刀使ト修羅   作:ひのきの棒

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第220話

東京大手町『丸の内』メインストリート。高層ビルに挟まれる形で存在する道路は、駅伝のスタート地点として知られており、平時であれば人々の喧騒に包まれた場所であった……。

 二〇一八年、十二月二十四日。

 東京駅から大手町のオフィス街までの道に人気は無い。

その代わりに現在、工事の仮囲い用アルミニウム製バリケードフェンスと、舗道側に土嚢が積まれていた。……奇しくも、都内には226事件以来の封鎖体勢が敷かれていた。

すでに戦場と化した街に、自衛隊の7トントラック(全長約9メートル、重量約11トン)が数十台停車している。

さらに、荒魂との実戦経験が豊富なSTTの増援部隊も混ざって、混成部隊を形成していた。指揮系統は自衛隊員側が持つことで、命令の統一化も図った。

非常時である、とこの場に居る誰しもが思った。

 

冷たい冬の風が吹き抜ける……。

整然と並ぶ街路樹の枝と、中央分離帯に植えられた木は微かにそよぐ。

灰色の分厚い雲が時々、閃光と共に節の太い音を轟かせる。

発砲許可の出た自衛隊は、初めて交戦機会を得た。それは本来の「人間」にではなく、異形の怪物「荒魂」に対して。

 

 

 

 

 

そんな自衛隊の周囲を、大きな蠅のように耳障りな羽音に似たモーターの駆動が聞こえる。四カ所のプロペラが回転しながら、ドローンは本体の下部に装着された高性能カメラで街の様子を撮影していた。

幽霊街(ゴーストタウン)と化した周囲を、丹念に舐めるようにドローンが俯瞰した視点から撮影してゆく。

厳戒態勢の中、報道ヘリの飛行も不可能であり、地上での取材活動も制約された情勢で唯一、譲歩した取材活動が『ドローン撮影』であった。

次々に映し出される物々しい映像は、ドローンカメラを通して日本各地に配信された。

自衛隊は哨戒活動に専念しながら、彼らの硬い表情が映し出される。

現状の東京は最早、人々の知るイメージから乖離していた。

 

 

平城学館の緑を基調とした制服を身に纏う刀使の姿も数人確認された。

その内の一人、岩倉早苗も一瞬だけドローンカメラに映り込んだ。

 

御刀(千手院力王)の柄に手をかけながら、常に視線を配り警戒する早苗は、心臓の高鳴りを自覚しながら、極めて冷静になろうと呼気を整える。

圧倒的に刀使が不足している現状――自衛隊・STTと共同して荒魂を撃破しなければいけない。となれば、通常兵器による荒魂の拘束と、刀使の斬り込みによる制圧。これが最善である。しかし、一歩間違えば刀使に被害が及ぶか、あるいは制圧に失敗して自衛隊に被害が及ぶか。

にわか仕込みの連携で、果たしてどこまで対処できるだろうか?

普段はおっとりした雰囲気を纏う、ふんわりボブカットの少女は珍しく険しい表情をしていた。

ポン、と不意に早苗の肩に手が置かれた。

「そんなに深刻そうにならなくても、お嬢ちゃんたちは責任を感じなくていいからな」

 STT隊員の一人が声をかけた。年頃からしてベテランだろうか? 優しそうに微笑みかけていた。

 強張っていた顔が一気に緩み、精神的に少しだけ余裕が出来た気がした。

 「あ、あの……はい。ありがとうございます。でも、私たちは大丈夫です。たとえ命に代えても使命を――」

 「いいや。そんな物騒な事をお嬢ちゃんたちは言うなよ。アンタたちを助けるのが俺たちだ……って、俺の知り合いなら言ったんだろうな」

 その隊員は、どこか物悲しそうにその知り合いを思い出していた。

 「――その方は、」

 早苗は聞くべきではない、と思いながらも、気が付くと聞いていた。

 「ああ、ソイツな。死んだよ。ついこの前の渋谷巨獣事件で……な。田村っていうんだ。人一倍正義感だけ強い馬鹿だった。――でも、俺はアイツと親友で、今でも悔やんでるよ。アイツが死ぬならもっと、色んな馬鹿話しとけばよかった。悔やんだ。お嬢ちゃんにもそんな思いして欲しくないんだ」

