刀使ト修羅   作:ひのきの棒

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第262話

「そういえばどうして、おれが篝さんと出会って話しできるんですか?」

率直な疑問を口にした。

 

「…………なぜか分からないけど、手がかりになりそうな出来事は思い出せない?」と篝は問う。

 百鬼丸は、「そうですね」と乱暴に頭を掻き、これまでの旅の話など経緯を簡単に語った。

 可奈美と姫和と出会ったこと、折神家に突入したこと、三女神の争いなど。そして、自身の出自について。

 

 全てを聴き終えた篝は、少し考えるような仕草をする。

「――そう、君は私と出会う運命の人なのかも知れない」

「どういう意味ですか?」

 百鬼丸は言葉の意味が理解できず首を傾げる。

 

「…………今から話す内容は正確じゃないかも知れない。だけど、多分だけど百鬼丸くんから聞いた話を纏めると全体が把握できるの」

 篝は顔を上げて真直ぐ百鬼丸を見据えた。

 緋色の美しい瞳と目線が合った異形の少年は思わず、

(姫和に似ている……)

 と、思った。

 当然と言えば当然なのだが、篝は姫和の母親なのだ。

 

 その篝は真剣な眼差しで百鬼丸に語り掛ける。

 「今、私たちが居るこの場所は隠世。そして、百鬼丸くんと話している私は多元宇宙の平行世界線の可能性の一つ。ちなみに、今君の目の前に居る私は、姫和の母親としての記憶を持っている柊篝」

 戸惑う百鬼丸をよそに、さらに話しを続ける。

 

「隠世で出会うには人と人の繋がりが重要になってくる。私の柊家は折神家の裏となる存在。そして百鬼丸くんは轆轤家という生贄となる血族だった……柊とも多少の血縁関係があってもおかしくない。むしろ、柊家は裏を司るために、なんでもやってきたのかも……」

 

「な、なるほど?」

 難しい話に百鬼丸は目をグルグル回しながら返事だけはした。

 

「それに百鬼丸くんの話から推測すると―君と一緒に迷い込んだあの娘(姫和)は別の私と会話をしているはず」

 「……難しい事は分からないけど多分そうなんでしょうね」

 「――……でも、確証が持てないの」

 寂しそうな微笑を浮かべる篝。その表情は、姫和も見せた事のある諦めに似た顔だった。

 「確かに御刀を通してあの娘を見守っていた……気がする。だけどこの記憶は私自身の体験か分からない。平行世界の私の記憶を引き継いでいるのかも知れない――」

 己の掌を眺めながらグッ、と軽く拳を握る篝は、言葉を噛みしめるように話す。

 

 「それでも姫和が心配なんですよね? これまで御刀を通して姫和を見守ってたなら猶更――」

 「――ええ、心配だった。でも……それと同じくらいあの子が成長している様子も見られたから嬉しくて」

 見た目は10代の女子高生である篝だが、今は母親のような慈愛に満ちた微笑を浮かべている。

 「ははっ、分かりやすくていいですね。アイツ……姫和と親子なだって思います。特に感情が隠せない所とか」

 「そ、そう……?」

 篝は困惑した様子だった。

 

 (やっぱ似てるよ……)

 内心で苦笑いする百鬼丸。

 

 篝はすぐに表情を真面目な調子に戻し、背後に首を巡らす。

 「もうすぐこの場所――隠世は消滅するわ。多次元の平行世界が一つに集約して最終的にはブラックホールみたいに全てが無に帰っていく」

 「本当ですか!?」

 「あくまで予感だけど……長い間隠世に居るから多分この直感は信じられる」

 「……でも、なんとかして可奈美と姫和だけでも元の世界に帰せないですかね?」

 「百鬼丸くんは戻らなくて平気なの?」

 痛い所を衝かれた、という風に百鬼丸は複雑な表情で肩を竦める。

 「もともと、おれは出来損ないから生まれた存在で……むしろ、異物だったわけで……本来はあの世界に存在しちゃダメなんですよ」

 達観した口調でつぶやく百鬼丸。

 「そんなことは……」

 何と言葉をかけて良いか分からず篝は俯き言い淀む。

 

 百鬼丸は目線を逸らしながら、

 「あの二人とは会えません。それにアイツらの顔を見たら決意が鈍るんです」

 と、言った。

 

