ~、残念残念。デブの豚ちゃんには、鉛玉を頭に命中させるつもりだったけど、散弾銃では、まともに遠距離からは当たらないよなぁ」

 陽気な声をあげながら、声の主は百鬼丸が来た道の斜面から下ってきた。

 白銀の髪を後ろに束ねた男。

 「てめぇ……」

 その姿を百鬼丸は知っている! 義父の死ぬ間際に一度姿を現した男であり、二度と見間違える筈のない姿だった!

 「ジョー!てめぇ、殺してやるッッ!」

 百鬼丸は《無銘刀》を眼前に翳して、迅移を発動させる。

 超人的な加速と共に、周囲の景色が溶け出してゆく感覚。

 (いける!)

 確信をした百鬼丸。――が。

 「おっと、すまないねぇ」

 ジョーが意地悪くほくそ笑む。

 なんと、百鬼丸の繰り出した刃は別の刃、即ちギザギザの太刀に遮られた。

 「よォ、てめぇが百鬼丸か?」

 男の声は低く、しかしある種の意思の強さを秘めた響きをしていた。

 目元の布切れの間からみえる三白眼が、激しく誰何する。

 「だれだ、お前」百鬼丸は半ば混乱しながら訊ねる。

 男は赤いマフラーを靡かせながら口元を歪める。

 「俺? 俺はステイン……ヒーロー殺しのステインだッ!!」

 剥き出しの歯から快活に応える。

 

 「まぁ、まぁ、ステインくん。今日は殺しちゃだめだよ。挨拶に来たんだから……ああ、それにあの裏切りモノの《知性体》の回収もしなきゃなぁ」

 ステインの背後に控えたジョーは嬉しそうに語る。同胞の《知性体》にすら容赦のない物言い。

 ジョーは散弾銃を右手にソフト帽を左指先でつまみながら鼻歌を歌う。

 デブ男の倒れた場所までやってくると、彼の首根っこを掴んで元来た道を戻る。

 老いているが整った顔立ちのジョーは不気味にすら思えた。

 「さ、ステインくん。ここらでオサラバしよう」

 退却らしい。だが、

 「フン、貴様ひとりで帰れ。俺は久々の好敵手に会えて血が騒いでいるんだ……」

 長いベロを口からはみ出しながら、嗤う。

 ホウキを逆立てたような髪がそよぐ。

 ふぅ、とステインの背中から溜息が漏れる。

 「――この先再戦の機会はいくらでもある。ホレ、撤退だよ」

 ギリギリの鍔迫り合いを演じていた百鬼丸とステイン。

 

 不意に百鬼丸は、ステインとジョー以外の誰かに見られている気がした。その視線の先を辿ると、デブ男がうつ伏せの状態から僅かに顎を持ち上げ、百鬼丸を眺めていた。

 (あいつ、生きてたのか……)

 てっきり心臓を狙い撃ちされたのかと思った。心臓を撃たれれば、少なくとも、人間という脆い容器は動かなくなる。頭部も同様である。よって、《知性体》の活動は停止する――

 「オイ、てめぇどこをキョロキョロしてんだッ!」

 唐突に左から強烈な痛みが入り視界が揺れた。ステインの殴打により、百鬼丸は大きく転がり、ガードレールに体を叩きつけた。

 「がはっ」

 血反吐を周囲に撒き散らした。

 ――しまった、敵を前に油断した

 どんな達人でも熟練者でも、油断という魔の手からは逃れられない。そして、油断は生と死の境界線にいつも潜んで手ぐすねをして待っている。こんな当たり前のことを忘れてしまっていた。深く、深く後悔した。

  背中をガードレールに任せながら、朦朧とした頭で何かを思考する。が、無意味であった。

 「おい、もうコイツを殺していいか?」

 ステインはつまらなそうにジョーに訊ねる。

 そのジョーは困ったような声音で、

 「うーん、もう少しまってくれると助かるけどなぁ。彼は役立つからね」

 ロクでもない会話をしていた。

 (おれって、ここで死ぬのかな……?)

 額が切れていたらしく、義眼の視界を血濡れが満たす。

 呼吸を整える。……死ぬなら死ぬでもいい。

 (可奈美にも姫和にも挨拶くらいしとけばよかったかな……)

 口を苦く曲げて、小さく肩をすくめる。

 

 と、その時だった。

 

 「うぉおおおおおおおおお」

 男の雄叫びがした。

 

 呆気にとられた百鬼丸が霞む視界を必死に絞ると、ジョーに首根っこを掴まれていたデブ男が一瞬の隙をつてジョーの手から逃れ、さらにステインの脇を抜けると百鬼丸の元まで駈けてきたのである。

 「ひゃ……き……まる……くん」

 脳漿を染み付かせたタオル頭から、途切れ途切れの声が聞こえる。

 「――キミに、返すよ」

 すでに瞳孔がひらき、青白い肌のデブ男は、太い両腕から百鬼丸の右腕を握ると……そのまま己の胸に刃を突き立てた。

 深く喰いこんだ刃は、確実に心臓を貫いていた。

 「え……」

 百鬼丸は急な出来事に理解が追いつかない。

 他人の走馬灯が駆け巡る。――否、これはデブ男だった人間本来の記憶だ! 

