刀使ト修羅   作:ひのきの棒

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第259話

『姫和ちゃーん!』

 真っ暗な空間に響く少女の声。

 衛藤可奈美は、《迅移》によってタギツヒメを憑依させた少年、百鬼丸を隠世の深層まで追放した。無論、可奈美だけでなく、十条姫和という少女と共に……。

 この時間・空間から切り離された延々と地平の果てまで続く暗闇は、さながら『永遠』という名の牢獄の如くである。

「どれくらい経ったのかな……」

 可奈美は思わず、呟く。

 隠世に百鬼丸を追放し終える間際、百鬼丸は可奈美たちを蹴り飛ばして行方をくらませた。

 結果、姫和とも別れてしまい現在に至る。

 もう、長い間歩き続けているようにも思えるし、つい数分前だった気もする。今の可奈美は、時間の概念が曖昧になっていた。

 …………と。

 キィィン、と御刀《千鳥》から共鳴音が鞘を通して伝う。

 「えっ?」

 不意の出来事に面を喰らった可奈美は、改めて鮮やかな紅塗りの鞘を眺める。

 (まるで、行先を示してるみたい……)

 御刀を目前に掲げると、共振の強弱がある事が解った。

 恐らく、この共振の強い方角に何かがあるに違いない――可奈美は直感した。

 「……うん、分かったよ」

 優しい声音で可奈美は同意する。

 きっと、この御刀の示す道に何かがある……だから、迷わず行くと決めた可奈美は、強い意志を持った足取りで進んでいった。

 

 

 ◇

 まるで、暗黒の森林を分け入るような気持ちで可奈美は歩く。

 いつの間にか、頭上には青く輝く無数の星々が冷たい光を放ちながら、暗闇の空を飾り立てる。

 尚も進んで行くと、地平の果てから軒先を連ねた民家が視界に捉えられた。

 「うそ、どうして……?」

 その集合住宅の風景は、可奈美が見慣れた実家のある区画であった。

 ここは隠世であって、現実世界ではないハズ……可奈美は戸惑い、足を止めた。もしかして、現実世界に帰ってきたのだろうか?

 しかし、それにしては人気がなさ過ぎる。

 それに、上手くは表現できないが、ここは現実世界を似せて作った別の場所――そんな直感が可奈美の胸を過る。

 とにかく、ここが現世か確かめるべきだ。

 そう決心した可奈美は、再び足を前に進む。

 見慣れた家門の前に立つと、不思議な気持ちになる。

 可奈美は門を軽く押すとキィィ、と金属質な音と共に敷地内へ入った。

 「私の……家だよね」

 半ば茫然とした口調で、可奈美は独り言ちる。

 幼い頃から見慣れた茶色い外壁の2階建ての民家。余りにも完璧に再現された家は、久々に帰郷した気分に浸らせてくれた。

 「なんだか変な気分……」

 思わず、笑みがこぼれる。

 「誰かいるかも」

 何故だか、可奈美はそんな気がした。

 小走りで玄関扉を開くと、靴を脱ぎ居間に向かう。

「おとーさん? おにーちゃん?」

 家族を呼んでみる――――当然ながら返事などない。

「やっぱり誰もいない……」

 落胆した声音の可奈美は、開け放たれた居間のガラス扉前に立ち尽くしていた。

 (ここは現実世界じゃない)

 一瞬、勘違いしそうだったけど、やっぱりここは違う。生活感が一切ないモデルルームみたいな空間だ。

 改めてその認識が強められた。――――と。

 トン、トン、トン、と背後の廊下から誰かの足音が近寄る。

 可奈美は思わず背後を振り返ると、

 『可奈美っ!?』

 夢の中で聞き慣れていた懐かしい声が聞こえた。

 「えっ……!?」

 背後から姿を現したのは若き日の藤原美奈都、可奈美の母であった。

 

 

 ◇

「これは、私の家……なのか」

 十条姫和の目前にもまた、一軒の民家が佇んでいた。

 のどかな田園風景の中にポツンと鎮座する茅葺屋根の古民家は、正しく姫和の実家だった。

(まさか、あり得ない)

姫和は、理解が追い付かず首を横に振る。

 百鬼丸を深層に追放するため《迅移》の最高レベルで加速し、現実世界から離れたハズ。なぜ、今、目前に実家があるのだろう?

 「なんなんだ……」戸惑いながらも、自然と姫和の脚は実家の方へと向かっていた。

 暗闇の中を歩き続けたあとに見る実家は、とても懐かしく、胸を焦がすほどのノスタルジーが姫和の感情を揺さぶっていた。

 

 ◇

 玄関に入ると、丹念に空間の四隅を眺める。

 古民家特有の経年で変色した木目や、荒い壁の表面、上がり框。何年も過ごしてきた場所だ。間違えるワケがない。

 姫和は、驚きつつも、懐かしい光景にうまく言葉が出ない。

 下に目線をやると、揃えられた大小一組ずつの靴を発見した。女性用の靴と、幼い子供用の靴……それは、かつて幼い姫和が外出する時に履いていた靴そのものだった。

 「そうか、ここは私の記憶の中の家というワケか」

 妙に納得してしまった。

 どうりで、すべて自分の記憶と寸分たがわぬ光景だったワケか……姫和は一人で疑問を解決すると、靴を脱いで畳の部屋に入った。

 足裏に伝う畳の感触が、幻想とは思えないほど現実的だった。

「空気も匂いも、全部本物じゃないか」

 姫和は、不思議な気分になりながらも、とにかく家を探索することに決めた。

 

 

 

 




アンケは都合上、明日までにさせて頂きます。

スマヌぞよ。

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