刀使ト修羅   作:ひのきの棒

244 / 262
第244話

 「――貴様は、まことに哀れな存在じゃな」

 タギツヒメが弱々しい口調で頭を上げ、横目で少年を睨む。

 紡錘形の頭上から延びた光線は、暗雲の向こうにある《隠世》と繋がっていた。

 「へへ、ああ、そうかい……――だがな、一つだけ聞きたい。なぜ、おれの肉体を奪わせた? ……なァ、おい、答えろ」

 目元を縛ったスカーフが緩んだようだ。

 赤黒く血で染まった目元の布の下には眼球は無く、真っ黒な空洞だけが空いていた。

 タギツヒメは一瞬だけ、少年の殺気に反応する。

 「ほぉ、貴様――また、凝りもせずに他人へ肉体を分け与えたのか? であれば、最初から無くても同じではないか?」

 スクッ、と立ち上がったタギツヒメが残忍な表情を浮かべて挑発する。

 百鬼丸は首を傾げ、口端を釣り犬歯を剥き出しにした。

 「おい、いいか。この肉体は〝おれたち〟が決めて分け与えたんだ。……自分自身で決めたから今のおれに後悔なんてない。だがな、他人が勝手に分捕っておいて、知りませんじゃあ、通用しねぇーんだよ!! おれの体はおれがどう使うか決める。勝手に奪ったんなら、それを全部奪い返す。ただ、それだけだ」

 剣を正眼に構え、タギツヒメを見据える。

 「答えろ、タギツヒメ。お前はどうして、おれの体を奪った? 何が目的だったんだ?」

 

 「……………貴様は、ノロをその身に宿しておるのであろう?」

 子守歌でも唄うように、女神は口を開く。

 「微かな残滓だが――ある。だからなんだ?」

 「ならば解るであろう? ノロの〝想い〟を」

 タギツヒメはどこか人間くさい口調で、百鬼丸に問いかける。

 (なんだ? 突然?)

 困惑しながらも、構えを解かず、寧ろ強烈に臨戦態勢へと移行する。

 「だったらなんだ? それが、どう関係するんだよ?」

 「元々、御刀と呼ばれる――金属も、ノロと人間が忌諱として扱う物も万物は同じ。人間の勝手で生み出した力は……――」

 「違う! おれが聞きたいのはなんでおれの体を奪ったか? それだけだ!!」

 「――もし、貴様の肉体で現世と隠世の均衡を保つことができる、そう言われたとすれば、貴様は肉体を差し出すか?」

 

 

 「――は?」

 

 

 唐突な言葉に、百鬼丸の頭は真っ白になった。

 ……こいつは一体何を言っているのだろう? 単なる誤魔化しではないだろうか? 真実を語る筈がない。

 百鬼丸には様々な感情が去来し、頭の中を巡る。

 

 

 「どういう意味なんだよ?」

 

 タギツヒメは目を細めて、少年を正視した。

 「じゃから言っておる。貴様には無数の因果が絡まり、それに付随して霊力が高い存在になっているのだ。……――貴様が我の本来目的である現世の崩壊に邪魔な存在じゃった」

 「だったら、殺せばいいだろ」

 「話はそう簡単ではない。貴様の肉体には、因果の絡まり合いによって膨大な霊力が宿っておった。それを我と人がいう荒魂が必要であった。それだけの事じゃ」

 

 

 

 「ふっ、ざけんじゃねーよ!! お前らの勝手で奪っておいて、大人しくしていろだと? 出来るワケねーだろ!! 返してもらえないとしても、テメェをブチ殺すまでおれは戦うからな?」

 肩を大きく上下させて荒い息を落ち着ける。

 (許さねぇ、お前だけは絶対に許さねぇからな!!)

 しっかりと柄を握り直して足を一歩前に踏み出す。

 

 百鬼丸のいきり立った様子が可笑しかったのか、タギツヒメは「ふっふふふふふっふ」と不敵に笑い始めた。

 

 

 「んだオメェ――?」

 こめかみに青筋を浮かべて恫喝する百鬼丸。

 

 

 「いや、先程……千鳥の娘も貴様と同じような姿勢で我に向かってきた。それと重なっただけじゃ」

 

 

 千鳥の娘――……?

 

 「可奈美のことか?」

 百鬼丸は呆気にとられ、茫然とした口調で呟く。

 

 「ほぉ、あの娘はそういう名前なのか。まぁ、よい。我の胸に傷をつけたあの輩たちも全て消し去る―ー」

 憎悪に満ちた声音で女神が宣言する。

 

 「させねーよ、ボケ」

 俯き加減に肩を震わせていた。

 

 「……?」

 タギツヒメは不審に思った、彼がここに来て怖気づいたのだろうか? 推測するにしても、人間の感情を計測することなど女神ですら出来ない。

 

 「なぁ、可奈美もお前と戦ったんだよな?」

 

 「だからなんじゃ?」

 

 白と黒が綯交ぜになった前髪を上げて、眉をハの字に曲げて困ったように微笑した。

 「あいつ、すっげ―強かっただろ?」

 心底明るく百鬼丸は問いかけた。

 「……ッ!?」

 この場で斬り合う相手と対峙する様子とは違う、どこか誇らしい清々しいような態度に、タギツヒメはたじろいだ。

 

 少しの間、無言になったタギツヒメの態度から、百鬼丸は大方を察する。「――……やっぱりそうか。強いもんな、アイツ。特に誰かを想うと滅茶苦茶強いんだぜ? なんせ、おれの剣の師匠だからな」

 

 バキリ、バキリ、と首を左右に傾け軋んだ音をたてる。

 

 

 「――さぁ、始めようか。第二ラウンドの開始だッ!!」

 

 そう言うが早いか、百鬼丸は地面を蹴って素早く間合いを詰めた。

  

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。