刀使ト修羅   作:ひのきの棒

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たぶん、8月中に拙作終わります。


第217話

 「あと何時間くらいで着くんすかね?」

 百鬼丸は左腕の義手と内部に収納されたφ(ファイ)の太いワイヤーロープを確かめながら、運転席の大関に聞く。小脇に抱えた《無銘刀》を一瞥し、軽く嘆息する。

 車窓は冬の灰色をした分厚い雲が延々と続いている。時折、小雨がフロントガラスに付着した。

エンジンの心地よい振動がシート越しに伝わる。しかし、少年は今、旅の気分を味わい楽しむだけの心の余裕はない。

 二台の車両は北関東から首都圏中央連絡自動車道を走行している。

 「あと、一時間半くらいだ。それより、高速道路の検問をあっさり通過できたのも、いよいよマズい状況だな」

 そう言いながら、予め手配しておいた「刀剣類管理局」が公認した通行許可証を左指に挟んでペラペラと振った。

 都心や関東から逃げる際の下り道は通常通り使用されているものの(渋滞は著しい)、災害の現地である上り道は封鎖されている筈であった。

 「……今は一人でも多くの刀使が欲しいんだと思う」

 濃紺のポンチョを身に纏った沙耶香は、伏目気味に予想を口にする。

 荒唐無稽な想像であろうか? ……否。

 ――事実、現在の自衛隊およびSTTなどが東京で氾濫する荒魂たちの群れの対処におわれている。しかし荒魂たちに重火器は有効打になりえない。かつ、荒魂たちを祓うことの出来る刀使の絶対数は不足している。

 

 刀使を乗せて車両、かつ証明書がある場合は上り道を開放するよう通達されているのだろう。

「それにしても、百鬼丸くんの逃亡を助けたはずのオレ(大関)と沙耶香ちゃんの顔を見ても、不審に思われなかったが……少し意外だな」大関は、首を捻りながら言った。

「……多分、捜索するように手配されていたのは黒い獣の時の百鬼丸だけ。それに、あの時、TVカメラで撮影されていたのも百鬼丸だけだった」

 

 確証がある訳ではないが、遠くから撮影されたカメラで、当時の惨劇をとらえる事ができた機器は少ない。しかも、遠くからの撮影となれば解像度が低く、かつ、破壊と瓦礫の中から、バイザーを装着した沙耶香と、作業員の恰好をした大関を判別できるほど、余裕はなかった――と、楽観的に考える事にした。

 

 既に、逃亡劇から世界の終末へと幕は変わっていたのだ。

 

 「服部パイセン、加速装置の微調整頼んで悪いね」

 倒した座席シートに伸ばした片足の加速装置を、美濃関学院の高等部に通う服部達夫は、苦々しい表情をしながらも黙々と工具を手に大腿部のシャフトに当たる部分を整備している。

「ったく、本当に人使いが荒いよな」

 達夫は不満げに鼻を鳴らして、文句をいう。

「へへっ、まま、そーゆーなよ。……コイツの整備を今頼めるのもパイセンしかいねーんだわ」

 百鬼丸は真剣みを帯びた口調で、目線を下に落としながら言う。

 本来であれば、リボルバー方式の加速装置に改造した張本人であるジョーに任せればいいのかもしれない。最近、彼が百鬼丸に話しかける回数が少なくなっていた。

 理由は分からない。だが、整備方法だけならば百鬼丸も覚えてはいる。

 方法さえ頭にあれば、あとは手先の器用な人間に任せるのが一番――という、なんとも他力本願極まる考えから、達夫はコキ使われていた。

 