 早苗は、胸を鋭い錐で突かれた錯覚がした。

 (私と同じだ。)

 思わず唇を噛みしめて、早苗は俯く。

「……私にも、友達が居ました。その娘も、すごく頑張り屋さんで優しい娘だったんです。普段は不器用で人付き合いが苦手な人だったんですけど……凄く綺麗な子で、チョコミント味の好きな変な子なんです」

 十条姫和が死亡した、と知らされたのは平城の五條いろは学長からだった。

『落ち着いて聞いて欲しいんやけど、姫和ちゃんがタギツヒメに――』

 鮮明に今でも耳の奥に甦るいろはの言葉。

 特に平城で数少ない友人の早苗には、いち早く知らされた。

 刀使という仕事に就いた以上、死ぬことは珍しいが全く無い訳ではない。誰しも、荒魂と対峙する時は覚悟を決める。

 ……だが。

 いくら覚悟を決めても、実際に大切な人を失うことまで慣れるワケではない。

「……私にも、分かります。だから尚更私たちがここで荒魂を喰いとめないと駄目ですよね?」

 硬さの抜けない笑顔で、顔を上げて早苗はSTTの隊員にいう。

 まだ幼さの抜けないと思っていた少女にも、どこか悲しさを漂わせた言葉が、悲しみと追憶を滲ませていた。

「ああ、そうだな。まだ民間人が逃げきれてない。お嬢ちゃんたちは必ずヤツラを潰してくれ。俺たちがアンタらのサポートを全力でやる」

 強い語尾で、隊員は早苗に安心させようと言った。

「……はい。必ず皆さんを守ります」

 早苗も、強く首肯した。二度と失いたくない。――だから最善を尽くそう。早苗は己の使命に賭けて誰も死なせないように、固い決意で御刀に誓う。

 

 

「やっぱり、荒魂の気配が尋常じゃねぇほど増えてるな」

 百鬼丸はジャケットに付着したゴミを手で払い、車の後部座席シートに背中を預けて、ボヤく。

「そんな事まで分かるのか?」

 隣に座る達夫が目を丸くして聞いた。

「まぁ、一応は……。本当に厄介な存在になりつつありますよ、タギツヒメは。今も隠世とこの世界を繋げようとしてるでしょ?」

と、百鬼丸は言いながら車窓の外に拡がる上空の違和感を指さした。

 灰色の雲の裏から顕現した黒と溶鉱炉の焔をイメージさせる光の交錯した、幾何学的な模様が空を浸蝕していた。

 「ああ、正直怖いよ。マジで世界が終わるって……実感できるよ」

 達夫は硬い表情で頷く。

 

「……大丈夫。百鬼丸が居るから」

 助手席から声がきた。

 色素の薄い髪の少女がバックミラー越しに目線を向けて、期待の籠った眼差しで見つめている。

 達夫はニヤッと笑い、隣の少年を肘で突きながら、

「だってよ。信頼されてるな」

 茶化した口調で笑いかける。

「――――そうっすね。できるだけはヤリますよ。……こんなクソたれな世界でも、助けたい人まで見殺しにしたくないんで」

 小脇に抱えた刀を掴み、前を見据える。

(おれは、もう逃げたくない――――。こんなクソな世界でも、可奈美たちが生きている世界だから……何とかしなきゃ駄目だろ)

 内心で、自らに言い聞かせるように語りかえる。

 

 

 

『ねぇ、百鬼丸。アンタにとって刀使ってどんな存在なの?』

 

 可奈美の夢の中、かつて〝藤原美奈都〟に、そう問われた。

 えっ、と思わず百鬼丸は返事に困った。

――おれにとって、刀使は常に守る対象だ。

少年は平素からそう答えてきた。しかし、そんな返事に美奈都は満足せず、

『だったらさ、なんで守らなきゃいけないの? 正直、アンタは強いよ? でもさ、だから何なの? って話でしょ? 常にアンタみたいに強い人に助けられ続けるほど、刀使は弱いって思ってるの?』不満げに鼻を鳴らす。

――ち、違う。そんなんじゃ……ない。

『どうだか。己の力を過信して、結局は刀使の事を理解しようとしてないでしょ? それが剣技にも表れてんの。……乱暴で、稚拙で、そのくせ力だけは強い。剣を重ねるとね、その人の心が解るの。ずっとそんな戦い方してきたんでしょ?』

――……それが、自然に身に付いたモンだから仕方ないだろ。

『そうかもね。でもね、いい? 可奈美とも剣について学んでいるなら話は別。いい? これは一人の人間としての忠告。なんでも自分一人で決めつけて行動しないこと。それで痛い目に遭うって、言わなくても解るでしょ?』

――――ああ、そうかい。善処するよ。

 『約束してよ? あ、そうそう。可奈美にヘンな事しないでよ?』

 ――ヘン? ってなんだよ?

