刀使ト修羅   作:ひのきの棒

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第230話

 百鬼丸の腹部の中心を捉えた刃は、真紅の生温かい液体に濡れた。

 刀に貫かれた少年は四肢をダラリと弛緩させ、意識を失っていた。

 「キサマの敗因は――〝勝ち〟過ぎたことだ」

 冷徹な底光りする目部。荒魂特有の炎が、火の粉となって外気に弾け散る。

 「まさかお前をこの刃で貫く日がくるとは思わなかったが…………それが、せめてものお前に与えた温情か」

 秀光は刀の鎺まで貫いた百鬼丸の胴体を乱暴に蹴って引き抜き、シャンデリアの残骸が散乱する床に転がす。

 ぐったりと身を横たえた少年は呼吸をする気配もなく、ただ、床と同化したように動かない。

 ビュン、

 と甲高い音をたて、刃に付着した血液を振り払う。

 ――改めて、秀光は己の手を眺める。

 (これが、オレの求めた体か――)

 黒鉄のような肌に、禍々しい憎悪の感情を固めたような《ノロ》の炎色。

 「――さて、最後に首を刎ねてしまわねば」

 剣尖を百鬼丸の首筋に合わせ、狙いを定める。

 余りにも呆気なさ過ぎる戦いの決着に対し、秀光はいささか物足りなさを感じた。

 (これで轆轤の家の血筋はオレだけとなった――)

 あとは自決をすれば、完全に轆轤家という呪われた血筋を絶やすことが出来る。

 「――しかし、こう強くなると自裁することも叶わんか」

 荒魂となった己の身を完全に消滅させる術はない。ノロとは、本来「負」の神性であり、それを多量摂取すれば自然と「半神」の状態となる。

 その荒魂のとなった体を唯一、抑える方法が――刀使による「祓い」であった。

 「想定していたとはいえ、面倒だ。なにより刀使に手間をかけさせるか」

 秀光は握る柄に更に力を込めて腕を振り上げ――一気に振り下ろす。

 

 

 

 

 ◇

 「いや、アンタ誰だよ」 

 胡乱な眼差しで目前の少女を見る。

 周囲は見渡す限り真っ白な空間。そこに唯一人、

 「うーん、なんて説明すればいいかな?」

 頤に人差し指を当て困った様に考え込む少女。

 ――年の頃は十二、三歳ほどだろうか?

 第一印象こそ幼さの残る少女という感じだが、どこか大人びた雰囲気と、物腰に外見と内面の不一致のような違和感を覚えた。

 「そうだなー、例えばおばさんとか?」

 「は?」

 「うん? あれ? 違うのかな? えーっと、君って秀光おじさんの息子じゃないの?」

 「――おれは……アイツの残り滓というか、失敗作というか……複製人間(クローン)だから、厳密にはアイツ自身だと思う」

 百鬼丸は頭を捻りながらも、苦し紛れのように自身の存在を言語化した。

 「えーっ、なにそれ? 難しい話はやっぱりナシ、ナシ。もういいじゃん、息子で。じゃないと君のことも、おじさんって呼ばないと駄目になるでしょ?」

 にこっ、と満面の笑みを零す少女。

 (――だからお前は誰なんだ)

 と、危うく文句を言いそうな所を百鬼丸はグッ、と喉元で堪えて息を吐く。

 「おれに何をさせよってんだよ?」

 その代わりに本題に入った。

 先程、彼女は言った、「秀光を救ってほしい」と。

 少女は一瞬、目を大きく瞠って百鬼丸を見据える。

 「……ねぇ、百鬼丸くん? だっけ? 君は、あの人を救える唯一の存在なんだよ」

 「だから、意味が分からんのだ。それにおれはもう死んでる――」

 「死んでないよ」

 「は? いや、だっておれはアイツに刀で腹を貫かれて」

 「うん、そうだね。でも大丈夫。まだ君は死んでないから」

 「なんでそんな事分かるんだよ」

 戸惑う百鬼丸を横目に少女はくくく、と可愛らしく笑い声を漏らす。

 「――だって、わたし、その刀の亡霊だから」

 そう言って、少女はワンピースの裾を翻し、唇の前に細く長い人差し指を押し当てた。「――秘密なんだけどね? 誰にも喋ったら駄目だよ?」と、声を潜めた。

 「は……? ワケ分からんぞ?」

 「あはは……だよね。それじゃ、少しだけ話聞いてくれる?」

 「いや、そんな悠長なことしてたら、おれ死ぬだろ?」

 「ううん、平気だよ。この刀の中に囚われた時間軸と現実世界の時間軸は微妙にズレてるから。――もちろん、君が特別な存在だから時間差が生まれてるって事なんだけど……難しい話はナシ。ねぇ、聞いてくれる?」