 どこか翳りのある百鬼丸の横顔を眺めた達夫は、「へっ」と小さく笑った。

「刀使にしか祓えないはずの荒魂を、お前は何とかできるんだよな?」念押しするように訊ねた。

「――ああ、できる」断固とした意志で短く返事した。

 まいったね、と呟きながら達夫は首を左右に振る。

「なら分かった。お前が万全に動けるように、なんとかする。正直、俺たちも戦えるだけの力が欲しい……そう思ってたんだ。ま、普通は無理だよな。でもお前は――」

「「――普通じゃない」」

 百鬼丸と達夫の声は同時に揃った。

 一瞬、呆気にとられた二人は、視線を合わせて「はははは」と爆笑した。

「それに、これは俺の持論なんだが……道具を触ると持ち主がどんな奴か分かるんだ」

「へぇ、おれはどんな奴ですか?」

「そーだな。相当無茶な使い方をしてるから、加速装置もボロボロなんだよ。でも、それだけ戦ってきたったんだよな。しかも激戦だ。当たり前の事だけど、分かる。…………世界の命運とか、正直よく分からねぇけど、お前に頑張って貰わないと前線の刀使も危なくなるんだろ?」

「視界にいる敵は全部ブチのめしますけどね」

「ったく、なんつー自信過剰な奴なんだよ、お前」

「へへ、サーセン」

「……でも、あの巨体と威圧感のある化け物たちを前にしても、多分お前ならそんな風にヘラヘラしてるんだよな。なぁ、百鬼丸」

「はい?」

「刀使も、他の人たちの事も頼む。守ってくれ」

達夫は静かな口調で告げる。

彼の本意が最後の一言に込められている様だった。

「――――うっす」

百鬼丸は、口元を微かに綻ばせて応じた。

 

 

 

 Ⅰ

 夢なら醒めて欲しい。

 こんなに心が苦しいなら、記憶なんて消えてしまえばいい。

 「あの時」姫和ちゃんを助けられなかった――伸ばした筈の手は届かなくて。

 姫和ちゃんに突き飛ばされた瞬間、口を動かしていた。

 『逃げろ』

 目の前で、親友(たいせつなひと)が奪われた。

 

 

 ……どうして、もっと上手くやれなかったんだろう。もっと、他にやり方があったのかもしれない。

 姫和ちゃんが無理をするなんて事は、はじめから分かってたハズなのに。

 私は結局なんにもしてあげられなかった。

 

 

 ◇

 

 

 熊型荒魂の巨体が地面に倒れ伏している。その背中に佇む孤独な人影……華奢な少女は、今にも雨の降りそうな薄暗い空をひとり見上げる。

「私、全然だめだよね……」

 可奈美は張り裂けそうな胸の内を、小さな呟きに代えて弱さを漏らす。

 ピュン、と《千鳥》の刀身を軽く振って付着した荒魂から噴出したノロを振り払う。頬に付いた塵灰の汚れを手の甲で拭い、下唇を悔しさで噛みしめる。

 東京の街に溢れる荒魂の討伐を行う可奈美は、すでに今日一日で討伐数が十数体を数えていた。しかも単独での討伐数であり――明らかに過重労働(オーバーワーク)だった。

 心身共に疲労している筈の可奈美だが、そんな素振りは見せずにひたすらに、任務を遂行する。

 目の前の荒魂を斬って斬って――斬り続ける。まるで、没頭するように。

 (痛いよっ……)

 可奈美は胸元を強く握り締めて俯く。

 気を抜けば涙が零れそうになる。

 だけど、そんなことは出来ない。いま、私が弱音を吐けばきっと、皆が不安になる。

 

 時間が経過すれば悲しみは消えると思ってた。

 でも、違った。

 失った人を追憶すればするほど、二度と戻らない時間が、愛おしくて何物にも代えがたいんだと深く心に刻まれてしまう。

 

 「ずっと、ずっと辛いなら寄り添って……守ってあげるって約束したのに」

 それなのに、何もしてあげられなかった。

 

 今の私は、空っぽだ。

 

 




なぜ、邦画のサブタイトルはクソダサなのだろうか?
「夏への扉」という屈指の名作SFのサブタイトルが「君のいる未来へ」とかいうスタンドバイミードラえもんの「ドラな泣き」に通じるダサさを醸し出させるのだろう。

別に普通に「夏への扉」でいいよね?
なんでさ、冗談みたいな発想でサブタイトルつけるんですかね?
邦画の悪いとことは、サブタイトルのダサさとポスターのごちゃごちゃしてる駄目さ加減だと思う。
なんで一から十まで説明するんだろう。
海外映画も日本版ではことごとく、煽り文句がダサいし。誰か「クソダサのタイトルつける部署」とかあるのか?
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