 

 そして百鬼丸は知った。

 このデブ男は、車の転落事故により瀕死となっていた。天城峠で彷徨っていた《知性体》に最期の希望を託し、己の肉体を捧げたのだ。

 自らの子供との約束を守るために。

 (――嘘じゃなかったのか)

 目前で粉状に溶け始めたデブ男の表情は、穏やかだった。

 「……すまない、助かる」

 それだけを伝えた。

 

 

 俯く百鬼丸。――自身のこれまでしてきた事が、奔流のように罪悪感が充溢する。

 なぜ、いつもこうなのだろう。

 一度として《知性体》と簡単に殺し合いを終わらせたことはない。

 おればかりどうして、こんな辛い目にあわないといけないのだろうか? 昔から自問自答してきた。だが答えなんて出るはずがない。

 いつも潰れそうな気持ちを落ち着かせるので精一杯だった。

 

 「あははは、面白いものがみれたね。――どうだいステインくん。ワザとやったらこんな茶番がみれたよ」

 ジョーは拍手しながら上機嫌だった。

 しかし、ステインは興が削がれたように舌打ちをする。

 「うるせぇ、帰るぞ」

 踵を返して冷ややかな視線を百鬼丸に向けながら、歩き出した。そのあとに続いてジョーも歩みだす。

 最後の去り際ジョーが、

 「キミにはまだ利用価値がある。ではさらばだ、我が救世主くん」

 と言い残した。

 

 強い無力感に苛まれた百鬼丸にはどんな言葉も届かない。

 二人が去って暫くしたあと、百鬼丸の肉体に異変が起こった。まず、鼻、そして左目。まるで神経を灼かれるような強烈な激痛、そして激痛。

 

 「ぐぁああああああああああああああああああああああああ」

 鼻の部分は皮膚がプツプツ、お湯のように沸騰しながら鼻骨から全てを形成してゆく。同時に左目の義眼が地面にぼとっ、と転がり脳みそが引きずり出されそうな痛みと共に、眼球も形を成し始めた。

 痛みにのたうち回りながら、内心ではどこか安堵している気がしていた。

 今現在の精神的苦痛から逃げるには肉体の苦痛による誤魔化しが一番である。それは経験で知っている。

 だから今だけは思い切り悲鳴を上げる。いついかなる時も弱音も、悲鳴もあげない百鬼丸はこの時ばかりは十四歳の少年らしく泣き喚いた。

 

 2

 山々は朝を迎えた。眩さに目が自然と覚める。

 百鬼丸は左頬に当たる光に懐かしさを感じていた。目を開くと、朝日が山と山の間から昇っていた。

 蜜色の照は山容を優しく包んでいた。

 「これが、本物の目か……」

 百鬼丸は自らの肉眼で風景を捉えていた。初めてみる世界はどこまでも美しく、澄んでいた。

 「あれ?」

 自然と左頬を濡らす感覚がして、右指で触ってみる。

 〝涙〟だった。

 義眼では作用することのなかった涙腺は、本来の眼球を取り戻したことにより、涙までも取り戻したのだった。

 「おれは泣けるんだな……」

 なんでもないことだが、百鬼丸は己が人間であるという実感に打ち震えていた。

 昨夜の出来事を反芻しながら、なんとか気持ちの整理をつけると立ち上がった。

 「行かないとな」

 ばんばん、と両頬を叩き自分を鼓舞する。

 ズボンについた土埃を払いながら歩き出すと自然と歩行速度があがった。

 

 

これまでに回収した肉体の部位、およそ十三箇所。残り、三十五箇所。

 

 3

  五十九号線の車道の道半ば。

 「百鬼丸さん!?」

 聴き馴染みのある、懐かしい声。

 九十九折の山道を歩いてゆくと、前方から三つの影がみえた。それは紛れもなく見慣れた連中だった。

 「可奈美か……」

 やつれきった表情に微笑みを浮かべ、百鬼丸は手を振る。

 「どうしたの?」

 固着した頬の血などを眺めながら驚きの声を上げる。

 「気にするな……あ、チビ」

 ふと、姫和の隣りにいる薫に視線を投げる。

 「おい、誰がチビだオイ!」

 しかし、出会った時に一緒だったエレンの姿が無い。

 「あの……でかい胸の奴は?」

 すると薫は不機嫌そうに、

 「あ? エレンならいない。それよりお前も石崎郎にいくぞ」

 無表情に言い捨てた。

 どういうことか、という目線を可奈美にやると、可奈美は困ったように眉を曲げた。

 桃色のツインテールを振り返りもせず、

 「多分、敵の本拠地にいるだろうな」という薫。

 しかし、そう言いながら助けにいく素振りもなく石崎郎まで残り六キロの道のりをゆこうとしていた。

 一方、

 「ねね~!!」

 可奈美の右手に尻尾を絡ませエレンのいる方角へ誘導しようとするねね。

 「おい、ねねやめろ。はやく合流地点に向かうんだ」

 静かにねねを叱りつける。

 まるで、現状の理解ができない……肩をすくめる。

 「どういうことだ、姫和?」

 それまで黙っていた姫和が口を開く。恐らく事の推移を見計らっていたのだろう。

 「つい今しがたまで私達は敵と斬り合っていた……」

 

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