 

 『そりゃ、アレよ、アレ』

 ――あれ?

 

 『だからその……ああ、もういい! とにかく、可奈美は可愛いからヘンな気を起こさないでってこと? 分かった?』

 強く念押しをするように人差し指を向けた。

 ――はぁ

 と、気の抜けた返事をした。

 

 

 

 (いや、だからヘンな事ってなんだよ……)

 百鬼丸は未だに、あの時の狼狽した美奈都の姿を思い返しながら、疑問に首を傾げる。

……結局何だったんだ?

そんな事を考えながら頬杖をつき、ボーッと車窓を眺めている。

片目の義眼が遥か遠くにいる女神を睨むようにキツく眇め、己の中に横溢する闘気の昂りを抑え込む。

……異形の少年は空の一隅を見据える。

高い鼻梁に幾筋か垂れた髪の毛は白黒に落ち、後ろ髪を乱暴に束ねたリボンは――以前、可奈美から「人」として生きる道標として手渡されたモノだった。

彼女が渋谷での騒動渦中、右手首に結んだ時に「人であること」を諭しながら固く結んでくれた。

いま、自らの出自を思い出した百鬼丸は、「人」か「化け物」か……その二項ではなく、己のなすべき〝使命〟にのみ忠実に戦おう――そう内心で誓った。

かつて、己を鼓舞してくれた少女たちの為に。

 

 

――――玉座は既に定まり、女神は現世の崩壊する様を想像しながら愉悦の笑みを零す。

 高層ビルの屋上ヘリポートに設えられた簡易の御簾と玉座で、上空に、今にも落ちかかりそうな隠世の輪郭を眺め、妖しい唇が俄かに歪む。

「あぁ、この時を待っていたぞ……」

 玉座で足を組み、右手を伸ばして隠世を掴もうとする。

 もうすぐで人間たちを滅ぼすことが出来る。――忌々しい動物たちが跋扈するこの世界は速やかに滅ばせねばならぬ。――理由などない。ただ、自らの感情に従い、タギツヒメは美しい童女のような容姿で、燃え盛るような橙色の瞳を空の一点に向ける。

薄く発光するタギツヒメは、ひとりの少年に想いを馳せる。

荒魂でも人間でもない――まさに歪と形容するより他にない存在。

ある意味では、偶然の産物であった。

それが、よもやタギツヒメを一時的に追い詰める相手になるとは思わなかった。だが、それも今日で終わり。煩わしい刀使も始末した。

……だが。

どこか満たされない。

タギツヒメは、首を微かに傾げて目前に整列する綾小路の刀使を中心とした人間たちを睥睨する。……彼女たちは単なる駒に過ぎない。

「ふん、キサマたちもいずれは使い捨ててやる」

垂れた前髪の隙間から覗く瞳には、孤独の影が宿っていた。

 

 

 

 

 Ⅲ

 

 「うぅ~ん、どれにしようか迷うなぁ……」

 衛藤可奈美は、目前に山のように盛られたお菓子を眺めながら小さく唸る。親友である舞衣の手作りドーナツやクッキーなどが甘い香りを漂わせながら、大皿の上で見栄えよく並べられていた。

 

