刀使ト修羅   作:ひのきの棒

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今回は説明回なので、嫌な方はスルー推奨です。


第25話

 S装備――約二〇年前に起こった相模湾岸大災厄以後に大きな開発のブレイクスルーを迎えることになった。この装備は従来の荒魂退治に対して防御手段が《写シ》のみであった現場での危険性を軽減させる兵器となった。

 その設計開発に携わった生みの親、リチャード・フリードマン。

 「それを、エレンちゃんのお爺ちゃんが?」

 S装備のパーツを眺めながら驚嘆する可奈美。

 爽やかに笑いながら、

 「……いいや、多くの技術者の力もあってのことだ」首を横に振る。

 目を横に流しながら、

 「それよりも、なぜ海外の研究者が舞草として行動をしているんだ?」

 素直な疑問を口にする。

 事実、反折神紫勢力として存在する舞草と一見なんの関わりもないように見える。

 しかし、フリードマンは、

 「無論、誰よりも折神家を近くで見ていたからだよ。太平洋戦争後、まもなく米軍と折神家でのノロの軍事転用によるS装備の共同開発が行われた。しかし、研究開発はすぐに暗礁に乗り上げた。……そんな時、あるブレイクスルーが起こった。今から二〇年前のことだよ」

 可奈美と姫和の顔が固まった。

 ――二〇年前、模湾岸大災厄以後にて折神家の当主となった紫は、反対勢力を排除して全国各地に祀られていた「ノロ」を折神家での一極集中する管理体制へと移行させた。

 それと時を同じくして、S装備開発現場での停滞していた技術は飛躍的な向上を迎えた。

 まもなく完成したのが、S装備である。

 フリードマン曰く、S装備とは現行、人類が到達するはずのない技術であった。

 「時期やタイミングからして、ノロの一極集中がもたらす技術の向上……偶然だと思うかい?」

 「まさか――」

 姫和は初めて告げられる事実に、暫く口が膠で固められたように動かなくなった。

 「それで、とある人物と舞草を指揮することになった」

 その言葉が気になったのか、可奈美が「とある人物?」と小首を傾げる。

 まだ、明かせないのだろか、フリードマンはそのまま話を進める。

 「――以降我々は折神紫に反抗の機会を窺っていた。そして姫和(キミ)の母にも助力を乞うていた。あの時の英雄の娘たちに出会えるとは、光栄だよ」

 話を終えたフリードマンは、いままで黙っていた少年に視線を向ける。

 「ま、娘さんたちは怪我もしているようだから、部屋に案内して手当でも……エレン、救護室の場所は解るね?」

 唐突に肩を叩かれたエレンは怪訝に眉を歪め、

 「……? どうしたんですカ、グランパ」

 「いいや、少しそこの少年――百鬼丸くんと言ったかな? お話をしよう」

 意味深な雰囲気を察したエレンは、可奈美と姫和、薫を連れて部屋を出た。

 

 暫く黙っていた百鬼丸は腕組みを解くと小さく細い溜息をこぼす。

 

 2

 「キミに関する大方の経歴はエレンに聞いてるよ。その無銘刀というのは十四年前にできたんだろう? それに、キミは《知性体》などを専門に狩る刀使……いいや、狩猟者なんだろう? ならば知っているね、《サマエル》と名乗る集団を。そして、レイリー・ブラッド・ジョーを」

 その名前を聞いた途端、百鬼丸の人相は変わり、地獄の底から舞い戻った責め苦の鬼の如き表情をしていた。

 「まあ、まあ、少しある男の話を聞いてくれ」

 

 フリードマンが語りだしたのは、まだ戦前の頃。

 激化する太平洋戦争中、ある大学院で研究していた一人の青年、ジョー・ベルグ・シュタインという研究者だった。

 彼はドイツ系ユダヤ人とアイルランド系移民を両親にもつ青年だった。

 当時、マンハッタン計画という「原子力爆弾」の研究開発を行っていた。最高の頭脳と潤沢な予算を背景に進めた計画だった。

 ジョー青年は、優秀な頭脳をかわれマンハッタン計画に参加した。原子核から「質量」そのものまで、およそ哲学的ともいえる内容の物理世界に対して、いかに効率よく「大量殺戮」を果たせるか、という回答を導き出すのを日々の仕事としていた。

 

 「普通、自分のつくった兵器を落とした敵国を歩きたいとは思わないだろ? ところが、ジョーは違った。彼は戦争が終わってから日本を訪れるようになった。もちろん、戦争の惨禍に興奮しながら、そしてノロという呪われた存在に魅了されていったんだ」

 

