刀使ト修羅   作:ひのきの棒

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第224話

 大手町方面防衛線での百鬼丸の乱入から、荒魂たちを圧倒して屠る光景をモニター越しに見ていた笹野美也子は生唾を呑んで、

「なんていうか、本当に規格外の存在だったんだ……」

 誰にいうでもなく、一人つぶやく。

 右耳のインカムに手を当て、まるでアクション映画のワンシーンのような出来事に、現実味を感じなかった。

 これほどの群れを前にしても、臆する事なく――むしろ、喜々として刃を振るう少年に憧憬より恐怖を感じていた。 

『悪夢でもなんでも、荒魂? 怪物? 全部おれがブチのめしてやるよ』

 ロッジで少年は確かに美也子に言った。

 右手を動かし、右目の辺りを撫でる。

 ――恐怖。

 本能的に荒魂たちの姿が、全身から怖気を齎す。

 ……それでも、刀使を支援するためにサポート部隊に身を置いているのは、自分のような存在を増やさないため? 

 (ちがう)

 美也子は軽く首を振った。

 「逃げたくないんだ。……もう、あの時の私じゃないって…………そう信じたいから」

  いまの美也子は、舞草の支援部隊と無事に合流し、物流および被害状況の確認をしながら、適格な指示を送っていた。

 自分自身が出来る限りの事をする。

 それが、刀使でなくても戦える方法だから。

 「……百鬼丸くんを見ていると、不思議と強いことに憧れを持たなくなるのは有難いかな」

 苦笑いしながらも、自衛隊の野営用天幕に設えられた簡易基地のモニターたちを一瞥し、目を細める。

 自衛隊内部にも舞草の構成員はおり、刀使という戦力が圧倒的に少ない今、どのような派閥かは問わず、前線での共同戦線が構築されていた。

 「剣を持つだけが戦いじゃない――そうだよね?」

 一つのモニターに映し出された少年の姿に指先を重ね、己の責務の意味を噛みしめる。

 

 ――あの日、荒魂に襲われて泣いていただけの私じゃない。

 ……すべては

 

 

 Ⅱ

 

 「そういえば、真希さんが何故親衛隊に入隊したのか聞いていませんでしたわね?」

 寿々花は、避難民の行列が次々と押上駅に吸い込まれるように移動するのを前にしながら、ふと、話しかける。

 避難誘導は自衛隊が行っているため、刀使――もとい、元親衛隊の面々はあくまで荒魂退治要員としてこの場に居るに過ぎない。……ハッキリ言って暇なのだ。そんな寿々花の問いかけに、

 ――えっ?

 と、音が聞き取りにくかったのだろう。獅童真希は、寿々花の元まで近寄り、耳を彼女の口元まで近づけた。

 「ちょっ!? な、なんで――」

 急に接近したために、寿々花はドギマキとおかしな反応をして、頬を紅潮させた。

 「ゴホン。ですから……、真希さんはなぜ、強さを求めているのか――いつもはぐらかすので最後まで聞けませんでしたが、何か理由でも?」

 なるべく大きい声で鋭く発音して真希に聞き取りやすいように喋る。

 中世的な顔立ちの真希は意外そうに寿々花を見上げ、暫く黙ってから……「ふっ」と微笑を零した。

 「いいや。そうか……きちんと最後まで話していなかったんだね。ボクは力が欲しいと思ったのは」

 真剣な眼差しになった真希は、遠い過去を思い返すように息を静かに吐く。

 「目の前で、刀使の部隊が壊滅したんだ……。夜だった。大規模な荒魂の巣の掃討作戦で――京阪の山野で目ぼしい荒魂の巣を掃討する作戦の途中で――」

 

 ――人が殺されたんだ。

 

 搾り出したような一言で、真希自身が臓腑を抉られたような表情に歪む。

「それって――四年も前の出来事では?」

「ああ、そうだ。だけど当時のボクは優秀で――あの時は結芽みたいに、ある意味では無邪気だったかも知れない。でも、ボクは本当の天才児じゃなかった。もうすぐで13歳になるような年ごろの子供が、刀使として参加したんだ。確かに、荒魂を祓う経験は積んでいた。だから……慢心していたんだ」

 ボクたちの部隊は順調に荒魂の巣を放逐していったんだ。まるで、すべてボクたちの実力だと思いあがって、ね。

 まさか、すぐ近くで支援に来ていた長船の刀使部隊が襲撃されているとも知らずに。

 連絡網が一時的に遮断されていたんだ。理由は分からない。でも、たった数分の誤差が、ボクたちと被害のあった部隊の明暗を分けた。

 ボクたちは無論、長船の部隊を援護するために急行したよ。夜の山を。

 でも、手遅れだった。

 内臓をグチャグチャに撒き散らせた刀使たちが、数人、木の幹に、地面に、転がっていたんだ。

 

 『……あぁ、いや、まだ死にたくないっ』

 

 生き残りだった長船の刀使の子が、自らの目玉を噛み潰す様子を見上げながら、必死に懇願する言葉が今でも耳にこびりついて離れないんだ。

 ――あの時のボクは、本当に情けなかった。

 それまで、「死ぬ」ってことが、どこか遠い出来事に思っていたんだ。

 平城学館の先輩刀使が、なんとか生存者を救出して、離脱した。

 ボクはずっと、震えていた。…………本当の生死の現場を見て、畏れたんだ。

 

 死にたくない、ってね。

 

 ◇

 全て語り終えた真希は、自らの右掌を眺めながら血豆がつぶれて硬くなった皮膚をしげしげと見つめる。

 「――もし、ボクに紫様や結芽のような才能があれば、そう思わずにいられないよ。でも、ボクはやっぱり、強欲で傲慢な人間だ。だからせめて努力だけは怠らない。……でなければ、誰も救えないからね」

 寂しそうに微笑む真希は、自らの肉体に宿るノロの残滓に言い聞かせるように語った。

 「……そう、でしたの。真希さんらしいですのね」

 ワザと気丈に振る舞う寿々花だったが、内心では、真希の壮絶な過去を聞いて、どう反応して良いか分からなかった。

 (それでも、あなたの背中を追いかけたわたくしのような存在も――) 

 と、内心で思ってから首を振って思考を中断する。

 「でも、もう真希さんは十分に〝強い〟のではなくて――?」

 皮肉っぽくいった寿々花の言葉に、真希は思わず目を瞠って、「あははは」と快活に笑う。

 「……買い被りだよ。でも、寿々花にそう言ってもらえるなら、励みになるかな?」

 「ふふっ、それでこそ真希さんですわ」

 「――ああ。ボクは強くなるために鍛錬したんだ」

 ――誰かが襲われていたも、助けられるだけの強さを

 ……すべては

 

 Ⅲ

 「「――――この日のために、強くなったんだ」」

 




大分原作とも時系列も、何もかもイジってますけど、ご容赦下さい。(今更かもですけど……)
特に真希さん関連は、シカタナイ。(ごめんよ)
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