十二月二十三日。

錬府女学院の刀使専用寮の――益子薫の部屋には、部屋主以外にも可奈美、舞衣、エレンが集まっていた。

明日の作戦に備え与えられた、ささやかな休暇であった。

外出も規制されている現在、舞衣の発案でお菓子を皆で食べるのはどうか? と、提案した。

 ……その提案はすぐに採用され、こうして薫の部屋に集合した。

 プロにも比肩する舞衣の手作りお菓子は、激闘の続く任務の中でも数少ない癒しと愉しみであった。

「あ、でもあんまり食べ過ぎて明日の任務に影響でないかな?」

 亜麻色の髪を左右に揺らしながら、顎に手を当てる。

「心配するな、そん時はオレが代わりに任務に出てやるから」

 ベッドの縁に腰かけた薫は、床に足元が接触せずブラブラと両足と宙に浮かせながら言った。

 「「―――――。」」

 舞衣とエレンは大きく目を瞠って意外そうに薫の方をみた。

 普段、あれだけ任務を面倒がって文句を並べ、隙があれば休もうとする彼女には余りに似つかわしくない一言だった。

 「――って、何だよ!?」

 心外そうに薫は声をあげた。

 「薫が自分から任務に出るなんて言うカラ、体が驚いちゃいマシタ」エレンが、澄んだ青色の瞳を瞬かせながら親友をマジマジと凝視する。

 「……おい、それはどういう意味だよコラ。喧嘩売ってんのか?」

 腕まくりをする仕草を見せて、額に青筋を浮かべる薫。

 そんな長船の凹凸コンビを横目に、可奈美は「あははは」と不自然なほど作り笑いを浮かべて微笑む。

 それから視線を皿に戻した可奈美は、

 「あ、このドーナツ美味しそう。いただきまーす」

 寒々しいほどの元気な調子で手を伸ばして、一つ手に取ると口に運ぶ。

 もにゅ、もにゅ、と頬を膨らませてドーナツを咀嚼し、小さく「うん」と感嘆する。

 「あっ、これチョコミント味? 結構おいしいかも。そっか、こんなに美味しいなら姫和ちゃんがこだわったのも解るかも!」

可奈美の何気ない一言に、その場の全員が深い溜息をつく。

「――なぁ、可奈美。お前、本気でオレたちが気付いてないと思ってるのか?」

「えっ、あ……実はコッチのお菓子を食べて美味しいなってバレちゃったかな? あはは~」

「……もう止めようよ」諭すように舞衣が言い添える。

「カナミンが辛いのも、私たち知ってマズ」

エレンが沈んだ調子で付け加えた。

そんな二人を交互に見比べた可奈美は、困ったように苦笑いを浮かべながら「どういうこと?」と、とぼけた。

「はぁー」と、深い溜息を吐いた薫が目を細める。

「笑いたくないなら笑うな!」

 強い口調で詰める薫の表情は真剣そのもので、普段のズボラな彼女ではなかった。

 そんな調子の強い反応に驚いた可奈美は、スッと顔から作り笑いを消して琥珀色の瞳を驚愕に瞠る。――そして、暗い顔で口を開く。

 「……私、姫和ちゃんに言った。大切なもの半分持つって言った――なのに、肝心な時に私の手が届かなかった」

 言いながら、可奈美は瞼の裏に今も鮮明に甦る〝鹿島神宮〟境内での対決が反芻した。イチキシマヒメと同化した半神(デミゴッド)の姫和と対峙し、――決闘に打ち勝ち――そしてタギツヒメの計略で十条姫和という少女を失った現実。

 「…………約束も守れないで、結局全部、姫和ちゃんに持たせて、私は何も出来なかったんだ」

 後悔――いや、罪の懺悔をする気持ちの可奈美は、唇を強く噛みしめ赤いプリーツスカートの端を握りしめる。己の無力さに打ちひしがれながら、たった数センチの距離で届かない悔しさに、今も苦しんでいた。

 

 ――《宿命》という言葉を、こんなにも重い代物だと思わなかった。

 

 姫和の母、篝もまた二〇年前に江ノ島で自らの命を対価に差し出し、世界の平穏をもたらした。

 可奈美の母、美奈都もまた、篝と共に救おうとした。

 

 悲劇の連鎖から…………《宿命》から遁れぬのなら、半分を肩代わりする。それが自分(可奈美)のできる唯一の事だと思った。

 

 だが、失敗した。

 

 鋭い錐で胸を貫かれるように、ジクジクと心から痛みが滲み出して止めようがない。

 

 

 ――本当に大切な人がおれの前から消えていくんだ。

 

 かつて、異形の少年がひとり漏らした言葉が甦る。

 (うん、今なら百鬼丸さんの気持ち、分かるよ)

