刀使ト修羅   作:ひのきの棒

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第256話

一瞬で目前から消えた。

 ふいに虚空を掴む右手。

 可奈美は驚愕のあまり、しばらく呆然としていたが、時間の経過と共に姫和の真意を悟った。

 一歩間違えば存在自体が消滅してしまう。

 (……行かなきゃ)

 

 無意識の内にそんな言葉が己の口から漏れていた。

 千鳥を構え直し、次元の歪む瞬間を脳裏に反芻する。まだ、隠世との接続は切れていない。直感から確信した可奈美は、大上段に刃を掲げ、全身に気迫をみなぎらせる。気配がある空間。ただ、一点。そこを切り裂き、間髪を入れずに体を滑り込ませる。単純にして危険な行為。

 

 しかし、迷うことなく――

 

 一閃、可奈美の切り裂いた空間に透明な歪みが生じる。空間の裂け目という方が正しいだろうか。波立つ水面に似た外気の揺らぎの奥に、黒い空間が広がっていた。

 

 可奈美の身体は、迷わない。徐々に速度を上げ、二撃目を打ち込み、裂け広がった空間へと突き進む。

 

 会いたい、会いたい、会いたい

 

 胸から止めどなくあふれる思い。

 姫和を助け出し、そしてあの少年を日の当たる場所へ連れ出したい。

 あの日。御前試合で逃亡するハメになった2人。

 そこで偶然出会った少年。

 

 ――だけど。

 全部が偶然なんかじゃないかった。

 (今なら分かるんだ。あの時に出会えたのは、きっと偶然じゃないって。出会うべき人に出会えたんだって)

 

折神家の屋敷を襲撃した日。

隠世に消えようとした姫和の腕を繋ぎとめようと伸ばして……届かなくて諦めたあの日。

それでも、諦めずに姫和へ腕を伸ばした少年の横顔。

可奈美の表情に恐怖も迷いも諦めもない。

今なら分かる、今だから出来る気がしていた。

 

 待っててね、二人とも――

 

「うりぁあああああああああ!!」

 

 一太刀、想いを乗せて斬る。

 

 

 

 ◇

 

 

「だから、早く離れろよ! このぺちゃパイ娘! 頑固者!」

 焦りの表情を浮かべながら、必死に罵った。とにかく嫌われるために、思いつく限りの悪口を言いまくった。

 百鬼丸の胴体の中心を貫く刃―ーその柄を握る黒髪の少女。

 五段階目の迅移を発動した姫和の速度に乗って、百鬼丸と共に、隠世の深淵へと落ちてゆく。

 しかし、少年の真意など気付かず、カチンと頭にきた姫和は、

「はぁ~~~~っ!? お前は結局ここまで来ても、品性下劣なヤツだな。いいか、胸なんてこの先いくらでも育つんだ」

「そんなこと言ってる場合じゃねーよ、だから急いで逃げろって言ってるだろ」

「お前は、さっき言った私の言葉すら忘れたのか馬鹿者め」

「馬鹿はお前だ、マジでこの先は永遠に閉ざされた世界なんだって分かってて来るんじゃねーよ!」

「だから覚悟していると言っただろうが、物分かりの悪い奴だ」

ぐぬぬっ、と二人は唸りながら吐息のかかる距離で睨み合う。

 

 

と、その時。

 

 

『おーい、姫和ちゃーん、百鬼丸さーん!!』

 

 聞き覚えのあり過ぎる声が、聞こえる。こんな虹色の光線が無数に行き交うトンネル状の空間に響き渡る少女の声。

 

 

 「「可奈美っ!?」」

 

少年と少女の声が揃った。

 

 「いや、嘘だろ、まさか聞き間違えとかじゃ……」

 「ああ、ありえない」

 

 二人の困惑を他所に、二人の斜め上の頭上に無数の細かな亀裂が走り、眩い光が射し込んだかと思うと、華奢な人影が華麗に二人の傍に着地する。

 

 

 亜麻色の髪を揺らしながら、息を切らして頭を上げた少女。

 

 琥珀色の瞳に強い意志を点しながら、二人を交互に見る。

 

 「ぜっっったいに、二人のこと見失わないから!」

 弾んだ息で、可奈美が言い切る。

 

 

 

 

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