 フリードマンも、一介の研究者として仕事をすることになったのは、このS装備の頃からだったという。

 ノロの軍事転用は無論、米国本国からの強い指示だった。冷戦を見据えた、「より効率のいい兵器」開発を求められていた。

 「彼と仕事をして、分かったことがある。彼は天才だ。文句なしの。だが、欠点があった。それは――彼には倫理観が欠如していた。人体実験や生物実験は無論、ありとあらゆる残虐な行為を彼は是としていた。極端な進化主義者だった。そして、あのノロを大量にタンカーに乗せて本国へ持ち帰ろうと計画立案したのもジョーだった。彼があの大事件を引き起こした張本人だ!」

 フリードマンは拳を握り締めながら、唾を飛ばす。

 「……まさか」

 白髪にかかる数本を手で払いのけると、

 「そうだ。あの《サマエル》の首魁レイリー・ブラッド・ジョーは、ジョー・ベルグ・シュタインだ!」

 「奴はなぜ、捕まらない?」

 フリードマンは深く息を吐く。

 「彼は表向き死んだことになっている。あのタンカーの爆発で死んだ、と。だが事実は違う。荒魂と魂まで融合した、最悪の悪魔となったんだ! それに彼が今でも生きていれば、日米両政府には都合が悪い。だから責任を全て彼に押し付けて死んでもらうことにしたんだ」

 「……だが、待ってくれ。だったら、あの男が《知性体》を指揮する? 単なる荒魂だったら……いいや、そもそも、《知性体》自体はその大災厄から六年後だ。計算が合わない」

 「そうかい? 最初に荒魂を取り込み、あとから《知性体》と結合したと考えれば自然ではないだろうか? 彼が本来の人格かどうかなんて分からない。あくまで推測だが――」

 

 3

 「S装備の基本構造から設計をしたのはボクだよ」

 ジョーは鼻歌交じりにいう。

 ステインはすでに助手席で眠っている。しかし、それに構わず喋る。

 「あのタギツヒメに技術のことなんて解るかい? 答えはNOだ。だがこうして荒魂や《知性体》と結合して隠世の存在を確かめると、アイディアが沸いてきて勝手に開発が進んでいた。あのフリードマンという男は頭がいいから、すぐに人間でも扱いやすいように調整してくれるだろうと思っていた。彼は頭がいい……無論、ボクの次に、だがね」

 あははっはは、とバカ笑いをしながらクラシックを流す。

「まさに、人類に知恵の実を与えた蛇よろしく《サマエル》素晴らしいネーミングセンスだと思わないかい?」

 強くハンドルを握り、喜悦に満ちたジョー。

 ロールスロイスはそのまま、高速道路の夜闇の果に消えた。

 

 4

 「――まさか」

 百鬼丸は暫く俯き加減だった顔を上げた。

 「フリードマンさん。あんたは橋本善海を知っているか?」

 一瞬驚いたような顔をしたフリードマンは、しかし頷く。

 「ああ、彼もノロを利用した医学療法を模索した医師だね。分野は違うが知っているよ」

 「それが、おれの義父です」

 「なるほど、ね。……キミの体も?」

 「ええ、義父善海のおかげです。だから、《サマエル》とか名乗るゴミ野郎どもをぶっ潰すのが使命です」

 フリードマンは暫く百鬼丸を眺める。

 「もし、神がいるならキミはあまりに重たい十字架を背負っている。はっきり言おう。なぜ近年人に憑依した荒魂が出現しないか。それはキミ、百鬼丸が全部倒しているのだろう? S装備の討伐グラフでもここ数年は異常に低下している。それに比例して謎の討伐事例も上がってきた。これは誰かが意図的に行動しなければ起こらない。なぜ、キミはそんなことをする?」

 

 「決まってる。おれの体を取り戻すためだ……」

 「それはおかしい。だったら、《知性体》のみを討伐するのが筋だ。――本当はわかっているよ。他の刀使に罪悪感を背負わせない為だろう? 我が愛すべき孫娘のエレンもそうだが、人を殺した、という認識になるとPTSDにかかる。無論二〇年前の刀使にも多くいた。」

 百鬼丸は押し黙ったまま、バツが悪い顔で、

 「何か文句でもあるか!」

 と唐突に怒鳴った。

 フリードマンは深刻な顔をして、

 「ありがとう」

 深々と一礼をして、貪るようにして百鬼丸の左手に握手をした。

 「キミのおかげで多くの人びと、刀使が救われている。そして無論、エレンも。キミに多くを背負わせてしまっているが……」

 「勘違いするな! いいか、おれはおれの為に戦っているんだ! だからなんだっていうんだ……おれはずっと一人で戦ってきた……だから、おれは……」 

 自信なさげに、百鬼丸は臍をかんだ。

 「お礼をされる立場じゃない――なあ、フリードマンさん、この事実は黙っててくれないか? 他の連中には聞かれたくない」

 フリードマンはにこっ、と笑った。

 「その為にこの部屋から出したんだよ」

 

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