 「あ、ああ」

 首肯するより他になかった。……百鬼丸は心の片隅で目前の彼女を懐かしく思う気持ちが湧いていた。

 

 

 

 Ⅱ

 

 ……わたしは、秀光おじさんの姪なんだ。

 轆轤叶、それが生前のわたしの名前。夢が叶う、っていうアレね。なんだか変な名前だよね? 

 まぁ、いいや。

 秀光おじさんとわたしのお母さんは姉弟らしくて、昔からの付き合いだったんだ。

 しかも、わたしの一族って女の人ばっかりが生まれる不思議な家系らしくて、おじさんは唯一の例外ってことで、次期当主っていう期待があったんだと思う。普段はすごく真面目な顔で、色んな大人と話している所しか見たこと無いんだけど、わたしと遊んでくれる時は全然違うの。凄く優しくて面白くて……何より、相手の事を考えてくれる人なんだよね。

 しかも、顔もカッコいいから、いつも色んな人の興味の対象になるんだよね。

 …………あ、そうそう。秀光おじさんは、いつも一人の時は本を読んでるんだけど、小さい時のわたしが何を読んでるか聞いたときに、少し困った顔して、「叶には難しいから分からないよ」って言って。

 でも、駄々こねたら、青い表紙の本を出して、「The Catcher in the Rye(ライ麦畑でつかまえて)」って教えてくれたの。

――恋愛小説? って聞いたらおじさんが大笑いして、「これは、もし子供たちがライ麦畑で遊んでいるとして、崖とかの危ないところに行きそうになったら、優しく抱きしめて、安全な所に返してあげるような人になりたい――そう願う主人公のお話」だって。

 その時のおじさんの表情が今でも印象的でね。本当に、そんな人に憧れているんだなって思えるんだ。

 

 あ、ごめんね。話が脱線したよね? わたしの正体だよね? なんで刀の亡霊になったのか? って話だよね? ――わたしは……。

 

 

 ◇

 轆轤叶は、オレにとってまさに救いだった。

 彼女はこの汚れた家に生まれた天使だった。――彼女の実母でありオレの姉である女は一言で言えば娼婦だ。アレは人ではなく、魔物の類だ。己の欲望を満たすために男を利用し、あらゆる悪逆を尽くす。

 轆轤家という呪われた一族の中でも、あの女は裏切り、嘘、その他の事を悪意なくやる。他人を道具としか考えない女だった。そして、決まって「私はこの家に生まれた被害者よ」と宣う。

 確かに一面は正しいが、あの女はその「家」を利用して様々な欲望を満たしてきた。……オレが思うにあの女は、轆轤家の悪辣な部分を象徴する人間だ。

 そんな女だからか。子供の数は多く、様々な男と関係を持って――五人ほどを生んだ。そして誰もマトモには育たなかった。叶を除いて。

 なぜマトモに育たないか――。理由は簡単だ。皆、「引き取られた」んだ。

 ――どこに? 

 決まっている、轆轤家は「生贄」の一族だ。

 未熟児でうまれた他の四人の子供たちは皆、死産だった。だから、古い御刀を再生させる際に使われる「素材」として利用されたのだ。

 なにも不思議な事はない。

 神秘的な刀剣、あるいは、名刀の類には「人体」は都合のいい素材となりうる。

 それは歴史的に見ても特別な話じゃない。

 古代中国、日本、そしてダマスカス鋼……類例はいくらでもある。

 当時の文明では強靭な鉄鋼を鍛えるのに、人体の有する科学的な物質が必要不可欠だった。

 ……だが、科学が発達した近年においても轆轤家は「刀剣」に供される生贄であり続けた。何故? 理由は簡単だ。

 御刀という、未知の金属から生成された刀には、神秘的な力を有する我が一族の稀血が必要なのだ。

 轆轤家が生み出した《無銘刀》の殆どは、歴代の名も無き轆轤家の犠牲者の血肉が混ざっている。――勿論例外もある。折神家の――存在を抹消された当主だ。

 彼女もまた、己の肉体を捧げて《無銘刀》となった。

 だが、その刀の行方も戦時中の混乱で散逸したという。

 