 不思議な発言をする百鬼丸に対して篝は、

 「――決意?」

 と、聞き返した。そして少年の一言が気がかりな篝は歩み寄り――百鬼丸は一歩足を退いた。

 「――おれはやるべき事を見つけたんです。もう、誰も悲しませない世界を目指すって」

 「どういうこと?」

 「……――――。」

 少年は篝から顔を逸らしたまま、何も語らず口を閉ざしていた。 

 彼の横顔は大切なものを守る人の厳格な表情をしていた。

 

 (姫和たちとは二度と会わない決意…………。)

 百鬼丸の真意を汲んだ篝は目を伏せ、何を言うべきか迷った。

 

 周囲の風景は相変わらず濃霧に覆われており、その霧間には社殿に続く石階段の輪郭が見えるだけ。白黒調の世界は、なんとも無機質な印象を与える。

 

 「百鬼丸くん。もうすぐ、姫和たちとこの場所が繋がる気がするの……隠世の集約が始まって――最終的には消える。その前だから言いたいんだけど……」

 何か重大な事だろうか? ふと、百鬼丸は首を前に戻す。

 「私の娘を守ってくれてありがとう」

 「えっ?」

 唐突な一言に思わず百鬼丸は呆気にとられた。

 

 「――あの日、相模湾岸での大厄災から時間が経ってしまった。本来であれば私がお役目として全てを受け入れなければいけなかったの。……でも、周りの信頼できる仲間のお蔭で生き残って――姫和を生むことができた」

 

 目の前にいる柊篝という人物は見た目こそ若いが、精神も記憶も亡くなる直前の状態らしい。

 慈しみに満ちた眼差しも、優しげに語る言葉も、一人の娘を愛する母の姿だった。

 「あの娘に復讐をして欲しかったんじゃない……大厄災とは無関係に自由に生きて欲しかった。だから御刀を手にするなんて…………」

 篝は強く後悔するような沈んだ口調だった。

 「でも、御刀を受け継いだからこそ、もう一度だけ姫和はアナタと出会う機会が訪れた」

 「ええ、それでも――」

 ふっ、と百鬼丸は皮肉っぽい笑みを浮かべた。

 

 「仮にアイツが大厄災の件だとか、復讐の道だとかに進まなくても、きっと刀使になってましたよ。だってアイツ馬鹿正直で正義感とか強そうじゃないですか? 篝さんみたいに生真面目で」

 「えっ?」

 目を丸くした篝の様子がおかしくて、百鬼丸は堪えきれず「ぷっはははは」と大きな声で笑い転げた。

 ひとしきり笑い、目尻の涙を指で拭いながら、

 「どんな世界でも、アイツは刀使になって……そんで、可奈美とか色んな連中と出会うんじゃないですかね?」

 百鬼丸は、二人と出会うきっかけとなった御前試合の日を思い返す。

 逃走犯となった二人の少女たちと行動を共にして、逃げ続けた――――。その旅の途中で、二人の出会いは偶然ではないと直感していた。

 

 どんな世界でも、どんな場所でも関係なく二人は……いや、二人以外の人たちも必ず出会う運命だったろう。

 「……そう」

 篝は、どこか満足そうに頷いた。

 「百鬼丸くんと話しができて良かった。今の私は思念の残滓みたいな存在で、もうすぐ消滅するけれど、あの娘と一緒にいる『私』は御刀があるから、急に消えることは無いと思うわ。百鬼丸くんも御刀の存在が知覚できれば、小烏丸のある方向に進めば迷いなくたどり着ける」

 「分かりました」

 

 百鬼丸は頷いた。薄く目を閉じ、感覚を研ぎ澄ます。御刀の方角が感覚で伝わってくる。

 「――それじゃ、お世話になりました」

 「ええ。さようなら」篝は微笑を浮かべる。

 一礼すると、百鬼丸は歩き出した。

 ―――――……数歩歩きだしてから少年は何かを思い出したように足をピタッと止め、振り返る。

「そういえば一つだけ疑問があったんで質問いいですか?」

真剣な眼差しで篝を見る。

 

(まだ何か重大なことがあるの?) 

一体なんだろう、と篝は身構える。

 

「どうやって結婚相手を決めたのか、惚れた理由とか教えて貰えます?」

 ニィ、と意地悪く百鬼丸の口端が曲がっていた。

「~~~~~っッ!!」

 あまりの予想外の質問に言葉を失う篝は、途轍もない恥ずかしさでフリーズした。

 

そんな様子を面白そうに眺めながら百鬼丸は軽く手を挙げる。

「最後に良い顔みれました。それじゃ!」

爽やかに言い残すと、再び歩き始めた。今度は止まることなく濃霧の中へと溶け込んだ――。

 

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