 彼の懊悩が、実感として体験した時、考えることを辞めて――ひたすら戦った。荒魂を祓い、戦い、祓い、戦い……そんな日々で自分の中の痛みから逃げていた。

 『百鬼丸さんの剣は、すごく悲しい――』

 かつて、少年との稽古でそんな指摘をした事があった。

 あの時の自らが何気なく放った一言が、現在になって更に後悔していた。

 (当たり前だよね……誰かを、大切な人を失ってでも戦うって、こんなに辛いんだよね)

 己の未熟さに苛まれながらも、それでも可奈美もまた、無心で御刀を振るった。

 それが唯一の救いの道であるように。

 

 ジワリ、と視界が涙で滲む。

 本当に守りたい、寄り添ってあげたい人たちに何も出来ない自身が心底嫌いになっていた……。

「……!?」

 その時、可奈美の不意に鼻先から顔を柔らかな感触が包んだ。

「可奈美ちゃん。気持ちは私たち同じだから――」

 舞衣が、ゆっくりと抱き寄せて抱擁した。

 ポタり、と可奈美の頬に雫が落ちる。……可奈美は目線を上げた。

「舞衣ちゃん?」

「――ね?」優しく諭すように言った。

 美濃関からの親友である柳瀬舞衣という少女の偽らざる本音と、心臓の鼓動が聞こえる。こうして誰かに慰められるのはいつぶりだろう?

 可奈美の琥珀色の瞳を、包み込むように美しい翡翠色の舞衣の眼差しが見返す。

 他の誰でもない……自分(可奈美)のために、彼女は泣いていた。

 どうしようも無いはずの自分(可奈美)のためだけに。

 

 

 「そうだよ、オレたちもだ――」小さくも呟く。

  折神家の屋敷へ襲撃をかけに行く途上――ノーチラス号の船内で六人が他愛も無い話をして、そして必ず世界崩壊の危機を防ぐことを誓った。

 「カナミンにばかり辛い思いを押し付けマシタ」

  ……誰ひとり欠けることの無いように、固く誓った。

 それは六人で交わした約束だった。

  しかし、いつの間にか可奈美だけが、誰かの悲しみを受け入れようと、誰も傷つかないように立ち回り続けていた。

 「っ……あっ、うぅ……」 

  亜麻色の髪の少女は、声にならぬ声を喉から漏らして、嗚咽を堪えていた。

 知らない間に、自分自身が壊れかけていた事に、今更――気付いた。いや、ようやく向き合った。

 

 「可奈美ちゃん、もう我慢しなくていいから」

 舞衣は静かに告げた。重責を負い、現役最強の刀使として人々を守護し、大事な人を失っても戦い続け、傷つき続ける少女へ――無理をしないで。そう言いたかった。

 

 ――だから、こうやって集まりたかったんだよ。

 抱擁しながら内心で舞衣は思った。

 

 

 『可奈美ちゃんはいつも無理するから……ああやって元気に振る舞っているのだって、一番辛いことから逃げているんじゃなくて――私たちを心配させないためだと思う。だから、可奈美ちゃんのために何かできないかな?』

 薫とエレンに相談を持ち掛けた舞衣は、少しずつ自壊してゆく親友の異変にすぐに気づくことが出来なかった。

 

 だから、もしも彼女を助ける事が出来るならば、何でもしてあげたかった。

 (なんにもしてあげられないって、そう言って苦しんでる可奈美ちゃんだから、私も何とかしてあげたいんだよ)

 柔らかな胸の中で小さく震えるように嗚咽を漏らす可奈美の頭を撫でつつ、舞衣は本当は誰よりも優しくて……脆い少女を癒したかった。

 

 

 「うぁあああああああああああああああああああああああああああ!! どうして……なんで……ぁあああああああああああああああ」

 

 これまで溜まっていたものを噴出させるように、可奈美が悲鳴のような叫びを迸らせる。

 しゃくりを上げて、まるで幼い子供のように両の頬から透明な流れが顎を伝い、舞衣の制服を濡らす。

 その姿は最強の刀使などではなく、年相応の少女だった。

 

 

 




とじともサービス終了するんですね……。リリース時から3年7か月経過するそうですが、アニメ本放送からも随分時間経過したんですね。
かなC
でも、まだグッズとか販売しているので、新しい商品展開などに期待したいですね。
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