 

 オレの姪……あの淫猥な女から生まれたと思えない少女だけには、そんな目に遭って欲しくはない。

 しかし、そんな事を望める立場でもないことはオレ自身がよく理解していた。オレは――

 この呪われた一族でのオレの役割は男娼だった。

 政財界の大物の男色趣味のある連中に、オレは9歳の頃から男娼として生きてきた。

 連中はオレの顔を一瞥して「あぁ、美しい。こんな美しい顔がこの世にあるのか」と、恍惚とした様子で褒め称えた。

 連中にはオレが人間ではなく、一個の美術品としか見えないらしい。

 だが、オレはそれが当然だと思って男娼を続けていた。

 すべて、この一族に生まれてからの宿命か――オレは、与えられた環境が全て正しいものだと思って生きてきた。

 だから、実姉の娘が死産せずに成長したという――そんな話を聞くまでオレは家に縛られていた。

 祝うつもりで、あの女の居る屋敷に向かった時だった。……オレは、自分の耳が信じられない事を聞いたのは。

 「この娘はいずれ、貴方と婚姻させて血を色濃くさせるわ」

 実姉が、第一声に言い放った。

 大広間でオレのこの女の他には誰も居ない。――確かに、この家は代々、近親婚をさせてきた歴史がある。……しかし。

 まだ、生まれたばかりの娘をまるで道具のように考えるこの女に吐き気がした。

 そして、彼女の考えを一族すべての大人が同意することに、違和感を持った。

 オレはふと、ゆりかごに眠る姪を見た。

 まだ、生まれたばかりの赤子が、穏やかな寝息を立てている。微かに香るミルクの匂いが、オレの胸を締め付けた。

 なぜだ? この子はたまたま、この一族に生まれただけで己の生き方を決められるのか?

 理不尽に思った。

 そして、オレという汚れた存在と婚姻を結ばされる彼女が、急に哀れに思った。

 (この子だけは、オレがこんな一族の軛から解き放つ)

 ――そう誓った。

 オレは初めて自分の考えが芽生え、この一族が滅ぶべき存在だと認識した。それと同時にこんな非道な一族を利用する「権力者」たちをも憎悪した。

 

 

 

 ――それから時が流れ、姪も大きくなった。

 こんなオレを慕って、いつも頼りない足取りでオレを追いかける叶という少女が、オレにとってかけがえのない存在になっていた。……この無垢な存在を、汚れ切った大人からも社会からも守りたい。

 そのためにオレはどんな汚れた事でもやり遂げた。

 男娼として、権力者の男女に媚びを売り、政府の中枢に潜り込むために勉強し、コネを作って必死に「当主」である轆轤秀光として生きようとした。

 オレは常に作り笑いの笑顔だけがうまくなっていた。いや、本当の笑顔を知らなかったのかも知れない。笑顔とは、誰かに喜ばれるための表情で、自らの感情を現すものではないと――そう思っていた。

 

 

 『おじさんの手って大きいね』

 幼い叶がオレの指を、小さな手で掴んで眺めながら言ったんだ。

 …………オレは、何が面白かったんだろうな。本当に大笑いした。曇りのない瞳が、汚れたオレの指をみて、興味深そうに言うんだ。

 この娘が、あの悪辣な女から生まれたとは思えないほど無垢な存在だと理解した。

 

 

 『おじさん、その本ってどんな内容なの?』

 小学生くらいになった叶が、オレの戯れに読んでいる本に興味を持ったらしく、聞いてきた。

 オレは、この本の内容を簡単に要約して聞かせた――。そうすると、叶は美しい両目から透明な涙を流していた。オレは、初めて自分自身の本当になりたかった……憧れを悟った。

 ……そうか。オレは、本当はいつまでも、こんな無垢な存在の子供たちを見守って、危ない時には優しく抱きしめられる存在になりたいんだと自覚した。

 

 

 ―――――。

 ―――――――。

 ―――――。

 

 そんな存在になれないと思い知ったのは二〇年前だった。

 

 …………相模湾岸大災厄

 

 オレは当時、政府の行政官の一人として現地の鎌倉に赴いて事態の対処に奔走していた。江ノ島から大荒魂が暴走して、連日にわたる被害を齎した。

 勿論、轆轤家からも血族である刀使が何人も出動していた。彼女たちもまた優秀な能力を有していたものの、類例を見ない荒魂の暴走ということで、全て政府と組織の対応が後手後手に回っていた。現場の要求は逼迫する中で、まるで脳震盪を起こしたような政府の対応に――オレは、この人類の歪さを感じた。

 オレは正直に言って、大人の尻ぬぐいをする刀使たちを出向かせることに反対だった。だからこそ、あの手この手で彼女たちの出撃を遅らせた。

 ……だが。

 業を煮やした政府からの命令で、まだ調査も現状も把握できない渦中へ、彼女たちを送り込んだ。

 ――――ハッキリいえば、オレはいくら民間人が死んでもいいとすら考えていた。誰かの犠牲なしでは生きられない民間人は、しかし、一番苦労を強いられる現場の人々に鞭うつことに喜びを感ずるような愚劣な存在であると知っているからだ。

 事態の対処に当たった少女たちにも、その厳しい態度が向けられ、オレは人間など滅びるべきだと、そう感じるようになっていた。

 

 ……だが、そんな中でも、叶だけは違った。

 出撃前に、叶はオレに会いに来た。

『おじさん、今からわたし、避難する人たちの誘導してくるね』

『なぁ、叶。お前まで危ない場所に行く必要はない。そうだ、この本部で護衛任務にあたるというのはどうだ?』

 オレは、前線基地である自衛隊の天幕の群れを指さして言った。

 既に、刀使や自衛隊員の亡骸が担架に運ばれ、ブルーシートで覆われていた。悲惨な状況だった。オレは、叶だけにはそんな目に遭って欲しくない。そう願っていた。

 ……だが、彼女は首を横に振った。

『ありがとう、おじさん。でもごめんなさい。わたしは刀使だから。それに他の仲間も……親戚の刀使の皆も出撃してるんだ。皆を守りたいから。それに逃げ遅れている人たちだって不安だと思う。今わたしが行かないと、駄目なんだ』

『――違う! お前たちは馬鹿な大人たちの尻ぬぐいのために命を懸けるんだ! そんな事しなくていい! 馬鹿な大人たちは、その責任を自分たちでとるべきなんだ!』

 だが、叶は優しく微笑んでオレの右手を柔らかく包んだ。

『おじさん、お願い。行かせて……わたし、おじさんの事も大好きだよ。それに皆も守りたい。信じて? 大丈夫だから』

 叶はどこまでも穏やかだった。

 オレはそれ以上に説得すべき言葉を知らかった。

 

 

 

…………だから、オレの中途半端な説得は無意味だと知った。本当はあの時、どんな手を使ってでも彼女を止めるべきだったんだ。

 

 轆轤叶は、避難活動中に突如襲い掛かってきた荒魂たちを討つべく単独で戦闘を開始し――退けた。その代償として自らの命を差し出して。

 

 叶が再び自衛隊の天幕に帰ってきたとき、既に彼女は担架に乗せられ、ブルーシートを被せられていた。

 「あぁ、うぁあああああああああああああああああああ!」

 オレは慟哭した。担架を運ぶ自衛隊員を押しのけ、彼女の亡骸を抱きしめた。

 だが、ぐしゃっ、と濡れた温かい感触がオレのスーツのズボンを湿らせた。「――あ?」オレが目線を下にやると、赤いクラゲのような臓器が地面に落ちたのを見た。

 「何をしているんですか!?」

 担架を運ぶ自衛隊員が何かを怒鳴ってオレを押しのけるのを感じた。しかし、まるで現実味のない目前の風景に、オレは感覚が全て遠く感じていた。

 はぐれたブルーシートからは、人の形状を保っているのが不思議なほど、破損した肉塊が――そこにあった。

 

 ……どうしてだ? なぜ、あれほど美しかった叶が、あれほど人のために生きた少女がこのように無残な死を迎えねばならないのか?

 

 「ぁ、ああああああ――」

 この世に救いの神はいないと思った。

 

 あるのは、ただ人々に試練を与える神だけだ。惨めな存在の人間を更に虐めて楽しむ悪辣な存在だ! …でなければ、彼女がこんな死に方をしていいはずがない!

 

 オレは、叶という少女だったはずの肉塊に近寄って、地面に落ちた臓器を拾い上げ、担架の「ソレ」の中に戻した。……一つ一つの肉片を拾いながら、オレは、幼い彼女の可愛らしい笑顔と、声と、オレを慕ってヨチヨチ歩きして追いかけてきた光景を瞼の裏に思い浮かべた。

 

 

 

 それから、轆轤叶――という少女の亡骸は、汚れた大人、そして彼女の母である女の同意のもと、古刀を復活させるために、「素材」として利用された。

 

 ――――そうして生まれたのが、幻夢刀

 

 連中は、喜々としてこの名刀の誕生を喜んだ。

 実姉である女は、実の娘の死亡を表面上は悲しんだが「……まぁ、彼女の死が無駄にならなくてよかった」と満足そうに漏らした。

 ……この女は、いや、この一族だけは許してはならない。そして、一族の血肉を使う刀の存在など無価値だ。

 

 ……オレは復讐のために生きると誓った。

 

 ――――この轆轤一族を根絶やしにすること、そして、霊気ある人の血肉を必要としない特別な刀を。

 

 

 相模湾岸大災厄から数年後、オレは研究所で人造人間の研究に協力し、山奥の仏堂で魑魅魍魎どもに祈った。――最高の剣を与え給え、と。

 ……結論から言えば、そのどちらも無駄に終わった。だがそれで良かった。望みを「叶える」には、己の力しかないのだ。神仏でも他人でもない。自分の力で世界を変える。それだけの力が、オレにはあった。

 

 

 

 

 ◇

 

 「――でね、でね、わたし江ノ島で死んじゃったんだ~」

 さも気軽にいう叶は、百鬼丸を前でも明るく、落ち込んだ雰囲気もない。

 「すげぇ重い話だったけど、なんでそんなに明るいんだよ」

 百鬼丸は複雑な気持ちで話を聞いていた。

 「ん~? なんでだろ? あ、多分だけどね、後悔してないからだよ?」

 「そうなのか?」

 「うん、仲間の刀使も助けられたし、あ、そうそう。避難活動してるときにね、逃げ遅れたおばあちゃんと小学生の男の子がいたんだ。それでね、その男の子がね、ヒーローに憧れてるって話してくれたんだ。〝オレがヒーローに変身できればあんなヤツ倒せるのに〟ってカッコいいこと言ってくれたんだよ。いい子だよねー。あの子も元気かな?」

 嬉しそうに語る叶を、百鬼丸は胸が締め付けられるような錯覚がした。

 「……多分さ、」

 少年が、俯き加減にゆっくりと言葉を紡ぐ。

 「えっ?」唐突な落ち込んだ様子の百鬼丸を見返して、叶は戸惑った。

 「おれはさ、あんたみたいな……馬鹿で、おっちょこちょいだけど、どうしようもない人を助けたいと思っちまうんだよな」

 百鬼丸は、手を伸ばして目の前の少女の片頬に触れる。

 「―――――。」

 叶は、大きく目を開いて目の前の少年を見た。

 

 (やっぱり、秀光おじさんにそっくり……)

 どこまでも優い眼差しで、痛みに耐えるような表情で、叶を見詰める百鬼丸の中に、叶は、かけがえのない日々を思い出した。

 「……うん、ありがとうね」

 両手で、百鬼丸の手の甲を押し包む。

 「――だからね、秀光おじさんに言って欲しいの。わたしは大丈夫だよって、それでおじさんに伝えて欲しいの。――もう誰かのために生きるのはやめてって。おじさんはもっと自分を大切にしてって。……あ、それは君も同じだよ? 百鬼丸くん?」

 叶は饒舌に喋りながら、目を潤ませていた。

 「…………っ、ああ。分かった。絶対にあの野郎を何とかする」

 

本作の終わるタイミングについて

  • 当初の8月中で
  • もうちょっとだけ、伸ばしてもOK
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